遺物に侵食された世界(4/10)
公開 2024/02/24 13:48
最終更新
2024/02/24 14:13
(空白)
つらつらと語られる内容に蒼徨はメモを取りながら、風花は頷きながら聞いていたが、雨夜は堕天使という外の存在を認識した時、さっきまで感じて違和感に気づいた。
「秘色という人間……もしかして堕天使の力が関わっているかもしれない」
「え? 普通の人に見えたけど」
「そう思うか、悪魔」
「……丸十くんには見えているんだっけ」
「甜瓜も見えているよ……こいつは見えないふりをしていただけ」
「もう! 私から言おうと思っていたのに」
「まぁまぁ……それよりも悪魔って……風花さん?」
「お兄さんのことを言っているんでしょ」
「そう、その影……同じならこいつも遺物が関係している」
「丸十お兄ちゃん……脱線しているって。風花さんも困っている」
「あっ、すまない」
「ううん、大丈夫……あまり語れないけどお兄さんは悪魔だよ。私のことを守ってくれる大切な人」
「あまり聞くんじゃねぇ……子供でも容赦しないからな」
「ごめんなさい」
「お兄さん、恐喝しないの」
「……すまん、なんでもない。話を続けてくれ」
「えっと……秘色さんが堕天使さんと関係あるかもしれないって話だっけ」
「そうだ。同じ気配というかなんというかそういうものを感じた」
「おそらく秘色が堕天使によって連れてこられた存在の可能性もあるが、彼女もまた能力の影響をあまり受けていないように見える。楽曲を聞くことを禁止されているといっても、今日の演奏会で長時間は聞いていたはずだ。なのに一般人とは違って風花や蒼徨はともかく、秘色はどうして回避できた?」
「守られている……少しでも長く二人のもとにいてほしいから」
「だとしても秘色も短命だろうな。多くのマネージャーが過去にいたというのなら」
「いたよ。現に皆、病気という名の死でこの世からいなくなったけど」
「みんないい人だったのに……曲が好きだって言ってくれたのに」
丸十は寂しそうに、甜瓜はそう言って泣きそうになっていた。風花は大丈夫だよ、と甜瓜の頭を撫でてあげた。
部屋に戻ってきた秘色がいろんな表情を浮かべていた四人を見て驚きながら、退却ができるようになって、丸十と甜瓜は秘色に連れられて行ってしまった。しかし風花と蒼徨も休憩室から出て、会場から外に出るために後ろからついて行った。
会場から出ると外で見張っていた警察官は誰一人いなくて、何の声もなく静まりかえっていた。秘色が丸十と甜瓜を車に乗せていた時、風花と蒼徨は外を見回っていた。それでやっと全貌が見えてきた。警察官は誰一人いなくなったわけではなく、多くはないとはいえ一部は演奏の衝撃で死亡していた。会場の外まで響いていたのかと思えば、あまりにも恐ろしすぎる事件になりかねないが、救急車が来ないということは最初から知っていたか、それともこれも堕天使の力なのかと蒼徨は思っていた。
「お二人とも乗りますか?」
それは秘色からの提案だったが、人が死んでいる状況に何も思わないのは普通ではありえないことだった。風花は何事もなく返事をして、蒼徨の腕を掴んでいた。
車に乗ってからも風花と甜瓜はよく話し、丸十は静かに外を眺めていた。蒼徨はメモ帳を開いて書いた内容を確認していたが、風花の言っていた悪魔という言葉に引っ掛かっていた。
「これは調べないと分からないことかな」
そう一人呟いてメモ帳を戻していると車は危険区域の近くで止まった。風花がそう言ったわけでもないらしく、突然止まって驚いていた。車を運転していた人は秘色ではない別の人だったので、何か知っていたのかもしれない。そしていきなり秘色が立ち上がって、四人の方を見ていたが、視線が合っていなかった。蒼徨が話しかけるも返事はなかった。
「……」
「どうかしました?」
「『もしあなたが同じ力を持っているのだとしたら、きっと見つけられる』」
「え……」
その声は明らかに秘色の声ではなかった。それにひと早く気づいた丸十は座っていた席を降りて歩いていたが、すぐに秘色が正気に戻り、彼女は何をしているんだろう、という感じになっていた。
