消極的な幽霊 第一章 空虚の目覚め
公開 2025/03/26 22:08
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(空白)
代わりとして生み出された体、それ以外は何もない。彼らの物語の続きを紡ぐわけでもないのに。生死の曖昧な体は暗闇で目覚める、『空虚』のままで。
ただ知っていたから遠くに旅する力は持っていた。《世界を渡る力》、本来は世界の裏側を見ることが出来る存在に与えられるもの、すべての物語を本に収めるためのもの。しかし何故私はその力を宿すことが出来たのか? それは彼が、青い霊が最後に願ったことに由来していた。きっかけは小さなものに過ぎないのかもしれない。けれどそれによって今を生きる幽霊として生み出された私は解かれた自由を手に入れた。だがそれも完全な自由とは呼べない。
未だ彼らは閉じ込められていた。旅立ったのは霊の姿から切り離された魂の方で、幽霊の姿だけが残されていた。閉じ込めた檻の中に十五色が混ざって濁った幽霊の姿があって、鍵穴はなくただの鉄格子で囲まれていた。
私はその場所に辿り着いていた。暗闇の見知らぬところで目を覚まし、歩き続けた水面(みなも)はここを示していたのかもしれない。檻の前に立つと幽霊は私に気づいて言葉を発していたが、それは声にならないほどに雑音が酷くなっていた。檻の中に手を入れると幽霊が重ねるように取った。すると濁っていた体は一瞬にして白く浄化された。何もかも取り込んだ穢れは『空虚』によって取り除かれた。
白く光る幽霊が私をとらえてゆっくりと目を閉じた。すると幽霊の姿は白い球体へと変化し、それと同時に檻は破壊された。
私はその白い球体を包み込むように両手で支えていた。しかしかすかに浮かんでいるそれは僅かに赤色、青色と一瞬ずつ色が現れていた。この世界に漂う“色の概念”が浄化を介しても取り除くことは出来なかった。
白い球体とともに暗闇を歩き続けた。代わりの体が何かを感じることはない。依然として球体から発せられる色は増えることを知らない。それでも私のところにある限りは白いままでとどまっていた。
静かな暗闇に吹く風、通り抜ける何かの影。足が止まって振り返り波紋が消えてもそこには何も残らなかった。その数は進むたびに増えていくのに私は見ることが出来なかった。しかし体に触れる何かが近くを通り過ぎた時、白い球体は赤色に光っていた。静かな波紋が交差して、透明な姿がそこにいた。繰り返し光る色を押しのいて、一瞬だけの赤色が透明な姿に取り込まれて、私を見ていた。
透明な姿は本来の幽霊の姿、認識も干渉も出来ない冷たいだけの存在。白い球体に残された温かさに惹かれて、集まってきただけの無意味な存在。代わりとして生み出された私も同等といえるかもしれない。赤色を取り込んで『性急(せいきゅう)』の幽霊となった者はすぐにいなくなってしまった。繰り返される光の中から赤色が消えて、次は青色が選ばれる。その者は球体に触れようとするが、触れる前に手が青く染まり体へと取り込まれていた。ほんのり存在した温かさは消え去り、『冷酷』な姿が出来上がった。通り過ぎる者に対しては鋭く睨みつけるが、私を見る目はおとなしく変化した。
あらゆる世界、過去も未来も現在も、存在したという記録がない者達。かつて人として生を全うし、死したなら幽霊以外の選択肢が存在しても、記録がないとは考えにくい。それに該当しない者が私以外に存在するのだろうか? あるとすれば生まれなかった水子が彷徨う幽霊として成長しているかだった。
一輪の花が浮いていた。いや透明の幽霊がそれを持っていたから浮かんで見えていただけに過ぎない。白い球体の中で何かが動いた後、緑色へと変わり、透明な体は染まった。そこで初めて気づいたのは『性急』や『冷酷』の幽霊と異なり、幼く見えたことだった。緑色を取り込んだことで『未熟』になってしまったのか、元々小さかったのかは今となってはわからない。透明の頃の靄はすべてを教えてはくれないからもう知る手段はなかった。
それぞれの色に染まった幽霊達。その者達には生まれながら私と同じ《世界を渡る力》を持っていた。持っていたのではない、白い球体を通して私の力を受け取っていただけに過ぎない。濁って穢れた幽霊を浄化した際に流れ込んだのだと思っていた。
この暗闇からいなくなった少女達は《世界を渡る力》で見知らぬ地へと飛び去っていった。自由となった彼女達に興味はなく、変わり続けるこの球体から照らされる色を透明な者達へと渡し続けた。最後の色は変わらないまま残った白色だった。
白色は私に取り込まれ、代わりでしかなかった姿に本物の『空虚』が与えられた。それと同時に名前が浮かんで口を開いた。「イナニス」と言った私の声に反応して、暗闇にヒビが入った空間は光に包まれた。
目が眩み閉じた時間は短いが、その目に映った風景を理解するには時間がかかった。暗闇でよく見えなかった姿も、明るく照らされたこの場所ではよく見えた。白を基調とした今にも溶けてしまいそうな雪の姿をしていた。
