赤子と夢見と少女の愛 ~その呪いは再来の祈り~
公開 2024/01/21 15:29
最終更新
-
(空白)
愛する者に願いを 神に伝う想いは届かず
悲しみの果てに 見定める目は閉じられる
すべてが終わりを告げた大地に芽吹く葉が現れた。“あれ”と“少女”が歩んだ世界は人間を絶望に陥れ、二人の楽園となった。しかし二人の消息が不明となってから長い年月が経っていた。その出来事がきっかけで神々は信仰無くして動き始めた。二人が歩いた道を沿って封印が解かれ、目を覚ました彼らはその姿に絶望した。信仰を受けていた神々しい姿とは裏腹に、醜い姿へと変わってしまった彼らは後に『邪神』と呼ばれる存在となっていた。
その邪神となった神の一柱であった“それ”は“あれ”の夢を見ていた。世界の慈悲で生み落とされた人間達によって毎日のように供物の代わりとなる贄が捧げられていた。その贄という名の死体をほっといて、“それ”は一人の子を育てていた。
「お父さん、お腹空いたよ」
子供は人間の子だったが、“それ”を恐れていなかった。体に乗る子供に対して、“それ”は木になる果実を与えていた。その子は贄から生まれた赤子だった。なりふり構わず、贄にしたがる人間達によって捨てられた赤子はずっと泣きわめいていた。“それ”はいつものようにほっといていたが、“あれ”の夢に出てくる“少女”とその赤子を重ねて、その手を取っていた。
子育てなどしたことのない“それ”だったが、深い森から人間の様子を見ながら真似をした。赤子は子供へと成長し、言葉を発送としていたが、“それ”の話す言葉は人間に発音することが出来ず、子供は音だけで“それ”と会話していた。
数年が経った。贄は毎日のように送られていたが、人間達は深い森にいる同類種の存在を認識していた。その存在を確認しようと“それ”に対して会話を試みようとしたが、その言葉が伝わることはなかった。発音することすら不可能な言葉だけが人間達の耳に残り、それを聞いた者は恐怖のあまり狂ってしまった。
「そのまま贄にしてしまえばいいものを」
そういう者も実際存在していたが、とある場所で邪神と仲良くしている街があるという噂を聞いた辺りから、そのような発言は罰すると判断されて、最悪の場合殺されていた。何とか言葉を理解することは出来ないかと模索しつつ、今まで入ることすらやらなかった深い森への侵入を行った。結果といえば、子供を見つけることは出来たが、その子のそばには必ずといっていいほど、“それ”がいた。“それ”と目が合ってしまえば皆狂ってしまい、ただの贄になり果てるしかなかった。
意味のないことだと人間達は理解してくれない。私は“それ”……お父さんのそばにいたいだけなのに。今更連れて行こうとしないで。私には人間の言葉もお父さんの言葉も分かる。音で繋いだ言葉がすべてを教えてくれる。それなのに理解できないだけで侵入していた。静かに暮らさせて、今まで通り深い森の中で、忘れ続けて。
人間の子であると最初から知っていたとはいえ、“それ”は少女に成長した彼女を離しはしなかった。我が子でもないと分かっていたが、それでも人間の本質に気づいてほしくなかった。長い年月の間で醜い姿になるまで忘れられていた“それ”は人間達を心底嫌っていた。ただ少女だけは人間であって、人間ではない。“それ”に育てられたこともあるが、それ以前に少女はすでにこの地に選ばれていた。贄としてではなく、“それ”を愛する者として。
深い森に侵入し続けるだけじゃ意味がないと分かった人間達は、和解など無理だと判断して、その考えを放棄した。だがすべてを放棄することはなく、一部の人間達は諦めなかった。何度も侵入して狂い続けても諦めず、それによって耐性がついたのか、人間の形を失いながら少女へたどり着いた者がいた。
「……君は」
話しかけようとした者だったが、少女が見つめる中、“それ”によって惨殺された。その者の首が地面に落ちて行く間に、少女は何も言わず立ち去り、“それ”も後を追っていなくなった。ただ道しるべとして有能だったらしく、残された跡によって侵入する者が後を絶たず、大量の血が木々に飛び、自然豊かだった深い森は赤色に染まり始めて腐敗していた。しかし腐敗といっても、木々の成長を妨げることではなく、“それ”は少女を守るための罠として、組み替えられた新たな自然の脅威だった。
