二つの世界の終着点 第三章(4/5)
公開 2023/12/17 15:23
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(空白)

 街を覆うのは灰色に染まった地面ではなかった。そこにあったのは化け物となった者達の死体と瓦礫となった建物の成れの果てだった。風の流れに任せて水色の空は徐々に暗くなり、不穏な雲がすべてを覆い尽くし、そこから落ちる雷が意図的に発射されているかのようにクレハとエイルを襲っていた。危険だと判断したクレハは降り立ち、エイルの翼も消えた。整備されていたはずの道は瓦礫だらけで歩きづらくなって、ゆっくりながら意識は急いでいた。
 そして二人が見たものはリコレがトランの頭を掴んで浮かせて、剣で刺した後だった。動かなくなったトランを投げ飛ばし、リコレが二人の方を見ると笑っていた。後退りしようとするクレハに気づいて、エイルは彼女の腕を掴んで時間を止めたが、その能力は弾かれて二人のもとに歩いてくるリコレに恐怖を覚えた。
「やっと会えたね……『影の守護者』」
「なんで止まらない!?」
「なんでって? そんな能力じゃ止められないよ」
 しかしリコレの手は震えていた。『詩の音色』と『死者の瞳』を取り込んだリコレの体はすでに限界を迎えており、持っていた剣さえ振り下ろせるか分からなくなっていた。すると遠くから「返せ」と声が聞こえてきた。それは近づきつつ、リコレは何故か怯えていた。エイルはその声に覚えがあり、止めようとしたがその手は届いていなかった。
「なんで……」
「〈その力は私のものだ〉」
「……重なっている。誰かの声と……でも」
「何を言って……! 嫌だ……来るんじゃねー」
 リコレは無我夢中で剣を振り回すが、その攻撃はどれも届いていなかった。そして彼は間合いに入り、リコレの体を抉り、謎の光を放つ物体の一つを抜き出した。リコレはふらつくが『詩の音色』のおかげで抉られた場所は元に戻り、立て直して再び彼に襲い掛かった。だがそれもまた何者かによって受け流されていた。
「〈これで元に戻れる〉……はっ」
「スヌイ先生!」
「……エイルとクレハか」
「早く逃げてください!」
「大丈夫……死神が助けてくれたから」
「……やはり来たか」
 心配する二人の会話を遮るように現れたのはユーベルだった。しかしスヌイは驚かず、頭に響いていた声が奴のものであるとすぐに理解した。
「返してもらうよ」
「構わぬ……もとよりお前の力だ。だが協力してくれないとなると困るね」
「洗脳でも施そうとしたんか? そんなの私には無駄なことだ」
「いつの時代も神に抗うか、死神よ」
〈救いたい命のためにその力を貸している。ならば取り戻すのが先決だ〉
「そうか……だがそれはすでに穢された力だ。お前の扱えるものではない」
「それはどうだろうね」
 そう言いスヌイは謎の光を放つ物体を自ら体に押し付けて取り込み、物凄い痛みに苦しみ、周りには黒い靄が溢れていたが、その目は赤に染まっていなかった。そして体から小さな光の玉を取り出し、それを天に掲げるとその光はあらゆる場所へ飛ぶ線となり、その線の一つはガットの体に届いていた。
「これできっと」
「……! 貴様! 神の寿命を」
「人の生きる道を捻じ曲げてまで奪うというならそれは無粋なことさ。人は自由に生きることに意味がある。それを邪魔するなら私は神を殺すね」
「……抗うのならばそれでもいい。しかし誰も我には勝てぬ」
 ユーベルは杖を掲げて、それは謎の光を放っていた。その光に雷が当たり、聞きなれない言葉で紡ぐ呪文の後、その足は離れて空高く飛んでいた。それを追おうと飛んだクレハととっさに彼女の腕を掴んだエイルはユーベルのもとへ向かった。しかしそれは彼による誘導であった。それだと知らず、二人は追い続けた。

 強制的に動かされていたリコレの体は限界値を超えても振り回し続けていたが、『死者の瞳』を抜き取られた辺りから体のバランスが悪くなり、この惨劇も相まって何をしているのか分からなくなっていた。近くに何故かスヌイがいることも、倒れている仲間達がいることも、それをやったのが自分であることも少しずつ理解していた。その目は元の色と赤色を繰り返し、洗脳は徐々に解け始めていた。
「俺は……何をして……いや、ユーベル様のために……違う」
「リコレ?」
