二つの世界の終着点 第一章(1/4)
公開 2023/12/17 14:16
最終更新 2023/12/17 14:37
第一章 新たな未来と疑似的能力
 それは逃れた世界、いや人知れず終わりと断言された世界
 二つの世界の終焉に残された手記が告げたように、もう呪いは解き放たれた
 しかしすべてを知らぬ邪悪な心が元凶となりて、新たな世界は生まれる


 とある者が古き遺跡から掘り起こした魔法の儀式に関する石板。それと「二つの世界」と呼ばれた世界がこの世に存在していたという事実。それらに目をつけた研究者たちの目は誰かに操られているかのように赤く染まっていた。かつて遺物が飛来した時と同じように、人々は自分の意思を失っていた。
 平和な世界にもたらされた魔法という名の技術は敵という概念がないにもかかわらず、強い力を求めて試行錯誤を繰り返した。それが身を亡ぼすことになっても誰も止めることはしなかった。力に飲み込まれた者は化け物となって、暴走し破壊の限りを尽くした。しかし破壊は止められた。封印という名の消去を施し、強き力は存在ごと抹消された。
 だがすべてが消え去ったわけではなかった。だから知らない者が同じ過ちを繰り返し、強き力が生まれては存在ごと消されていた。けれど罪人の記録という資料だけが残り続けて、誰もその魅力に抗うことが出来なかった。

 それでも破壊だけが行われていたわけではなく、少しずつ進歩していた。強力な魔法は人々が使うにはあまりにも暴走を引き起こしたため、使用する際、リミットをかけて研究を行う義務が課せられた。そしてそこから生み出された能力と呼ばれる魔法の下位互換に当たる力は、「二つの世界」で使用されていた能力に酷似していた。だが魔法と同様に強力なものも存在したため、一般的に使用されるまでかなりの時間を要した。
 平和な世界に外敵がいないにもかかわらず、研究者同士の破壊と創造の封印と消去を繰り返した結果、人々は怯える必要の無いものに支配されていた。だからいち早く、その能力とやらを求めて、事件が多発したことは言うまでもない。
 色々なことが起こりながらもやっとの思いで出来上がったそれらは『疑似的能力』と呼ばれるようになり、「二つの世界」に存在した能力を指輪などのアクセサリーを介して発動させることが出来るようにした。本来の力を発揮することが出来ないようにリミットがかけられており、暴走しないように街ごとにネットワークという形を用いて制御した。『疑似的能力』はアクセサリー一つに対して一つの能力が当てられていた。しかしネットワークの核となるものに対しては複数の能力を一つのアクセサリーに入れ込んでいた。そしてそれが誰の手に渡るかはランダムで、研究者以外が知る由もなかった。


 一般的にアクセサリーが配布されて、人々が安心という縛りを受けている頃、街に引っ越してきた一つの家族もまたそれを手に入れていた。その中にいた少女は透明な水晶のような宝石がはまった指輪をもらった。しかし家族の皆があらゆる能力を発動させていたが、少女の指輪だけ何も反応しなかった。不具合があるのではないかと尋ねるも、そのようなことはないという一点張りで話を聞いてもらえなかった。
 少女は何も使えないことを自身と当てはめて、誰もいない廃墟の屋上から飛び降りた。危機的状況なら発動するかもしれないという危険すぎる思考を実行し、頭が地面に当たって悲惨な音をたてようとした時、指輪は黒く光り出し、少女の体は一瞬誰かに抱えられ、目に映る黒が消え去ると少女は仰向けで空を見ていた。

