霊の話 外伝③ 描いた未来と本当の願い(1/2)
公開 2024/04/01 16:54
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 終焉の端、それは天界の奥に存在する場所。その扉は重く閉じられて、空の神が管理していると言われている。その場所に一人、あらゆる世界の終わりとはじまりを見届ける役目を与えられた霊がいた。彼の名は橙の霊 ティコという色つき霊でありながら、その他の色つき霊との関係が一切なかったが、彼らの存在には気づいていて、役目が終われば会いたいと思っていた。しかしその役目が尽きることはなく、次から次へと現れる世界を見届けているうちに少しずつ希望は薄れていった。
 ある日、いつものようにあらゆる世界の終わりとはじまりを見届けてそれを記録している時、一瞬異様な砂嵐が起きて首を傾げたが、次に見えた世界にティコが立っていた。「えっ?」と驚きつつ、それをじっと見ていた。かつての色つき霊達は記憶を失って無色となり、唯一覚えている彼は異端者として追われて殺される。それは本来知ることが出来ないはずの未来であった。
 何事もなく新しい世界が映し出されるものの、記録用に所持していた本は手から落ちていた。さっき見たあの世界が本当に起きるものだとすれば、と彼は考えていたが恐怖の方が勝って、何も浮かばなくなっていた。

 次々と流れ続ける世界に手をつけられなくなったティコは少し前に空の神から聞いた話を思い出していた。霧の森に流れ着いた闇を撤去するため、灰の霊が空の神に対して依頼した話。結局のところ、その前に闇は跡形もなく消えてしまったらしいが、その間に一つの事件が引き起こされた。
 それを聞いて彼が初めに感じたことは、好奇心というものはどうしてこうも身を滅ぼしかねないのだろうと思った。しかしそのおかげで終焉の端に今まで現れなかった世界のことを知るきっかけとなり、彼にとっては記録しがいがあったが、もしかしてそれが原因で、映るはずのない未来を見たのではないかと思い始めていた。
「彼女に会えば分かるのかな?」
 独り言を呟きながら彼の手には筆が握られていた。しかしその筆が書くのは記録用の本ではなく、別の場所に置かれていた紙の束であった。万が一記録用の本が尽きて、書けなくなったように置かれていたものだが、それを一枚取って彼女宛ての手紙を書き始めた。だが書いたのはいいが、どうやって届ければいいのかわからなかった。封をした手紙を持ち続けていると空の神が様子を見に来た。
「おや?」
「あっ……記録は続けていますので」
「その手に握っているのは何かな?」
「……」
「私は他の神と違って怒らないから」
「異様なものが見えまして、それを伝えるために書いた手紙で……それで会いたい人がいるのですが……僕はここから出られませんし、届ける手段もないと思って捨てようかと」
「手紙を渡しなさい」
 優しさの裏に隠された気配を感じ取って、ティコはすぐにもっていた手紙を空の神に渡した。封を切ることなくそこに書いてあった宛先を見て、一度頷くとティコの方を向いていた。
「預かっていてもいいかな?」
「は、はい」
 ティコが返事すると空の神は重い扉を開けて終焉の端から出て行ってしまった。結局処分されるのだろう、と彼は思っていた。しかし少し経った頃、空の神がまたやってきて封筒とお菓子を渡してきた。天界にある郵便局の配達員に頼んで、彼が書いた手紙を届けさせ、返事はすぐに書かれていた。お菓子はちょうどバレンタインということで少女がお世話になっている色つき霊達に対して贈ったものだと言っていた。地上でもらったものを口にするのは少し怖かったが、返事の手紙を読みながら一枚のクッキーを食べていた。


 一年に一度、その日だけは解放される。天使や神の妨害を受けずに半(はした)の霊 ネアンは目を覚ました。かつてその場所には何かがあったらしいが、今はネアンが眠り続ける家があった。その中で彼の体は動けないように鎖で繋がれ、意識は“あの世界”を管理し、夢として繰り返し見続けていた。
「……鎖がほどけている」
 固定されていた鎖と重りが音もなく消え去り、仰向けになっていた体を起こして手の感覚を少しずつ取り戻していた。
「ネアン」
 その声は遠くの扉の方から聞こえて彼はそっちを向いた。そこには白の霊 シルトが刀を鞘に直している最中だった。
「……毎年思うのだが、扉を切るのはやめてもらいたい」
「切った方が早いので……それにハノキ様から言われましたし」
「彼も……そうか」
「欺くための手段もちゃんと用意してあります」
「ならば行こうか」
 そう言いつつ立ち上がろうとしたネアンはふらつき、気づいたシルトは彼を支えながら家を出た。その家は普段結晶に覆われて誰の手も付けられない状態になっているが、空の神であり空の霊とも呼ばれているハノキが、毎年その時期になると偽りの情景を映し出して欺くことでネアンを脱出させようとする方法を取っていた。その度にその他の神から対処法を組まれて厳重になっていくのだが、何をやっても止められなかった。

