分裂した二つの国と天使(3/3)
公開 2023/10/07 13:37
最終更新
2023/10/07 13:43
(空白)
教会が建っていた場所はもう瓦礫の山へと変わっていた。瓦礫の山を登ってコタは一人の騎士に出会った。
「ここまで逃げるとは最初の剣はいったいどういう意味だったのか?」
「……意味はない。ただお前を殺せというアルトの命令だけ」
「そうか」
コタは隙を見て彼の首元に剣を当てるように後ろに回った。
「切ればいいものを」
「お前はそう簡単にできるんだろうな。心がないから……」
そう言って後ろに下がろうとしたら、逆に剣が首元にあった。ヒヤッとしてコタは剣を避けて離れる。
「……なぜ話している間に首を切らなかった」
「わからない。手が動かなかった」
「本当は心なんて戻っているんじゃないのか? オルム」
「知らない」
そう言い剣を向けるが、コタの剣で受け止める。何度も剣を交えるが、両方とも隙を与える様子はなかった。しかし少しずつコタの方が疲れてきて、動きが鈍くなっていく。そして次に剣を交えた時、コタの剣が地面に突き刺さった。
「もう終わりなのか」
「……」
「さよなら」
オルムがコタの首を切ろうとした時、彼の剣が後ろに飛んだ。
「!」
「終わらせるつもりはないよ。本当は使いたくなかったんだけどね」
オルムの動きが止まったのと同時にコタは彼の体を縛り動けなくした。
「能力のことまで忘れているのか?」
「……」
「黙っているのは知らないからか。俺の能力は言葉にしたものが本当になるものだ。だから俺の剣を右手にって言えばこうなる」
その声に反応したように地面に突き刺さっていた剣が右手に収まり、オルムの首元に当てられる。
「本当は殺したくないんだよ。友人を殺すなんてしたくない。違う出会い方なら争う必要もなかったのかもしれないな」
コタはそう言いながら知らないうちに涙を流し、雫がオルムの顔にかかる。かすかにオルムの目に光が戻っていたが、コタは気づかない。
「ごめん。こんな俺じゃお前を救えなかったことを恨んでくれ」
そしてコタは首を切らずに腹を剣で刺した。オルムの周りに血のたまりができていく。コタは剣を抜くとオルムから離れた。その時、目に光が戻っていることに気がついて絶望し崩れ落ちた。
「もう少し早く気づいていれば……」
そう後悔しながら立ち上がることもできず、座り込んでしまった。
フォトと黒雨は武力の国の城に向かっていた。その矢先、誰かが座り込んでいるのが見えた。近くまで行ってみるとコタと血を流して倒れているオルムの姿があった。フォトは真っ先にオルムのところに行って抱きかかえた。
「オルム! しっかりして」
「……フォトか」
その声にコタと黒雨はフォトのところに座り、オルムの顔を見た。血まみれで息をすることさえ、苦しいはずなのに何かを言おうとしていた。
「しゃべらないで……」
「今まで心配かけてごめん。フォト」
「オルム……もしかして心が戻って」
フォトがそう言った時にはオルムは目を閉じて息がなくなっていた。
「オルムは死ぬ前に心が戻っていたんだ……それに気づいていれば殺さずに済んだかもしれないのに」
コタが後悔の言葉を言うとフォトは首を振った。
「そんなことはないよ。むしろオルムが人として死んでくれたことに感謝だよ。もうあの時の声も聞けないかと思っていたから」
フォトの顔に一粒の雫が頬に流れていた。
「フォト……」
「もう大丈夫、それよりもすべての元凶のアルトを止めないと」
「お前の王がやはり原因なのか?」
「うん。自分の力が制御できなくて暴走している」
「それを止めようとフォトと一緒に武力の国に向かっているんだ」
「そうか……」
コタは納得したように頷いたが、二人について行こうとしない。
「俺はオルムを安全な場所に運んでおくよ。そうしてからそっちに向かうから」
「わかった」
黒雨の返事の頷きと同時にコタはオルムを抱えて別方向へと歩き始めた。コタがいなくなってフォトと黒雨は武力の国の城がもうすぐであることを知った。しかしその時、空で光の線が通り過ぎた。
「あれは?」
フォトが首をかしげていると黒雨はまさかと思って走り出そうとしていた。
「早く行かないとあいつが死ぬ」
「どうしたんだよ、黒雨」
「クラリ……。なんでもない」
「もしかして天使のこと?」
黒雨は頷いてフォトに答えた。フォトは彼の深刻的な顔を見て、彼の手を取った。
「それなら早く行こう。でもアルトに気がつかれないようにして」
