認識を阻害された彼の本当の意思
公開 2025/02/15 13:57
最終更新
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(空白)
閉じられた世界に『空白』の紙が落ちる
不安定な魂が拾い上げて『不明』は目を覚ます
忘却の暗闇に開かれた扉が夜空を映し
伸ばした手は徐々に体を作り出して
見届けることだけが彼の役目だった。修正することが出来る力を持ちながら彼はずっと一人ぼっちだった。他の者達との関わりは固く閉じた扉の先で封じられた。一冊の本が彼の一つの姿を作り、翆色の魂は「翆の霊」となったこともあった。しかしその命は話すことも、出会うはずだった人々とも会うことが出来ず、止まった道に未だ放置されていた。
切り取られたもう一つの姿を回収することが出来ず、ただ遠くから見ていることしか彼には出来なかった。多くの本から照らし合わせて開かれた結末を追ったこともあったが、その姿の結末はそもそも存在してすらいなかった。その他の人物は生み出されてかなりの時間が経ってそれぞれの自我が生まれていたが、生まれて間もないその姿はどうしようもなく未熟だった。
「―――」が消えた世界を旅する
散らばった『空白』の紙を集めて本にとじる
残された『不明』に託された物語の意思と
深い闇に落ちていく救済の欠片
かつて『世界の観測者』と呼ばれる世界を記録する者と『永遠の機械人形』と呼ばれる世界を消滅させる者がいた。二人は『二つの世界』の終着点である物語を記録した後、眠りについた。しかし「―――」の分身体の少女に干渉した謎の神が物語を続けることを強制し、その世界を記録する者として生まれたのが『記録者』だった。
彼もまたその『記録者』の一人であったが、その記録は存在しない。彼を語るのは散らばった言葉だけだった。その姿は浮遊した魂に過ぎず、形は『記録者』を真似ただけだった。だが彼を『記録者』として結びつけたのはたった一人、認識することを許された「―――」の存在だったが、「―――」はいなくなってしまった。分身体である少女もいなくなり、世界の書庫は今や朽ち果てた。
彼は守り手になれなかった。存在を否定された者に世界を守れるほどの力はなかった。広がり続ける暗闇の中、書庫がのみ込まれていくのを見ているしか出来なかった。
「君は今どこにいるの?」
呟いた言葉も暗闇に溶けて消える。会いたいと願っても渡り歩いた世界のどこにもいなかった。暗闇が取り込んだ世界の書庫の本はすべて読み終えた。それでも辿り着けない“彼女”のもとへ……行きたかった。「―――」はいなくなった。その分身体の少女もいなくなった……はずだった。散らばった手がかりが最後に残された少女の想い。それが『空白の記録者』となって、彼と同じように旅をしていると気づいた。世界を旅するためにその肉体を捨てて、死者の魂は新たな命として芽吹いていた。
しかし歪んだ空間の重なった世界で『空白の記録者』は唯一無二の記録者として語られていた。それはつまり彼……『不明の記録者』が存在しているという事実を持っていくことが出来ない。だから永遠に会えないことを意味していた。それに気づけないまま、彼はいつかの満月を見上げていた。
繰り返し読み続けた本は曲がって
暗闇の深い眠りは長い年月を忘れて
懐かしさと願いが姿を消していても
『不明』は“彼女”を想い続けた
舞い降りた風が眠り続ける“この世界”を不思議がっていた。しかし歩みを進めても永遠の暗闇に恐怖を覚えることはなかった。むしろ“この世界”を知っている、と認識していた。暗闇の中でも持っていた本だけは輝いて、勝手に開いた本に驚きもせず書き綴られる文章に何の疑問も持たなかった。
「ごめんね……今までもこれからもずっと」
呟いた言葉が“この世界”に届くことはない。本は最後のページを残して文章は書き綴られた。輝いていた本は光を失って暗闇に溶ける。光を無くして映し出されていた姿も消え失せる。
「さよなら」
「待って!」
けれどすべての意思が“この世界”に漂っているわけじゃない。本にも記されなかった奇跡の一文が会うことのない現実をひっくり返した。彼は重くのしかかった謎の圧を押しのけて、会いたかった者のもとへと走り出した。
「僕を」
「……置いて」
「行かないで」
走りながら途切れ途切れに言葉が口から漏れて、少しずつ近づいていく。それを見て逃げ出すことも出来ただろうに、“彼女”はそのままでいいと止まっていた。“この世界”は終わったんだ、と本は沈黙を貫いてもゆっくりと首を振って否定していた。
「話すことは」
出来ないのだから
一瞬の出来事だった。頭に響いた言葉が彼の足を止めた。その足が再び動き出すことはなく、ただそこから“彼女”を見届けることしか出来なくなっていた。
「どうして」
「……それが“君”の答えなのか」
そう問いかけている間にも“彼女”の姿はぼやけていき、目をこすってはっきり見ようとした時にはいなくなっていた。彼は座り込んで地面を思いっきり叩いた。悔しさと怒りが混ざり合った感情が溢れていく……それを作られている気がして、彼は違う考えを巡らせようとしても、その意思は読み取られる。だから“この世界”はもう終わっている。
