短編小説っぽい何か(321~330)/それに関する説明つき
公開 2024/03/31 12:47
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▽短編小説321(2024/1/6)/永遠に漂う夢 その身を焦がして
 永遠を行く者 目覚めりし
 時の流れ封じの末に 清めた血は枯れる
 喰らい尽くす龍の煌きに
 死してなお 揺らめく魂が宿る

 赤い花が舞う少女の瞳に
 刀振る切れ味 反射の影に映る顔
 その身傷つけようとも
 再生の祈りが役目を縛りつける

 飛び跳ねる血の 消えぬ悲しみ
 見損なう瞬きにその身を委ねて
 空っぽの体が記憶する立ち姿
 日食にのまれた闇に溺れる

 永遠を這う者 人の身を外れた血の影
 変えられた未来はすでに失われた
 悲しき龍が涙する雫に 返答は破壊の砂嵐
 穢れた池が溢れた地に 囁くは時の声

 忘却された記録 無き心に縋(すが)り
 機械人形は知らない夢を見る
 頬を伝う涙 溶け出す氷の音
 去り行く姿 見えぬ光は少女の中に

※『永遠の機械人形』が見た少女の夢だが、それが自分自身であると気づいていない。

▽短編小説322(2024/1/13)/清らかな心を陥れた悲しみの出来事
 分かり合いなど不要な心
 弱り切りの意味など枯れ果て
 悲しみの命は永遠に失われた

 守りの未来はすでに破壊された出来事に過ぎず、暗闇に落ちた魂の戻る場所はなく、誰も求めない命は突き刺さったまま、赤も水も流れずに沈むだけだった。
 灰色に埋もれた歯車も認識の脅威も忘れられた深い海の中では意味を持たず、枯れた心体(しんたい)に聞くことも出来ず、落ちるところまで来たその命は破裂した。

 水風船に刺した針
 一瞬の水の形が止まる時
 幸福は流れ出す

 羽根に舞う記憶の果てに失われた未来は空っぽの頭では考えることも否定し、遠くの旅立ちを見届けることも拒否し、檻に閉じられた鎖の先に切り開かれる。
 答えを知らず、何者かを知らず、計り知れた形の中にある魂は優しい運命を投げ捨てて、崩落の道に立ち尽くし、その死を受け入れる一刺しは止められた。

 眩い光が救いならば
 流れ落ちた後の闇は
 すべてを裏返す魂の輝き

※「赤も水も流れず」=「血も涙も流れず」
「遠くの旅立ち」=「死ぬこと」

▽短編小説323(2024/1/20)/迷い霊の目覚めと青色の記憶
 不吉の呼び声が響く墓に一人、不明な目覚めが新たな道を開く。迷いの命は記憶を置き去りにして何もかも分からないまま森へ足を踏み入れた。名を無くした霊体の姿に彼は死を受け入れたが、その答えはまだ確かなものではないとして切られた。
 彷徨いの森で迷っていると鮮やかな花畑に水をやる霊を見たが瞬きの後にいなくなり、凍りついた湖の近くに眠る靈もまた彼の視界からいなくなった。他の霊が透明だとすれば、彼が見た二人の霊には色が宿っていた。
 そういえば森への案内人の霊も、答えを否定した霊も同じように色があった。ここにいる霊と違う姿を持つ彼らは一体誰なんだろう。そんな疑問とともに歩みを進めた先に一つの死体が転がっていた。

 死体には見覚えというよりそれは彼自身だった。周りには血溜まりと悲鳴と微かに残る通り魔の笑い声。運悪く刺された上に意識不明に陥った彼の体は病室にあって少しずつこの世から切り離されようとしていた。
 しがない社会人だった彼に未練があるとすれば、それは願いを叶えることができなかったこと。ただそれは生前に行うことができる代物ではなかった。

 青い霊となった彼は死して死に場所を探す
 それが記憶に残された最後の願いだった

▽短編小説324(2024/1/27)/蔓延るこの夜に新たな血の香りを
 この世に蔓延る吸血鬼を狩るハンター達
 その刃で切るのは獣と化した肉の塊
 最強と呼ばれた吸血鬼ハンターが対峙したのは
 死にかけの吸血鬼であった

