結晶と霊の詩(うた)(2/2)
公開 2023/09/16 15:09
最終更新
2023/09/16 15:10
(空白)
少し歩いては休憩を取り、倒れないように配慮されていた。風で砂が舞っても目の前に霊が現れても騎士たちが守ってくれた。イチはそれよりも遠くにいる霊を観察して、その道を通らないように指示をしていた。
「話を聞いてもいいかな?」
「はい……でもこんなことになるなんて思ってなくて少し驚いています。整備された道とはいえ、馬車に乗ることになるとは……」
「初めての人は驚くね。でも客人に砂漠の道を歩かせるわけにもいかないから、少し前からこのシステムが出来たんだ」
「……風が吹いているはずなのに砂は入ってこないし、一瞬見えた霊は消えているし。すごいんですね」
「まぁ、そうだね。そんなことより」
「話……ですね。私が生まれた村は小さな池と森に囲まれていました。草原には花畑もあって豊かでした。しかしある日、私の村の中に霊にとりつかれた人間かいると噂が広まって、村ごと燃やされました。私は両親からここに隠れていなさいと押し入れに入れられて目を閉じていました。何日経ったかわからなかったけど声がして目を開けた。押し入れのふすまは壊れていてなかったけど、そこには黒い影がいた。それが今のレクだけど、その時は驚いて声も出なかった。そうしたらレクが『憎いのは誰だ?』って聞いてきた。怖いけど村を燃やした人って言ったら一日もかからずにみんな死んじゃった。村はその人たちに統治されていたんだけど、レクが殺したから村には私だけになった。育てられてきた野菜や動物たちは炭に変わって水も汚れていた。体に取り入れるものはなくて、死んだ方がよかったって思った。だけどレクがどこか知らない場所から林檎を持ってきて渡してきた。震えた手でそれをかじって泣いた。そしてレクは『光の霊を探してくれないか』って。その時初めて、レクが霊だってわかったけど、悪い霊じゃないって、命の恩人だからって助けることにしたの。あとで聞いたけどレクは生きている人間が必要だったって言っていた」
「昔は霊が人にとりついた時点で殺していたから多くの村がなくなったと聞いたことがある。サラさんの村もその被害に……」
「でもレクがいてくれるからどうにかなっている。まだ小さくて誰もいなかったら死んでいたから。多くの街をめぐって霊の状況を見てきた。どうしても伝承を信じて、霊は悪いと思う人が多かったけど。光の霊に関しても聞いてきたけどなかなか情報が得られなくて、挙句の果てに霊が見える人に見つかって殺されそうになったこともあった。でも他の霊と違ってレクは心臓の役割を持っている結晶さえ破壊されなければ死なないって言っていた。だから腕を撃たれても大丈夫だけど、修復するには時間がかかるから嫌だっていつも言っている」
「結晶……確か、研究者が光の霊から取ったって言っていたが、まさか」
「じゃあ、光の霊は死んでいるんじゃ……」
「しかし報告では光の霊は消えていないって書かれていたから、結晶の他に命と呼ばれる何かがあるのか」
「……結晶の他に命の代わりをなるものはない」
黒い靄から解放されて獣の姿となっていたレクは人の姿を取り戻していた。
「はっきり言える理由は?」
「一度だけ自分の結晶を引き抜いたことがあって、少しの間なら保っていられるが真っ先に結晶が消え始める。その時はすごく苦しくていろんなところが縛られて痛かった。そうなって体の中に結晶を戻したが……これでは理由にならないか」
「もし光の霊が結晶以外で命を得ているなら、それは悪い成分で作られた命ってこと?」
「そうなった場合、光の力を失っているかもしれない。そうなれば会うこと自体危険なのか」
「レク……」
「それでも俺は会うよ。危険にさらされているならなおさら」
「そう」
「……意見が言えるっていいね」
「えっ?」