「あれは……」
「丸十お兄ちゃん、やっぱりそうだよね」
「ああ、さっきの声。聞き間違えるはずがない」
「……気配消えちゃった。どこにいるの、堕天使さん」
「ただこれだけは分かった」
「……?」
「俺達の演奏を聞いていてくれたってことさ。あの人を通して」
「うん……」
甜瓜の嬉し泣きと丸十の意思を風花は静かに聞いていた。雨夜も堕天使の気配をかすかに感じ取ったらしく、少しの間周りを見渡していたが、双子同様に気配が消えてしまい、横に首を振って何も追えなくなってしまった。
それから車で観光するという話になり、風花と蒼徨はそれを断ることにした。甜瓜は悲しそうにしていたが、丸十は別れの際に止めてきた。
「今日はありがとうございました」
「ううん、楽しかったから……」
「それで提案したいことがありまして」
「どうしたの? それにもうかしこまる必要はないよ」
「連絡し合うことは出来ますか?」
「電話番号を交換するってこと? それなら構わないけど」
「もし堕天使を見つけることができたら教えてほしい。きっとその悪魔が気づく」
「同じ力なら」
「はい」
「……わかった。いいよ。育ての親っていう話だから会いたいよね」
そう言い電話番号を交換しようとするが、風花はスマホの使い方があまりにもわかってなさ過ぎて、蒼徨に手伝ってもらってなんとか交換することができた。その間に聞くつもりはなかったようだが、丸十は蒼徨とも交換した。
「それじゃ、また」
「またね」
そう言って車に乗り込む双子は後ろから手を振り、返すように風花と蒼徨も手を振った。その車が遠ざかるまで降り続けていたが、風花は少し寂しそうな顔をしていた。
それは大きな橋の上で起きた車の衝突事故。遺物が危険なものだと理解した研究者が盗み逃げようとしたが、遺物に魅入られた者達によって邪魔をされて道を外し、ガードレールに衝突した。研究者は死亡し、そこに乗っていたとされる女の子も死亡した。
しかしそれをきっかけに研究所では遺物に魅入られた効果から逃れた者達が増え始め、研究者の半数が遺物の研究を放棄した。
能力調査隊の資料室で一人黙々と調べていた。風花や双子の丸十と甜瓜、彼らと関わる外の存在、そして遺物の謎について何か残されていないか、大量の本を机に運んで読み漁っていた。研究所は爆破されており、そこにあったとされる資料はすべて燃やされたと説明を受けていたが、風花の住む危険区域に今も残骸として存在するなら調べる価値はあると思っていた。
「ひとまず風花さんに電話してみよう」
しかし何度かけても繋がってはいるようだが、意図的に切られているようだった。今は出られないということかと思って待ってみることにした。しかし彼は少し心配になっていた。『影の守護者』としての能力をもっているから彼の心配は無用だと思うが、もしものことを思って、調べていた本を片付けて資料室から出た。
一方、危険区域の闇の古物商の店にいた風花は店主と話をしていた。子供達の治療にあたって足りない分の薬を提供してくれた代わりに、何かないかと言われて数時間の拘束を余儀なくされていた。
「そういえば演奏会聞いたらしいじゃない」
「あっ……はい」
「どうだった?」
「生演奏ってすごいんだなって思いました。ただみんなに聞かせてあげられないのが苦ですが」
「やっぱり?」
「あの双子も私と同じようでしたので」
「それってつまり強力な能力ってことよね」
「ええ、それ故に殺傷力が強すぎるというか」
「演奏しただけで人が死ぬなんてかわいそうに」
「それは……そうですね」
「……それでその双子とは何か話したの?」
「一応、話はしました。えっと……内容的には会いたい人がいるから探しに行くって言ってましたよ」
「会いたい人?」
「育て親の方がいたみたいだけど、突然いなくなってしまったらしくて……」
「あらら……でも何か情報はあるの?」
「それが何もなくて、私も何か見つけられたら連絡しようかと思って、電話番号を交換してもらったので」