「殺したのか……それでいい……そうじゃない」
 自分の意思と支配が交互に人格として現れ、最終的に叫び続け、『詩の音色』を封じ込めた謎の光を放つ物体が彼の体から出ていた。それとともに彼は気絶し、その場に倒れた。スヌイが近づき、『詩の音色』に触れようとした時、その物体は飛び去り、いつの間にかリコレのそばにいた人のもとへ渡っていた。その姿に死神は見覚えがあったが、少し形が変わっていた。『浄化の光』を宿す司祭、それはあの日、初めて会った神にすべてを奪われる前の姿をしていた。
〈……あなたは〉
「あれ? 僕が力を使わなくても『死者の瞳』は浄化されたんだね。ちゃんと持ち主に渡ってよかったね」
「誰……なんだ」
「僕はメイレー……神様だよ。君達が敵視する神ではなく、大切な者として認識している神だよ」
「……」
「信じられなくても構わない。ただこの術式はどうにかしないとみんな死んでしまうね」
 メイレーはユーベルが放った術式が描かれた魔法陣に触れて、白い光の後にすべての文字は消え去った。
「これであの子達も大丈夫」
「あの子達?」
「君が良く知っているのではないか?」
「エイルとクレハのことか」
「そう……そして目覚める」
 メイレーは空を見上げ、スヌイもそれを追うように見ていた。もう遠くに行ってしまった二人の姿をとらえることは出来ないが、死神はかすかにあの日と同じ気配を感じていた。

 何も見えない上空、ユーベルは二人が追ってきているのを知っていた。誰も見えない場所で『影の守護者』を宿した指輪ごと奪い、その所有者であるクレハを殺すために。そして何も出来ないまま、エイルも空から落としてやろうと思っていた。ユーベルが後ろを振り返り、二人は追いついたと思っていた。
「止まった…?」
「よく来たね……その力を奪われるとも知らずに」
「エイル……ちゃんとつかまっていて」
 神の加護によって少し強力となっていた疑似的能力。その色は藍色になって、彼女の人格が停止した。その手には鎌が握られ、ユーベルに襲い掛かった。受け流すことなく受け止めるが、その攻撃は効いているのかわからなかった。エイルは振り下ろされそうになるが、白い人影がエイルを掴んでクレハから離したが、空中を飛んだままだった。攻撃は繰り返され、指輪の藍色は赤色へと変わっていたが、鎌は消えずにユーベルが押され始めていた。しかし致命傷になるものはなく、瞬時の回復のせいで意味がなかった。
 加護があるとはいえ、指輪にはヒビが入っており、それは酷くなる一方だった。それにユーベルに傷一つつけられないとなると、クレハの力が尽きた時、何も出来ずに殺される可能性があった。
「『光の天使』、『鏡の静火(せいか)』、『闇の鎌』……やはり君がすべてを宿していたか」
「〈あなたに答えることは何もない〉」
「そうだろうな……それにもう呪いはない。君が動けるのも時間の問題だろう」
「〈……私達はただ時間を繋ぐ。ただ彼さえ生きていれば〉」
「そうはさせん。その力は我がいただく」
 ユーベルがクレハを突き飛ばし、その一瞬で指輪を奪われて、彼女は力を失って落ちていく。エイルを掴んでいた白い人影も苦しみだして、その姿は砂嵐のように荒くなる。ユーベルは笑い、その指輪を自らの手につけようとした。しかしその指輪は限界を迎えて宝石が割れ、結晶の痛みでユーベルはそれを手放した。指輪から黒い何かが出てきて、それは少しずつ姿を変えて、クレハの腕を掴んでいた。
〈その身……変わろうとも、守る契約は果たされた〉
 クレハは死ぬと思って目を閉じていた。けれど腕を掴まれて目を覚ますと、悪魔が彼女を抱き寄せていた。しかしそれと同時に疑似的能力の効果が切れて、白い人影が完全に消え去り、エイルは落ちていった。
「エイル!」
 クレハが気づいた時にはその手は届かない所にあった。悪魔に頼んで助けてもらおうとしたが、疑似的能力の反動でそれを口に出すことが出来ずに気を失った。

 落ち行く速度は速くなるはずなのに、エイルにはゆっくり落ちているように感じていた。空に手を上げて、ただ落ちていく。能力じゃ他者の時間しか止まらない。クレハを守る何かをとらえた時、彼の記憶の欠片が一つ落ちた。エイルではない魂の記憶、それは本来認知されることのない少年の姿。そこに映し出されるのは遥か昔の世界の記録。愛した少女はすでにこの地に存在はしていない。クレハと少女をただ重ねていただけの偽りの想い。けれどエイルは彼女を愛し続けた。それが偽りだとしても心は本物だった。