「僕の意見はいつだってルトに遮られてしまう。どうしても王子だから優先されてしまう」
「でも今日は遮られていませんよ」
「そうだね……確かに」
クロムが外を見ると古代遺跡はもう着いていて、イチと騎士たちは三人が降りるのを待っていた。
馬車から降りて古代遺跡に足を進めようとするとそこから誰かが走ってきてクロムにぶつかった。
「大変なんだよ!」
「どうした?」
「みんな死んでしまって霊になって守り人に攻撃してきた。光の霊の結界から黒いどろどろの何かが流れてきて、一枚一枚結界を破って、あと守り人が作った分厚い結界だけなんだ」
「あの……」
「あっ、あなたが客人の方ですか。古代遺跡で研究を頼まれた一人ですが、今はもう中に入って行くのはやめた方がいいです」
「入り口はどこだ」
「だから行かない方がってまさか霊! あっ……あの少しの隙間から行ってください。それと殺さないで」
「ありがとう。それに人を殺すことはしない」
「行かない方が……」
否定する多くの声にも応じずに隙間から古代遺跡の中に入ってしまった。するとサラの持っていたガラス玉が砕け散って、意識を奪われ勝手に古代遺跡の方に歩き始めた。クロムは異変に気付いてそれを止めようと近づくが、何かに包まれて弾かれる。その状態のサラも古代遺跡の隙間から中へ入ってしまった。
「どういうことなんだ? 霊はともかく人さえも引き寄せるのか?」
「おそらくお前の考えは違う。彼女はやはり人ではないのか……」
「クロム」
「イチはよくわかっているな。本当は呼びたくなかったけど……頼めるか」
「承知した」
「僕はどうにか古代遺跡の中に入ってみるよ。君は外で騎士たちと待っていて」
「えっ」
研究員は何も言えずに残されて、クロムは自分の術を行使して古代遺跡に入る方法を模索し始めた。
薄暗いろうそくの光だけが道の頼りになっていて、それ以外は感じ取った霊の気を信じるしかなかった。レクは近づくたびに彼女の力を感じて走っていた。道が崩れ落ち歩けなくなっても、かすかの影に身を任せて姿を変化させていた。
真っ黒な部屋を見つけた時、そこに見える小さな光がまだ人がいるのかと錯覚した。しかしそれは人ではなく、おそらく研究員が言っていた守り人だろうとレクはわかった。
「大丈夫か?」
「あなたは……影の霊」
「俺のことがわかるのか」
「何百年もここにいますから知っています。人という存在を捨て霊となっても、あなた方二人を守るのが私の使命ですから。でも今は……光の霊はこの世界に漂った灰色の霊の感情によって歪み、光の力は闇に覆われて落ちてしまった」
「……ここからは俺に任せてくれ。どうにかする」
「どうか霊の終焉と豊かな世界のために」
「ああ……」
守り人は力を使い果たしたのか光り輝いて消えてしまった。
「あら? やっと消えてくれたのね」
その声に聞き覚えはあるが口調が何か変だなとレクは感じた。暗闇の奥に進むと足に水のようなものが当たっていたと思うと固体が流れてきた。見えない固体を拾い上げるとかすかに心臓の音がした。
「それはね。かつて人だったものよ。おしゃべりさんだったから口封じを兼ねて姿をその丸っこいのにしてあげたの。機能は心臓のみで何もできないけどね」
真っ黒だった部屋は光を取り戻してその姿を現した。かつて二人で閉じ込められていた古代遺跡の最深部。罪を擦り付けられた光と影の霊は何百年の間ここにいた。ある日を境に光と影は引き裂かれた。
光の霊だと思っていた姿はそこにはなく、白い服は黒に染まりかけ、翼などなかったはずなのに片翼が黒に染まっていた。頭には黒い宝石のティアラが乗っていたが、目は相変わらず赤い。何よりも彼女の周りに流れる黒いドロドロは足に絡みつく。
「久しぶりだっていうのに悲しい顔をするのね」
「何があった」
「そんなことを聞くの」
「俺がいなくなってからどうやったらそうなるんだ」
