闇堕ちの能力者 第一章 はじまりの空と結びつく絆(3/4)
公開 2024/12/15 14:34
最終更新 2024/12/15 14:38
(空白)
 そこは街の中心にある役所だった。セオンは手を離し、その建物へとそそくさに歩いていき、ソルヒも置いていかれないようについて行った。中に入ってすぐ大量の紙束を抱えて歩いている人が二人に気づいて近づいてきたが、前がちゃんと見えていなかったようで大量の紙束はぶつかって床に散らばった。
「あ……また片づけないと」
「大丈夫ですか?」
「またやっているよ……コタラ、連れてきたからもういいな」
「え? 手伝ってよ……」
「ソルヒ、そいつを頼む」
 そう言って手を振り、セオンは『転移』で消えてしまった。コタラと呼ばれた人は一枚、一枚と紙を拾って近くの机に置いていた。ソルヒも真似しながら並べていると「ごめんね」とコタラは何度も謝っていた。
「いや……こんなに早いと思わなくて、まだ連絡もついてないのに」
「もしかしてセオンが言っていたのはコタラさんのことではなく?」
「僕もその一人ではあるけど、闇市に潜入するのはもう一人の方なんだ」
「潜入……?」
「あれ? セオンから何も聞いてない感じ?」
「あっ、はい。会ってほしい人がいるから……ってそれだけ」
「説明を端折(はしょ)りすぎだよ……いつものことだけど。片づけが終わってからちゃんと話そうかな」
 そう言ってなんとか散らばった紙を机に置いて、その近くにある椅子に向かい合うように座った。その真ん中には小さなぬいぐるみが置かれて、不気味とソルヒの方を向いていた。
「手伝ってくれてありがとうね……僕は水鏡(すいきょう)コタラ。役所で働いていて、市長の補佐をしている。だけどあまりにも不器用なばかりにしょっちゅうこういうことを引き起こしやすくてね……あっ、そんな話はまた後でいいや。潜入の話だったね」
「連絡はなさらなくていいんですか?」
「あっ、そうだった! ちょっと待っててね」
 コタラは急いで携帯を取り出し、セオンが言っていた会わせたい人に電話をしていた。少し言い争いをしていたようだが、電話を切ってコタラはソルヒに向き直った。
「少し時間はかかるけどすぐ向かうって……だから話の続きをしようか。闇市への潜入は本来危険なものだ。見つかれば何をされるかわからない。それを行うというんだからまったくだよ」
「……僕は許せないから、彼女のために」
「涼月ソルヒくんだったね。セオンから名前と……事情もあらかた聞いている。だからこそ一つだけ約束してほしい。能力に溺れないこと」
「どういうことですか?」
「『式神システム』があるとしても限度がある。それを超えれば暴走状態と変わらないと言われている。僕も一度、やらかしたことがあってね。多くの人の命を奪ったことがある」
「……コタラさんの能力って」
「『亡心(ぼうしん)』という僕の声の強弱によって精神を揺らぎ、生きることも死ぬことも操ることが出来る能力だよ。普段は使わないようにしているから安心してね」
「えっ、あ……よかった」
「嘘をつかなければ殺したりしないよ」
 そのコタラの言葉に重みを感じ、ソルヒは続く言葉が見つからなかった。すると役所のガラス扉が開いてソルヒはその音でそっちを向いた。近づいてくる人はあったかそうな服装に身を包んでいるが、頭には謎の被り物をしていた。
「待ったか、コタラ……そいつがセオンの言っていた涼月ソルヒか」
「話をしていたところだよ。さぁ、ギボシも座って」
「……えっと」
「そりゃ、こんな見た目じゃ怖いよな。俺は銀嶺(ぎんれい)ギボシ。れっきとした人間だが、遺跡の調査中に呪いにかかってしまって、姿が霧に変わっているんだ。人の形を維持するためにこんな服を着ているわけだが」
「じゃあ、その被り物の下は」
「見るか? と言っても取ったら形が崩れてしまう。手とか足とかの隙間で勘弁してくれ」
「わ……わかりました」
