忘れられた世界の消息と誰も知らない世界の運命
公開 2024/07/15 22:39
最終更新 -
(空白)
 壊れかけの少女に耳を傾けては問う幽霊が声をかける。けれどその意図はまったくない。録音機はすでに再生を繰り返すだけの機械と化し、まともに動くことは出来ない。
 かつて失われた未来を求めて歩いていた出来事はとうに朽ち果て、凍りついた運命は雪となって消えていた。

 どこにも分類されず、どこかに分類された世界の間違い探し。『世界の観測者』が拒まれた扉の先、『忘れられた世界』が漂う場所。感情の生贄となった幽霊達があらゆる天候を繰り返して存在していた。そこに招かれた少女もまた、“あの日”のままだった。
 しかしふとした瞬間、少女は姿を消し、その世界から現れたのは雨の霊だけだった。彼の記憶だけは戻らず、その他の幽霊達の記憶は戻った。生前に置いてきてしまった者を知り、消えてしまった幽霊達を見届けて、扉は再び新たな世界へと続く道を開いた。
 雨の霊は少女を追った。死の道は作られ続けて、草木が灰色に染まろうとも、もう気にしている暇はなかった。けれど見つからない。一枚の桜の花びらが手のひらに乗り、また風に吹かれて飛び去った。

 消息を絶った少女の姿はみるみるうちに崩壊し、雪のように散っていた。暗闇から光り輝く空間へと落ちゆく中で、〈少女〉は目を覚ました。散った感覚は残っているが、その姿は少女と変わらない姿をしていた。ただこの世界を知っている。それだけで十分だった。
 落ちた命は再生の中で繰り返され、少しずつ何かを変えて同じ姿を得る。“少女”だった何かが失われて、再生する中でその思考は偽物へと奪われる。けれどかすかに残った魂に刻まれた記憶が、その姿を修復するまで、どこか似た世界は生まれ続ける。

 鳴くことを忘れた烏が夜の電線に止まっていた。一人の{少女}を見つけて、終わろうとしている瞬間をただじっと見ていた。月の光に照らされて白い肌に見合わない赤い液体がこぼれていた。それが血であると気づくまでに時間は必要なかった。誰も止めるものはいない。このままいけばそのままその命は尽きる。また繰り返されると思っていたが、そんな現実も無意味でつまらないと考えていた。
 烏の瞳には{少女}が映り、その口はゆっくりと動いていた。けれど言い終わる前に大量の血を吐き出した体は耐えきれずに倒れてしまった。烏は声を聞こうと近づいた。その声はまだ続き、烏は最期の願いを聞いた。そして{少女}の姿は再生の中で新たな未来へと旅立つはずだった。しかしそれはほんの少し動いただけの世界に過ぎず、{少女}がいなくなっただけの未来になっただけだった。

 その姿は目を覚ました。体はボロボロで動くことすら叶わない。烏が横にいて、見上げるようにその姿を確認した。再生を繰り返したその姿は似た世界へ旅立つ。しかしそれを烏は阻止して、とどまらせた。
 だがその時間は短く、すぐにでも{少女}は新たな【少女】へとしてしまう。それが理であり、呪いであったからだ。ならばこの{少女}だけでもこの世界に残したかった。魂に刻まれた記憶は少しずつ偽物に奪われていた。それを“少女”と分類するには不明瞭でもあった。
「君を運ぶ そして 終止符を打つ 代わりに 大切なものを 貰っていく」
 烏はそう鳴いたように、言葉は発せられる。{少女}の姿は【少女】へと書き直されて、新たな世界は生み出される。【少女】の姿は消え去り、烏だけが残されたこの世界は再生を繰り返す世界から切り離された。『誰も知らない世界』へと、そう呼ばれるのに時間はかからなかった。