「僕は……」
 後悔などないと思っていた。しかしほんの少しの後悔がエイルという人物を作り上げ、本心を思い出させていた。少年の涙が頬を伝い地に落ちずに空へ上がる。その雫が懐中時計に当たる時、ゆっくりと開き、時計の針は動いていた。
〈やっと見つけた〉
 その声に聞き覚えがあった。彼ではなく少年の魂が知っている声。記憶の奥底で忘れていたあの日の声がした。地面に近づいた時、エイルのは光に包まれて何の衝撃もなく立っていた。少々ふらついたが、その手を握っていたのは天使だった。
〈思い出した?〉
「……うん、まだ少しわからない」
〈もう……でもあなたの想いは変わってしまった。認識されない命だから何の後悔もないって言っていたのに〉
「確かに言った。それは言った……」
〈でもそれは運命だから……あなたが望んだ未来だから……それを否定することはしない〉
「僕は戦うよ」
〈それは皆同じこと〉
 天使がそう言うとエイルは気づいていなかったが、『死者の瞳』を宿したスヌイ、悪魔の中で気絶していたが回復して目覚めた『影の守護者』の覚醒者クレハ、『詩の音色』を抱えたまま皆の様子を見ていた『浄化の光』を宿す神の子メイレーがいた。
「エイル……よかった」
「クレハ泣くなよ」
「だってもう届かない位置にいたし……さっきまで気を失っていたから死んじゃったって思って……」
「よしよし……僕は大丈夫だから」
「うん……」
「さて」
「私は見届けることしか出来ないが」
「それで構わないよ。そのための『死者の瞳』だ。そうだ……これを持っていてほしい」
「確か『詩の音色』だったか」
「そう。君……君達なら使いこなせるだろう。浄化は済んでいる。だからもう死を拾うことはしないだろう。その音色には所有者が願った幸福が眠っているから」
「? よくわからないが、持っておこう」
「……二人はもう大丈夫かな?」
「僕は大丈夫」
「……私も」
「なら……もういるね」
 メイレーが言う先にはユーベルが地面に着いていた。贈り物の能力はすべてこちら側にある。だがそれでも彼は笑っていた。そしてまた訳の分からない呪文を唱えるが、その長さにメイレーが『浄化の光』を使って追尾式で消していく。けれどそれを読んでいたかのようにその力を利用して、謎の絵を描いていた。それに気づいたメイレーは力を使うことをやめようとするが、すでに偽りの神と繋がってしまい解除することが出来なくなっていた。
「良きことは悪いことと繋がっている」
「あー……でも問題ないかな」
「お前はそうだろうが、他の者はどうしようもない」
「君が信仰した神が偽りであることは知っているかい」
「何を言っているか分からないが、我が信じるのはただ一人」
「そうかい……ならよく見てみるといい。君が信じた神の姿を」
 得意げに言うユーベルにメイレーは仕方ないな、という顔をしていた。多くの化け物から奪い取った寿命の数は計り知れず、けれどその姿は不格好であった。まるで繋ぎ止めただけの人形のように動きは鈍く、ただ脅威と呼べるほどの大きさだったことは言うまでもない。
「やっと会えたね……裏切りの天使と逃げ出した神の子よ」
「……天界が作った神の模造品。神が消えたにもかかわらず、《悪意》だけで組み起こした人形」
「……我が信じた神が人形の訳がなかろう!」
「そうだよね。信じたくないよね。でもそれが真実だよ。君が聞いていた神の声はすべてそいつが放っていたものさ」
「どうした? 我が子よ。その力のおかげでここに来たというのに、喜ぶことも忘れてしまったか」
「……本当に」
 偽りの神がユーベルに手を差し伸べるが、彼はその手を取ろうとはしなかった。力を与えられ信じた神がまさか作り物であったことがあまりにも衝撃すぎて、理想とかけ離れていた。その手は無意識に払われ、彼は驚いていたが、メイレーはそれが本心であると見抜いていた。
「君はどちらを信じるか?」
「分からない。だがあれは求めた神ではない。我があの日見た神はこんな形をしていない!」
「……裏切り者にその《悪意》は不要……信じない者には処罰を」
「みんな下がって!」