「……つまらない。来てくれるってわかったから閉めていた道を開けてあげたのに。それにいらない害虫も入って来っちゃったし」
別の気がレクの前を通り抜けた。何かに包まれたサラはそれから解放されて意識を取り戻した。
「あれ? ここどこ」
「……心臓」
「あ、えっ?」
「私の心臓を返して!」
最後の結界を破ったかと思ったら、サラの体を貫いた。貫いた手から現れたのは心臓ではなく消えかかる結晶だった。抜き取られたサラの目は虚ろになってその場に倒れた。
「どうして私の結晶をこんな醜い人間に使ったの?」
「お前を探すには生きている人間が必要だった。もう一度会うために。結晶が別の人の手に渡っていることを知った俺はもうお前が死んでいるのだと思って、復活させるために結晶と人を使って蘇らせようとした。でも生きているのなら意味がなかった」
「でもこの結晶と体に取り込んで思ったけど楽しそうね、嫌なほどに」
「あの日々に戻ることは出来ないのか……シナ」
「やっと私の名前を呼んでくれたのね。忘れているのかと思った。そうね、元に戻るよりこの世界を霊の世界に変えたらいいんじゃないの。こっちの方が楽しいよ」
「離れ離れになった最初の俺ならそれに賛成していた。だが最初は生け贄としか見えていなかったサラは他の灰色の霊に優しく接していた。長い時間の中で霊が悪い存在に変わってしまっても……」
「それはあなたがそばにいたから。灰色の霊が反抗できなかったからでしょう。私とレクは霊の中の守り子だから。守り子だから閉じ込められた。悪いのは人なのにそれを全て私たちに擦り付けた」
「……わかっているよ」
「ううん、何もわかっていないわ! 何百年閉じ込められても、守り人が邪魔をして出られなかった。世界が何度変わろうともその風景を見ることなくずっと地面の中にいた。やっと出られると思ったら私は実験体にされて、レクはいなくなった。一人になっても味方がいなかった。灰色の霊達は私に命の代わりをくれた。けれどそれにしかならなかった。そうして怒りと憎しみ、苦しみが私を支配してこの世界がどうでもよくなった。私の悲しみが霊の力によって愚かな人に伝われば、それで死んでくれたらいいの」
「それは……シナも苦しむよ」
「どうして? 私は笑っているから平気……なの」
どうやらサラが持っていた結晶を取り込んだせいか、シナの心が少し揺らいでいる気がした。レクはもう少し、大きく揺れてくれれば隙間に入れるかもしれないと考えていた。
「何を言っても私に賛成してくれないなら、こんなことしたくなかったけど無理やりこれに取り込むしかないね」
シナがそう言うと黒いドロドロはツタに変わって、一瞬にしてレクを巻き付けた。しかしそれと同時にレクは一部を反射した形でシナに飛ばし、右腕に巻き付いた。
「これで力の差がわかったでしょう。……でもこれ痛い」
泣きそうになっているシナとは対照的にレクは力を込めて巻き付いていたツタをほどいた。
「えっ?」
「こんな弱い巻き付きじゃ、誰でも解けるよ。本当はこんなことしたくないんじゃないのか」
「違う。一時的に動きを止めようと思っただけ……」
シナがしゃべっているうちにレクは距離をつめて、右腕に巻き付いた黒いツタをほどこうとしていた。しかしそれを狙っていたかのようにシナはニヤッとして、レクの結晶めがけて黒いツタを飛ばし貫いた。
「そんな簡単なことするわけないじゃん」
シナが崩れ落ちるレクを見ながら大笑いしていると、貫いたはずのレクの結晶が消えることなく元に戻り、体の中に入ると立ち上がった。
「そんな……」
「……知らないうちに結ばれていたのか」
「まさか人との繋がり? 私とレクにしかできない、認められた人間が死ぬまで生き続ける呪い……でもあいつは死んでいるのにどうして?」
「そりゃ、死んでいないってことだろう」
「そんなの信じない!」
やけくそに黒いツタをレクの結晶めがけて飛ばして貫いてを繰り返したが、一瞬にして元の姿になり何もなかったことになった。レクはその攻撃を食らいながらもう一度、黒いツタを操作している左腕を掴んだ。