 それから少女の身に付けていた指輪の透明な水晶のような宝石は黒に染まったままだった。発動条件が分からないまま、転校先の学校で行われた能力試運転の授業ではどうしていいかわからなかった。その結果、まともにかかわってくれる人はおらず、いつも一人ぼっちだった。
 一人ぼっちだったことをいいことに周りの感情は悪い方へ傾いていた。授業以外での能力使用を禁止しているにもかかわらず、少女にちょっかいというには酷いことをしていた。まるでいじめと言わんばかりの行為だが、先生のいない間に行うせいで誰も止めはしなかった。しかし黒く染まっていた宝石は少しずつ赤色に変わり始めていた。
 そして事件は起きた。いつものように少女に能力を放ついじめっ子達。それを止めない生徒達は同罪のように笑っている。だが宝石は完全に赤色に染まり、いじめっ子の一人の首を絞め殺した。一瞬の出来事故に他のいじめっ子達と周りにいた生徒達は動けなくなっていた。少女の頭には「殺したい」という思いしかなかった。
 それから次々と少女は硬直してしまったいじめっ子達に何もさせず、腕を掴んで骨を折り、頭掴んで壁に向かって投げ飛ばし、辺りが血塗れになろうとも少女の手は止まらなかった。それを異常だと、恐怖さながら逃げていた生徒の一人が先生に伝えて、どうにか止められたのだが、少女は罪に問われなかった。むしろいじめっ子達が悪いという判断を下され、周りで見ていた生徒も同罪に処された。

 宝石が黒から赤に変わり、少女が正常に戻った頃、能力を制御するために存在するとされる核となった能力があると噂になっていた。それを持つ者は何を起こしても罪にならないとされ、主に能力の研究をしていた者が疑われて、襲われる事件が起きていた。少女はそれがこの指輪ではないかと思い、見る人過ぎゆく人みな怖くなった。
 一般人の能力者が引き起こした事件は街全体を恐怖に陥れ、研究者達は最後の手段を取らざるを得なかった。それは街がなくなることを意味していたが、仕方がないことだと捉えるしかなかった。それを起動しようとした時、研究者の頭は二つにかち割られていた。


 別街、大学病院では一人の医者が廊下を走っていた。先生の名を多くの看護師や患者が告げる中、彼は止まらずに過ぎていった。薄暗く電気の調子が悪いところにある出口と書かれた扉を開けると、急な光に一瞬瞼が落ちて何度か瞬きして目を慣らすと、救急車から負傷した患者が大量に運ばれてきていた。
 しかし彼はそれに目もくれず、その状況を他の先生達に任せて、また走り出した。次に止まった時には彼を待つ二人の姿があった。
「おう! 先生」
「先生って呼ぶな」
「いいじゃん。だってこの病院の医者だろう」
「相変わらずだな、お前達は」
「それよりも隣街の件……ある程度は救ったが」
「まだ能力反応あるんだよね」
「……なら何故戻ってきた?」
「こっちのチームは結構負傷者が出て、一度戻ろうって話になったんだ。だから今は別のチームが対処している。でもおそらく……」
 片手にナイフをまわしながら話す少年が告げる言葉の前に遠くで酷い爆発音がした。もう一人の少年がびっくりして怯えていたから彼は背中をさすってあげた。
「何だ?」
「……やられたかもしれない」
「ラン! 行った方がいいんじゃ」
「そうだな……先生」
「ん? ってまた……無茶するなよ。怪我をしても見れるが、死だけはどうにもできないからな」
「分かっているさ」
 ランと呼ばれた少年はナイフを仕舞い込んで、いつの間にか姿を消していた。彼はそれが速度変化の能力であることを理解しているが、いきなり使われたことでもう一人の少年は頬を膨らませて怒っていた。
「あっ、また何も言わずに使いやがって……こっちは普通の走りしか出来ないっていうのに」
「フォルト」
「はい? スヌイ」
「その能力が女神に愛された者しか使えないとはいえ……」
「大丈夫だよ、スヌイが作ってくれたこの髪飾り……制御装置があれば無茶しないから」
「だが」
「もう、心配性だなぁ……大丈夫だって! ランが変なことしないとは限らないから早くいかないと」
「……そうだな」
 スヌイはフォルトの頭を撫でて、「行ってきます」という声に手を振った。遠くに消えていく前に救急車が大量にスヌイを囲み、誰にも聞こえないため息を吐いて、運ばれてきた急患の相手をすることにした。