「コタラ、お茶はねぇのか? 歩いてきたから喉乾いた」
「……持ってくるから」
 そう言いコタラが席を外し、お茶を取ってくる間、ギボシはソルヒに詳しい潜入の話をし始めた。
「コタラからどこまで聞いた?」
「正直あまり……危険だってことくらい」
「重要なことは何も話してないのか。結構時間あったぞ。まぁいい。作戦の提案者はセオンだが、まさかあいつが積極的に動くとはね。一番にお前と出会ったからだろう。闇市の地下にある研究所にあった資料から恐ろしいことが書かれていた。しかしそれは囚われていたリイノという女性を助けたことで起こらなくなった」
「何をしようとしていたんですか?」
「《呪われた血》の摂取する量を少なくして長期的にすることで『式神システム』不要で能力を扱うことが出来る方法が確立された……と書かれていた」
「……絶対に」
「怒りはわかる。だがまだそれをするな。怒りの対象はまだここにいないだろう」
「……はい」
「それで今回の作戦は普段から闇市に入り込んでいるセオンの知り合いとして俺ら二人が行くことになった。それ以外の情報は流さぬよう、気をつけながらの潜入だ。それからセオンの合図で警察が動くことになっている。完全に闇市を壊滅させるために」
「感づかれるんじゃ」
「正直なところそう思っている。しかしセオンも頭が悪いわけじゃない。それに能力によっちゃ……簡単かもしれないという話だ」
「そういえばギボシさんは」
「能力持ちだ。『迷霧(めいむ)』という能力。説明するのは難しいから使用する時に実際見てもらった方がいい。ソルヒは『時計』だったか。時間を止められるって話を聞いた時、強すぎねぇか、ってセオンに言ったわ」
 その声は笑っているようだが、表情がまったく見えずにソルヒはどうしていいか分からなくなっていた。席を外していたコタラがお茶を持って戻ってきて、気まずい雰囲気はどうにかなった。ギボシはもらったお茶を飲んでいるが、霧状の体にどうやって吸収されているのか不思議で仕方がなかった。


 ギボシから連絡があったのは出会ってから数日も経たないことだった。あの日、電話番号を交換し、連絡があるまでの間、リイノに会い続けたが、危険なことをしようということがバレないように話していた。少しずつ元気になって、車椅子での移動で屋上に行くこともあった。リイノのこともあり、スイリアは臨時ではなく頻繁に病院に訪れるようになっていた。
 連絡を受けて辿り着いたのは光を遮った路地裏だった。ソルヒの姿が見えたのか、セオンは驚かせようと『転移』で目の前に現れた。ビクッとするソルヒに笑うセオンは楽しそうにしていた。
「……怖いから驚かせないでよ」
「今からそれ以上に怖い場所に行くのにか?」
「そうだけど……あれ」
「警察だろ。そいつらはもう大丈夫。闇市の連中に紛れて潜伏している。案内もそいつに任せるつもりだ」
「よかった……のかな」
「セオン! ソルヒ! そろそろ入らねぇと怪しまれる」
「そうですね。俺が先に入るので……ソルヒはギボシさんと一緒に」
 そう言ってセオンは路地裏へと進み、暗さ故に姿はまったく見えなくなった。ギボシはそれを見届けた後、少し経ってから路地裏へと足を進め、ソルヒも置いていかれないように歩き出した。路地裏を抜けた先、見るに怪しい扉があった。門番のような黒いフードを被った二人組が立っていて、「合言葉は」と言ってきた。ギボシはセオンに言われていたのか、とある言葉を呟き、二人組は頷いた。ギボシが中に入り、ソルヒも入り込もうとするが呼び止められた。
「あなたの言葉を聞いていない」
「えっ……と」
「セオンの知り合いと言えば通してくれるという話だったが?」
「……セオン様のお知り合いの方でしたか。それは失礼いたしました。お待ちしておりました」
 二人組のうちの一人がもう一人の門番を気絶させて、ソルヒとギボシの前に立ち黒いフードを取ると、ギボシは「あっ」と反応していた。