フォトの提案に黒雨は頷き、彼の能力で姿を消し、黒雨の能力で人以上のスピードで走った。
クラリはフリュに連れられて奥の部屋に入った。フリュが深刻な顔をしているから何も言わずに口を開くのを待っていた。
「これを君に言っていいのかわからないが……私の力ではアルトを止められないかもしれない」
「それって平和の国が守れないかもしれないってことですか」
「ああ」
「それじゃ……みんな死んじゃうの」
「それだけはしてはいけない。けれど私の力では守ることができても攻撃はできない。そして守り続けていてもどこか欠陥が出る。そこで君の力を借りたい」
「私の力……誰かを捕らえることと光の矢を飛ばすことくらいしかできないけど」
「それでいい。もし私が守り切れないと判断した時、君は武力の国の城に向かってほしい。少しの時間稼ぎでいい。その間に黒雨が城内に入ってくれさえすれば」
「……うん。みんながそれで助かるのなら行く」
「私の力がまだ役に立つものならよかったのだけど、すまない。私は準備に取り掛かるから君は外の様子を見ていてくれ」
「はい」
クラリはフリュに言われた通り、その部屋から出て窓の見える方へ向かった。その時にはもう黒雨やリッシュの姿はなくて、二人とも作戦を実行したのかと思った。
数時間が経って、クラリはフリュに言われて、窓から武力の国の城に向かって飛びたった。爆弾の煙で空は灰色の雲に覆われ、クラリの飛んだ跡がはっきりと残った。
武力の国の城の屋上に着いて少し休もうとしたら、下の床から黒い枝のようなものが伸びてきて足場を破壊した。そこにいたのはその枝と一体化していたアルトだった。
「あなたがすべての元凶……」
クラリの声はアルトに届いていないようで彼は何も言わなかった。そのかわり黒い枝のようなものがクラリを襲い、彼女はそれを全部よけて城の柵に立つ。
「やはり天使は存在していたのか……フリュめ」
その声は人と思えないほどに壊れていて、目は赤く染まっていた。そして彼の手と思われるところに本があり、そこから元凶が生まれているのかもしれないと思った。
クラリはその黒い枝を一本ずつ光の矢で根元から消していったが、彼のスピードが速すぎてどんどん再生していく。時間稼ぎだと言われていたけれどこれでは何の役にも立たないと感じた。空を飛びながら戦っていると、枝の間に見たことのない生き物がたくさんいて、それらが力になっていると気がついた。クラリは生き物たちを矢で射抜いた。それはあたりのようで枝の再生スピードが落ちた。
「よしこれを繰り返せば……」
「貴様。これでいい気になるなよ」
クラリの隙を見逃さなかったアルトは彼女の右翼を貫いて落とした。
「痛い……でも再生すれば」
落とされた先で座り込み少しずつ右翼を再生していたが、アルトがそこにやってきて矢を打ち左翼も破壊した。
「これでお前は飛べない」
枝と生き物たちを破壊されたアルトは人に近い姿に戻っていた。
「……」
「俺をここまで追い詰めるとはやはり人外の力だ」
「あなただって飲み込まれる前だった」
「それがどうした。まだ俺はこの力ですべてを破壊する」
「ダメ! それをしたらみんな死んじゃう」
「……死んでも生まれ変わるだろう。そのための代償さ」
「そんな」
「だからこれで」
クラリの横で一つの剣が刺さる。違うという顔をしたアルトはその剣を取って、次は刺すという気を出していた。
その時、足音が聞こえて誰かがここに来た。
「もうやめてくれよ、アルト」
「……フォトか。そしてお前は黒雨」
「クラリを離せ」
「ふーん。この天使のことか」
「お前は天使を助けに来たのか? 違うだろう」
「わかっているじゃないか。お前を殺すために来た」
「じゃあ、先にお前を殺しちゃおうかな?」
アルトは黒雨たちの方へ向きを変えて、剣を飛ばした。その速さは目に負えないものだった。
「何?」
アルトは驚いたように目を丸くして黒雨の方を見た。黒雨は死んだなと思いながら目を開くと剣を受けていたのはクラリだった。クラリは黒雨に寄りかかって、剣は彼女をすり抜けた。
「なぜ?」
「よかった。死ぬのが黒雨じゃなくて……」
そう言いながら彼女の姿は消え始めていた。彼女の手が黒雨の頬を触るけれどその感覚もなくなっていく。
「黒雨のことが好きで本当に良かった」
クラリは涙を流しながら、黒雨の腕の中で消えていった。
その様子にアルトは笑っていた。その笑いに怒りを覚えた黒雨はクラリを貫いた剣でアルトを切った。アルトの笑いは消えその場に倒れた。何の言葉も放たないまま死んでいった。