 かつてその場にあったものが失われたさえ気づけないのなら
 最初からそこになかった と思うしかない
 けれどもしそれが嘘であって気がかりなことがあるなら
 それは
桜詩凛の読みは「さくらしりん」で、由来は二つ。一つは元から使っていた桜子凛花が長いと思ったため、短くするために「桜」と「凛」を取り、その間に当時から書いていた「詩」をいれたもの。もう一つは『複雑な生き方をする少女』に登場する「さくら、黒蛇、シラ、理夏(りか)、ラナン」の頭文字を取ったものとなってい…
最近の記事
『闇堕ちの能力者 第四章 亡くした心は蝶の夢を見る』に関する説明
今作は第一章を書いている時点で第四章に何を書くかは決まっており、それは『霊の話 番外編 青い霊編』の内容を少し改変しな…
2026/01/22 14:10
闇堕ちの能力者 第四章 亡くした心は蝶の夢を見る(3/3)
(空白)  簡単にコタラが三人を逃がすとは思えなかった。体の痛みがまだ治りきっていないセオンは体力の消費も相まって遠…
2026/01/22 14:09
闇堕ちの能力者 第四章 亡くした心は蝶の夢を見る(2/3)
(空白)  次の日、セオンはとある建物の屋上でマスターからもらった小さな蝶のブローチを見ていた。もらった時よりも藍色…
2026/01/22 14:07
闇堕ちの能力者 第四章 亡くした心は蝶の夢を見る(1/3)
(空白)  不気味な空、灰色の大地。その山頂に立っていた。雲一つないその風景を眺めていた瞳は飛び立った無数のカラスに驚…
2026/01/22 14:01
『”不明”に隠れた世界を渡る少女の話』に関する説明
今作は2025年12月17日と18日の二日間で書かれたものです。当初、別の話を考えていたのですが、思うようにいかなくて時間だけが…
2025/12/20 20:48
”不明”に隠れた世界を渡る少女の話
(空白)  世界を救済するために書き加えられたものは、正常だった世界を汚染する。けれど彼はそれを知らなかった。あの世界…
2025/12/20 20:46
短編小説っぽい何か(411~420)/それに関する説明つき
▽短編小説411(2025/9/27)/未熟な偽物の呪い “魔女”は死の道をゆく  吊られた命は天に召されて  次の光へと導かれる  …
2025/11/30 12:58
『複雑な生き方をする少女 厄災編 第一章 ”はじまり”の厄災と若き魔女』に関する説明
今作は『複雑な生き方をする少女』の新しい話として作り出したもので、『異世界編』を元に設定を組み直したものとなります。た…
2025/11/24 09:53
複雑な生き方をする少女 厄災編 第一章 ”はじまり”の厄災と若き魔女(2/2)
(空白)  目的地の村付近で箒から降りて少し歩くと辿り着いた。見た目は簡素で何不自由ない普通の村に見えたが、中に入る…
2025/11/24 09:52
複雑な生き方をする少女 厄災編 第一章 ”はじまり”の厄災と若き魔女(1/2)
(空白)  この世界は異常だ。狂っていると表現してもいいほどに。世界を記録する者として訪れた時から思っていた。けれど他…
2025/11/24 09:49
『誰も知らない現世を生きる二人の幽霊 第四章 断片的な“彼女”の記憶と“この世界”の真実』に…
今作は第一章~第三章までの第一節~第八節の構成ではなく、二人の生前の話……を書くはずだったのですが、あまりにも難しすぎた…
2025/10/09 10:13
誰も知らない現世を生きる二人の幽霊 第四章 断片的な“彼女”の記憶と“この世界”の真実
(空白)  薄暗い空が何もない世界を作り出していた。そこにあった道を歩く一人の少女がいた。途方もない道を歩き続けていた…
2025/10/09 10:02
短編小説っぽい何か(401~410)/それに関する説明つき
▽短編小説401(2025/7/19)/無垢なる命は真実を知り閉ざした扉を開く  希望を託そう 未来を信じて  願い続けた世界は残酷…
2025/09/28 17:16
『闇堕ちの能力者 第三章 楽しい祭りと記念の宴を』に関する説明
今作は2025年5月23日に第三章の設定を書こうとした形跡があり、それを覚えてなくて2025年9月10日に本文と同時に設定を作ったも…
2025/09/21 10:18
闇堕ちの能力者 第三章 楽しい祭りと記念の宴を(2/2)
(空白)  三人が休憩所でご飯を食べている頃、コタラは祭りの会場にあるステージで司会をしていた。肩にはぬいぐるみを乗…
2025/09/21 10:16
闇堕ちの能力者 第三章 楽しい祭りと記念の宴を(1/2)
(空白)  季節の変わり目を忘れた空、日の光が照らしたアスファルトの地面から籠った熱が風に乗って、夏の暑さから逃れたい…
2025/09/21 10:14
『消極的な幽霊 第二章 冷酷の歩いた惨劇』に関する説明
今作は2025年7月22日に設定を作り、2025年8月4日に没となって、2025年8月9日~14日に新しく書いたものとなります。しかし初期に…
2025/08/15 09:07
消極的な幽霊 第二章 冷酷の歩いた惨劇
(空白)  それは昼食を作り始めた頃だった  曇っていた空は一瞬だけ晴れた  それが最悪な結果を生むなんて  その時は…
2025/08/15 09:04
短編小説っぽい何か(391~400)/それに関する説明つき
▽短編小説391(2025/5/10)/伸ばした手が新たな世界への道標(みちしるべ)となる  遠くも近い未来の話  現実とは違うもう…
2025/07/27 17:22
『壊れた“君”と“彼”の答えのない現実』に関する説明
今作は2025年7月17日の夜、かなり病みまくった結果、生まれた文章。そのため、描写そのものが残酷性を秘めていることとそれによ…
2025/07/19 20:51
もっと見る
タグ
創作(172)
小説(172)
短編小説(129)
説明(75)
一次創作(50)
中編小説(43)
掌編小説(27)
詩(2)
設定(1)
もっと見る