落ちゆく運命に水晶の影を重ねて
公開 2024/05/18 11:03
最終更新
-
(空白)
何かを告げようとした心が灯火の声に耳を傾けても凍った未来に届かない。とうに果てた世界に降り立って見えた出来事も叶えようとした願いももうそこにはなかった。誰かの言葉が示すかのようにその運命も決まっていたようにみえた。
太陽が空を壊し、すべてが失われた世界も水晶が現れて奪われた世界も、どれだって見続けた世界の運命に過ぎず、誰かの一筋に流れていくだけだった。彼が見た世界はどれも現実から離れた夢のような真実の世界。けれど現実に存在した未来に過ぎない。
きっと最初から決まっていたのだと言う者がいるのなら、それも一理ある。しかしそれを受け入れる者に本当の真実はやってこないことも知っている。彼は誰にも理解されず、それ故に求めはしなかった。それでいいと誰も認識しなくていいとそう告げて、彼は一人の旅人として世界を渡り歩いていた。記録にも残らず、それが彼だという姿もなく、ただただ歩き続けるだけの旅人であったように、未来は彼を導いていた。
遠く遠く歩き続けて見つけた世界も目を閉じて広がる宇宙の中で開かれた世界も、彼の目に映ればそれは真実へと変わる。彼が記録し続けるならば、その存在を理解する。誰もが知らなくても彼が見続けた世界はそこにあった。
だからあの時、水晶が願った世界がすべてを狂わせる。夜藍(よぞら)になぞらえたすべての理(ことわり)を繰り返して、水晶が人の姿を得て彼に尋ねるなら、それが彼の生きる道につながると誰が予想した? 記録されないはずの彼の姿を後世に伝えることになってしまった出来事を、動かした現実を誰が肯定した? 誰が……とうに果てた世界を見続けることを承諾したのか? それを判断する者はこの世に存在しない。
外的要因として存在する者に彼らは干渉できない。彼は人であり、記録されないだけで普通と変わらないと思っている。しかしそれは普通ではなく、未来に向けた警告でもあった。この世界におけるすべての出来事を記録し続けるならば、誰も止められない世界の心理を開くことに繋がる。けれど誰も気づかない。彼自身もそれ以外も知らないまま世界だけが知っている。
水晶との願いが彼を狂わせ、人の在り方を失わせた。それ故に現実から隔離された彼の姿は白紙の未来を写し変えるだけの本と変わらなかった。言葉は記憶とともに廃れていても、記録は残り続けて伝えられた世界は上書きされることなく永遠の真実となった。嘘偽りなく語り続けた世界も書き続けた未来もそれが運命であったかのように受け入れた。
そうすれば忘れられる。何もかも生き続けるという残酷な運命を受け入れるその意思を忘れられる。彼女が願った世界を見届けるならば、そうありたかったと伝えたかった。だがそれを伝えることはもうできない。会うことは叶わない。外れた者に会う資格などなかった。
壊れゆく心に耳を傾けてすべてを受け入れるのなら、知っていた世界は何処に存在したのか? 誰かが修正を試みようとした世界が歪んでみるも無残な姿に変わり果てたのなら、それを戻す方法を知らぬまま壊した者は罪に問われるのか? 飛び立とうとしたその運命を遮った者は死を乗り越えるすべてを知っていたのか? 誰かが救いを求めた先に絶望しか残さない未来を作り出した者がこの世に存在する必要はあるか?