「これですべて終わったのか……でも僕の友人は」
「何人か死んでしまったな」
何も言えないまま二人が黙っていると黒雨のポケットが光り始めた。そこに入っていたのはクラリがくれた天使の涙だった。そしてそれが示していた先には教会があった場所だった。
「そこに行けばいいのか? クラリ……」
黒雨は立って、その場所へ向かった。フォトはそれについて行く形で教会に着いた。
教会は壁もなければ、椅子もピアノも壊されていた。しかし教壇だけは傷一つなくその場に立っていた。
「教会に着いたけど何をすればいいのかな?」
「たぶん祈れってことじゃないのか」
「そういうことか」
二人は手を合わせて座りこんだ。
「フォト……今から言うことに否定しないでくれないか」
「うん」
「もし神がこの世界に存在するというなら俺の願いを聞いてほしい。本来ならクラリに言うはずだったものだ。俺の願いはみんなを助けてほしい……自分の命と能力を代償にして、みんなを生き返らせてくれ」
「えっ……そんなことしたら黒雨は……あっ、ごめん」
「フォトなら止めてくれると思っていたよ。でもいいんだ。俺が救われたのもこうやって生きているのもみんなのおかげだって思っているから」
「でもみんなが生き返ったとして黒雨はいないんだよ。それでもいいの?」
「……」
「本当は嫌なんだね」
その声に驚いて二人は祭壇の方を向くとそこに白い何かが立っていた。
「もしかして神……様?」
「しかり私は神様である。クラリはよく頑張ってくれたみたいだけどね。そしてよく生き残ってくれた」
「……」
「言葉にできなくとも驚いていることはわかっておる。クラリを呼び出したのが戦争を願っていたから私は嫌でね。だから君のところに落としたのだけど良い結果を生んでくれてよかった」
「いい結果だって! そんなこと」
「まぁ、多くの人が亡くなっているからいいとは言えないのか。でもこうやって神様に会っているのだから。それで本題なのだが、君の願いを叶えようと思う。しかし条件は変えてもらうよ。命をもらうなんて悪魔がやることだからね。君たちの持つ能力を頂くことにするよ」
「俺なら人より早く動ける力。フォトなら姿を消す力ってことか」
「そういうこと。そうでもしないとクラリが悲しむからね。ああ、能力はみんなだからね、君たちの友人の力は全員もらうよ」
「……」
「確か魂はオルムとアルトとリッシュかな……。あとテルーラもか」
「リッシュ、あいつ死んでいたのかよ。それよりテルーラ兄さん、どうして」
「彼は避難していた人をたくさん助けていたのだよ。能力がないとはいえ自分ができることをしたんだろうね」
「そうだったんだ」
「……それじゃ、私は君の願いを叶えて去ろうとしますかね。また会える日を楽しみにしているよ」
そう言い神は姿を消した。灰色に染まっていた空から日の光が差し、少しずつ白い雲と水色の空が現れていた。その光が天使の涙を照らし、光の柱を作っていた。柱は形を変えて黒雨の中で目を覚ました。
「私は……」
「クラリなのか」
「えっ」
クラリは黒雨を見るとすぐに抱き着いてきて泣いた。その姿は羽も天使の輪もなく、白いワンピースを着た人になっていた。
泣きじゃくるクラリを見て、黒雨はもらい泣きしようとしたが、フォトがいたから我慢した。
「我慢しなくてもいいよ。でもどうしてクラリちゃんも?」
「俺の願いのみんなはクラリも含まれていたんだ……」
「そういうことか。だから天使だったクラリちゃんは人になったのかな」
「おそらく」
二人は笑い泣きをして話していると、クラリが泣き止んで黒雨から離れた。
「ねぇ、みんなのところに行こうよ」
「……それもそうか」
「どんな顔をするんだろうね」
クラリは空を飛ぼうとするが、自分が飛べないことを知ると黒雨の背中に乗ろうとする。仕方がないなという気持ちで黒雨はクラリをおんぶしてフォトと一緒に平和の国に歩いて行った。
何か月経っただろうか。国は一つになっていた。名前はまだ決まっていなくてかつての王だったフリュとアルトが意見を合わせてくれなくてコタは一人困っていた。その間に目を覚ましたテルーラ、リッシュはフォト、黒雨、クラリとともにオルムの病室に来ていた。
「今日も目覚めてないね」
「能力の反動といえば一番かかっているだろうからね」
「それよりもテルーラ兄さん、それは何?」
「これは単なるお茶だけど」
なんて会話をしていた時、クラリはオルムの手を握っていた。もう何の力もないけれど神様が助けてくれるかなと思っていた。