「……それ私も協力していいかしら」
「え?」
「大丈夫。その情報はあなたにしか渡さないわ」
「……でも」
「こういう時はね、頼るのが吉よ。それに人が多い方が探しやすいでしょ」
「それはそうですが」
「まぁまぁ……これは長すぎた時間の拘束をした余分だと思って。子供達の怪我が治ったからって、まだ心配でしょ」
そう言って闇の古物商はいつの間にか風花の後ろにいて背を押した。びっくりして一瞬ふらついたが、転ばず足を踏ん張って耐えた。静かな影に眠っていた雨夜も驚いて、少し異様な動きを取ってしまったが、闇の古物商は気づいていないようだった。
店から少し離れた場所で風花の足は止まった。何かを感じ取ったわけでもなく、疲れたわけでもなく、本当にこれでよかったのかわからないという感情で無意識に止まっていた。驚いた拍子に目を覚ました雨夜は人型になっていた。暗い路地を抜けてもまだ影は広がっていたが、少しばかり陽の光が強くなっていた気がした。風花は何も気にせずに子供達の元へ戻ろうとその光の方へ足を踏み入れると、空から光の矢が降ってきて避けたが、少しだけ雨夜の方にも当たって痛そうにしていた。避けた先は少し広めの空き地、そこに人が立っていた。影でよく見えないが、それは杖を持つ司祭の少女だった。
「見つけました! 全ての元凶よ」
「……誰」
「悪魔に取り憑かれた可哀想な人よ。今私が浄化しますから」
「こいつ何を言っている」
「私は神の力のもと、この『浄化の光』にてすべてを救う」
「『浄化の光』……」
「そう、その力を持ってこの世界は浄化されるべきなのです。そうすれば皆が救われる」
「馬鹿げた話だな。そんなことして喜ぶのは神だけだろ」
「お兄さん」
「俺が対処する」
風花の「待って」という言葉を聞かずして、雨夜は大量の黒い手を司祭の少女に向けて放った。しかし彼女の前に張られた防御壁のせいで届かず、それどころか防御壁に触れた黒い手はすべて白くなって光を帯びて浄化されていた。
「悪魔はおとなしく浄化されていればいい」
杖は振り下ろされて風花と雨夜の周りを強い光が包み込んだ。繋がっていた影は断ち切られ、光に照らされ続けた結果、火が襲い掛かり酸素を少しずつ奪っていった。雨夜はその状況を突破しようとしたが、光に少しでも触れれば浄化されて体の維持が出来なくなっていた。司祭の少女は次の攻撃の準備のために術を唱え始め、その杖は風花に向けられた。
「これで終わる」
杖から放たれた槍が風花めがけて飛び、その衝撃で砂埃が起きた。しかし砂埃が治まった時には風花と雨夜の姿は無かった。驚いた様子の司祭の少女だったが、その側にいたと思われる神は知っていた。
「消えた?」
「いや水雪(みゆ)……どうやら邪魔者が入ったようだ」
光ははらわれて、神は風花と雨夜がいたとされる場所に行った。きれいさっぱり気配は消え去ってしまったものの、何かがいたという形跡だけは神にはわかっていた。
連絡が取れないまま危険区域に辿り着き、蒼徨は風花に新しく教えてもらった道から進み始めた。子供達の笑い声があちこちで聞こえる中、時間を止めてサンストーンを砕き、動かぬ空間という名の隠れ方をしながら移動していた。今日は妙に陽の光が強く、濃くなるはずの影さえ、眩し過ぎる光の中に消されていた。
風花もこの様子ではどこか遠くの場所に移動しているのかもしれないと思い、蒼徨は歩いていたが、誰かの大きな声が聞こえて覗いてみると、そこには彼女と杖を持った知らない人が立っていた。何かを話しているようだが、少し遠いようで聞き取れなかった。だが次の瞬間、杖から放たれた光によって、彼女の『影の守護者』は動き出した。
しかし光を操る者は風花の『影の守護者』を圧倒し、強い光に照らされ続けたアスファルトは熱くなって、捨てられていたゴミ袋は引火して燃え始めた。
「これで終わる」
その声が聞こえるかその前かは彼にもわからなかった。無意識に踏み出した足は風花を助けるために向けられていた。光の槍が放たれて、風花の体に突き刺さる前に蒼徨は彼女の腕を掴み、時間を止めた。あと一歩遅かったら、確実に死んでいた。首にかけるようにしていた懐中時計の蓋が外れて針は動いていた。