「お父さん」
〈なんだ〉
「どうしてみんなここに来るの」
〈珍しいから〉
「なんで? 私はいらないのに」
〈いらないな だが 人間は興味を持つ生き物だ だから会いたがる〉
「……私は会いたくない。お父さんといたいだけなのに」
〈ならどうしてほしい〉
「……どうしたらいいの? 殺しても殺しても死体が増えても」
〈そうだな “あれ”の終わりが世界の再構成ならば〉
「“あれ”って何? お父さんがよく見る夢だっていうことだけは知っているけど」
〈遥か昔の出来事 “あれ”が見た風景〉
「お父さんが封印されていた頃の話?」
“それ”は頷き、“あれ”がいた世界のことを話し始めた。そこで登場する“少女”の話をすると、もっと詳しく、と少女が言って、“それ”は覚えている範囲で答えていた。
「『血の瞳』でみんなを殺しつくした。お父さん」
〈そんな力持っていない 夢を見ることしか出来ない〉
「でも殺している」
〈それは踏み込んできた者が幻影に惑わされた結果 自害しただけ ここに元からある呪い それだけ〉
「呪い? 私が捨てられたことと関係……」
少女の言葉を遮ったのはいつからかそれを聞いていたと思われる侵入者だった。幻影に惑わされても自害しようとするナイフが首に向かっているにもかかわらず、その手は震えながら止まっていた。
狂わせ続けた原因はこの深い森に存在する呪い。“あれ”の封印が解かれた際に放たれた世界への嫌悪であり、それと同時に邪神となった彼らに対して与えられた祈りでもあった。邪神達の楽園となったこの世界、いやこの星は人間達の意思などはたから存在しない。邪神と選ばれた者達による楽園であり、それ以外のものはすべて塵同然だった。
そしてその呪いは人間達が気づいて初めて意味を持つ。呪いが流れ込んだ土地は何をしようが人間達には対処できない。それどころか少しずつ広がっていることに気づかないため、いつの間にか飲まれることもあった。有能として跡を残した人間が犯した罪によって、その他の人間達が被害を受けることになるなど誰が予想しようが。
「……」
口を開いて異変を感じた者がいた。数時間前まで話すことが出来ていた言葉が頭に浮かばず、生き物達のような鳴き声にしかならない。馬鹿にしているのかと他の人に言われ続けるが何度も違うと首を振った。しかし助けを求めようとして発した鳴き声を他の人が聞いた時、脳がそれを理解してしまって侵入した呪いが拡散された。その異常現象に聞かないように離れつつ、撃ち殺す暴徒に出始め、誰も彼も信じることが出来なくなっていた。
人間達が騒ぐ中、少女は深い森からその様子を覗いていた。意味不明な行動をとる人間達に興味はあったが、何故か“それ”に似た言葉を発するようになっていた人間に対して、やっとわかってくれたのかと思っていた。
〈呪いは広がった もう 戻れはしない〉
「これはどういうこと」
〈“あれ”がそうだったように この星はすでに終わっている だから 人間達に救いの道など初めから存在しない〉
「私は」
〈お前は外されている あの日からすでに〉
「だから大丈夫……と」
〈うるさいなら 今すぐ 終わらせてもいい〉
「でもこれからどうなるの? また人間達がここに来たら……静かな森はもう戻らない」
〈人間は 住めない 侵食した地面は 我らの地だから〉
「……それって」
〈もう少し 広い場所で 君とともに いたい〉
その言葉の後に“それ”は少女の手に頭を近づけていた。少女は「お父さん」と呼ばず、“それ”の本当の名を告げながら嬉しそうに泣いていた。
人間の知能がすべて呪いに侵食された後、大地に血だまりが出来るのは時間の問題であった。それが吸い取られて跡形もなくなるのもすぐであった。残された街は廃墟となり、深い森から現れた“それ”と少女は初めてといわんばかりの陽の光を浴びていた。白すぎる少女の肌を照らす光と“それ”を表す色が、正常な空を一瞬書き換えた。
愛する者に願いを 神に伝う想いは届かず
悲しみの果てに 見定める目は閉じられる