「クラリ……また明日になれば」
「そうだよね」
そういって手を離した時、かすかに何か動いたような気がした。それを見た四人はクラリを押し抜いてオルムに近づいた。でもそれ以降の動きは何もなかった。気のせいかと思ったが何かの声がフォトに届いた。
「オルムが……しゃべった気がする」
「それもなんかの気のせいだろう」
「それは違う」
フォトと黒雨が言い合っていると、その音に反応したのか少しだけ動いた気がした。そしてオルムの顔を覗いていたリッシュは驚いて二人の後ろに下がってきた。
「なんだよ、リッシュ」
「あ……あれを見てよ」
恐ろしい顔をして指さした先はオルムが起き上がっている姿だった。
「なんだよ。俺が起きただけで驚くのかよ」
そう言いニヤリと笑うとフォトが泣き出して抱きついていた。
「ごめんな」
「ううん……よかったよ」
それを周りは温かい雰囲気で迎えていた。クラリは一人浮いてしまってどうしようかと思っていると黒雨が手を引いて中に入れてくれた。
オルムが一人で行動できるようになるまでみんなで支えていたが、自由になった時にはフリュとアルトの意見が一致していた。
「やっぱり名前は攻守の国になった」
「俺たちだけで考えるのは結構きついってことが分かったからな」
フリュとアルトは二人の王として攻守の国を守ると誓った。コタは相変わらず王の側近の騎士をとしているんだろうなと他の人は思っていた。しかし能力のないこの世界においてそういう優遇ではいけないと思ったフリュが闘技場を作って側近の騎士を決めると言った。
審判を引き受けるよとテルーラは言い、リッシュとコタ、オルムは剣を振って訓練していた。しかし黒雨とフォトは騎士になることをやめ、城の中にあった庭の掃除をしていた。
「フォトはやめたのか?」
「僕は能力のおかげで騎士になっていたようなものだから、剣なんて全く振れないし」
「そうなのか」
「黒雨こそ、騎士になれそうなのに」
「俺は今のまま、情報収集だけでいいと思っているよ」
「それはなくなっていないんだ」
「フリュが戦争はないだろうけど、他国のことを考えてらしい」
「そっか」
「黒雨! フォトさん! 休憩でもしませんか?」
クラリがお茶を持って二人に話しかけた。
「いい時に持ってくるな、お前は」
「そろそろかなって思って」
「……クラリちゃんは何か職業とかあるの?」
「今のところはなくて……。ただフリュから二人の世話をしてほしいって言われた。今日だと庭掃除しているから休憩とかかな」
「なるほどね。フリュも考えているな」
「フリュはともかく、アルトは何をしているんだ?」
「さっき言われた時には資料整理していたけど」
「そういえばアルトは文字が読めなくなっているんだった。前までわからない文字ばかりを読んでいたから人の言葉を知らないのかも? しれない」
「それって能力のせいなのか?」
「おそらくそうだけど。だってクラリちゃんも神の言葉ってわからなくなったって言っていたよね」
「はい、確かに分からなくなりました。今まで読めていた文字がまったく……」
「能力の反動ってそういう面にも出ているんだな」
「それがおそらく今回の騎士決めにも出てると思うんだ」
「どうしてですか?」
「例えばオルムだと体が覚えているって感じで」
「心をなくしていたとはいえ、そういうところは覚えているんだな」
「リッシュも僕と同じように能力で騎士になったから、まったく剣振れてなかったし」
「コタは曖昧だったな」
「皆さん、苦労している人もいるんですね」
「うん、よし。フォト」
「何?」
「そろそろ騎士候補のところに行くか?」
「そうだね」
「えっ? だってまだ終わってないんじゃないの。怒られちゃうよ」
「あいつらがこんなことで怒ったりしないよ」
黒雨とフォトはクラリを置いて庭から出て行った。
「ちょっと待ってよ!」
クラリはもうと思いながら二人を追いかけていった。
その後、闘技場で王の側近の騎士を決める大会を開いたが、集まった人数は二十人程度で、途中放棄などが多すぎてきちんと残っていたのはあの三人だった。その三人で戦った結果は引き分け。決まらなかったので仕方なく二人の王は三人を側近の騎士にした。
そして新しい二人の王と側近の騎士三人、鉱山役、庭師と情報収集役、お世話係の九人の写真が王の間に飾られていた。
教会が建っていた場所はもう瓦礫の山へと変わっていた。瓦礫の山を登ってコタは一人の騎士に出会った。
「ここまで逃げるとは最初の剣はいったいどういう意味だったのか?」