 それはネアンが目覚める数時間前のこと、ハノキは天界にある教会へ訪れていた。迷い子として訪れる天使に手を差し伸べる者、それは緑の霊 チュリンだった。その側に守護として存在する白の霊 シルトが立っていた。ハノキを見つけたシルトはすぐにお辞儀をし、それに反応したチュリンはニコッとしていた。
「ここに来たのは一年ぶりかな」
「……この前来ていたこと知っていますよ」
「あー、チュリンは見ていたのか」
「配達員が来た後に……何をしていたんですか?」
「ちゃんと届けられたかな? って遠くで見ていただけだよ」
「そうでしたか」
「それで」
「もうその時期ですか……早いものですね」
「いつものことだけど頼んでもいいかな?」
「構いませんが、私ではなくシルトに聞いてください」
「俺は構いません。ただ今回は大丈夫でしょうか? 前回の脱出で一段と厳重になったらしいですから」
「それは任せて……対策なんてすぐに解けるし、簡単に欺けるから。シルトはネアンは連れてくるだけでいい」
「わかりました。チュリン様、行ってきます」
「はい、気をつけて」
 そう言いシルトはチュリンの守護を離れて、ネアンの方に向かって行った。残されたチュリンはシルトの後を追って行こうとするハノキを止めた。
「一つ、聞いておきたいことがありました」
「なに?」
「最近、新しい色つき霊の話を聞いたのですが、それはいったい誰でしょうか」
「……まだ言えないけどすぐに会えるよ」
 チュリンの質問にハノキは答えず去っていった。疑問が残ったままのチュリンだったが、『すぐに会える』という言葉に何故か安心していた。

 そんな大掛かりなことが行われる数日前、天界に存在する郵便局では紫の霊 アルコは一人黙々と荷物を運んでいた。大量のメモを整理しつつ、頼まれた品を間違えないように確認していた。
「これは一つで……こっちは三つ、それから……えっと」
 頭で考えつつも少しずつ口から漏れ出した言葉に反応する者がいた。それは門番の交代時間が来て暇になった片翼の天使で、地上では桃の霊と呼ばれていた。しかしアルコに声をかけても集中しているのか返事はなかった。本来行ってはいけない受付の裏に入って、アルコのところに近づくと物音でびっくりしたのか、天使の方を睨んでいた。
「あっ……驚かせるつもりはなかったんだ」
「分かってますよ。コナラさん……暇なら手伝ってください」
「何をやったらいいかな?」
「入り口付近に置いてある荷物を外に出してくれませんか」
「……それ誰かに盗られない?」
「じゃあ、地上まで運ぶの手伝ってくれます?」
「それは」
「出来ないのは知ってます。まだ門番の交代があるんでしょ」
「……あと一回だけ」
「それでも少ない方ですね」
「そりゃだって……みんな集まるから。天使達からは嫌みを言われてしまったけれど」
「それはいつものことでは?」
「酷いよ」
「俺は配達員として回っているのであれですけど、天界から動けない方々は久々なんですかね」
「そうだね。……そういえば新しい色つき霊のこと聞いた?」
「聞いたというか近くまで行ったことが」
「えっ! じゃあ会ったの?」
「ハノキ様に止められて会えませんでしたよ」
「……そうなんだ。僕も会ったことないんだ」
「じゃあなんでこの話したんですか」
「ハノキ様が連れてくるかもしれないって話だよ」
「……」
「アルコ?」
「いえ、なんでもないですよ。ただ話しているだけで何も出来ていないから」
 アルコは荷物を持って立ち上がり、コナラを置いて行ってしまった。一枚の紙が荷物から落ちてコナラが拾い、それを見ながら別の荷物を取ってアルコについて行った。それを繰り返しつつ、ある程度の荷物が運び出されていた。
「結構あるけど大丈夫?」
「人手は欲しいですが……トゥーリさんが何処にいるか知りませんか?」
「彼ならもう地上にいると思うよ。リャウルのところだろうね」
「……そうですか。彼なら地上に行くついでに持ってくれないかなって思ったけど」
「門番の役目が終わったら手伝いに来るから」
「ありがとうございます」
「それまで頑張って!」
 荷物運びの途中であったが、交代の時間が近づいていたため、コナラは応援して行ってしまった。再び一人になったアルコは積まれた荷物をバイクに紐で括り付けて乗って走り出した。