すべてが終わりを告げた大地に芽吹く葉が現れた。“あれ”と“少女”が歩んだ世界は人間を絶望に陥れ、二人の楽園となった。しかし二人の消息が不明となってから長い年月が経っていた。その出来事がきっかけで神々は信仰無くして動き始めた。二人が歩いた道を沿って封印が解かれ、目を覚ました彼らはその姿に絶望した。信仰を受けていた神々しい姿とは裏腹に、醜い姿へと変わってしまった彼らは後に『邪神』と呼ばれる存在となっていた。
その邪神となった神の一柱であった“それ”は“あれ”の夢を見ていた。世界の慈悲で生み落とされた人間達によって毎日のように供物の代わりとなる贄が捧げられていた。その贄という名の死体をほっといて、“それ”は一人の子を育てていた。
「お父さん、お腹空いたよ」
子供は人間の子だったが、“それ”を恐れていなかった。体に乗る子供に対して、“それ”は木になる果実を与えていた。その子は贄から生まれた赤子だった。なりふり構わず、贄にしたがる人間達によって捨てられた赤子はずっと泣きわめいていた。“それ”はいつものようにほっといていたが、“あれ”の夢に出てくる“少女”とその赤子を重ねて、その手を取っていた。
子育てなどしたことのない“それ”だったが、深い森から人間の様子を見ながら真似をした。赤子は子供へと成長し、言葉を発送としていたが、“それ”の話す言葉は人間に発音することが出来ず、子供は音だけで“それ”と会話していた。
数年が経った。贄は毎日のように送られていたが、人間達は深い森にいる同類種の存在を認識していた。その存在を確認しようと“それ”に対して会話を試みようとしたが、その言葉が伝わることはなかった。発音することすら不可能な言葉だけが人間達の耳に残り、それを聞いた者は恐怖のあまり狂ってしまった。
「そのまま贄にしてしまえばいいものを」
そういう者も実際存在していたが、とある場所で邪神と仲良くしている街があるという噂を聞いた辺りから、そのような発言は罰すると判断されて、最悪の場合殺されていた。何とか言葉を理解することは出来ないかと模索しつつ、今まで入ることすらやらなかった深い森への侵入を行った。結果といえば、子供を見つけることは出来たが、その子のそばには必ずといっていいほど、“それ”がいた。“それ”と目が合ってしまえば皆狂ってしまい、ただの贄になり果てるしかなかった。
意味のないことだと人間達は理解してくれない。私は“それ”……お父さんのそばにいたいだけなのに。今更連れて行こうとしないで。私には人間の言葉もお父さんの言葉も分かる。音で繋いだ言葉がすべてを教えてくれる。それなのに理解できないだけで侵入していた。静かに暮らさせて、今まで通り深い森の中で、忘れ続けて。
人間の子であると最初から知っていたとはいえ、“それ”は少女に成長した彼女を離しはしなかった。我が子でもないと分かっていたが、それでも人間の本質に気づいてほしくなかった。長い年月の間で醜い姿になるまで忘れられていた“それ”は人間達を心底嫌っていた。ただ少女だけは人間であって、人間ではない。“それ”に育てられたこともあるが、それ以前に少女はすでにこの地に選ばれていた。贄としてではなく、“それ”を愛する者として。
深い森に侵入し続けるだけじゃ意味がないと分かった人間達は、和解など無理だと判断して、その考えを放棄した。だがすべてを放棄することはなく、一部の人間達は諦めなかった。何度も侵入して狂い続けても諦めず、それによって耐性がついたのか、人間の形を失いながら少女へたどり着いた者がいた。
「……君は」
話しかけようとした者だったが、少女が見つめる中、“それ”によって惨殺された。その者の首が地面に落ちて行く間に、少女は何も言わず立ち去り、“それ”も後を追っていなくなった。ただ道しるべとして有能だったらしく、残された跡によって侵入する者が後を絶たず、大量の血が木々に飛び、自然豊かだった深い森は赤色に染まり始めて腐敗していた。しかし腐敗といっても、木々の成長を妨げることではなく、“それ”は少女を守るための罠として、組み替えられた新たな自然の脅威だった。
「お父さん」
〈なんだ〉
「どうしてみんなここに来るの」
〈珍しいから〉