閉じられた世界に『空白』の紙が落ちる
不安定な魂が拾い上げて『不明』は目を覚ます
忘却の暗闇に開かれた扉が夜空を映し
伸ばした手は徐々に体を作り出して
見届けることだけが彼の役目だった。修正することが出来る力を持ちながら彼はずっと一人ぼっちだった。他の者達との関わりは固く閉じた扉の先で封じられた。一冊の本が彼の一つの姿を作り、翆色の魂は「翆の霊」となったこともあった。しかしその命は話すことも、出会うはずだった人々とも会うことが出来ず、止まった道に未だ放置されていた。
切り取られたもう一つの姿を回収することが出来ず、ただ遠くから見ていることしか彼には出来なかった。多くの本から照らし合わせて開かれた結末を追ったこともあったが、その姿の結末はそもそも存在してすらいなかった。その他の人物は生み出されてかなりの時間が経ってそれぞれの自我が生まれていたが、生まれて間もないその姿はどうしようもなく未熟だった。
「―――」が消えた世界を旅する
散らばった『空白』の紙を集めて本にとじる
残された『不明』に託された物語の意思と
深い闇に落ちていく救済の欠片
かつて『世界の観測者』と呼ばれる世界を記録する者と『永遠の機械人形』と呼ばれる世界を消滅させる者がいた。二人は『二つの世界』の終着点である物語を記録した後、眠りについた。しかし「―――」の分身体の少女に干渉した謎の神が物語を続けることを強制し、その世界を記録する者として生まれたのが『記録者』だった。
彼もまたその『記録者』の一人であったが、その記録は存在しない。彼を語るのは散らばった言葉だけだった。その姿は浮遊した魂に過ぎず、形は『記録者』を真似ただけだった。だが彼を『記録者』として結びつけたのはたった一人、認識することを許された「―――」の存在だったが、「―――」はいなくなってしまった。分身体である少女もいなくなり、世界の書庫は今や朽ち果てた。
彼は守り手になれなかった。存在を否定された者に世界を守れるほどの力はなかった。広がり続ける暗闇の中、書庫がのみ込まれていくのを見ているしか出来なかった。
「君は今どこにいるの?」
呟いた言葉も暗闇に溶けて消える。会いたいと願っても渡り歩いた世界のどこにもいなかった。暗闇が取り込んだ世界の書庫の本はすべて読み終えた。それでも辿り着けない“彼女”のもとへ……行きたかった。「―――」はいなくなった。その分身体の少女もいなくなった……はずだった。散らばった手がかりが最後に残された少女の想い。それが『空白の記録者』となって、彼と同じように旅をしていると気づいた。世界を旅するためにその肉体を捨てて、死者の魂は新たな命として芽吹いていた。
しかし歪んだ空間の重なった世界で『空白の記録者』は唯一無二の記録者として語られていた。それはつまり彼……『不明の記録者』が存在しているという事実を持っていくことが出来ない。だから永遠に会えないことを意味していた。それに気づけないまま、彼はいつかの満月を見上げていた。
繰り返し読み続けた本は曲がって
暗闇の深い眠りは長い年月を忘れて
懐かしさと願いが姿を消していても
『不明』は“彼女”を想い続けた
舞い降りた風が眠り続ける“この世界”を不思議がっていた。しかし歩みを進めても永遠の暗闇に恐怖を覚えることはなかった。むしろ“この世界”を知っている、と認識していた。暗闇の中でも持っていた本だけは輝いて、勝手に開いた本に驚きもせず書き綴られる文章に何の疑問も持たなかった。
「ごめんね……今までもこれからもずっと」
呟いた言葉が“この世界”に届くことはない。本は最後のページを残して文章は書き綴られた。輝いていた本は光を失って暗闇に溶ける。光を無くして映し出されていた姿も消え失せる。
「さよなら」
「待って!」
けれどすべての意思が“この世界”に漂っているわけじゃない。本にも記されなかった奇跡の一文が会うことのない現実をひっくり返した。彼は重くのしかかった謎の圧を押しのけて、会いたかった者のもとへと走り出した。
「僕を」
「……置いて」
「行かないで」
走りながら途切れ途切れに言葉が口から漏れて、少しずつ近づいていく。それを見て逃げ出すことも出来ただろうに、“彼女”はそのままでいいと止まっていた。“この世界”は終わったんだ、と本は沈黙を貫いてもゆっくりと首を振って否定していた。
「話すことは」
出来ないのだから
一瞬の出来事だった。頭に響いた言葉が彼の足を止めた。その足が再び動き出すことはなく、ただそこから“彼女”を見届けることしか出来なくなっていた。
「どうして」
「……それが“君”の答えなのか」
そう問いかけている間にも“彼女”の姿はぼやけていき、目をこすってはっきり見ようとした時にはいなくなっていた。彼は座り込んで地面を思いっきり叩いた。悔しさと怒りが混ざり合った感情が溢れていく……それを作られている気がして、彼は違う考えを巡らせようとしても、その意思は読み取られる。だから“この世界”はもう終わっている。
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