 怒りをあらわにした偽りの神は何かを唱え始め、メイレーは仲間達に警告した。偽りの神から放たれる『悪意の光』とメイレーから放たれる『浄化の光』。元々それらは二つで一つの《能力》、片方が押されることなどないはずだった。しかし膨大な魔力を保有した偽りの神に勝てるほどの『浄化の光』は細く、徐々に押されていた。それと同時に偽りの神の足元から化け物達に似た何か得体の知れない者が現れた。それは神の護衛というべきか、武器を手にして近づいていた。だがそれは無意味だった。クレハが持つ『影の守護者』が恐怖に反応し、悪魔は彼女の影となる。その影は仲間以外のものに広がり、すべてを沈めていた。身動きが取れなくなった神の護衛達は何も出来ずに沈んでいき、影が消えた場所には武器だけが残されていた。
「これが本当の力……」
〈まだほんの少しであるが、空腹は満たされた〉
「え? お腹空いているの」
〈正直なところそうだな……〉
「まだ食べられそう?」
〈意味を理解しているな〉
「うん……お願い」
 クレハの願いは届き、悪魔は次々と影に沈めた神の護衛達を喰らっていた。それは偽りの神から現れようとした瞬間に沈められるほどに近づいていた。その様子を見ていたスヌイは偽りの神を『死者の瞳』で覗いていた。数えきれないほどの寿命を抱えていたはずだったが、神の護衛を出し始めた辺りからそれは少しずつ減っていた。『悪意の光』はあまりにも強すぎるが、少しずつ削られているのを理解したスヌイは死神に問いた。
「本当に見ることしか出来ないのか?」
〈魂に刻まれた寿命と死の日を見ること……しか出来ない〉
「何故止まった」
〈死ぬべきではない者を視認した時、その命を強制的に守ることは出来るが、その対象を複数人に当てたことはない〉
「もしかしてこの目が見えなくなるのか?」
〈そうではない。この力はあの者が生み出したもの。それが使えるかどうかわからない〉
「かつての使用者が使えていたのなら……」
 スヌイは再び偽りの神の方を見る。寿命は減っているが、さすがに多すぎて死の日までは見えていない。そして周りにいる仲間達の寿命を確認していると、エイルの挙動がおかしく、すでに寿命が尽きていた。それなのに何事もなく動き続けていた。
〈運命はいつだって彼の味方をする〉
「エイルは……生きているんだよな」
〈生きているが死んでいる。あれはもう人ではないが人ではある〉
「意味がわからない」
〈理解するな人間。それが彼であり、その力を使った代償なのだ〉
「……」
〈だが彼は守りたいと願った。お前は違うか? その目で見届けると約束しただろう〉
「私は」
 スヌイは右手を胸に当て「守らなければ」と小さく呟いた。その想いに『死者の瞳』が反応したのか、彼を中心に少しずつ結界が張られ始めた。その中に入っていたリコレやラン、フォルト、トラン、ガットの魂が修復され、次々と目覚め始めていた。彼らは死ぬべきではないと『死者の瞳』が認識し、その寿命もまた回復していた。ただガットやフォルト以外の深い傷を負った者は目を覚ましてすぐに気絶した。

 偽りの神とメイレーが押され押しつつを繰り返していた頃、ユーベルは裏切り者と称されてその力は少しずつ失われていた。禁断の果実を食したとはいえ、元々偽りの神から与えられたもの。長い年月封印されていたとしてもその寿命は普通の人間と変わらなかった。だから力を完全に奪われた後、彼は死ぬしか道がなかった。
「我が信じたものはすべて嘘だったか」
〈君は変な人だ〉
「……誰だ」
〈見えているでしょう?〉
「堕天使か」
〈今だって諦めようとしない。君はあの子達と同じ香りがする〉
「あの子達?」
〈そう……でも今は教えられない。あの子達は幸せに死んだのに、残された『詩の音色』はこんなに〉
 スヌイの手にあったはずの『詩の音色』は何故か堕天使が持っていた。しかしそれは砕け散った欠片になっていた。メイレーに浄化された時点ですでにヒビが入っており、堕天使の元に戻ってくる頃には壊れていた。
〈あの神様は優しい人だ。けれど面白くない。見たいものが見れそうになかったから元に戻した。あの子達に託したものと同じに〉
「……何が望みだ」
〈君が望むものを叶えてあげるよ。その代わり君はどんな音色を奏でるんだろうね〉
 ユーベルは堕天使が持つ『詩の音色』に手を伸ばし、それは体に取り込まれた。苦しむことはなく、その力は消えようとしていた魔法の力と融合した。それを知った偽りの神はますます怒りをあらわにし、『悪意の光』は強化されていた。しかしユーベルは杖に力を込めて、巨大な雷が偽りの神に直撃した。
