闇堕ちの能力者 第一章 はじまりの空と結びつく絆(4/4)
公開 2024/12/15 14:38
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 闇市での出来事は『迷霧』によって街には漏れ出すことはなく、かすかに残った記録を警察官達は拾い上げて繋げていた。その牢屋に捕まった関係者達はおとなしくすることなく、《呪われた血》を欲していた。しかし支配人は能力を使うことをせず、牢屋の奥で静かに座っていた。いや使うことが出来なくなっていた。取調室には一人ずつ連れられて、警察官とともにコタラがいた。
「君はどうして闇市に?」
「話す必要が……うぇ……苦しい」
「言葉は選んだ方がいいよ。『亡心』で心臓を握り潰すことだって出来るから気をつけてね」
「……嫌だ。死にたくない」
「なら正直に答えて。そうすれば少し罪は軽くなる。『転移』で死に場所に送らずに済む」
「はい」
 コタラの『亡心』が尋問において有能すぎて、警察官達も彼を頼るしかなかった。取調室の机に小さいぬいぐるみが乗っていた。

 尋問はかなりの時間を消費して、最後に支配人の番となった。警察官に連れられて取調室に着いてコタラの前に座った。コタラが声をかけようとする前に支配人はしゃべり始めた。
「初めは《呪われた血》を持つ少女との出会いだった。あの子の生まれは不明であらゆる検査の結果、この世界の人間ではないということが判明した。それにより異界の存在を認識することとなり、私はその世界へ行ってみたいと思うようになった。少女のいた世界では能力を制御するための『式神システム』と呼ばれるものが開発されており、それによって無理をしなければ安全に能力を使用することが出来る。元は神を殺すために植えつけられた能力を制御するためだったようだが……そこら辺の資料はあまりなかった」
「知り合いの情報屋が持ってきた資料にある程度書いてあったから少しは理解できる。だがそれで拉致し、少女の意思なく《呪われた血》を採取し続ける行為はあまりにも残酷だ」
「それはそうだ。しかし研究者と言うものは好奇心には勝てない。あの資料を知っているということはかつて存在した孤児院のことも知っているね」
「ああ、一応。すべては教えてくれなかったけど」
「あの孤児院にいた子供達を……能力の実験体とした。あらゆる生き物達との触れ合いをすると称して、能力が覚醒するのを見ていた。しかし何日経とうが何も起こらなかった。しかし少女をその部屋に連れて行った日、蛇に触れようとした子供の手が吹っ飛び、その他の子供達の恐怖と悲鳴を煽り、混乱状態となった。蛇には元々、普通の生き物達とは違う何かを所持していたらしい。そしてそれは一度逃がされた」
「逃がした?」
「そう、あまりにも危険すぎる生き物が野に放たれ、私含めた研究者はなんとか見つけて殺そうとした。だが数日も経たないうちに、少女の腕に巻きついていた。蛇は威嚇するから触れられず、少女に触れようとした他の研究者の手が、あの日の子供と同じ状態になった時、その何かが彼女に渡ったのだと知った。後に『破壊』という能力名がつき、その制御を行う蛇が『式神システム』の最初の成功例となった。しかしそれが研究の崩壊のはじまりだった。少女と筆頭に多くの子供達が能力と『式神システム』を得ることになったが、それによって見知らぬうちに情報が漏れだし、孤児院の実質的権利を子供達が握るようになって、研究者の一部は子供達によって殺され、私は何とか逃げ切れた」
「逃げ切れた……それで終わればよかったのに」