「……蒼徨さん」
泣きそうになっていた風花の顔を見て少し驚いたが、彼女の腕を掴んだまま蒼徨は走り出した。いつまで時を止めていられるか分からないから、入り組んだ危険区域の中を無我夢中で走り続けた。
気づけばそこはもう何処かだわからなかった。サンストーンが砕け散り、すべての時は動き出した。走り続けて疲れ果てた蒼徨と風花は壁を背に休んでいた。雨夜は能力の気配がないが見張りながら、近くにはいないと告げた。
「それにしてもお前」
「……助けてくれてありがとう」
「よかった……」
その言葉が発せられたのか耳には届かず、蒼徨は倒れ込んだ。風花は彼の頭がアスファルトにぶつかる前に気づいて体を支えたが、彼は目を覚まさなかった。
「え? 嘘……」
「まだ死んでない」
「……運んで……隠れ家に」
雨夜が頷くと蒼徨を背負い、風花の足取りに合わせてゆっくり歩き始めた。警戒を怠らずに子供達に見つからないように影が濃くなった場所を重点に移動し、その姿が見えないようにしていた。陽が傾き始め、強かった日差しは弱まっていた。
隠れ家、そこは子供達も知らない場所。もともとこの周辺は住宅街でかつて多くの人が住んでいたらしいが、今はほとんどの家が崩落していた。しかしそこだけは何度の改修を得て、住み続けられるようになっていた。風花は扉を開けて、雨夜はそれについて行く。蒼徨をベッドに寝かせたが、何かをしようとした風花がふらつき、雨夜は体を支えた。
「……風花も休め。俺が見ておくから」
「ごめんね、お兄さん」
「俺はまだ大丈夫だから、ほら」
「うん」
そう言って壁に手をやりながら廊下に出て、いつも使っている部屋に入った。そこにある小さなベッドに横になり、目を閉じるとすぐに眠りについた。
つらつらと語られる内容に蒼徨はメモを取りながら、風花は頷きながら聞いていたが、雨夜は堕天使という外の存在を認識した時、さっきまで感じて違和感に気づいた。
「秘色という人間……もしかして堕天使の力が関わっているかもしれない」
「え? 普通の人に見えたけど」
「そう思うか、悪魔」
「……丸十くんには見えているんだっけ」
「甜瓜も見えているよ……こいつは見えないふりをしていただけ」
「もう! 私から言おうと思っていたのに」
「まぁまぁ……それよりも悪魔って……風花さん?」
「お兄さんのことを言っているんでしょ」
「そう、その影……同じならこいつも遺物が関係している」
「丸十お兄ちゃん……脱線しているって。風花さんも困っている」
「あっ、すまない」
「ううん、大丈夫……あまり語れないけどお兄さんは悪魔だよ。私のことを守ってくれる大切な人」
「あまり聞くんじゃねぇ……子供でも容赦しないからな」
「ごめんなさい」
「お兄さん、恐喝しないの」
「……すまん、なんでもない。話を続けてくれ」
「えっと……秘色さんが堕天使さんと関係あるかもしれないって話だっけ」
「そうだ。同じ気配というかなんというかそういうものを感じた」
「おそらく秘色が堕天使によって連れてこられた存在の可能性もあるが、彼女もまた能力の影響をあまり受けていないように見える。楽曲を聞くことを禁止されているといっても、今日の演奏会で長時間は聞いていたはずだ。なのに一般人とは違って風花や蒼徨はともかく、秘色はどうして回避できた?」
「守られている……少しでも長く二人のもとにいてほしいから」
「だとしても秘色も短命だろうな。多くのマネージャーが過去にいたというのなら」
「いたよ。現に皆、病気という名の死でこの世からいなくなったけど」
「みんないい人だったのに……曲が好きだって言ってくれたのに」
丸十は寂しそうに、甜瓜はそう言って泣きそうになっていた。風花は大丈夫だよ、と甜瓜の頭を撫でてあげた。
部屋に戻ってきた秘色がいろんな表情を浮かべていた四人を見て驚きながら、退却ができるようになって、丸十と甜瓜は秘色に連れられて行ってしまった。しかし風花と蒼徨も休憩室から出て、会場から外に出るために後ろからついて行った。