「……意味はない。ただお前を殺せというアルトの命令だけ」
「そうか」
コタは隙を見て彼の首元に剣を当てるように後ろに回った。
「切ればいいものを」
「お前はそう簡単にできるんだろうな。心がないから……」
そう言って後ろに下がろうとしたら、逆に剣が首元にあった。ヒヤッとしてコタは剣を避けて離れる。
「……なぜ話している間に首を切らなかった」
「わからない。手が動かなかった」
「本当は心なんて戻っているんじゃないのか? オルム」
「知らない」
そう言い剣を向けるが、コタの剣で受け止める。何度も剣を交えるが、両方とも隙を与える様子はなかった。しかし少しずつコタの方が疲れてきて、動きが鈍くなっていく。そして次に剣を交えた時、コタの剣が地面に突き刺さった。
「もう終わりなのか」
「……」
「さよなら」
オルムがコタの首を切ろうとした時、彼の剣が後ろに飛んだ。
「!」
「終わらせるつもりはないよ。本当は使いたくなかったんだけどね」
オルムの動きが止まったのと同時にコタは彼の体を縛り動けなくした。
「能力のことまで忘れているのか?」
「……」
「黙っているのは知らないからか。俺の能力は言葉にしたものが本当になるものだ。だから俺の剣を右手にって言えばこうなる」
その声に反応したように地面に突き刺さっていた剣が右手に収まり、オルムの首元に当てられる。
「本当は殺したくないんだよ。友人を殺すなんてしたくない。違う出会い方なら争う必要もなかったのかもしれないな」
コタはそう言いながら知らないうちに涙を流し、雫がオルムの顔にかかる。かすかにオルムの目に光が戻っていたが、コタは気づかない。
「ごめん。こんな俺じゃお前を救えなかったことを恨んでくれ」
そしてコタは首を切らずに腹を剣で刺した。オルムの周りに血のたまりができていく。コタは剣を抜くとオルムから離れた。その時、目に光が戻っていることに気がついて絶望し崩れ落ちた。
「もう少し早く気づいていれば……」
そう後悔しながら立ち上がることもできず、座り込んでしまった。
フォトと黒雨は武力の国の城に向かっていた。その矢先、誰かが座り込んでいるのが見えた。近くまで行ってみるとコタと血を流して倒れているオルムの姿があった。フォトは真っ先にオルムのところに行って抱きかかえた。
「オルム! しっかりして」
「……フォトか」
その声にコタと黒雨はフォトのところに座り、オルムの顔を見た。血まみれで息をすることさえ、苦しいはずなのに何かを言おうとしていた。
「しゃべらないで……」
「今まで心配かけてごめん。フォト」
「オルム……もしかして心が戻って」
フォトがそう言った時にはオルムは目を閉じて息がなくなっていた。
「オルムは死ぬ前に心が戻っていたんだ……それに気づいていれば殺さずに済んだかもしれないのに」
コタが後悔の言葉を言うとフォトは首を振った。
「そんなことはないよ。むしろオルムが人として死んでくれたことに感謝だよ。もうあの時の声も聞けないかと思っていたから」
フォトの顔に一粒の雫が頬に流れていた。
「フォト……」
「もう大丈夫、それよりもすべての元凶のアルトを止めないと」
「お前の王がやはり原因なのか?」
「うん。自分の力が制御できなくて暴走している」
「それを止めようとフォトと一緒に武力の国に向かっているんだ」
「そうか……」
コタは納得したように頷いたが、二人について行こうとしない。
「俺はオルムを安全な場所に運んでおくよ。そうしてからそっちに向かうから」
「わかった」
黒雨の返事の頷きと同時にコタはオルムを抱えて別方向へと歩き始めた。コタがいなくなってフォトと黒雨は武力の国の城がもうすぐであることを知った。しかしその時、空で光の線が通り過ぎた。
「あれは?」
フォトが首をかしげていると黒雨はまさかと思って走り出そうとしていた。
「早く行かないとあいつが死ぬ」
「どうしたんだよ、黒雨」
「クラリ……。なんでもない」
「もしかして天使のこと?」
黒雨は頷いてフォトに答えた。フォトは彼の深刻的な顔を見て、彼の手を取った。
「それなら早く行こう。でもアルトに気がつかれないようにして」
フォトの提案に黒雨は頷き、彼の能力で姿を消し、黒雨の能力で人以上のスピードで走った。
クラリはフリュに連れられて奥の部屋に入った。フリュが深刻な顔をしているから何も言わずに口を開くのを待っていた。
「これを君に言っていいのかわからないが……私の力ではアルトを止められないかもしれない」