「思ったよ、あの時も……だがあの子が見つかった。『時計』の子が」
「あいつか」
「彼は『式神システム』を所有していないにも関わらず、能力をある程度扱うことが出来ていた……と思っている。埋め込まれていた懐中時計は物理的に取り出すことが出来ず、彼の魂と繋がっていた。あんなもの見てやめられるはずがなかった。彼はおそらく何者かからの干渉を受けている、と思って調べたかった。だがあの少女は邪魔をした。それに知らないうちに『封印』というもう一つの能力を手に入れていた。やはり彼女の存在が必要だ、と再度仕掛けた。極限状態まで使わせた能力は暴走を超えて人形となる。人の姿を維持できている方が稀な話。《呪われた血》を採取し、一部は闇市に流さず街にばら撒いた。君もその影響を受けているはずだよ」
「……苦しみ暴走して殺された者もいるのに」
「それは運が悪か……っ」
「あまりにも酷すぎるんでね……ちょっと暴走するかもしれないけど許してね」
「あなたでしたか……『亡心』を手に入れたのは……」
「知っているみたいだけど、今はその話聞きたくないな」
「わか……ったから……」
「じゃあ、緩めるね。……記録は大丈夫ですか?」
 支配人に向けられた声は怒りに沈んでいたが、警察官に尋ねた声は心配そうな優しさに戻っていた。記録を取っていた警察官は頷きながらも、かなりの枚数を書いていることにコタラは気づいた。交代や休息をするように言ったが、「大丈夫です」との一点張りで記録の手を止めることはなかった。
「話を続けようではないか。ここで拘束されている時間がもったいないとは思わないか」
「……お前に言われたくはないが、それもそうだな」
「闇市は元々私が支配していたのではない。この街に存在する裏商店が集まって出来たのが、君達が呼んでいる闇市となった場所だ。私は他の者とは違い、少しずつ《呪われた血》を摂取していた。自らの体も実験に利用し、それで手に入れた能力は分身に何かが混ざり合ったものだった。それを使って私は裏からすべてを見ていた。ステージに上がるのもその護衛をするのもすべて分身に任せていた」
「……その能力を使えば逃げられたのでは?」
「『転移』によって飛ばされた私は自らが持つ能力を使おうとした。だが使えなくなっていた。おそらく……」
「おそらく?」
「あの子が気づいてしまったのかもしれない。私の能力を」
「……はぐらかされてもわからないのだが」
「『封印』を施されてしまった。これで二度と逃げることが出来なくなった。……何も手に入れられなかった。少女も『時計』も……その他の強力な能力者達も。あー、自分の手中に収めたかったな。そうすれば異界に渡ることも私が求めた世界に旅立つことも可能だったのかもしれない」
「そんな願いのために多くの人は犠牲となり、罪となった重さは計り知れない」
「わかっているとも。もう……私は」
「支配人……お前の罪を決めるのは僕じゃない。僕は話を聞くだけだ。記録されたものを判断材料とし、それから裁判にかけられ罪を償う。本来ならそうなるだろう。だがこの街には法律がない。つまりどういうことか、支配人にはわかるだろう」
「死ぬのか」
「ここで僕が『亡心』を使って殺すことも出来る。でもそれでは意味がない。どうやら彼にとって支配人、君を殺したいようだからな」
「そうかい……ならば静かにその時を待とう。逃げも隠れもしない」
 支配人の声は『亡心』によって掴まれた心臓の数だけ呼吸困難となり、あと一回でも掴むものなら死にかけないほど弱くなっていた。コタラは動く様子のない支配人を放置し、取調室から出る前に小さなぬいぐるみを手に持っていた。