会場から出ると外で見張っていた警察官は誰一人いなくて、何の声もなく静まりかえっていた。秘色が丸十と甜瓜を車に乗せていた時、風花と蒼徨は外を見回っていた。それでやっと全貌が見えてきた。警察官は誰一人いなくなったわけではなく、多くはないとはいえ一部は演奏の衝撃で死亡していた。会場の外まで響いていたのかと思えば、あまりにも恐ろしすぎる事件になりかねないが、救急車が来ないということは最初から知っていたか、それともこれも堕天使の力なのかと蒼徨は思っていた。
「お二人とも乗りますか?」
それは秘色からの提案だったが、人が死んでいる状況に何も思わないのは普通ではありえないことだった。風花は何事もなく返事をして、蒼徨の腕を掴んでいた。
車に乗ってからも風花と甜瓜はよく話し、丸十は静かに外を眺めていた。蒼徨はメモ帳を開いて書いた内容を確認していたが、風花の言っていた悪魔という言葉に引っ掛かっていた。
「これは調べないと分からないことかな」
そう一人呟いてメモ帳を戻していると車は危険区域の近くで止まった。風花がそう言ったわけでもないらしく、突然止まって驚いていた。車を運転していた人は秘色ではない別の人だったので、何か知っていたのかもしれない。そしていきなり秘色が立ち上がって、四人の方を見ていたが、視線が合っていなかった。蒼徨が話しかけるも返事はなかった。
「……」
「どうかしました?」
「『もしあなたが同じ力を持っているのだとしたら、きっと見つけられる』」
「え……」
その声は明らかに秘色の声ではなかった。それにひと早く気づいた丸十は座っていた席を降りて歩いていたが、すぐに秘色が正気に戻り、彼女は何をしているんだろう、という感じになっていた。
「あれは……」
「丸十お兄ちゃん、やっぱりそうだよね」
「ああ、さっきの声。聞き間違えるはずがない」
「……気配消えちゃった。どこにいるの、堕天使さん」
「ただこれだけは分かった」
「……?」
「俺達の演奏を聞いていてくれたってことさ。あの人を通して」
「うん……」
甜瓜の嬉し泣きと丸十の意思を風花は静かに聞いていた。雨夜も堕天使の気配をかすかに感じ取ったらしく、少しの間周りを見渡していたが、双子同様に気配が消えてしまい、横に首を振って何も追えなくなってしまった。
それから車で観光するという話になり、風花と蒼徨はそれを断ることにした。甜瓜は悲しそうにしていたが、丸十は別れの際に止めてきた。
「今日はありがとうございました」
「ううん、楽しかったから……」
「それで提案したいことがありまして」
「どうしたの? それにもうかしこまる必要はないよ」
「連絡し合うことは出来ますか?」
「電話番号を交換するってこと? それなら構わないけど」
「もし堕天使を見つけることができたら教えてほしい。きっとその悪魔が気づく」
「同じ力なら」
「はい」
「……わかった。いいよ。育ての親っていう話だから会いたいよね」
そう言い電話番号を交換しようとするが、風花はスマホの使い方があまりにもわかってなさ過ぎて、蒼徨に手伝ってもらってなんとか交換することができた。その間に聞くつもりはなかったようだが、丸十は蒼徨とも交換した。
「それじゃ、また」
「またね」
そう言って車に乗り込む双子は後ろから手を振り、返すように風花と蒼徨も手を振った。その車が遠ざかるまで降り続けていたが、風花は少し寂しそうな顔をしていた。
それは大きな橋の上で起きた車の衝突事故。遺物が危険なものだと理解した研究者が盗み逃げようとしたが、遺物に魅入られた者達によって邪魔をされて道を外し、ガードレールに衝突した。研究者は死亡し、そこに乗っていたとされる女の子も死亡した。
しかしそれをきっかけに研究所では遺物に魅入られた効果から逃れた者達が増え始め、研究者の半数が遺物の研究を放棄した。