代わりとして生み出された体、それ以外は何もない。彼らの物語の続きを紡ぐわけでもないのに。生死の曖昧な体は暗闇で目覚める、『空虚』のままで。
ただ知っていたから遠くに旅する力は持っていた。《世界を渡る力》、本来は世界の裏側を見ることが出来る存在に与えられるもの、すべての物語を本に収めるためのもの。しかし何故私はその力を宿すことが出来たのか? それは彼が、青い霊が最後に願ったことに由来していた。きっかけは小さなものに過ぎないのかもしれない。けれどそれによって今を生きる幽霊として生み出された私は解かれた自由を手に入れた。だがそれも完全な自由とは呼べない。
未だ彼らは閉じ込められていた。旅立ったのは霊の姿から切り離された魂の方で、幽霊の姿だけが残されていた。閉じ込めた檻の中に十五色が混ざって濁った幽霊の姿があって、鍵穴はなくただの鉄格子で囲まれていた。
私はその場所に辿り着いていた。暗闇の見知らぬところで目を覚まし、歩き続けた水面(みなも)はここを示していたのかもしれない。檻の前に立つと幽霊は私に気づいて言葉を発していたが、それは声にならないほどに雑音が酷くなっていた。檻の中に手を入れると幽霊が重ねるように取った。すると濁っていた体は一瞬にして白く浄化された。何もかも取り込んだ穢れは『空虚』によって取り除かれた。
白く光る幽霊が私をとらえてゆっくりと目を閉じた。すると幽霊の姿は白い球体へと変化し、それと同時に檻は破壊された。
私はその白い球体を包み込むように両手で支えていた。しかしかすかに浮かんでいるそれは僅かに赤色、青色と一瞬ずつ色が現れていた。この世界に漂う“色の概念”が浄化を介しても取り除くことは出来なかった。
白い球体とともに暗闇を歩き続けた。代わりの体が何かを感じることはない。依然として球体から発せられる色は増えることを知らない。それでも私のところにある限りは白いままでとどまっていた。
静かな暗闇に吹く風、通り抜ける何かの影。足が止まって振り返り波紋が消えてもそこには何も残らなかった。その数は進むたびに増えていくのに私は見ることが出来なかった。しかし体に触れる何かが近くを通り過ぎた時、白い球体は赤色に光っていた。静かな波紋が交差して、透明な姿がそこにいた。繰り返し光る色を押しのいて、一瞬だけの赤色が透明な姿に取り込まれて、私を見ていた。
透明な姿は本来の幽霊の姿、認識も干渉も出来ない冷たいだけの存在。白い球体に残された温かさに惹かれて、集まってきただけの無意味な存在。代わりとして生み出された私も同等といえるかもしれない。赤色を取り込んで『性急(せいきゅう)』の幽霊となった者はすぐにいなくなってしまった。繰り返される光の中から赤色が消えて、次は青色が選ばれる。その者は球体に触れようとするが、触れる前に手が青く染まり体へと取り込まれていた。ほんのり存在した温かさは消え去り、『冷酷』な姿が出来上がった。通り過ぎる者に対しては鋭く睨みつけるが、私を見る目はおとなしく変化した。
あらゆる世界、過去も未来も現在も、存在したという記録がない者達。かつて人として生を全うし、死したなら幽霊以外の選択肢が存在しても、記録がないとは考えにくい。それに該当しない者が私以外に存在するのだろうか? あるとすれば生まれなかった水子が彷徨う幽霊として成長しているかだった。
一輪の花が浮いていた。いや透明の幽霊がそれを持っていたから浮かんで見えていただけに過ぎない。白い球体の中で何かが動いた後、緑色へと変わり、透明な体は染まった。そこで初めて気づいたのは『性急』や『冷酷』の幽霊と異なり、幼く見えたことだった。緑色を取り込んだことで『未熟』になってしまったのか、元々小さかったのかは今となってはわからない。透明の頃の靄はすべてを教えてはくれないからもう知る手段はなかった。
それぞれの色に染まった幽霊達。その者達には生まれながら私と同じ《世界を渡る力》を持っていた。持っていたのではない、白い球体を通して私の力を受け取っていただけに過ぎない。濁って穢れた幽霊を浄化した際に流れ込んだのだと思っていた。
この暗闇からいなくなった少女達は《世界を渡る力》で見知らぬ地へと飛び去っていった。自由となった彼女達に興味はなく、変わり続けるこの球体から照らされる色を透明な者達へと渡し続けた。最後の色は変わらないまま残った白色だった。
白色は私に取り込まれ、代わりでしかなかった姿に本物の『空虚』が与えられた。それと同時に名前が浮かんで口を開いた。「イナニス」と言った私の声に反応して、暗闇にヒビが入った空間は光に包まれた。
目が眩み閉じた時間は短いが、その目に映った風景を理解するには時間がかかった。暗闇でよく見えなかった姿も、明るく照らされたこの場所ではよく見えた。白を基調とした今にも溶けてしまいそうな雪の姿をしていた。
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