 フォルトはスヌイと別れて、小型の地図を表示させる円形のものを取り出して走っていた。それは地図としても使えるが、能力探知機としても使える品物で、今回の救援だと役に立っていた。ランとフォルトが派遣された理由にはいろいろ事情があるのだが、その一つとして核と呼ばれる能力を持つ人物の回収。一般的な疑似的能力を持つ者達と違って、暴走状態になることがなく、制御装置が組み込まれていると言われていた。フォルトの能力である天候変化は生まれつき女神に愛された者にしか使用できない代物で、それ故に強すぎるため、疑似的能力として弱めて使用している。その過程で本来の天候変化と異なる挙動を取るようになり、雨から生まれた水や日から生まれた火などの属性を持つ魔法弾を放つことが出来るようになっていた。
 そしてフォルトはそれ以上に能力の変化を見せた。天候のイメージを快晴から雪景色へと変え、地面は凍りつき、スケートのように靴を滑らせて速度をつけてランのもとに向かった。現実の空は快晴のままなのに、地面は氷が張り、異様な光景が生まれていた。

 一方、フォルトに何も告げずに走り出したランは爆発が起きたと思われる場所に辿り着いていた。彼が走り出していた間にも爆発は続いていたため、原形があまりにも残されておらず、あらゆる破片が地面に突き刺さり、その近くには逃げ遅れた人々の焼け死体があった。骨がむき出しになっているものもあったが、彼は何も思わずその死体に落ちていたアクセサリーを手に取った。写真付きのネックレスのようだったが、燃え尽きて真っ黒になっていた。
 何一つ見つけられないまま、ふらふらと歩いていると「助けて」という弱々しい声が聞こえた。耳を澄ますために立ち止まると、その声の代わりに別の声がした。
「ラン! ここに人が」
 それは同じ目的のために叫ぶフォルトの声だった。意外な速さだと思って、能力の反動で重くなった足を引き摺って近寄ると、フォルトの足元は凍っていた。
「凍って……」
「そんなことより助けないと、ランも手伝って!」
 フォルトの他に別チームの救助隊がいて、重い瓦礫を運んでいた。救助隊に選ばれる者達は元から筋力がある者や能力によって強化された者が選ばれている。ただフォルトやランのような別の意味を持って行動している者もいるが、前提として人々を救助するために行動していることには変わらない。ランはそんなに重いものは持てないと思いながら少しずつ運んでいると、フォルトが雷を使って、救助を求める人の居場所を特定しようとしているのを見た。能力探知機と照らし合わせながら集中しているフォルトにちょっかいを出そうとも考えたが、今はそんなことしている場合ではないと踏みとどまった。
「み……見つけた」
 フォルトがそう呟くと、雷を使って瓦礫を浮かせて、ランに「はやくして」と合図した。それに反応したランはフォルトが放つ雷をよけながら、速度変化の能力で加速し、人を運ぶとすぐに元の位置に戻っていた。ランの様子を確認する前に、フォルトの集中力が切れて瓦礫は音をたてて落ちてしまったが、ランは余裕そうに人を抱えていた。その子は少女で瓦礫に埋もれて、特に足を負傷していた。
「……この子だ」
「大丈夫か、喋らない方がいい」
「大丈夫……少し息を整えれば」
「足負傷しているようだが、息はある。スヌイの所に運べば何とかなるだろう。だからフォルト、後は頼んだ」
「は?」
「俺はもう能力切れだ。移動すらままならない」
「……わかったよ。ガットに連絡するからここで待ってなよ」
「ありがと」
「まったく……それじゃ、またあとで」
 フォルトは雷雨のイメージを雪景色へと戻し、スヌイのもとへ氷に速度を任せて滑りながら走っていた。走りながら通信機を取り出して、無線の番号を合わせて耳元に当てた。
「もしもし」
『……フォルトさん どうしました?』
「ガットか……ランのことだけど」
『そういえば、反応的に一緒にいないようですが』
「能力切れで走れないって言ってさ」
『あー、いつものことですか。わかりました』
「ありがと」
『それじゃ』
 そう言って無線を切り、走ることに集中して道は凍り始めた。しかし中間と言ったところで少女が小さく「ハク」と呟き、体から白い翼が生えていた。それによって少女をおんぶしていたフォルトも影響を受けて、地面から足が離れて空に一直線に浮かび上がった。その手を離さないように少女の顔を見ると息が荒くなっているような気がした。しかしフォルトはこの状況でも焦ることなく、風向きを変えればスヌイのもとへ向かうことが出来ると思い、少しばかりの強い風を起こして天に昇って行く白い翼の影響を受けずに進み始めた。

