交わる世界と開かれた未来
公開 2024/03/10 13:33
最終更新 -
(空白)
 終わりを告げたはずの世界
 一つの選択肢が少しずつずれていき、出会うことのない未来を作り出す

 異常なまでに発達した闇が絡み合って生まれた存在はその時の記憶を覚えていない
 けれど『世界の観測者』は『霊の話 番外編 青い霊編』として書き記していた
 それは一つの事象でその未来は続かないはずだった
 しかしその横に現れた白紙の本が開いた時、時間の記録者 ストルンは取り込まれた

 『二つの世界』の中心にいる少女
 『複雑な生き方をする少女』として『世界の観測者』が書き記した物語の登場人物
 一つの約束は世界の運命と繋がり、その呪いは願いを叶える十字架を侵食した
 少女の願いとともにこの世界は存在し、その願いが果たせなくなれば世界ごと終わる


 時間の記録者 ストルンが気づいた時には知らない場所だった。けれどそこはさっきまで読んでいた『霊の話』の世界であるとすぐに理解した。『世界の観測者』によって『二つの世界』に関するすべての物語は収められて、この世界もまたその一部であった。ならばなぜここにいるのかわからなかった。終わりを告げている世界に未来を書き記す力があるとすればそれは「―――」だけだった。
 ひとまず手にしていた本を開くが、さっきまで読んでいた本とは違って白紙の本だった。題名はなく、白紙のまま頁をめくっていたが、途中で何か書かれていた。

〈本来干渉することの出来ない未来の形 呪いが関与した交わりの世界〉

 呪いという言葉にストルンはここが単なる『霊の話』の世界ではないことに気づいた。『霊の話』には分岐が存在し、同じ番外編でも世界が異なっていた。『紅い霊編』の道を進めば本編と繋がるのだが、『青い霊編』の道は別の世界との干渉により成り立っていた。その世界は本来干渉することが出来ないのだが、彼が悪霊となる際にのみ込んだ闇によって二つの世界は繋がった。その闇は十字架の主である少女に取り込まれて浄化された。
 その先の未来は『霊の話』としては書かれていない。もう一つの世界である『複雑な生き方をする少女 学園編』において色つき霊との関係があるとだけ記されていた。もしこの世界がその未来を作ったものだとすればどこで干渉したのだろうかと彼は思っていた。
 歩みを進めようとして話しかけようとしたその姿はなく、一緒に行動しているはずの空間の記録者 ツィオーネがこの世界にはいなかった。白紙の本は手渡されたものだと思っていたがそうではなかった。


 霧の森に続く墓場の坂道を上るストルンを通り抜ける人間達。人間達の目には彼の姿は映っていないから驚く要素がない。だから重なっていると気づくのは彼だけだった。墓場の近くには山に繋がる森が侵食し始め、立入禁止としてキープアウトの黄色と黒色の紐が括り付けてあったが、年季が入っているのか木々が折れて紐が地面に落ちていた。それでも行方不明者など警告の看板がまだ新しい形で置かれていた。
 霧の森の入り口はその紐を越えた先にある。色つき霊以外の幽霊も徘徊し、その森の広さは計り知れないものとなっていた。門番としてなのか、誰かが立っている。その姿は『霊の話』の最初の登場人物にしてこの世界を構成するきっかけを作り出してしまった元凶とも呼べる青い霊だった。

《どこに行ったんだろう? 探しに行った方がいいかな》

 青い霊は独り言を呟いた。誰かを探しているようだが、ストルンにはそんなこと関係ない。むしろ話を聞くチャンスだと思って近づいてみて話しかけるものの、その言葉が青い霊に届くことはなかった。『記録者』は『世界の観測者』と変わらない。世界を記録し保管することが役目であるが故に干渉することが出来なかった。しかし過去に『世界の観測者』は少女に認知されたことがあったが、その世界では不必要として弾かれていた。
 世界の書庫を管理する者として存在する幼き少女と『世界の観測者』を認知した少女は同じ魂であっても違う存在。少女がいる限り、その世界の中心は彼女になる。一つの願いによって繋がった多くの世界は殺害の連続で呪いとなり、生まれながら少女の魂は他の願いを引き受けなかった。「―――」の成分を含んで生まれた少女は物語で生き続けるための人形に過ぎず、幸せを望むがあまりあらゆる不幸を現実に流していた。だから少女の心は「―――」と繋がっていた。

《すべての物語の記憶はあるけどそれ以外のことは何も覚えていない》

 幼い少女がストルンに言ったことの一つにそれがあった。管理する者として生み出された分身体である彼女もまた「―――」の一つでしかない。
「物語の中で生き続けることが出来るのなら……そういうことか」
 ストルンはいろいろ考えながらも声に出ていた。しかしその声を聞くことが出来る者は近くにいない。青い霊も徘徊する他の幽霊達も墓場にいる人間達も届いていなかった。霧の森の中に入ってからも湖にいる水の霊、花畑にいる黄の霊、扉の隙間から見えた灰の霊など確認できたが何をやっても反応はなかった。しかしそこに紅い霊はおらず、青い霊が言っていたのはおそらく彼のことだろうと思った。森から出て紅い霊が行きそうな場所を探してみた。幽霊達が通う図書館や虹を渡って天界にも足を運んだが、紅い霊の姿はなく他の霊がいた。ストルンが驚いたのはツィオーネに似た色つき霊がいたことだった。