 事件の全貌が見え始めていた頃、ソルヒとセオンはリイノが入院している病院にいた。能力の反動でまともに動けなくなってしまった二人を見つけた警察官が病院まで運び、ソルヒに至っては『時計』の複数使用によって生死を彷徨うほどに疲弊していた。『式神システム』の制御を担う百舌さえも耐えられなかったものが、彼の体を侵食していた。干渉させないように離れていたにもかかわらず、それをどこで聞きつけたのかわからないが、車椅子に乗ったリイノが心配して見に来ていた。セオンはソルヒよりも前に目覚め、治療と入院費を払った後、いつの間にかいなくなっていた。
 何があったの?、と呟くリイノだったが、ソルヒの姿を見ながらなんとなくわかっていた。《呪われた血》を搾取され続けていた状態を知り、それを行っていた人物に復讐しようとして無茶をしたことを感じ取っていた。
「目覚めなかったら意味がいないのに……どうして無茶をするの」
 まだあまり力を入れることが出来ない手でソルヒの冷たい手を握った。黒い蛇も白い蛇も現れて『破壊』も『封印』も起こらないリイノの手は祈り続けていた。

 ソルヒが目を覚ましたのは闇市での出来事が一段落した数か月後のことだった。目覚めたことを知ったリイノは出会ってすぐに泣き始めていた。車椅子から落ちそうになりながらもその体は入院する前より少し回復していた。しかしまだまだ車椅子から降りることは出来ず、移動も病院内に収まっていた。ソルヒの手には点滴が打たれたままで、起き上がろうとする体は思うように動いてくれなかった。それでもリイノの涙を拭いてあげたくて、頑張って手を伸ばした。
「……私のせいで……」
「リイノのせいじゃないよ。僕が勝手にしただけ。僕がそうしたかっただけ」
「危険な目にはあってほしくなかった。みんなを守るって言ったのに……」
「一人で背負い込むことなんてないよ。僕を頼ってよ。もう子供じゃないんだからさ」
「……! そうだよね」
「あの時は確かに弱かったよ、リイノよりは……でも今はちゃんと制御できるから」
 そういうと百舌がリイノの方に飛んでいって止まって、撫でてほしそうに待っていた。「おい!」とソルヒが言ったのと同時に姿を現した黒い蛇が巻きついた腕から降りるようにやってきて百舌に近づいてじーっと見ていた。百舌は驚いて飛び立ち、翼をバタバタしていたが、「大丈夫だよ」とリイノは手を差し出し、百舌は手のひらに乗った。黒い蛇が表に出ているにも関わらず『破壊』の能力は発動せず、優しい手が百舌を撫でていた。

 それからソルヒは回復して退院したが、リイノの入院生活がまだ続くという話を聞いて、毎日会いに行くのは変わらなかった。けれど車椅子での移動に屋上への立ち入りを認められ、ソルヒが訪れる頃にはいつもリイノは屋上にいた。心地よい風とともに、足に乗っている黒い蛇が眠ってリイノは撫でていた。ソルヒが車椅子の横に立って、影が出来るとリイノは気づいて彼の方を見た。
「また寝ているのか……」
「タイもシトも疲れちゃったみたい。私の体もまだ全然……動けないから」
「タイ? シト? 蛇の名前か?」
「あれ? 言ってなかったっけ」
「初めて聞いた」
「孤児院の頃に言ったような気がしたんだけど……黒い蛇はタイ、白い蛇はシト。でも私しか呼んでないから覚えなくても大丈夫」
「悲しい顔をするなよ」
「……そんなことないよ。そうだ! ソルヒに渡してほしいって……あっ、病室に置いて来ちゃった」
「何を?」
「セオンさんがとある封筒を渡してきたんだけど」
「……」
「渡すまで開くな、って言われちゃったから……ソルヒ?」
「いや、たぶん……うん、そうだ」
「誤魔化したってわかっているんだから……それに」
「それに?」
「あの人が言っていたことを思い出したの。《呪われた血》を採取している途中に吐き出したこと。【こんな縛られた現実から自由になりたい】って」
「自由か……それより誰だよ」
「闇市に行っていたんでしょ。だったらもう会っているはずだよ」
「えっ? てかなんで……」
「そんな気がしたから……もう」
 震える手をソルヒは掴み、リイノは少し驚いた。覗き込まれた顔は少し赤らめ、冷たい手はソルヒの温かな手に包まれていた。
「こんな頼りない僕だけど一緒にいてくれないか?」
 ソルヒのまっすぐな眼差しにリイノはゆっくりと頷いて微笑んだ。突然の告白だったし、言葉足らずで説明も不十分な状態だったし、まだまだ危うい感じではあったけど、今はその言葉を信じたいとリイノは思っていた。

 街にいてくれ、とセオンに言われたソルヒは条件としてリイノのことを言った。記録そのものが消去されている状態をどうにかできないかと尋ねた。セオンは「難しい話ではないが……」と言いつつ険しい顔をしていたが、コタラの提案により小さな一軒家を借りることとなった。しかしそのお金は立て替えられ、支払いをするために今後も危険なことをしなければならなくなっていた。それを話せずにいたが、コタラがリイノに会ったことですべてがバレて、少しだけ怒られたが許してくれた。それからリイノの身に何かが起きる可能性を暗示し、今後のことも考えてソルヒやスイリアがいない間、警察官が遠くから見守る形となった。リイノは優しそうに「無理はしないでくださいね」と警察官達に言っていた。
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