世界は何度も同じ結末と似た現象で終わりを告げる。書き記した白紙の未来に運命と呼ばれる悪戯が絡む時、それは正常に機能せず壊れたままの姿を現した。どうも世界は怪しい方向へと傾き始めていた。彼が感じるよりも前に、ここに存在するすべての世界はもう機能することを放棄し始めていた。ここは正史の裏側、裏世界と呼ぶには丁度いい。野史とも違うここに存在するすべての世界は彼の命とともにあった。
彼の心は記録にのまれ、本当の意味で機能を果たしていない。世界の一部になり果てた彼の姿を水晶は望んだ形として受け入れなかった。空を失い、夜藍となった世界はずっと暗闇に浮かぶ星々を覗いて、水晶の少女は彼を見届けていた。しかし隕石の衝突で星が砕け散るように、彼の心も世界に触れて壊れつつあった。飛び立つ未来を失ってしまった彼を取り戻すことが出来なくても、この世界から解放すれば救われる。けれどかわりにここに存在するすべての世界が失われ、裏側にあったとされる記録だけが残る。現実から離れた世界は夢と同じように儚く消えるだけに過ぎない。
生み出された現実もそこにあった未来もすべて絶望しかなかった。動かす愚か者に任せられる人材はどこにもなく、ただ時間だけが進み広がっていく殺し屋が静寂の中で解き放たれただけだった。そんな中で生まれた水晶と彼の姿は長い間、切り離された世界に過ぎなかった。それで終わり、運命はそこで尽きていたはずだった。
繰り返される現実に重ねた未来の言葉が紡ぐすべてにおいて、誰がそう続けようと言ったのか? 不明に暴走、破片に隠された空を覆う夜藍の先に、飛び出した現実を誰もが信じたのか? そう告げられた世界はもうどこにもなかった。
水晶は止まっていた。彼がすべてを見届けた後に、終わりを告げるのを待ち続けて。けれどもう頼りはしない。そう告げたのならば、飛び立つこともいとわない。
秋に告げる紅葉の氷、凍結された世界に水晶の少女が一人。あの日出会った彼の姿はまだ何も知らないままの心を持っていた。今はもうないけれど、彼は戻ってきた。あの時のようには言葉を交わすことは出来ない。けれどその本はすべてを書き記した。
『終わりましょう。私もあなたも』
それは水晶の声でも彼の声でもない世界の意思。水晶の少女が異変を感じた時、彼の手を握ることが出来ず、世界に亀裂が入り、すべては失われる。彼の瞳はすでに虚ろだったが、水晶世界が失われるの同時に少女の瞳から光が失われた。
まだ終わりではないはずなのに、と少女が心に唱える頃、もうその口は失われて砕け散った。夜藍よりも暗く、何も無い空間に落とされる彼はふと一緒に落ちる本に手を伸ばした。その意思はとうの昔に失われた本心。しかし本は凍りつき、一瞬にして彼の心も凍りつく。何かを植え付けられたかのようにすべては、世界ごと失われていた。
何かを告げようとした心が灯火の声に耳を傾けても凍った未来に届かない。とうに果てた世界に降り立って見えた出来事も叶えようとした願いももうそこにはなかった。誰かの言葉が示すかのようにその運命も決まっていたようにみえた。
太陽が空を壊し、すべてが失われた世界も水晶が現れて奪われた世界も、どれだって見続けた世界の運命に過ぎず、誰かの一筋に流れていくだけだった。彼が見た世界はどれも現実から離れた夢のような真実の世界。けれど現実に存在した未来に過ぎない。
きっと最初から決まっていたのだと言う者がいるのなら、それも一理ある。しかしそれを受け入れる者に本当の真実はやってこないことも知っている。彼は誰にも理解されず、それ故に求めはしなかった。それでいいと誰も認識しなくていいとそう告げて、彼は一人の旅人として世界を渡り歩いていた。記録にも残らず、それが彼だという姿もなく、ただただ歩き続けるだけの旅人であったように、未来は彼を導いていた。
遠く遠く歩き続けて見つけた世界も目を閉じて広がる宇宙の中で開かれた世界も、彼の目に映ればそれは真実へと変わる。彼が記録し続けるならば、その存在を理解する。誰もが知らなくても彼が見続けた世界はそこにあった。
だからあの時、水晶が願った世界がすべてを狂わせる。夜藍(よぞら)になぞらえたすべての理(ことわり)を繰り返して、水晶が人の姿を得て彼に尋ねるなら、それが彼の生きる道につながると誰が予想した? 記録されないはずの彼の姿を後世に伝えることになってしまった出来事を、動かした現実を誰が肯定した? 誰が……とうに果てた世界を見続けることを承諾したのか? それを判断する者はこの世に存在しない。
外的要因として存在する者に彼らは干渉できない。彼は人であり、記録されないだけで普通と変わらないと思っている。しかしそれは普通ではなく、未来に向けた警告でもあった。この世界におけるすべての出来事を記録し続けるならば、誰も止められない世界の心理を開くことに繋がる。けれど誰も気づかない。彼自身もそれ以外も知らないまま世界だけが知っている。
水晶との願いが彼を狂わせ、人の在り方を失わせた。それ故に現実から隔離された彼の姿は白紙の未来を写し変えるだけの本と変わらなかった。言葉は記憶とともに廃れていても、記録は残り続けて伝えられた世界は上書きされることなく永遠の真実となった。嘘偽りなく語り続けた世界も書き続けた未来もそれが運命であったかのように受け入れた。
そうすれば忘れられる。何もかも生き続けるという残酷な運命を受け入れるその意思を忘れられる。彼女が願った世界を見届けるならば、そうありたかったと伝えたかった。だがそれを伝えることはもうできない。会うことは叶わない。外れた者に会う資格などなかった。
壊れゆく心に耳を傾けてすべてを受け入れるのなら、知っていた世界は何処に存在したのか? 誰かが修正を試みようとした世界が歪んでみるも無残な姿に変わり果てたのなら、それを戻す方法を知らぬまま壊した者は罪に問われるのか? 飛び立とうとしたその運命を遮った者は死を乗り越えるすべてを知っていたのか? 誰かが救いを求めた先に絶望しか残さない未来を作り出した者がこの世に存在する必要はあるか?