「それって平和の国が守れないかもしれないってことですか」
「ああ」
「それじゃ……みんな死んじゃうの」
「それだけはしてはいけない。けれど私の力では守ることができても攻撃はできない。そして守り続けていてもどこか欠陥が出る。そこで君の力を借りたい」
「私の力……誰かを捕らえることと光の矢を飛ばすことくらいしかできないけど」
「それでいい。もし私が守り切れないと判断した時、君は武力の国の城に向かってほしい。少しの時間稼ぎでいい。その間に黒雨が城内に入ってくれさえすれば」
「……うん。みんながそれで助かるのなら行く」
「私の力がまだ役に立つものならよかったのだけど、すまない。私は準備に取り掛かるから君は外の様子を見ていてくれ」
「はい」
クラリはフリュに言われた通り、その部屋から出て窓の見える方へ向かった。その時にはもう黒雨やリッシュの姿はなくて、二人とも作戦を実行したのかと思った。
数時間が経って、クラリはフリュに言われて、窓から武力の国の城に向かって飛びたった。爆弾の煙で空は灰色の雲に覆われ、クラリの飛んだ跡がはっきりと残った。
武力の国の城の屋上に着いて少し休もうとしたら、下の床から黒い枝のようなものが伸びてきて足場を破壊した。そこにいたのはその枝と一体化していたアルトだった。
「あなたがすべての元凶……」
クラリの声はアルトに届いていないようで彼は何も言わなかった。そのかわり黒い枝のようなものがクラリを襲い、彼女はそれを全部よけて城の柵に立つ。
「やはり天使は存在していたのか……フリュめ」
その声は人と思えないほどに壊れていて、目は赤く染まっていた。そして彼の手と思われるところに本があり、そこから元凶が生まれているのかもしれないと思った。
クラリはその黒い枝を一本ずつ光の矢で根元から消していったが、彼のスピードが速すぎてどんどん再生していく。時間稼ぎだと言われていたけれどこれでは何の役にも立たないと感じた。空を飛びながら戦っていると、枝の間に見たことのない生き物がたくさんいて、それらが力になっていると気がついた。クラリは生き物たちを矢で射抜いた。それはあたりのようで枝の再生スピードが落ちた。
「よしこれを繰り返せば……」
「貴様。これでいい気になるなよ」
クラリの隙を見逃さなかったアルトは彼女の右翼を貫いて落とした。
「痛い……でも再生すれば」
落とされた先で座り込み少しずつ右翼を再生していたが、アルトがそこにやってきて矢を打ち左翼も破壊した。
「これでお前は飛べない」
枝と生き物たちを破壊されたアルトは人に近い姿に戻っていた。
「……」
「俺をここまで追い詰めるとはやはり人外の力だ」
「あなただって飲み込まれる前だった」
「それがどうした。まだ俺はこの力ですべてを破壊する」
「ダメ! それをしたらみんな死んじゃう」
「……死んでも生まれ変わるだろう。そのための代償さ」
「そんな」
「だからこれで」
クラリの横で一つの剣が刺さる。違うという顔をしたアルトはその剣を取って、次は刺すという気を出していた。
その時、足音が聞こえて誰かがここに来た。
「もうやめてくれよ、アルト」
「……フォトか。そしてお前は黒雨」
「クラリを離せ」
「ふーん。この天使のことか」
「お前は天使を助けに来たのか? 違うだろう」
「わかっているじゃないか。お前を殺すために来た」
「じゃあ、先にお前を殺しちゃおうかな?」
アルトは黒雨たちの方へ向きを変えて、剣を飛ばした。その速さは目に負えないものだった。
「何?」
アルトは驚いたように目を丸くして黒雨の方を見た。黒雨は死んだなと思いながら目を開くと剣を受けていたのはクラリだった。クラリは黒雨に寄りかかって、剣は彼女をすり抜けた。
「なぜ?」
「よかった。死ぬのが黒雨じゃなくて……」
そう言いながら彼女の姿は消え始めていた。彼女の手が黒雨の頬を触るけれどその感覚もなくなっていく。
「黒雨のことが好きで本当に良かった」
クラリは涙を流しながら、黒雨の腕の中で消えていった。
その様子にアルトは笑っていた。その笑いに怒りを覚えた黒雨はクラリを貫いた剣でアルトを切った。アルトの笑いは消えその場に倒れた。何の言葉も放たないまま死んでいった。
「これですべて終わったのか……でも僕の友人は」
「何人か死んでしまったな」
何も言えないまま二人が黙っていると黒雨のポケットが光り始めた。そこに入っていたのはクラリがくれた天使の涙だった。そしてそれが示していた先には教会があった場所だった。