能力調査隊の資料室で一人黙々と調べていた。風花や双子の丸十と甜瓜、彼らと関わる外の存在、そして遺物の謎について何か残されていないか、大量の本を机に運んで読み漁っていた。研究所は爆破されており、そこにあったとされる資料はすべて燃やされたと説明を受けていたが、風花の住む危険区域に今も残骸として存在するなら調べる価値はあると思っていた。
「ひとまず風花さんに電話してみよう」
しかし何度かけても繋がってはいるようだが、意図的に切られているようだった。今は出られないということかと思って待ってみることにした。しかし彼は少し心配になっていた。『影の守護者』としての能力をもっているから彼の心配は無用だと思うが、もしものことを思って、調べていた本を片付けて資料室から出た。
一方、危険区域の闇の古物商の店にいた風花は店主と話をしていた。子供達の治療にあたって足りない分の薬を提供してくれた代わりに、何かないかと言われて数時間の拘束を余儀なくされていた。
「そういえば演奏会聞いたらしいじゃない」
「あっ……はい」
「どうだった?」
「生演奏ってすごいんだなって思いました。ただみんなに聞かせてあげられないのが苦ですが」
「やっぱり?」
「あの双子も私と同じようでしたので」
「それってつまり強力な能力ってことよね」
「ええ、それ故に殺傷力が強すぎるというか」
「演奏しただけで人が死ぬなんてかわいそうに」
「それは……そうですね」
「……それでその双子とは何か話したの?」
「一応、話はしました。えっと……内容的には会いたい人がいるから探しに行くって言ってましたよ」
「会いたい人?」
「育て親の方がいたみたいだけど、突然いなくなってしまったらしくて……」
「あらら……でも何か情報はあるの?」
「それが何もなくて、私も何か見つけられたら連絡しようかと思って、電話番号を交換してもらったので」
「……それ私も協力していいかしら」
「え?」
「大丈夫。その情報はあなたにしか渡さないわ」
「……でも」
「こういう時はね、頼るのが吉よ。それに人が多い方が探しやすいでしょ」
「それはそうですが」
「まぁまぁ……これは長すぎた時間の拘束をした余分だと思って。子供達の怪我が治ったからって、まだ心配でしょ」
そう言って闇の古物商はいつの間にか風花の後ろにいて背を押した。びっくりして一瞬ふらついたが、転ばず足を踏ん張って耐えた。静かな影に眠っていた雨夜も驚いて、少し異様な動きを取ってしまったが、闇の古物商は気づいていないようだった。
店から少し離れた場所で風花の足は止まった。何かを感じ取ったわけでもなく、疲れたわけでもなく、本当にこれでよかったのかわからないという感情で無意識に止まっていた。驚いた拍子に目を覚ました雨夜は人型になっていた。暗い路地を抜けてもまだ影は広がっていたが、少しばかり陽の光が強くなっていた気がした。風花は何も気にせずに子供達の元へ戻ろうとその光の方へ足を踏み入れると、空から光の矢が降ってきて避けたが、少しだけ雨夜の方にも当たって痛そうにしていた。避けた先は少し広めの空き地、そこに人が立っていた。影でよく見えないが、それは杖を持つ司祭の少女だった。
「見つけました! 全ての元凶よ」
「……誰」
「悪魔に取り憑かれた可哀想な人よ。今私が浄化しますから」
「こいつ何を言っている」
「私は神の力のもと、この『浄化の光』にてすべてを救う」
「『浄化の光』……」
「そう、その力を持ってこの世界は浄化されるべきなのです。そうすれば皆が救われる」
「馬鹿げた話だな。そんなことして喜ぶのは神だけだろ」
「お兄さん」
「俺が対処する」
風花の「待って」という言葉を聞かずして、雨夜は大量の黒い手を司祭の少女に向けて放った。しかし彼女の前に張られた防御壁のせいで届かず、それどころか防御壁に触れた黒い手はすべて白くなって光を帯びて浄化されていた。
「悪魔はおとなしく浄化されていればいい」
杖は振り下ろされて風花と雨夜の周りを強い光が包み込んだ。繋がっていた影は断ち切られ、光に照らされ続けた結果、火が襲い掛かり酸素を少しずつ奪っていった。雨夜はその状況を突破しようとしたが、光に少しでも触れれば浄化されて体の維持が出来なくなっていた。司祭の少女は次の攻撃の準備のために術を唱え始め、その杖は風花に向けられた。