「セオンが言っていたのはあなたか」
「ええ、セオンくんも扱いが雑ですね……お二人もこれを羽織ってください」
 渡されたのは門番が羽織っていた黒いフードだった。似たようなものをセオンから渡されていたが、門番がつけていたものとは少し異なっていた。それを羽織り直して扉から入ると薄暗さは一変、クラブのような雰囲気だが色鮮やかなライトが照らすのは黒いフードを身に着けた集団ばかりだった。案内されて二人はついていくが、物珍しさがあるようで何回か呼び止められた。その度に「セオンの知り合い」という言葉を巧みに操って受け流していた。そして最後の場所として辿り着いたのは大きなステージだった。一際輝く白い光が当たったところには黒い台が乗っていた。
「あれがオークション会場。今は《呪われた血》の取引が多いけど、表では見られない貴重なものが高値で売られている。昔の記録だと人身売買も行われて、実験として処理されていたと調査書には書かれていたよ」
 淡々と説明する中で、ソルヒの中にあった怒りが沸々と湧き上がっていた。それに気づいていたギボシだったが、下を向いていて頭の被り物は取れそうになっていた。そうしているとステージに誰かが上り、いろんな話が飛び交っていた騒音は、その話し始めた一つの声に引き寄せられて一瞬にして静かになった。
「今日は皆さまに残念なお話があります。それは《呪われた血》が取れなくなってしまい、現在あるもので最後となってしまいます。しかし悲しい話だけではありません。今日は裏切り者を紹介します」
 そう言って運び込まれたのは周りと似た格好をした複数の人達。フードを取られて顔を晒された時、案内人は絶望の顔を見せていた。
「彼らはどうやら死にたいそうです。ここに一つの《呪われた血》が入った瓶があります。確かに取れなくなってしまいましたが、これを打ち込み制御できるとしたら、皆さまはどう思いますか? 見てみたいと思いませんか?」
 疑問を投げかけそこにいる人達は歓声を上げていた。怪しまれないように見よう見まねで動いていた。何かの能力で動けなくなっていた裏切り者に無理やり打ち込んでいく誰かはどうやらこの闇市の支配人らしい。歓声の中に「支配人やれ!」などの声援が飛び交っていた。打ち込まれた瞬間に謎の動きをしたが、すぐに止まって彼らの目の視点がまったく合っていなかった。
「さぁ! 彼らの性能を確認してみましょう!」
 まるで機械のように扱う発言はもう人間としての意識を失っているということを示していた。

 ソルヒとギボシが案内されている頃、セオンは一人、とある人物に会いに行っていた。その人物は多くの人に囲まれながらも無視していたが、セオンが来たのに気づいて持っていたショートカクテルを飲み干して机に置いた。
「……情報屋か。何の用だ?」
「裏切り者を見つけたから差し出した」
「なるほど、お前だったか」
「……何かくれるのか?」
「あー、そういう約束だったな。だが……一つだけ言っておく」
「?」
「作戦は意味がないということを」
「やはり気づいていたか」
「今頃、オークション会場は大騒ぎだろうな」
「それで構わない。幹部さんよ……お前さえ捕まえられれば」
「素直に投獄するとでも?」
「……これを知っても言えますか?」
 不意にセオンは幹部に触れて『転移』を発動し、壁にめり込み体は動けず頭だけが出ていた。何も喋れずにかろうじて出ていた手や足でもがいているのに近づきながらセオンは続ける。
「言ってませんでしたっけ? 俺……能力持ちなんすよ。あんたがくれた《呪われた血》のおかげで」
「……出せ」
「何? 弱気になって……幹部らしくないな。大丈夫ですよ。次はちゃんと送りますから」
「どこに」
 幹部が言い終わる前にセオンは『転移』で飛ばした。飛ばした先は警察署の牢屋だった。一連の流れを見ていた幹部の取り巻きは逃げる者もいれば、セオンに立ち向かってくる者もいた。セオンは自分の姿を『転移』を使って翻弄しつつ、立ち向かってくる者の体に触れてどこか知らない場所へと飛ばし続けていた。それがどれだけ悪質であるのか、身をもって知るのは死ぬのと変わらなかった。