 目を覚ますは朝の光 焼ける痛みは謎の感覚
 少年はいつも通り登校したが、教室に入る前に倒れてクラスの皆に心配されながら保健室に運ばれた。保健の先生はいなくて、代わりに彼の幼馴染の少女が対応して寝かせた。体温計などを持って彼のところに来たが、彼がいきなり起き上がるな否や少女の首元めがけて口を開き噛みついた。突然のことと痛みで少女は声を出すことができず、離れようにも彼が少女の体を包み込むように掴んだために動けなかった。
 数分の後に解放されたが、少女の首から血が流れてそのまま気絶していた。無我夢中で吸っていた少年は正気を取り戻し、今までではありえない状況に彼は夢だと思いたかった。しかし感覚が鮮明になってくるとこれは現実だと理解するしかなかった

 最強と呼ばれた吸血鬼ハンターはもういない
 対峙したか弱きで死にかけの吸血鬼は毒を刺した
 死に際に刺した毒はハンターの体を蝕み
 新たな吸血鬼へと変えてしまった

▽短編小説325(2024/2/3)/楝色(おうちいろ)に閉じた記録 不完全な世界に燈火(ともしび)を
 不完全な世界に漂う記憶の欠片
 失われた未来を探す旅をする少年
 運び屋でしかなかった本来の姿は無く
 記録を放棄した友人と仲良く走り去る

 名前の色を忘れて進み続けた
 けれどアメトリンは輝き続けた
 残された記憶に意味はなくとも
 ふと気づく後悔が空白を作り出す

 交わることのない二つの魂
 留まり続けた者と消えた者
 一冊の本が繋いだ未来と過去
 壊れた少女に組み込まれた欠片

 すれ違いに共鳴の光は灯る
 けれど知らない者として処理された出来事は
 彼らの記憶に残らない
 しかし不完全な世界はすべてを記録する

 その本が指し示す先に 重なる魂は真実を知り
 踏み外した未来に 空間の欠片が動く

※「記録を放棄した友人」=「『霊の話』の橙の霊」
「留まり続けた者と消えた者」=「『霊の話』の紫の霊と『記録者』の空間の記録者 ツィオーネ」
 「壊れた少女」=不完全な世界に存在する元凶で『複雑な生き方をする少女』の「―――」に残された記憶の残骸。

アメトリンはアメシストとシトリンの二つの宝石が一つになった希少な宝石。石言葉は「調和」、「創造性」。
楝色は初夏に咲く楝の花のような薄い青紫色。

▽短編小説326(2024/2/10)/遺物と純粋な心 悪意に穢された輝き
 神聖な世界に蔓延る侵食の影
 祈りの願いは純粋を捻じ曲げる槍となる

 白き髪に委ねられた浄化の光は写身(うつしみ)の闇に落ち、信用の理(ことわり)を伏せる姿にこの身を捧げることになろうとは思いもよらず、揺らぐ体が指し示す先は信仰を持って待ち続けた者達に穢れた罪を与えていた。

 救済の心は閉じ込められた檻の中
 道具でしかない者に慈悲もなく砕かれる

 血塗られた遺物の輝きは失われ、本来の光は曇り穢される。世界を我が者とせんとする悪意の塊が降臨した後、人々の脅威となりて振るわれる光がすべてを貫いて破壊の限りを尽くした。

 神の前に守護者も音色も瞳も関係なく
 最後の希望も針を落として壊れた

 望まぬ浄化を拒み、立ち上がる運命に神は首を横に振る。壊れたはずの希望が封印されていた記憶を取り戻した時、すべての鍵が紐解かれて傍(かたわ)らに浮かぶ羽根が神を絶望に陥れていた。

※『遺物に侵食された世界』の「浄化の光」を扱うことになった水雪と神の話。
白き髪=司祭の少女「水雪(みゆ)」
 伏せる姿=神(悪意の塊)
「守護者も音色も瞳も」=「影の守護者も詩の音色(死の音色)も死者の瞳も」
「針を落として壊れた」=「懐中時計が壊された描写」
 羽根=天使のことだが、神にだけ見える幻影。時を止める能力は失われ、代わりに『運命の羽根』という運命を変える力を手に入れる。

▽短編小説327(2024/2/17)/絵描きの空と紅色(あかいろ)の記憶
 空に浮かぶ雲が通り過ぎる翼を沈めるなら
 灰色の雲が赤く染める地面を作らんとするなら
 こびりついた人の形を失った肉塊の破片の記憶
 平和な世界の隅で置き去りにされた残酷な風景

 導かれて辿り着く平穏に未だ心許さず
 瞬きの後に残るあの日の記憶
 空に見えた黒い物体が燃やし尽くした色彩
 光遮る雨に縋(すが)る水に浮かぶ油が何もかも苦しめる