〈同じ魂を持つ者ならば似ていても仕方がないこと〉

 二人を含めた『記録者』と呼ばれる者にはその魂がふさわしいとされる能力が世界から与えられると言われている。『記録者』になる前の記憶はないが、異なる世界での自分達が何かをしたせいで得た『時間』の能力をストルンは持っていた。だからこの世界に似た者がいても並行世界として処理される。選択肢を変えた世界を別世界と呼ぶのなら、この世界も似たようなものに値するのだろうか。


 最後に心当たりがあるとすれば、それはもう一つの元凶の場所。二つの世界が交わりあって初めて開かれた入り口。ストルンの足が止まり、その入り口の方へ目をやると紅い霊と少女がいた。近づいてみるが二人とも気づいていないようで反応はない。

《今度、花見をする予定があって》
《……そこに彼は来るの?》
《空の霊からはそう聞いてますが……どうして彼のことを?》
《彼から手紙が届いてそれからずっとやり取りしていて……会いたいって言っていたから》
《そんなことが……と言いつつ会ったことないのですが》

 誰かに関する話を続ける紅い霊と少女。謎の手紙の話は過去にツィオーネが持っていた本に書かれていたような気もするが、それかどうかを今の状態で判別する手段はなかった。それにしても[彼]の存在が幽霊だとすれば、人間である少女との手紙をよく繋げられるものだとストルンは思っていた。少女であるから可能なのか、この世界ではそれが普通なのか分からない。しかし確実に言えることは少女が普通の人間ではないということだけだった。
 二人の会話はいつの間にか終わっていた。紅い霊が止まっているストルンを通り抜けるが、今までのことと同じように気づいていない。しかし少女は彼を見ていた。
「ずっと聞いていたの?」
「……やっぱり君は」
「あなたはきっとこの世界の人間じゃない」
「最初から気づいていたのか」
「紅い霊さんと話している時は気づいていなかった。ううん、違う……多分気づけないようになっていた」
「それは物語の一部であるから」
「かもしれないね……」
「聞きたいことがある」
「私は何も知らないよ。でもこの世界が作りものであることは知っている。そう願ったものがいる」
「願ったのは」
「たぶん[彼]」
「[彼]?」
「ほんの少しだけ私には記憶がある。『霊の話』に関する記憶が……そこでの[彼]は他の色つき霊との繋がりがない。だから出会うことが出来ないまま、他の色つき霊が消えてしまう」
「もしかして[彼]は未来を知ったのか?」
「この世界の[彼]はそうかもしれない」
「二つの世界が繋がったから終焉の端で見えてしまったのか」
「『記録者』さん」
「! 僕の名は」
「きっと見えるのは最初で最後だから……あなたの名前は不要として登場人物となった私には残らない」
「そうか」
「だからこの世界を記録し続けて……どうか[彼]を救ってあげて」
「救う?」
「うん。あなたなら……あなただからきっと」
 少女の言葉がまだ続いているにもかかわらず、ストルンの視界は光に覆われて何も見えなくなってしまった。眩しく目を閉じてしまい足元がふらついたが踏ん張り立っていた。何が起きたのかと思ってすぐに目を開けたが、そこは最初に気づいた知らない場所ですべてが巻き戻ったのかと錯覚した。
 しかし白紙の本を開いてみると先ほどまでの内容が物語として記されていた。それは確実にこの世界を記録している証でもあった。

〈会いたいと願ったからこの世界は動き出した。少女に会わなければすべてを知らなければならないと思った。あの場所で見た出来事を伝えるために〉

 その文章を最後にして白紙の頁は続いていた。まだこの世界のはじまりに過ぎないということだろうか。にしても[彼]と呼ばれる存在が誰なのか分からないままだった。
 ひとまず何か変わったかもしれないと思い、霧の森の方へ行って見ることにした。人間達は相変わらず反応はなく、墓場を通り過ぎて森の入り口を見つけた。しかしそこに青い霊の姿はなく、別の人物が立っていた。その姿にストルンは恐怖を覚えていた。ツィオーネに似た色つき霊がいた時点で気づくべきだった。[彼]は異なる世界の彼自身であった。

 最後の霊にして色つき霊とのかかわりがなく、すべてが終わった後に現れる。けれど消去された世界に皆の痕跡は残っておらず、[彼]は異端者として追い出されて殺されそうになる。それが『霊の話(第三部)』に記された[彼]の出来事だった。

《やっと……会える》

 しかしその呟きの後、気づいているかのように[彼]はストルンの方を見ていた。彼は動けずに止まっていたが、何も言わずに霧の森の中へ入っていった。


 数分の間、彼の足は止まったままだったが、本は勝手に開いて頁にはこう書かれていた。

〈この世界は「書かれている」がまだ「記録」されていない〉

 この世界から出る手段は未だない。ならこの世界を記録するほかないのだろうか。少女の頼みの通り、[彼]を救うことがこの世界の終わりを告げるのなら、記録者として見届けるだけだ。本当の未来という開かれた世界を。
趣味で小説や詩を書いている者です。また読書や音楽、写真など多くの趣味を抱えています。
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