二つの世界の終着点 第二章(4/4)
公開 2023/12/17 15:07
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「……」
「……ごめん」
「私は」
「いや……僕が悪いんだ。想いが強すぎる故の勘違い」
「ううん、私が無理を言ったから……エイルの気持ちを何も考えてあげられなかったから」
「それはもういいんだ」
「よくないよ! だから……!」
溢れた感情を制御できずにクレハの目から涙がこぼれそうになっていた。それに気づいたエイルは彼女を抱き寄せた。彼女は離れようとするが、体力が戻りきっていない状態で彼の支配から逃れることは出来なかった。
「苦しい思いをしていたのはクレハのはずなのに……僕は信じてくれた人さえ裏切って、自分の想いに嘘をついてずっと考えていた。最初こそ君は患者で、僕はそれを見守っていた。なのに……その関係は変わらないはずなのに、一緒にいる時間が増えたからか、その手から離れてしまうことに恐怖を覚えてしまった。スヌイ先生やラン達が子供になったって聞いて、世話をしてくれと頼まれた時、すごく嫌だったのはそのせいだ。今となってはただの嫉妬だった。それに気づいたのはトラン先生だった」
「……う……苦しい」
あまりにも強く抱きしめていたのか軽くたたいていたクレハの手は強くなっていた。離れたものの、エイルはクレハの腕を掴んでいた。
「だからはっきり言うよ。僕は君が好きだ」
「……」
「こんなことをしたんだ。嫌いだって言われてもしょうがない」
「そう……じゃ……ない……よ」
「クレハ?」
「ずっとこの想いは仕舞い込んでおこうと思ったの。だって私は罪人だから……殺した挙句、皆を怖がらせた。この能力達がある限り……私はずっと一人ぼっちだって。無理をしたのは出来ると思ったからだよ。でもこんな状況で言われても……」
「そばにいられなくてごめん……それは本当に悪いと思っている。だからこそ許してほしい」
「もう許しているよ。私も悪いことしたからお互い様だし……想いを告げさせて」
「……!」
「私もエイルのことが好き。だから約束して」
「約束? って……両想いだったのか……だったらなんで悩んでいたんだよ、僕は」
「……言ってもいい?」
「あっ……大丈夫、言って」
「いなくならないで」
「……わかった。まったく……僕もクレハも不器用なんだよ」
「そうだね。本当に」
二人が笑い合う様子をトランとマウムは廊下から眺めていた。「仲直りできてよかった」とトランがほっとして呟いていると、マウムは「みんな最初から気づいていたけどな」と続けて呟いていた。
エイルに支えられて立ち上がったクレハは別の病室にいるランのもとへ向かった。ランは目を覚ましており、その病室にはフォルトとシャロ、スヌイ、ガットがいた。フォルトは電話の通りに元に戻っていて、ランにちょっかいを出していたが、シャロに止められていた。スヌイはカルテを書きつつ、ガットはエイルに気づいた。
「やっと想いを告げられたんだろう」
「やっぱり気づいていたんだな」
「そりゃ……あんな態度を取ったら誰だってわかる」
「え……誰だって?」
「気づいていなかったのはお前とクレハだけだよ。どれだけ鈍感なんだよ。でもよかった……その様子だと叶ったんだろう」
「ああ」
「クレハを困らせるなよ」
「分かっているって」
エイルとガットの掛け合いにクレハは「本当に仲がいいんだね」と言いながらクスッと笑っていた。慌てていたエイルをからかうようにトランやマウムまでやってきて、騒いでいるとスヌイの手が止まり、「病室では静かに」という声とともに音量は弱くなった。
暗がりの洞窟、一人の神父が神の名を告げる。それに合わせて信者達も答えていた。それを遠くから見守るリコレは自らが持つ音声変換の能力を駆使して、顔が見えないように黒いフードを被り、違和感なく合わせていた。
「神の命を持ち、この地に封印された我が同志。花咲き乱れる光とともに深き闇から蘇る。……しかしながらまだ天使は見つからず、その餌は取り逃した」
「……神父様」
「なんだろうか? 我が同志の名前か」
「はい」
「その名はユーベル様。この地に蘇る魔法の基礎だ。神からの寵愛を受けておられる。それ故に彼が放つ言葉は神と同様な価値を持つ」
「『ユーベル様』」