「さて……あっちは大丈夫かな」
 色鮮やかライトだけが残り、静かになった空間で少し息を整えつつ、ソルヒとギボシのもとへ向かって道を戻っていた。

 オークション会場は大盛り上がりを見せていた。《呪われた血》を打ち込まれその意思はもう人のものではなかった。近くにいた観客の首をはね、悲しい涙は赤く染まっていた。悲鳴が引き寄せ、ソルヒはその状況に耐えられず逃げ出そうとしたが、突然変異で巨体となった者が目の前に現れて避けられそうもなかった。しかしギボシに引っ張られ、さっきまでいた位置にあった小さなテーブルは巨体によって粉砕されていた。お礼を言おうとソルヒがギボシの方を見た時、辺りは白い霧に包まれ始めていた。その姿は人の形を失い、ただ頭の被り物だけが床に落ちていた。被り物だけを拾い上げ、見つからないようにソルヒと案内人は隠れていた。
「え……どうなって」
「安心してください。これがギボシさんの能力です」
「もしかして『迷霧』」
「名前は聞いていましたか。そうです」
「あの……警察の方も知っていたんですか?」
「セオンくんを通じて……私だけが知っていることです。他の警察官は知りませんよ。『迷霧』と呼ばれるその能力は方角がわからないほどの深い霧を周りに散布し、その中で行われた事象を無かったことにする。ただ全部消せるというわけではなく、範囲によっては漏れ出すこともあるという話です」
「……でもいいんですか? 記録って大事なんじゃ」
「確かにそうですが、作戦の話を聞いた時、ギボシさんは街を守るために能力を使うと言っていました。おそらくこの霧は闇市だけではなく、街全体に散布しているものだと思われます」
「持つんですかそれ」
「わかりません。彼の技量がどれくらいなのかは……」
 そう話していると霧はどんどん濃さを増し、視界は白に包まれていた。しかしそれを切り裂くように巨体は二人を見つけて襲い掛かってきたが、ソルヒが警察官の手を取って『時計』の能力が発動し、二人以外のすべての時間が止まった。巨体の手が目の前に来たまま止まったため、ソルヒは恐怖を覚えて強く手を握ってしまった。
「ちょっと痛いですね」
「ご、ごめんなさい。でも離したら……」
「大丈夫ですよ。離していただいても」
「え?」
「一応、私も能力持ちなので、戦えるんですよ」
 そう言い、ソルヒの手を離して警察官の時間も止まった。時間を止めているだけで何もできないソルヒは足がすくんで動けなくなっていた。けれどここで逃げ出したら闇市に来た意味がない。せめて支配人と呼ばれる奴だけでも殺したいと思った。
 旅の中でも一度も人を殺したことはなかった。『時計』の能力で近づき、ナイフで刺し殺してやろうというやつもいたが、人殺しにはなりたくない、という思いが強すぎて一思いに刺すことが出来なかった。いつも逃げてばっかりで、知らないふりをしていれば何も起こらなかった。
 使われることなく仕舞われていたナイフを取り出して、ステージに上がったままの支配人のもとへ向かう。すべての時間が止まった風景に静かに歩みを進めるソルヒ。しかし能力の反動で少しずつ視界が揺らいでいた。早くしなければ、という気持ちが焦るがなんとかステージに到着した。支配人の目の前に立ち、ナイフは首元に当て、そのまま横に切り裂いた。ソルヒには支配人の首が切られたことだけが真実として見えており、『時計』の効果が切れて座り込んだ。しかし息を整えてステージの床を見ると血だまりは出来ていたが、そこに支配人の死体がなかった。「なんで!?」と言って振り返ると、壊れた机や椅子が散らばった床の中心に見知らぬ死体を踏みつけて、支配人は平気そうに笑っていた。
「おや? 私の分身を殺しちゃったんですね。でも気づかなかったな。君があの時逃げた子供だったなんて」
