記録 招かれた少年と白紙の本
公開 2023/10/06 07:34
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その世界は一つにまとまっていた。しかし一人の少年が切り開いた未来によってその世界がすでに二つになっていることに気づかされた。修正される前の世界と修正された後の世界。二つの世界において同じ人間が存在しても、すべての記憶が偽物と判断されたとしても、どちらも真実でどちらも嘘だった。二つの世界に行き来する者以外、交えることもなく誰もその真実を知っている者はいなかった。
だが世界の声を聞いた者だけはそれぞれの理由を知ることが出来た。しかしすべての世界の記憶を知ることは出来ない。修正される前の世界と修正された後の世界、二つの世界を同時に知ることは出来ず、片方のすべてを知ることは出来た。それでもその世界に住まう者達は何も知らなかった。
永遠の機械人形は世界を消滅させるために存在する。元は神の手によって作られた存在であったが、機械人形に使用された少女の魂と体、その意志は人間のためでも神のためでもなかった。たった一つ残された記憶、増え続けた世界を、一人の少女を殺す役目。それだけが永遠の機械人形を動かしていた。世界の観測者に出会うまでは。
一人の少年は招かれた。そして名を奪われ、自分が何者であったのかわからなくなっていた。天から落ちてきた一冊の本は見知らぬ文字を綴りながら頁は進んでいく。だがそれを少年は何故か理解できた。理解できたのではなく、理解させられていたのだが、それを少年は最初から分かっていたと誤認識されていた。綴り続ける文字に変わって描かれた絵には一人の少女がいた。魂によって繋がれた世界は多く存在し、すべての人間が幸せになっても一人の少女が幸せにならなければ、その世界はなかったことにされる。
頁は増え続ける。終わりを知らないまま、誰も止めないから世界が終わらない。少年は終わらせなければと思ったが、それが自分の意思であると気づくことはなかった。それが役目であると認識した時、同時に綴り続けた文字が止まった。
『願いと十字架 勾玉と呪い その現実は幻で 最初だけの幸せ 終わりは何処に』
本はその文字列だけを残してすべての頁から書かれていた文章が消えた。ほぼ白紙となった本が最初に書いたのは『祈り』という文字だけだった。
二つの世界に分たれているという理由を知ったとて、その世界に類しない世界が存在していた。それらは史実として存在する現代の記録。それは誰かが未来を切り開く前に起こった出来事だった。だから二つの世界においてどちらとも真実を伝えることが出来て、そして嘘は何処にもなかった。だがそれを理解できる者がいたかいないかによるだけだった。
遠い夢を見る。少年が手にした一冊の本はすべての世界を知らない。勝手に綴っていたものは真実などどこにもない嘘の記憶。願いによって繋がれた複数の世界、それらに共通する一人の少女。その魂が世界に落ちた時、歪な未来を切り開くことしか出来なくなる。それが運命であり、それが破壊であり、誰もそれを認識することはない。分かっているのはこの本を手にした彼だけなのだ。後は世界の真実を知る者だけ。
妖怪と少女、二人のすれ違う願い。転生を願い再び出会うことを選択した少女と待つことを選択した妖怪。だが転生がもたらした願いの代償は記憶だった。前世の記憶を失った少女にとって妖怪は殺さなければいけなくなっていた。それを知らぬ妖怪は少女に退治される時、壊れた感情によって暴走し少女を殺した。
最初の少女は暗闇の中で泣いている。魂はすでにない。彼は戻ってこない、まだ生きているのだから。それでも待ち続けるにはもう時間がなかった。体は幾度となく壊れて再生する。魂はどんどん穢れていき、願いと呼ばれていた呪いは強くなっていく。その度に最初の少女はその姿を維持できなくなる。完全な呪いの存在となった時にはもうその願いの意味を失ってしまう。そうならないようにしたかったが、どうしようもない。一度離れてしまった魂を取り戻す方法はない。薄くなっていく体が見え隠れするようになってからその意識は儚く散る。
『優しい光と繋がる鎖』
少年が辿り着いた時には一冊の本が落ちていた。暗闇の中、その本だけは光っていた。
最初に綴られた少女の記録。それをかわきりに次々と見つかっていく。少年は拾い上げて本棚へと並べていく。本の題名がはっきりしないものもあったが、それはまだその世界が終わっていないからだとわかっていた。世界が確定して初めて終わりを迎えるのだとそう思っていた。数えきれないほどの本が集められてどれだけ本棚が増えようとも必ず空きがあった。少女の魂が繋がった世界にとどまらず、その他の世界にも少女が侵食していた。魂の形がどうであれ、呪いがついてしまった世界には生まれ落ちてしまうのだった。
あの白紙だった本はあれ以降書かれることはなかった。当時のままの文字列が残されていた。世界は本となって綴られ続けて増えていた。しかし少年自身もそれが真実だとわからなかった。だから読み返そうとしたが、その文章は彼の手から零れ落ちて消えた。それがまるで嘘だったかのように、何も無かったかのように一つの世界が消えた。それに反応して白紙の本は意思を持って勝手に開いた。一つの言葉だけを書き記して閉じた。