 雲一つない快晴の空を彩る花畑。霧の森の奥に存在する場所の一つ、黄の霊 レッカが管理する花畑には季節関係なく多くの花が咲いていた。そこに一本の大きな桜の木があって、一年に一度しか満開にならず、その時期はいつもみんなが集まっていた。
 冬の冷たさと春の温かさを繰り返した日々のせいで、普段より蕾をつける時間がかかっていたが、咲く日は変わらないようで少しずつ花びらが開き始めていた。
「……あいつに言わないと」
 他の花に水をやりながら桜の木を観察していたレッカはそう呟いて片付けを済ませて、ついでに飾る用の花束を持って灰の霊のもとに向かった。花畑から出てしまえばそこは光が遮られた薄暗い森の中だった。灰の霊がいる場所の道は知っているとはいえ、つくまでいつも時間がかかっていた。すれ違うのはレッカのような色を持たない透明な幽霊達だった。彼らはそれぞれの目的のために行動しているようだが、レッカはよく知らなかった。
 信用した者にしか見えない扉、その扉を開けると一つの部屋が広がっていた。
「桜の木が……ってあれ? 寝ている」
 いつもなら扉を開けてすぐの机に本を乗せて、椅子に座った灰の霊が待っていた。しかし今は机に頭を乗せて座ったまま眠っていた。レッカはどうしよう、と思いつつ持ってきた花束を枯れた花が入ったままの花瓶と交換していた。その音でも起きず、本当にどうしたものかと考えていると、後ろで声をかけられて、そこにいたのは紅い霊 フィークで、手には何か持っていた。
「フィーク、どうしよう。桜の木の蕾が咲き始めたって言わなきゃいけないのに」
「あー、なんか調べものしていたみたいだから……あとで伝えておくよ」
「ほんと?」
「ああ、だからレッカは桜の木の管理を頼むよ」
「うん」
 おどおどしていたレッカだったが、フィークに会って安心して部屋から離れていった。
「でも起きるまで待っているわけにもいかないし……メモでも残しておこうかな」
 手に持っていたものを机に置いて、そこに残されていたペンで紙切れに桜の木のこととそれとは別のことを書いていた。
「『チェリンからの贈り物です。それから多くの荷物がここに運び込まれる予定なのでうるさくなりますが、いつものことなので気にしないでください』……っとこれでいいかな?」
 フィークは書き終わるとすぐに部屋から出て扉を閉めた。閉め終わるとホッとしたように息を吐いていた。そして水の霊がいる湖に向かった。花畑と対になるように存在する湖。その湖は快晴の空であっても暑さで地面が干からびても、何があろうと一年中凍っていた。水の霊は背後の木にもたれかかって座り、たまに湖を覗いていた。
「……冷たい、ヒビが入った氷」
 近づいて氷に手を当てて水の霊は呟いていた。鏡のように姿が映らなくてもそこにフィークがいることはすぐにわかった。
「なに」
「大切な用事だから」
「桜の木が咲き始めていることは知っている」
「レッカから聞いたのか!?」
「あっているんだ……聞いたことはないけどそろそろだと思って」
「なら必要なかったな。大切な木だからルーレが触れて仕舞わないか心配で」
「もう何回目だと思っている。あれは知らなかったから……何もしないよ。それよりあいつ……メーシェに言った方が」
「ルーレがメーシェを気にするなんて」
「……」
「何でもないよ」
「寝てていい?」
「ああ、また来るよ……おやすみ」
 フィークがそういう前にルーレは湖から離れて木に腰かけて眠りについていた。安心しているのか、温かく感じていた空気が一瞬にして冷たくなっていた。