神父と呼ばれた男が言った言葉に信者達は重ねて発言する。リコレも遅れないように言ってみた。しかしそれがまずかったようだ。能力に乗っておらず、その声は素に戻っていた。それを聞き逃さなかった数名の信者によってリコレは神父の前に出された。
「やっと見つけましたよ」
「……」
「あなたの噂はよく聞いています。……では今日の集会は終わりです。明日、皆でユーベル様に会いに行きましょう」
信者達は一人また一人といなくなっていた。リコレを捕まえていた信者がいなくなり、自由になったと思われていたが、何故か動けなくなっていた。それどころか体の自由が利かず、神父が歩いた道を彼が追うように進むしかなかった。
辿り着いたのはランが調べていたと思われる洞窟。ランタンで辺りを照らしながら、入り組んだ場所にはまだ解読されていない文章も残っていた。
「着きましたよ」
「……これは」
「おわかりでしょう。私の信者になっていただけるならば、何もしませんよ」
「なるわけ」
「そうですよね……ですが、あなたには選択肢がありません」
「何をする気だ」
「あなたに頼みたいことがあるのですよ」
神父の手には何か良くないものが握られていた。暗闇に沈む本来の姿を隠した謎の光を放つ物体。それをリコレの体に押し付け、彼の叫びとともにそれは飲み込まれていった。強き力に飲まれて気を失った彼が目覚めた時にはその目は虚ろになっていた。
「ここは……あなたは誰?」
「ほう……私の名はイエニア。神の言葉を伝える代行者である」
「代行者?」
「ええ、あなたには『影の守護者』を探し出してほしい。おぼろげなあなたの記憶の中にそれは存在している」
「……かしこまりました。ユーベル様の願いのままに」
その願いはイエニアではなく、ユーベルのために傾いていた。そこにリコレの意思はなく、埋め込まれた謎の物体によるものだった。リコレが去り、一人残されたイエニアはランタンで壁を照らしていた。そこには一枚の壁画が描かれていた。
五つの遺物と一つの鏡が飛来した世界 選ばれた者に災いの種をばら撒く
侵食された世界を浄化する光は運命を変える力によってかき消された
裏切りの天使 生贄の少年 神が再び目覚める時 それを否定するだろう
「……ごめん」
「私は」
「いや……僕が悪いんだ。想いが強すぎる故の勘違い」
「ううん、私が無理を言ったから……エイルの気持ちを何も考えてあげられなかったから」
「それはもういいんだ」
「よくないよ! だから……!」
溢れた感情を制御できずにクレハの目から涙がこぼれそうになっていた。それに気づいたエイルは彼女を抱き寄せた。彼女は離れようとするが、体力が戻りきっていない状態で彼の支配から逃れることは出来なかった。
「苦しい思いをしていたのはクレハのはずなのに……僕は信じてくれた人さえ裏切って、自分の想いに嘘をついてずっと考えていた。最初こそ君は患者で、僕はそれを見守っていた。なのに……その関係は変わらないはずなのに、一緒にいる時間が増えたからか、その手から離れてしまうことに恐怖を覚えてしまった。スヌイ先生やラン達が子供になったって聞いて、世話をしてくれと頼まれた時、すごく嫌だったのはそのせいだ。今となってはただの嫉妬だった。それに気づいたのはトラン先生だった」
「……う……苦しい」
あまりにも強く抱きしめていたのか軽くたたいていたクレハの手は強くなっていた。離れたものの、エイルはクレハの腕を掴んでいた。
「だからはっきり言うよ。僕は君が好きだ」
「……」
「こんなことをしたんだ。嫌いだって言われてもしょうがない」
「そう……じゃ……ない……よ」
「クレハ?」
「ずっとこの想いは仕舞い込んでおこうと思ったの。だって私は罪人だから……殺した挙句、皆を怖がらせた。この能力達がある限り……私はずっと一人ぼっちだって。無理をしたのは出来ると思ったからだよ。でもこんな状況で言われても……」
「そばにいられなくてごめん……それは本当に悪いと思っている。だからこそ許してほしい」
「もう許しているよ。私も悪いことしたからお互い様だし……想いを告げさせて」
「……!」
「私もエイルのことが好き。だから約束して」
「約束? って……両想いだったのか……だったらなんで悩んでいたんだよ、僕は」
「……言ってもいい?」
「あっ……大丈夫、言って」
「いなくならないで」
「……わかった。まったく……僕もクレハも不器用なんだよ」
「そうだね。本当に」
二人が笑い合う様子をトランとマウムは廊下から眺めていた。「仲直りできてよかった」とトランがほっとして呟いていると、マウムは「みんな最初から気づいていたけどな」と続けて呟いていた。