「そこに行けばいいのか? クラリ……」
黒雨は立って、その場所へ向かった。フォトはそれについて行く形で教会に着いた。
教会は壁もなければ、椅子もピアノも壊されていた。しかし教壇だけは傷一つなくその場に立っていた。
「教会に着いたけど何をすればいいのかな?」
「たぶん祈れってことじゃないのか」
「そういうことか」
二人は手を合わせて座りこんだ。
「フォト……今から言うことに否定しないでくれないか」
「うん」
「もし神がこの世界に存在するというなら俺の願いを聞いてほしい。本来ならクラリに言うはずだったものだ。俺の願いはみんなを助けてほしい……自分の命と能力を代償にして、みんなを生き返らせてくれ」
「えっ……そんなことしたら黒雨は……あっ、ごめん」
「フォトなら止めてくれると思っていたよ。でもいいんだ。俺が救われたのもこうやって生きているのもみんなのおかげだって思っているから」
「でもみんなが生き返ったとして黒雨はいないんだよ。それでもいいの?」
「……」
「本当は嫌なんだね」
その声に驚いて二人は祭壇の方を向くとそこに白い何かが立っていた。
「もしかして神……様?」
「しかり私は神様である。クラリはよく頑張ってくれたみたいだけどね。そしてよく生き残ってくれた」
「……」
「言葉にできなくとも驚いていることはわかっておる。クラリを呼び出したのが戦争を願っていたから私は嫌でね。だから君のところに落としたのだけど良い結果を生んでくれてよかった」
「いい結果だって! そんなこと」
「まぁ、多くの人が亡くなっているからいいとは言えないのか。でもこうやって神様に会っているのだから。それで本題なのだが、君の願いを叶えようと思う。しかし条件は変えてもらうよ。命をもらうなんて悪魔がやることだからね。君たちの持つ能力を頂くことにするよ」
「俺なら人より早く動ける力。フォトなら姿を消す力ってことか」
「そういうこと。そうでもしないとクラリが悲しむからね。ああ、能力はみんなだからね、君たちの友人の力は全員もらうよ」
「……」
「確か魂はオルムとアルトとリッシュかな……。あとテルーラもか」
「リッシュ、あいつ死んでいたのかよ。それよりテルーラ兄さん、どうして」
「彼は避難していた人をたくさん助けていたのだよ。能力がないとはいえ自分ができることをしたんだろうね」
「そうだったんだ」
「……それじゃ、私は君の願いを叶えて去ろうとしますかね。また会える日を楽しみにしているよ」
そう言い神は姿を消した。灰色に染まっていた空から日の光が差し、少しずつ白い雲と水色の空が現れていた。その光が天使の涙を照らし、光の柱を作っていた。柱は形を変えて黒雨の中で目を覚ました。
「私は……」
「クラリなのか」
「えっ」
クラリは黒雨を見るとすぐに抱き着いてきて泣いた。その姿は羽も天使の輪もなく、白いワンピースを着た人になっていた。
泣きじゃくるクラリを見て、黒雨はもらい泣きしようとしたが、フォトがいたから我慢した。
「我慢しなくてもいいよ。でもどうしてクラリちゃんも?」
「俺の願いのみんなはクラリも含まれていたんだ……」
「そういうことか。だから天使だったクラリちゃんは人になったのかな」
「おそらく」
二人は笑い泣きをして話していると、クラリが泣き止んで黒雨から離れた。
「ねぇ、みんなのところに行こうよ」
「……それもそうか」
「どんな顔をするんだろうね」
クラリは空を飛ぼうとするが、自分が飛べないことを知ると黒雨の背中に乗ろうとする。仕方がないなという気持ちで黒雨はクラリをおんぶしてフォトと一緒に平和の国に歩いて行った。
何か月経っただろうか。国は一つになっていた。名前はまだ決まっていなくてかつての王だったフリュとアルトが意見を合わせてくれなくてコタは一人困っていた。その間に目を覚ましたテルーラ、リッシュはフォト、黒雨、クラリとともにオルムの病室に来ていた。
「今日も目覚めてないね」
「能力の反動といえば一番かかっているだろうからね」
「それよりもテルーラ兄さん、それは何?」
「これは単なるお茶だけど」
なんて会話をしていた時、クラリはオルムの手を握っていた。もう何の力もないけれど神様が助けてくれるかなと思っていた。
「クラリ……また明日になれば」
「そうだよね」
そういって手を離した時、かすかに何か動いたような気がした。それを見た四人はクラリを押し抜いてオルムに近づいた。でもそれ以降の動きは何もなかった。気のせいかと思ったが何かの声がフォトに届いた。