 絵描きの老爺が彼の心情を映し出す絵を描く
 塗り潰された残酷に浮かび上がる幼き記憶
 何も知らなかった頃の母親との思い出
 暗い夜が明けて小さな光が灯った

 筆を取る彼の絵は揺らぐ抽象画ばかり
 思い描いた絵は遠くまた沈んでいく
 しかし渡された空色の絵具は本当の空を映し
 壊れていた心は少しずつ修復されていく

 紅い霊は何も言わず絵を描き続けた
 後ろで誰かが見ているとも気づかずに

※翼=戦闘機
 誰か=灰の霊
 『霊の話 絵描きの空』(本編開始前の話)を中心にしているが、前半部分は『緋(あか)い霊』の話も含まれている。

▽短編小説328(2024/2/24)/再来の夢 壊れた世界の果て
 分たれた二つの運命
 悲しき真実は正史となり
 嬉しき真実は野史(やし)となった
 懐中時計に封じられた記憶

 天に仰げよ清らかな瞳
 空見上げ災いの朝に
 終わりのはじまりを告げる
 白紙の未来は再びの夢を見る

 二つの世界にばら撒かれた魂の欠片
 繋ぎ止められた能力達によって
 一つの体に溢れたすべての記憶
 呪いの少女は目を覚まし
 巻き戻しの世界は不完全となる

 時間の記録者は呼ばれていると気づき
 空間の記録者は書庫の不可解な揺れで気づく
 不気味な笑いは災いの種を撒き
 共鳴の光は彼らさえ取り込む

 時に導く者よ 鏡に映し闇の姿
 光は影に閉じ込められ 桜は散る

※「悲しき真実」=「遺物に侵食された世界」
 「嬉しき真実」=「二つの世界の終着点」
 「呪いの少女」=「名も無きもの(ラナン)」
 最後の二行は光の少女、影の青年、鏡の写身、闇の本音と十字架の主

▽短編小説329(2024/3/2)/消えたピアノの音色を探して
 汽車から降りて見える海の光
 白く広がる雲からこぼれ落ちた温かさに
 白猫と少年はそよぐ風に吹かれて
 自然の香りとともに歩き出した

 音を知らぬまま目覚めた白猫に
 黒猫が教えてくれた音色の旅
 階段の先で少女に出会い
 隠された記憶とともに取り戻した思い出
 しかしそれはもう戻れない
 時計の針は止まりピアノは奏でるのをやめた

 淡い青色と深い藍色の海
 境界線に冷たい手が水をすくい
 揺らぐ水面(みなも)が二人を映して光煌めく
 雫が奏でる音色が心地よく耳に残る

 どこまでも続く空と靡(なび)く風
 砂浜に流れ着く波が白猫に
 足跡を消し去って溶ける潮の香り

 白猫にとって音楽を知る旅
 しかし少年は何を求めているのかわからない
 黒猫の姿が見えなかった彼は
 不可思議なチャームを持っていた

※この話は音楽ゲーム「ノスタルジア」をやっていた頃の記憶を頼りに書き出したもの。範囲的にノスタルジア~ノスタルジアOp.2の序盤くらいまで。

▽短編小説330(2024/3/9)/繋がる世界と出会う奇跡の手
 それは見えてはいけないものだった
 気づいた時には知ってしまった
 終わりとはじまりを見届ける終焉の端で
 橙の霊は願いを告げていた

『どうか皆に出会うチャンスをください』

 流れ着いた闇によって繋がった二つの世界
 解決した事件の後の世界は書かれていない幻影
 交わることのない未来が開かれて
 同じ名を持つ者への手紙を書いて送った

『この世界を無くしたくない』
『彼女ならきっと承諾してくれる』

 返答は良好の後(のち) 彼は世界の異変に気づく
 その答えは登場人物としての彼女でしかない
 自分の意思で動いているのは彼だけだと
 この世界を「書いている」者がいると

 花見の宴会に参加する橙の霊の目に映る
 本を手にした青年は彼の姿に驚く
 出会うことのない二人のはじまりが
 この世界を「記録」しようとしていた

※「皆」はすべての色つき霊のこと
 「流れ着いた闇」と「解決した事件」は『霊の話 番外編 青い霊編』のこと
 「二つの世界」は『霊の話』の世界と『複雑な生き方をする少女 学園編』の世界
 「本を手にした青年」は時間の記録者 ストルン
 この物語は『交わる世界と開かれた未来』の橙の霊視点となる箇所がいくつかある。
趣味で小説や詩を書いている者です。また読書や音楽、写真など多くの趣味を抱えています。
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