 霧の森の入り口付近に青い霊 メーシェは立っていた。配達員のアルコから一つの箱を受け取ったフィークが灰の霊のもとに行くから代わりに立っておけ、と言われてそこにいた。何往復しているのかわからないが、アルコが大量の荷物を置いて行った。それを中に入れる作業をしていたが、メーシェ一人になってから動く気力が失せていた。
「早く戻ってきてよ……フィーク」
 なんでこんなことしなきゃいけないのかわからず、どんどん嫌になって積みあがるだけの荷物を見ていたが、バランスが取れなくなってメーシェの方に倒れて、物凄い音とともにメーシェの体は荷物のせいで完全に動けなくなっていた。
「た……助け」
 意識が揺らいで瞼が落ちようとしていた時、その荷物は持ち上げられてメーシェはゆっくりと目を開いた。フィークが助けてくれたのかと思っていたがそうではなく、風の霊 トゥーリと茶の霊 リャウルが立っていた。
「大丈夫ですか……メーシェさん」
「なにやってんだ?」
「トゥーリとリャウル……? 早いね」
「そうか? それよりこの荷物の数はなんだよ」
「さっきからアルコが大量にもってきて……」
「まさか一人でやってんのか。フィークはどうした?」
「あいつの所に行くって言ったっきり戻ってきてないけど」
「ふーん」
「……手伝いましょうか?」
「リャウルさん、その必要はない」
「でも手伝った方が早く始められると思うのですが」
「……それもそうか」
「手伝ってくれるの!?」
「図に乗るな、メーシェ。皆が集まる前にさっさと終わらせる」
「……ごめんなさい」
 メーシェが謝っていたがその声は小さく、トゥーリは「なんか言ったか?」みたいな顔をしていた。リャウルは少し困った顔をしながらも大きな荷物を両手で持ち上げていた。
 二人のおかげで少しずつではあったが、入り口に置かれていた荷物が中に入れて、その荷物の箱を開けてみた。今運び込まれているものには割れ物はないが、やたらと食料が多かった。みんなが集まるとはいえ、こんな大量に必要なのかメーシェにはわからなかった。

 数時間後、メーシェのもとにフィークが戻ってきて、トゥーリとリャウルに感謝していた。しかしトゥーリがよく動いていただけで、リャウルは運動不足で動けなくなり、メーシェはというと最初こそ動いていたが、いささか荷物が多すぎて嫌になっていた。
「フィーク……あとどれくらい?」
「今は食料が中心だからまだ来る」
「えっ」
「一日で終わると思ったのか……馬鹿か」
「もう嫌だ」
「なんでこんなことさせているのか分かっているのか!」
「うっ……怒らないでよ」
「はぁ」
「……何かやらかしたのですか?」
「そっか、リャウルさんは知らないか」
「もしかして……」
「トゥーリの予想通りだよ。多くの人に迷惑をかけて上に、その一部の命は戻らないと……だから罰を与えることにした。その一環としてこの役目を与えたんだけど」
「僕は何も覚えてないのに……」
「覚えてないのかよ、たちが悪いな……それでこのざまか」
「……」
「メーシェ」
「?」
「レッカの花畑には近づくなよ」
「どうして?」
「桜の木が蕾をつけて少しずつだが咲き始めた。レッカはその管理をしてかなり集中しているから邪魔をするな」
「フィークそれは安心しろ。こいつがここから動ける見込みはないから」
「それもそうか」
 次の荷物が届けられたとすぐに気づいて、トゥーリはメーシェを引っ張って連れて行った。痛い痛い、と繰り返しながら連れて行かれるメーシェを残されたリャウルとフィークは見ていた。
「トゥーリやリャウルさんには悪いけど、まだ一緒に荷物運びを手伝ってあげてくれないかな?」
「私は少ししか動けませんが」
「構わないよ……もとよりメーシェがやらなきゃいけないからね。本当は一緒にやらないといけないのはこっちの方だけど、ちょっと外に出ないといけなくて」
「どこに行くか聞いても?」
「それはちょっと言えないけど、お菓子のお返しをするだけだよ」
「あっ。じゃああの子ですかね」
「知っていたんですね」
「トゥーリさんからよく話を聞きますから」
「そうなんですね」
「……足を止めても悪いですし」
「じゃあ行ってきます」
 リャウルは手を振ってフィークを見送った。何も知らないトゥーリとメーシェは声をかけようとしたが、すぐにリャウルがやってきて二人に説明した。
趣味で小説や詩を書いている者です。また読書や音楽、写真など多くの趣味を抱えています。
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