世界は何度も同じ結末と似た現象で終わりを告げる。書き記した白紙の未来に運命と呼ばれる悪戯が絡む時、それは正常に機能せず壊れたままの姿を現した。どうも世界は怪しい方向へと傾き始めていた。彼が感じるよりも前に、ここに存在するすべての世界はもう機能することを放棄し始めていた。ここは正史の裏側、裏世界と呼ぶには丁度いい。野史とも違うここに存在するすべての世界は彼の命とともにあった。
彼の心は記録にのまれ、本当の意味で機能を果たしていない。世界の一部になり果てた彼の姿を水晶は望んだ形として受け入れなかった。空を失い、夜藍となった世界はずっと暗闇に浮かぶ星々を覗いて、水晶の少女は彼を見届けていた。しかし隕石の衝突で星が砕け散るように、彼の心も世界に触れて壊れつつあった。飛び立つ未来を失ってしまった彼を取り戻すことが出来なくても、この世界から解放すれば救われる。けれどかわりにここに存在するすべての世界が失われ、裏側にあったとされる記録だけが残る。現実から離れた世界は夢と同じように儚く消えるだけに過ぎない。
生み出された現実もそこにあった未来もすべて絶望しかなかった。動かす愚か者に任せられる人材はどこにもなく、ただ時間だけが進み広がっていく殺し屋が静寂の中で解き放たれただけだった。そんな中で生まれた水晶と彼の姿は長い間、切り離された世界に過ぎなかった。それで終わり、運命はそこで尽きていたはずだった。
繰り返される現実に重ねた未来の言葉が紡ぐすべてにおいて、誰がそう続けようと言ったのか? 不明に暴走、破片に隠された空を覆う夜藍の先に、飛び出した現実を誰もが信じたのか? そう告げられた世界はもうどこにもなかった。
水晶は止まっていた。彼がすべてを見届けた後に、終わりを告げるのを待ち続けて。けれどもう頼りはしない。そう告げたのならば、飛び立つこともいとわない。
秋に告げる紅葉の氷、凍結された世界に水晶の少女が一人。あの日出会った彼の姿はまだ何も知らないままの心を持っていた。今はもうないけれど、彼は戻ってきた。あの時のようには言葉を交わすことは出来ない。けれどその本はすべてを書き記した。
『終わりましょう。私もあなたも』
それは水晶の声でも彼の声でもない世界の意思。水晶の少女が異変を感じた時、彼の手を握ることが出来ず、世界に亀裂が入り、すべては失われる。彼の瞳はすでに虚ろだったが、水晶世界が失われるの同時に少女の瞳から光が失われた。
まだ終わりではないはずなのに、と少女が心に唱える頃、もうその口は失われて砕け散った。夜藍よりも暗く、何も無い空間に落とされる彼はふと一緒に落ちる本に手を伸ばした。その意思はとうの昔に失われた本心。しかし本は凍りつき、一瞬にして彼の心も凍りつく。何かを植え付けられたかのようにすべては、世界ごと失われていた。