 快晴だった空は曇り始めて、今にも雨が降り出しそうになっていた。スヌイも急患を相手しながらランとフォルトを心配していた。能力を乱発して疲弊して動けなくなっていたらどうしようと思いながら、今いる患者の治療を頑張っていた。
「先生! フォルトさんがいらっしゃいました」
 そんな矢先、看護師から言われた言葉で、今診ている患者を他の医者に任せて、フォルトのもとへ向かった。息を切らしておんぶしていた少女の白い翼は消えており、フォルトも壁に手をやってやっと立っていられるくらい、今にでも倒れそうな感じになっていた。「先生……早くこの子を」
「わかっている……」
 そう言いスヌイはフォルトの背から少女を抱えて、近くの病室に運んでベッドに仰向け状態で寝かせた。そして手を取り目を閉じた。スヌイの頭には少女の体がレントゲン写真のように見えていて、悪い場所は赤色に点滅していた。足の負傷は見て分かっていたことだが、脳に異常をきたしていることを知ったのはこの時であった。またその他の救護隊の話から瓦礫に覆われた状態というのは事前に聞いていたため、その他負傷が見られてもおかしくないはずだが、あまりにもいないのが異様だと思っていた。スヌイは目を開けて、看護師が持ってきた消毒液と包帯、それから呼吸器と点滴を打ち、少女が目覚めるのを待っていた。

 少女を手放したフォルトは安心した様子で崩れ落ち、看護師に抱えられてベッドで目を覚ました。そこにはトランがいた。トランは普段小さな病院で精神科医をしているが、たまに大学病院に訪れて診察することもあり、スヌイとの面識があった。それをフォルトやランなどの能力者達も知っていて、何かと関わりがある人物だった。
「なんで目覚めがお前なんだよ」
「スヌイに頼まれたから来たのに……第一声がこれかよ」
「頼まれていたのか、それはごめん」
「いいよ。それに元気そうだから……あっ、そういえば、ランはもう戻ってきているよ」
「そう……か」
「……まだダメだよ」
「なっ」
「動こうとしたみたいだけど、スヌイに言われているから全力で止めるよ」
「能力勝負で勝てると思ってんのか」
「そうだね、フォルトには負けるだろうね」
「じゃあどうする気だよ」
「でも今の君じゃ、能力をまともに使うことは出来ないはずだよ」
「……やっぱりもう使用しているよな」
「たとえ女神に愛されているからと言って、それは能力だけの話。精神までは守られないさ」
「精神汚染……それがトランの能力だったな」
「汚染とは聞き捨てならない。本当の能力は精神喪失だよ。今は一匹しかいないけどね」
「得体の知れないもの……表現することが出来ない化け物。それを見せて人を狂わせる」
「でもフォルトはもうほとんど聞いていないから」
「何度使われたと思っているんだよ」
「そうだね、これは僕の負けだ」
「いや……大事をとって寝ておくよ」
「こんなフォルトが素直だなんて、珍しいこともあるんだな」
「……トランはここにいるのか?」
「そうだな。おとなしくしているというなら見ておきたい患者がいてさ」
「それって確か、エイルのことか?」
「ああ、スヌイの助手といったところか。一応、患者だったからさ、ちょうど来たし」
「見てくればいいじゃないか」
「本当におとなしくしているんだな?」
「心配なら誰か連れてきたらいいじゃないか」
「うーん……やっぱり心配だからここにいるわ」
「なんだよ。信用ねぇっていうのかよ」
「そりゃそうだろ」
「じゃあ、寝る」
 そうフォルトが言い、掛け布団を頭にかぶって寝たふりをしているのを分かっていながら、トランは椅子から立ち上がった。背後に気配がして振り返ると、ランが病室の廊下で待っていた。
「あんまりちょっかい出すなよ」
「はーい」
 そう軽い会話を交わし、二人がすれ違う時、廊下にはもう一人立っていた。それはガットであった。影になって暗くなっていた廊下から出てきたからトランは少し驚いたが、どうやら空間移動の能力を使って隠れていたらしい。驚かすことに成功したガットがトランの前に立つと、すぐさまトランは頭をカルテで軽くたたいた。
「痛っ、何するんですか、トラン先生」
「なーにをやっている」
「フォルトさんに頼まれてランさんを迎えに行っただけですよ」
「君は……」
「気にしないでください。すぐに帰りますから」
「いや、そういうわけではなく」
「なら何ですか? 用事があるんですか?」
「……」
「エイルのことならスヌイさんの所にいると思いますけど」
「彼が患者であると君に話をしたことはないはずだが?」
「エイルが言ってましたから」
「あいつ……」
「それじゃ、これで……? 手を掴んで……はぁ、だから嫌なんですよ」
 ガットはトランに触れて何も言わずに空間移動させた。本来タイミングという意味も込めて話しかけるのだが、あまりにも気分が悪かったために、いきなり能力を行使した。廊下に叫び声が響いて消えた後、「結局道具扱いか」と小さく呟いた。