エイルに支えられて立ち上がったクレハは別の病室にいるランのもとへ向かった。ランは目を覚ましており、その病室にはフォルトとシャロ、スヌイ、ガットがいた。フォルトは電話の通りに元に戻っていて、ランにちょっかいを出していたが、シャロに止められていた。スヌイはカルテを書きつつ、ガットはエイルに気づいた。
「やっと想いを告げられたんだろう」
「やっぱり気づいていたんだな」
「そりゃ……あんな態度を取ったら誰だってわかる」
「え……誰だって?」
「気づいていなかったのはお前とクレハだけだよ。どれだけ鈍感なんだよ。でもよかった……その様子だと叶ったんだろう」
「ああ」
「クレハを困らせるなよ」
「分かっているって」
エイルとガットの掛け合いにクレハは「本当に仲がいいんだね」と言いながらクスッと笑っていた。慌てていたエイルをからかうようにトランやマウムまでやってきて、騒いでいるとスヌイの手が止まり、「病室では静かに」という声とともに音量は弱くなった。
暗がりの洞窟、一人の神父が神の名を告げる。それに合わせて信者達も答えていた。それを遠くから見守るリコレは自らが持つ音声変換の能力を駆使して、顔が見えないように黒いフードを被り、違和感なく合わせていた。
「神の命を持ち、この地に封印された我が同志。花咲き乱れる光とともに深き闇から蘇る。……しかしながらまだ天使は見つからず、その餌は取り逃した」
「……神父様」
「なんだろうか? 我が同志の名前か」
「はい」
「その名はユーベル様。この地に蘇る魔法の基礎だ。神からの寵愛を受けておられる。それ故に彼が放つ言葉は神と同様な価値を持つ」
「『ユーベル様』」
神父と呼ばれた男が言った言葉に信者達は重ねて発言する。リコレも遅れないように言ってみた。しかしそれがまずかったようだ。能力に乗っておらず、その声は素に戻っていた。それを聞き逃さなかった数名の信者によってリコレは神父の前に出された。
「やっと見つけましたよ」
「……」
「あなたの噂はよく聞いています。……では今日の集会は終わりです。明日、皆でユーベル様に会いに行きましょう」
信者達は一人また一人といなくなっていた。リコレを捕まえていた信者がいなくなり、自由になったと思われていたが、何故か動けなくなっていた。それどころか体の自由が利かず、神父が歩いた道を彼が追うように進むしかなかった。
辿り着いたのはランが調べていたと思われる洞窟。ランタンで辺りを照らしながら、入り組んだ場所にはまだ解読されていない文章も残っていた。
「着きましたよ」
「……これは」
「おわかりでしょう。私の信者になっていただけるならば、何もしませんよ」
「なるわけ」
「そうですよね……ですが、あなたには選択肢がありません」
「何をする気だ」
「あなたに頼みたいことがあるのですよ」
神父の手には何か良くないものが握られていた。暗闇に沈む本来の姿を隠した謎の光を放つ物体。それをリコレの体に押し付け、彼の叫びとともにそれは飲み込まれていった。強き力に飲まれて気を失った彼が目覚めた時にはその目は虚ろになっていた。
「ここは……あなたは誰?」
「ほう……私の名はイエニア。神の言葉を伝える代行者である」
「代行者?」
「ええ、あなたには『影の守護者』を探し出してほしい。おぼろげなあなたの記憶の中にそれは存在している」
「……かしこまりました。ユーベル様の願いのままに」
その願いはイエニアではなく、ユーベルのために傾いていた。そこにリコレの意思はなく、埋め込まれた謎の物体によるものだった。リコレが去り、一人残されたイエニアはランタンで壁を照らしていた。そこには一枚の壁画が描かれていた。
五つの遺物と一つの鏡が飛来した世界 選ばれた者に災いの種をばら撒く
侵食された世界を浄化する光は運命を変える力によってかき消された
裏切りの天使 生贄の少年 神が再び目覚める時 それを否定するだろう
桜詩凛の読みは「さくらしりん」で、由来は二つ。一つは元から使っていた桜子凛花が長いと思ったため、短くするために「桜」と「凛」を取り、その間に当時から書いていた「詩」をいれたもの。もう一つは『複雑な生き方をする少女』に登場する「さくら、黒蛇、シラ、理夏(りか)、ラナン」の頭文字を取ったものとなってい…
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