「これで終わる」
杖から放たれた槍が風花めがけて飛び、その衝撃で砂埃が起きた。しかし砂埃が治まった時には風花と雨夜の姿は無かった。驚いた様子の司祭の少女だったが、その側にいたと思われる神は知っていた。
「消えた?」
「いや水雪(みゆ)……どうやら邪魔者が入ったようだ」
光ははらわれて、神は風花と雨夜がいたとされる場所に行った。きれいさっぱり気配は消え去ってしまったものの、何かがいたという形跡だけは神にはわかっていた。
連絡が取れないまま危険区域に辿り着き、蒼徨は風花に新しく教えてもらった道から進み始めた。子供達の笑い声があちこちで聞こえる中、時間を止めてサンストーンを砕き、動かぬ空間という名の隠れ方をしながら移動していた。今日は妙に陽の光が強く、濃くなるはずの影さえ、眩し過ぎる光の中に消されていた。
風花もこの様子ではどこか遠くの場所に移動しているのかもしれないと思い、蒼徨は歩いていたが、誰かの大きな声が聞こえて覗いてみると、そこには彼女と杖を持った知らない人が立っていた。何かを話しているようだが、少し遠いようで聞き取れなかった。だが次の瞬間、杖から放たれた光によって、彼女の『影の守護者』は動き出した。
しかし光を操る者は風花の『影の守護者』を圧倒し、強い光に照らされ続けたアスファルトは熱くなって、捨てられていたゴミ袋は引火して燃え始めた。
「これで終わる」
その声が聞こえるかその前かは彼にもわからなかった。無意識に踏み出した足は風花を助けるために向けられていた。光の槍が放たれて、風花の体に突き刺さる前に蒼徨は彼女の腕を掴み、時間を止めた。あと一歩遅かったら、確実に死んでいた。首にかけるようにしていた懐中時計の蓋が外れて針は動いていた。
「……蒼徨さん」
泣きそうになっていた風花の顔を見て少し驚いたが、彼女の腕を掴んだまま蒼徨は走り出した。いつまで時を止めていられるか分からないから、入り組んだ危険区域の中を無我夢中で走り続けた。
気づけばそこはもう何処かだわからなかった。サンストーンが砕け散り、すべての時は動き出した。走り続けて疲れ果てた蒼徨と風花は壁を背に休んでいた。雨夜は能力の気配がないが見張りながら、近くにはいないと告げた。
「それにしてもお前」
「……助けてくれてありがとう」
「よかった……」
その言葉が発せられたのか耳には届かず、蒼徨は倒れ込んだ。風花は彼の頭がアスファルトにぶつかる前に気づいて体を支えたが、彼は目を覚まさなかった。
「え? 嘘……」
「まだ死んでない」
「……運んで……隠れ家に」
雨夜が頷くと蒼徨を背負い、風花の足取りに合わせてゆっくり歩き始めた。警戒を怠らずに子供達に見つからないように影が濃くなった場所を重点に移動し、その姿が見えないようにしていた。陽が傾き始め、強かった日差しは弱まっていた。
隠れ家、そこは子供達も知らない場所。もともとこの周辺は住宅街でかつて多くの人が住んでいたらしいが、今はほとんどの家が崩落していた。しかしそこだけは何度の改修を得て、住み続けられるようになっていた。風花は扉を開けて、雨夜はそれについて行く。蒼徨をベッドに寝かせたが、何かをしようとした風花がふらつき、雨夜は体を支えた。
「……風花も休め。俺が見ておくから」
「ごめんね、お兄さん」
「俺はまだ大丈夫だから、ほら」
「うん」
そう言って壁に手をやりながら廊下に出て、いつも使っている部屋に入った。そこにある小さなベッドに横になり、目を閉じるとすぐに眠りについた。
桜詩凛の読みは「さくらしりん」で、由来は二つ。一つは元から使っていた桜子凛花が長いと思ったため、短くするために「桜」と「凛」を取り、その間に当時から書いていた「詩」をいれたもの。もう一つは『複雑な生き方をする少女』に登場する「さくら、黒蛇、シラ、理夏(りか)、ラナン」の頭文字を取ったものとなってい…
最近の記事
タグ