『世界の観測者』
その一瞬の出来事を目に追うとこが出来ず、少年は何も見なかった。
その未来を切り開いた少年は二つの世界に分たれたことを後悔しなかった。だがそれによって巻き込まれてしまった者達は彼の存在を憎んだだろうが、それは知る者だけが知る真実であり、普通なら知りえない情報だった。だから怒りさえも起こらない。だからといってすべてがうまくいくとも限らない。その真実を知る者達は二つの世界を行き来することだって可能にしてしまった。一人の霊は生前の記憶を失ったまま、今もどこかの世界を歩き続けていた。修正される前の世界、修正された後の世界、それ以外の世界かもしれない。
それが現実であったかのように、夢であったかのように、境界の狭間でその世界は続いていた。白紙の本が開くことはなく、ただ増え続けていた本はもう止まっていた。新しい世界は少年のもとには届かなくなっていた。世界はまだ増え続けているにもかかわらず、その記録は何処にもなかった。知っているのは少年だけだった。
『永遠の機械人形』
その一冊の本に手をかけた時、何も感じなかった心が恐怖を思い出させた。その本が本棚から滑り落ち、大きな音を立てて床に落ちた時、少年は何か間違っていると思った。その本は少年が拾い上げたものではなく、いつの間にか本棚にしまわれていたものだった。落ちた本を拾い上げて、恐怖を覚えながら開いてみるとやっと意味がわかった。
世界は増え続けて終わりを迎えても、その者が全て消滅させてしまう。そうして最初からなかったことにされた世界は何も残らない。そしてここに届かない。
二つの世界が生まれた日、永遠の機械人形も同時に生まれていた。それは増え続ける世界を止めるためだったが、止めるには消滅させるしかなかったと理解したのが間違いだった。その間違いを正しいとしたまま、本当の正解をなかったことにした。
永遠の機械人形がすべてを消し去ることに恐れた者達は対抗策になりえる存在を作り出そうとした。それが『世界の観測者』だった。そしてそれが少年の正体だった。名を奪われていたのではなく、最初から名前などなかった。世界を記録する者として生み出された少年は何もなかった。一人の少女を介して世界の運命を知り、永遠の機械人形の危険性を知り、やっとたどり着いた。
白紙の本が本来の姿を取り戻し、少年は『世界の観測者』になった。
だがそれは本当に一人目だったのだろうか? それを知る者はいない。
その世界は一つにまとまっていた。しかし一人の少年が切り開いた未来によってその世界がすでに二つになっていることに気づかされた。修正される前の世界と修正された後の世界。二つの世界において同じ人間が存在しても、すべての記憶が偽物と判断されたとしても、どちらも真実でどちらも嘘だった。二つの世界に行き来する者以外、交えることもなく誰もその真実を知っている者はいなかった。
だが世界の声を聞いた者だけはそれぞれの理由を知ることが出来た。しかしすべての世界の記憶を知ることは出来ない。修正される前の世界と修正された後の世界、二つの世界を同時に知ることは出来ず、片方のすべてを知ることは出来た。それでもその世界に住まう者達は何も知らなかった。
永遠の機械人形は世界を消滅させるために存在する。元は神の手によって作られた存在であったが、機械人形に使用された少女の魂と体、その意志は人間のためでも神のためでもなかった。たった一つ残された記憶、増え続けた世界を、一人の少女を殺す役目。それだけが永遠の機械人形を動かしていた。世界の観測者に出会うまでは。
一人の少年は招かれた。そして名を奪われ、自分が何者であったのかわからなくなっていた。天から落ちてきた一冊の本は見知らぬ文字を綴りながら頁は進んでいく。だがそれを少年は何故か理解できた。理解できたのではなく、理解させられていたのだが、それを少年は最初から分かっていたと誤認識されていた。綴り続ける文字に変わって描かれた絵には一人の少女がいた。魂によって繋がれた世界は多く存在し、すべての人間が幸せになっても一人の少女が幸せにならなければ、その世界はなかったことにされる。
頁は増え続ける。終わりを知らないまま、誰も止めないから世界が終わらない。少年は終わらせなければと思ったが、それが自分の意思であると気づくことはなかった。それが役目であると認識した時、同時に綴り続けた文字が止まった。
『願いと十字架 勾玉と呪い その現実は幻で 最初だけの幸せ 終わりは何処に』
本はその文字列だけを残してすべての頁から書かれていた文章が消えた。ほぼ白紙となった本が最初に書いたのは『祈り』という文字だけだった。
二つの世界に分たれているという理由を知ったとて、その世界に類しない世界が存在していた。それらは史実として存在する現代の記録。それは誰かが未来を切り開く前に起こった出来事だった。だから二つの世界においてどちらとも真実を伝えることが出来て、そして嘘は何処にもなかった。だがそれを理解できる者がいたかいないかによるだけだった。