「なんで? 私はいらないのに」
〈いらないな だが 人間は興味を持つ生き物だ だから会いたがる〉
「……私は会いたくない。お父さんといたいだけなのに」
〈ならどうしてほしい〉
「……どうしたらいいの? 殺しても殺しても死体が増えても」
〈そうだな “あれ”の終わりが世界の再構成ならば〉
「“あれ”って何? お父さんがよく見る夢だっていうことだけは知っているけど」
〈遥か昔の出来事 “あれ”が見た風景〉
「お父さんが封印されていた頃の話?」
“それ”は頷き、“あれ”がいた世界のことを話し始めた。そこで登場する“少女”の話をすると、もっと詳しく、と少女が言って、“それ”は覚えている範囲で答えていた。
「『血の瞳』でみんなを殺しつくした。お父さん」
〈そんな力持っていない 夢を見ることしか出来ない〉
「でも殺している」
〈それは踏み込んできた者が幻影に惑わされた結果 自害しただけ ここに元からある呪い それだけ〉
「呪い? 私が捨てられたことと関係……」
少女の言葉を遮ったのはいつからかそれを聞いていたと思われる侵入者だった。幻影に惑わされても自害しようとするナイフが首に向かっているにもかかわらず、その手は震えながら止まっていた。
狂わせ続けた原因はこの深い森に存在する呪い。“あれ”の封印が解かれた際に放たれた世界への嫌悪であり、それと同時に邪神となった彼らに対して与えられた祈りでもあった。邪神達の楽園となったこの世界、いやこの星は人間達の意思などはたから存在しない。邪神と選ばれた者達による楽園であり、それ以外のものはすべて塵同然だった。
そしてその呪いは人間達が気づいて初めて意味を持つ。呪いが流れ込んだ土地は何をしようが人間達には対処できない。それどころか少しずつ広がっていることに気づかないため、いつの間にか飲まれることもあった。有能として跡を残した人間が犯した罪によって、その他の人間達が被害を受けることになるなど誰が予想しようが。
「……」
口を開いて異変を感じた者がいた。数時間前まで話すことが出来ていた言葉が頭に浮かばず、生き物達のような鳴き声にしかならない。馬鹿にしているのかと他の人に言われ続けるが何度も違うと首を振った。しかし助けを求めようとして発した鳴き声を他の人が聞いた時、脳がそれを理解してしまって侵入した呪いが拡散された。その異常現象に聞かないように離れつつ、撃ち殺す暴徒に出始め、誰も彼も信じることが出来なくなっていた。
人間達が騒ぐ中、少女は深い森からその様子を覗いていた。意味不明な行動をとる人間達に興味はあったが、何故か“それ”に似た言葉を発するようになっていた人間に対して、やっとわかってくれたのかと思っていた。
〈呪いは広がった もう 戻れはしない〉
「これはどういうこと」
〈“あれ”がそうだったように この星はすでに終わっている だから 人間達に救いの道など初めから存在しない〉
「私は」
〈お前は外されている あの日からすでに〉
「だから大丈夫……と」
〈うるさいなら 今すぐ 終わらせてもいい〉
「でもこれからどうなるの? また人間達がここに来たら……静かな森はもう戻らない」
〈人間は 住めない 侵食した地面は 我らの地だから〉
「……それって」
〈もう少し 広い場所で 君とともに いたい〉
その言葉の後に“それ”は少女の手に頭を近づけていた。少女は「お父さん」と呼ばず、“それ”の本当の名を告げながら嬉しそうに泣いていた。
人間の知能がすべて呪いに侵食された後、大地に血だまりが出来るのは時間の問題であった。それが吸い取られて跡形もなくなるのもすぐであった。残された街は廃墟となり、深い森から現れた“それ”と少女は初めてといわんばかりの陽の光を浴びていた。白すぎる少女の肌を照らす光と“それ”を表す色が、正常な空を一瞬書き換えた。
桜詩凛の読みは「さくらしりん」で、由来は二つ。一つは元から使っていた桜子凛花が長いと思ったため、短くするために「桜」と「凛」を取り、その間に当時から書いていた「詩」をいれたもの。もう一つは『複雑な生き方をする少女』に登場する「さくら、黒蛇、シラ、理夏(りか)、ラナン」の頭文字を取ったものとなってい…
最近の記事
タグ