「……まさか」
「そうですよ。あの日、孤児院を襲って、あの少女を回収したのは私ですよ。あの血は必要不可欠だったんですよ。『式神システム』としても《呪われた血》としても……もうすぐ実験は成功するはずだったのに、連れ去られてしまったよ、君に」
「彼女がどんな思いで……!」
「そんなの知ったこっちゃない。私は私のために……」
 言い終わる前に支配人はどこかに飛ばされた。ステージに近づいてくる影に警戒しているとそれはセオンだった。
「……セオン」
「あれは捕獲対象だから殺すな」
「殺すなって……僕の、いやリイノの仇なんだよ!」
「今のお前じゃ殺せねぇよ……捕まえられるかも微妙なんだがな」
 セオンはさっき『転移』を使った支配人の場所を見ていたが、その効果がまったく聞いていないようにその場に立っていた。
「むやみに消費されるのは困るんですけどね」
「……分身は吹き飛んだか」
「情報屋……あなたはこっちの味方だと思ったんですがね」
「俺は誰の味方もしない。中立を保つ情報屋だが?」
「でも肩入れしてるじゃないですか。その子に」
「欲しい情報があったから……あー、そうそう、あなたの友人はもう牢屋に行きましたよ」
「あんなの友人じゃないですね。弱い人間などいりませんから」
「そうか」
「私を捕まえるつもりですか? もうタネは明かしてしまったのに」
「……そんなに悠長に出来るものなのか。支配人、俺は知っている。分身を使えるのは一日三回まで、今使ったのが二回だからあと一回……つまり消費させればいい」
「それが可能ならね」
 動き出そうとしたセオンの背後から切りかかったのはあと一回で作られた支配人の分身だった。ソルヒは反応できずに声もあげられず、セオンは階段から転がり落ちた。光に照らされた血が暗くなる度に黒く染めていた。
「本当は捕らえたかったよ。『転移』も『時計』も珍しいからね。でも邪魔をするのなら排除するしかありませんね」
 振り下ろされた鉈は絶望したソルヒに襲い掛かるが、間一髪でまた時間が止まった。ハッとして転げ落ちたセオンのもとへと向かい、その手を握ると彼の時間も動き出した。
「……やっぱり……俺でも無理か」
「喋らないで、今治すから」
「馬鹿言うな。……治療の能力は……持ってないだろう」
「『時計』の能力は時間に関するすべてのことが出来る。つまり時間を戻すことだってできる」
 薄暗い場所、溢れた血は床に染み込んで変色していた。ソルヒはセオンの背中に触れて目を閉じると時間が巻き戻り、切りかかった事実を消し去って傷は跡形もなかった。
「……痛みが消えた」
「初めてやったけど上手くできてよかった」
「初めてだったのかよ。まぁ、助かった。後は俺に任せろ」
「ううん。どちらかは殺させて」
「……運任せか。はぁ、わかった。俺はあっちに行くからソルヒはステージの方を頼む」
 そう言いつつ止まった時間の中でセオンはソルヒとともに一緒に行動して、暗いところにいる支配人の前に立って体に触れていた。セオンの合図とともにソルヒは彼の手を離し、『時計』の能力の効果を失った。ソルヒはステージの方に向かい、鉈を振り下ろした支配人の後ろに回って、さっきと同じように首を横に切り裂いた。そして『時計』は時間を進めて、ソルヒの方の支配人は分身だったようでその体は紙屑のように散ってしまった。
「……どうやら俺の方が本物だったようだな」
「また殺せなかった」
「終わったな」
「……うん。あっ、でもギボシさんは」
「大丈夫。こんなに霧が深ければ……被り物が反応して」
 支配人との戦いで気づかないうちにギボシが頭に被っていたものがなくなっていた。自らの意思で動くなど、あり得る話なのか分からなかったが、《呪われた血》と異なる呪いならそういうこともあるのかもしれないと思った。
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