遠い夢を見る。少年が手にした一冊の本はすべての世界を知らない。勝手に綴っていたものは真実などどこにもない嘘の記憶。願いによって繋がれた複数の世界、それらに共通する一人の少女。その魂が世界に落ちた時、歪な未来を切り開くことしか出来なくなる。それが運命であり、それが破壊であり、誰もそれを認識することはない。分かっているのはこの本を手にした彼だけなのだ。後は世界の真実を知る者だけ。
妖怪と少女、二人のすれ違う願い。転生を願い再び出会うことを選択した少女と待つことを選択した妖怪。だが転生がもたらした願いの代償は記憶だった。前世の記憶を失った少女にとって妖怪は殺さなければいけなくなっていた。それを知らぬ妖怪は少女に退治される時、壊れた感情によって暴走し少女を殺した。
最初の少女は暗闇の中で泣いている。魂はすでにない。彼は戻ってこない、まだ生きているのだから。それでも待ち続けるにはもう時間がなかった。体は幾度となく壊れて再生する。魂はどんどん穢れていき、願いと呼ばれていた呪いは強くなっていく。その度に最初の少女はその姿を維持できなくなる。完全な呪いの存在となった時にはもうその願いの意味を失ってしまう。そうならないようにしたかったが、どうしようもない。一度離れてしまった魂を取り戻す方法はない。薄くなっていく体が見え隠れするようになってからその意識は儚く散る。
『優しい光と繋がる鎖』
少年が辿り着いた時には一冊の本が落ちていた。暗闇の中、その本だけは光っていた。
最初に綴られた少女の記録。それをかわきりに次々と見つかっていく。少年は拾い上げて本棚へと並べていく。本の題名がはっきりしないものもあったが、それはまだその世界が終わっていないからだとわかっていた。世界が確定して初めて終わりを迎えるのだとそう思っていた。数えきれないほどの本が集められてどれだけ本棚が増えようとも必ず空きがあった。少女の魂が繋がった世界にとどまらず、その他の世界にも少女が侵食していた。魂の形がどうであれ、呪いがついてしまった世界には生まれ落ちてしまうのだった。
あの白紙だった本はあれ以降書かれることはなかった。当時のままの文字列が残されていた。世界は本となって綴られ続けて増えていた。しかし少年自身もそれが真実だとわからなかった。だから読み返そうとしたが、その文章は彼の手から零れ落ちて消えた。それがまるで嘘だったかのように、何も無かったかのように一つの世界が消えた。それに反応して白紙の本は意思を持って勝手に開いた。一つの言葉だけを書き記して閉じた。
『世界の観測者』
その一瞬の出来事を目に追うとこが出来ず、少年は何も見なかった。
その未来を切り開いた少年は二つの世界に分たれたことを後悔しなかった。だがそれによって巻き込まれてしまった者達は彼の存在を憎んだだろうが、それは知る者だけが知る真実であり、普通なら知りえない情報だった。だから怒りさえも起こらない。だからといってすべてがうまくいくとも限らない。その真実を知る者達は二つの世界を行き来することだって可能にしてしまった。一人の霊は生前の記憶を失ったまま、今もどこかの世界を歩き続けていた。修正される前の世界、修正された後の世界、それ以外の世界かもしれない。
それが現実であったかのように、夢であったかのように、境界の狭間でその世界は続いていた。白紙の本が開くことはなく、ただ増え続けていた本はもう止まっていた。新しい世界は少年のもとには届かなくなっていた。世界はまだ増え続けているにもかかわらず、その記録は何処にもなかった。知っているのは少年だけだった。
『永遠の機械人形』
その一冊の本に手をかけた時、何も感じなかった心が恐怖を思い出させた。その本が本棚から滑り落ち、大きな音を立てて床に落ちた時、少年は何か間違っていると思った。その本は少年が拾い上げたものではなく、いつの間にか本棚にしまわれていたものだった。落ちた本を拾い上げて、恐怖を覚えながら開いてみるとやっと意味がわかった。
世界は増え続けて終わりを迎えても、その者が全て消滅させてしまう。そうして最初からなかったことにされた世界は何も残らない。そしてここに届かない。
二つの世界が生まれた日、永遠の機械人形も同時に生まれていた。それは増え続ける世界を止めるためだったが、止めるには消滅させるしかなかったと理解したのが間違いだった。その間違いを正しいとしたまま、本当の正解をなかったことにした。
永遠の機械人形がすべてを消し去ることに恐れた者達は対抗策になりえる存在を作り出そうとした。それが『世界の観測者』だった。そしてそれが少年の正体だった。名を奪われていたのではなく、最初から名前などなかった。世界を記録する者として生み出された少年は何もなかった。一人の少女を介して世界の運命を知り、永遠の機械人形の危険性を知り、やっとたどり着いた。
白紙の本が本来の姿を取り戻し、少年は『世界の観測者』になった。
だがそれは本当に一人目だったのだろうか? それを知る者はいない。
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