〈ふーん、いいものが見れそう……でも音は鳴ってないなぁ。まだ足りないかな〉
 堕天使は一人飛び回り、気絶していたランやトラン、リコレに『詩の音色』の欠片を落とした。それは体に取り込まれて、少しずつ傷は癒えていた。ガットやフォルトのもとへ向かったが、ガットには見えずそのまま頭に落としたが、フォルトには見えていた。
「堕天使?」
〈ありゃ……普通の人間には見えないはずなのに〉
「俺は」
〈あー、女神に愛されているって君のことか〉
「助けてくれたのは」
〈それに関しては違うよ。助けたのは……知らない〉
「そうか……エイル達は無事なのか?」
〈エイル……あの少年か。なら無事だ。君には頼みたいことがある〉
「なんだよ」
〈これを持っていてほしい〉
 フォルトは『詩の音色』の欠片を手に取るが、すぐに体に取り込まれてしまった。驚きながら堕天使に問いかけようとしたが、もう彼の姿はそこにはなかった。代わりに傷が癒えていること、また能力が使える状態になっていることに気づいた。

 荒地の真ん中で倒れていたガットは目を覚まし、空に巨大な何かが鎮座していることに気づいた。それが偽りの神と呼ばれていると知らず、それを倒そうとする数人の中にエイルが見えた。ゆっくりと立ち上がり、その体は大量のわけも分からない血で染まっていた。立ち上がったことで見えたのだが、ランやトランが死んでいるように見えた。走り出すことも出来ず足を引きずりながら近づいてみると、かろうじて息があった。どこか安全な場所へ転移させようとも、能力を発動できるほどの力は残っていなかった。ひとまずランとトランを引きずって、二人を近くまで運んだ。しかし謎の音が聞こえた時にはすでにガットは吹っ飛ばされていた。砂埃の中から見えたのは武器を持った大男だった。その男は二人に向かって武器を振り下ろそうとしていたが、砂埃が払われた時には男の体が凍りついて動かなくなっていた。それに近づこうとする何かに一度は警戒したが、それは氷の魔法弾を浮かせていたフォルトであった。
「あぶねぇ」
「……フォルトさん?」
「お? ガットは起きていたか」
「かろうじて……ですが。でも何で能力使えているんですか」
「え? もしかして使えない感じ」
「はい……そのせいで安全な場所へ運ぼうとしても上手くいかなくて」
「なら二人で運ぼう。それなら大丈夫だろ」
 ガットがゆっくりと頷き、彼はランを、フォルトはトランを運び始めた。瓦礫に覆われた地面を歩く足に何かが刺さり痛みを伴ってもただ進み続けた。しかしさっきの大男と同じように武器を持った何かが近づくたびにフォルトが魔法弾で対抗するが、数は多くなる一方だった。
「流石に多すぎるぜ」
「俺の能力さえ使えていれば……」
「……天候いじるか、後は頼んだ」
「?」
 フォルトを中心として灰色に染まった雲に覆われていた空は少しずつ水色の空を見せていた。それによって一時的に敵の数は減るものの、何者かの拒絶によってそれはすぐに元に戻ってしまった。
「……ダメか」
「あれが原因でしょうか?」
 ガットが震える指でさす先に巨大な何かがいた。それは悪しき者として伝えられていた偽りの神の姿だった。フォルトがそれを視認すると何かを弾いた音がした。
「あれさえ倒せればこれも変えられる」
「……待ってください」
「あっ、行こうとしたのバレちゃった?」
「そりゃバレますよ。今は能力が使えているから強きでいられるんです。俺なんか何も出来ないのに」
「そんなことない……ガットももらっているはずなんだ」
「何をですか?」
「さっき堕天使にあったんだけどさ。そいつが欠片くれたんだよ。でもすぐに体に取り込まれちゃってさ」
「……」
「信憑性ないのわかってんだけどさ。それのおかげで能力使えるようになっていた。だからガットも使えるようになるよ」
「もしもらえてなかったら?」
「そんなことねぇから……俺は行くぜ。だから能力戻ったら二人を連れて逃げてくれ」
「……えっ、ちょっと!」
 フォルトはいつの間にか風を纏わせて走り出していた。その速度はランに劣ってしまうものの、ガットが気づいた時には止めることが出来ないほどに離れていた。
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