「オルムが……しゃべった気がする」
「それもなんかの気のせいだろう」
「それは違う」
フォトと黒雨が言い合っていると、その音に反応したのか少しだけ動いた気がした。そしてオルムの顔を覗いていたリッシュは驚いて二人の後ろに下がってきた。
「なんだよ、リッシュ」
「あ……あれを見てよ」
恐ろしい顔をして指さした先はオルムが起き上がっている姿だった。
「なんだよ。俺が起きただけで驚くのかよ」
そう言いニヤリと笑うとフォトが泣き出して抱きついていた。
「ごめんな」
「ううん……よかったよ」
それを周りは温かい雰囲気で迎えていた。クラリは一人浮いてしまってどうしようかと思っていると黒雨が手を引いて中に入れてくれた。
オルムが一人で行動できるようになるまでみんなで支えていたが、自由になった時にはフリュとアルトの意見が一致していた。
「やっぱり名前は攻守の国になった」
「俺たちだけで考えるのは結構きついってことが分かったからな」
フリュとアルトは二人の王として攻守の国を守ると誓った。コタは相変わらず王の側近の騎士をとしているんだろうなと他の人は思っていた。しかし能力のないこの世界においてそういう優遇ではいけないと思ったフリュが闘技場を作って側近の騎士を決めると言った。
審判を引き受けるよとテルーラは言い、リッシュとコタ、オルムは剣を振って訓練していた。しかし黒雨とフォトは騎士になることをやめ、城の中にあった庭の掃除をしていた。
「フォトはやめたのか?」
「僕は能力のおかげで騎士になっていたようなものだから、剣なんて全く振れないし」
「そうなのか」
「黒雨こそ、騎士になれそうなのに」
「俺は今のまま、情報収集だけでいいと思っているよ」
「それはなくなっていないんだ」
「フリュが戦争はないだろうけど、他国のことを考えてらしい」
「そっか」
「黒雨! フォトさん! 休憩でもしませんか?」
クラリがお茶を持って二人に話しかけた。
「いい時に持ってくるな、お前は」
「そろそろかなって思って」
「……クラリちゃんは何か職業とかあるの?」
「今のところはなくて……。ただフリュから二人の世話をしてほしいって言われた。今日だと庭掃除しているから休憩とかかな」
「なるほどね。フリュも考えているな」
「フリュはともかく、アルトは何をしているんだ?」
「さっき言われた時には資料整理していたけど」
「そういえばアルトは文字が読めなくなっているんだった。前までわからない文字ばかりを読んでいたから人の言葉を知らないのかも? しれない」
「それって能力のせいなのか?」
「おそらくそうだけど。だってクラリちゃんも神の言葉ってわからなくなったって言っていたよね」
「はい、確かに分からなくなりました。今まで読めていた文字がまったく……」
「能力の反動ってそういう面にも出ているんだな」
「それがおそらく今回の騎士決めにも出てると思うんだ」
「どうしてですか?」
「例えばオルムだと体が覚えているって感じで」
「心をなくしていたとはいえ、そういうところは覚えているんだな」
「リッシュも僕と同じように能力で騎士になったから、まったく剣振れてなかったし」
「コタは曖昧だったな」
「皆さん、苦労している人もいるんですね」
「うん、よし。フォト」
「何?」
「そろそろ騎士候補のところに行くか?」
「そうだね」
「えっ? だってまだ終わってないんじゃないの。怒られちゃうよ」
「あいつらがこんなことで怒ったりしないよ」
黒雨とフォトはクラリを置いて庭から出て行った。
「ちょっと待ってよ!」
クラリはもうと思いながら二人を追いかけていった。
その後、闘技場で王の側近の騎士を決める大会を開いたが、集まった人数は二十人程度で、途中放棄などが多すぎてきちんと残っていたのはあの三人だった。その三人で戦った結果は引き分け。決まらなかったので仕方なく二人の王は三人を側近の騎士にした。
そして新しい二人の王と側近の騎士三人、鉱山役、庭師と情報収集役、お世話係の九人の写真が王の間に飾られていた。
桜詩凛の読みは「さくらしりん」で、由来は二つ。一つは元から使っていた桜子凛花が長いと思ったため、短くするために「桜」と「凛」を取り、その間に当時から書いていた「詩」をいれたもの。もう一つは『複雑な生き方をする少女』に登場する「さくら、黒蛇、シラ、理夏(りか)、ラナン」の頭文字を取ったものとなってい…
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