 あまりにも多すぎる急患に追われて、病院内は阿鼻叫喚の渦の中にあった。多くの医者の邪魔にならないように、研修生とともにエイルは小さな部屋で待っていた。一人、また一人と手伝いに研修生が引っ張られる中、呼ばれることのないエイルはいつの間にか一人になっていた。その間に、一人ぽっちになるのを恐れて動きを止めようと、能力を発動しては意味がないと切った。時間操作の能力を持つ彼はこの忙しい時間を一瞬で終わらせられたらいいなと考えながら、まともに患者との会話も出来ないのに、診察も治療も技量がないから無理だと思って、何も出来ない自分が悔しかった。
 そんなことを考えているといきなり廊下の方で叫び声が聞こえて、びっくりしながら椅子から立って、廊下の方を覗き見るとトランが気絶して倒れていた。近くにいた看護師に手伝ってもらって、エイルがいた部屋にあったベッドに寝かせると、数分の後目覚めた。
「トラン先生、大丈夫ですか?」
「……う、うーん?」
「あっ、よかった」
「あの野郎……あ、エイルか」
「もしかしてガットにやられたんですか」
「よくわかったね」
「なんとなくですよ。それよりどうして? 今日は診察の日ではなかったはずですが」
「確かにそうだね。ただ今日はスヌイに頼まれてここにきてね。ついでだよ、君に会いに来たのは」
「ついで……」
「あ……言葉が悪かったね」
「いえ……大丈夫ですから……はぁ」
「また役に立っていないと思っているね」
「!」
「そんなこと思わないってこの前言ったばかりだろう」
「……思い出せないんですよ。日常的なことはすべて思い出した。でも先生達が求めているのはそんなことじゃなくて、この懐中時計に関することだけ! それだけあれば疑似的能力の研究に役立つだって! そんなこと知らないよ……僕に聞かないでよ」
「……よく言ってくれたね」
「えっ? あっ」
「本音というのもは言わなければ伝わらない。君はちゃんと進んでいるよ」
「……それは誰にでも使っている定型文ですか」
「何か勘違いをしているようだが」
「似たようなことをスヌイ先生にも言われたので」
「そうか」
「……僕は行かないと」
「どうした?」
「スヌイ先生からの呼び出しです。どうやら一人の患者が目覚めたようなので」
「じゃあ、ついて行ってもいいかな」
「スヌイ先生に用があるんですか?」
「いや? 何もないけど」
「それじゃ、ここでさよならですね」
「……って、お」
 トランが気づいた時にはエイルは能力を発動させて時間を止めた。いつから呼び出されていたのかは不明だったが、急ぎの用事だとすれば悪いことをしてしまったと後悔しつつ、すべての時間が止まった世界に一人動くことの出来るエイルは部屋を出て廊下を走りだした。同じように走っていたと思われる医者や看護師、それから患者同士の会話など何もかも動いていた時間がエイルの手によって一時的に止められていた。その世界を走り続けるエイルはスヌイが待つ病室へと急いだ。
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