「もう……シナの持つ負の感情はすべて俺がもらうから」
レクはシナの頭を撫でながら抱き寄せた。シナは涙を浮かべていたが、黒いドロドロが彼女を取り込もうとしてしがみついた。レクがそれを追い払おうとしても勢いは止まらない。
シナの左手と顔が埋まろうとしていた時、息を引き取っていたはずのサラの体が光だし、サラの周りにあった黒いドロドロは一瞬にして消え去った。そして体から出てきたのは結晶だった。しかしその結晶は霊が持っているものとは違い、空色に染まっていた。
空色の結晶が浮遊するところは黒いドロドロが消えて、シナを包んでいた固くなったものだけとなった。こびりついてしまったらしくちっとも消えようとしない。すると空色の結晶はその固くなったものめがけて強い光を発して溶かそうとした。そうすると少しながら溶け始めてシナの周りに会った黒い固まりは小さな球体だけになった。
レクがその小さな球体を足で踏むと影のように消えてしまった。空色の結晶は強い光を放っていたせいかその場で砕け散った。砕け散った光はシナの姿と傷を癒し、光の霊のシナに戻った。
「私は……戻ってもいいの」
「どうやら許しが出たらしい」
「……でも」
シナがサラの体に触れた時、それは冷たく氷のようだった。
「サラは俺以上にシナを助けようとしていたのかもしれないな」
「だから最後の力を使って……私を助けてくれた恩人に願いを」
「シナ?」
「どうかサラに私たちとともにいられる命をください」
「おい、そんなこと願ったら次はシナが」
「大丈夫……レクも祈ってくれたら罪も半分になるから」
「俺ありきかよ。まぁ願うけど」
二人手を合わせて願っていると、穴の開いた天井から薄っすら光が入り込んできて、シナの光とレクの影の結晶の一部が取り出されるとそれが混ざり合うことなく一つの結晶となった。その結晶はサラの体の中に入った。サラの体をレクが支えて、シナは手を握っていた。
すると握っていた手に反応があって、シナはビクッとした。
「……」
サラの目が開いたものの、しゃべることなくシナとレクを見ていた。そして破壊された古代遺跡の部屋を見終わるとまた目を閉じた。
しかしすぐに目を覚ましてまた二人を見た。
「あの……サラ、大丈夫?」
「もしかしたら結晶があっていないのかもしれないな」
「……そうだとしたらどうするの。しゃべれない人なんて生きている機械じゃない」
「機械って言葉知っているのか」
「灰色の霊が教えてくれたの……ってそういうことじゃなくて」
二人が騒がしくしていると何かの声が聞こえた。
「……うるさい」
「お?」
「レク、うるさい」
「サラちゃん、ごめんね……」
シナがサラに抱き付くとそれを受け入れるように抱き寄せた。
「ごめんなさい」
「……私もごめんね。それに一度死んでいたんだって初めて知ったから」
「教えたら絶望すると思って言わなかった」
「言わなくてよかったって今なら思える」
「それならよかった……まぁ、二回死んでいるんだけどな」
「そんなことどうでもいいから早く外の世界を教えてよ」
シナがサラの手を引っ張るがふらつくのでレクがサラの体を支えて歩いた。崩れゆく古代遺跡からレクが影で防御壁を作って天井や横からの崩れを防いだ。出口の光が見えて騎士達の姿が見えるのと同時にクロムとルトがいた。ルトは三人を見るな否や銃を向けた。
「また会ったな。黒い霊」
「待ってください」
サラが声を張ろうとするが気力がなくて声が出ない。しかし銃を撃つ気配はなくそのままおろした。
「これがクロムの言っていた光と影の霊か」
「だから最初から言ったじゃないか」
「自力で出てきたことを誇りに思うが……君も人と霊の間になったのか」
「もってどういうことですか?」
「昔の記録にそう書かれていた」
「……珍しいことじゃなかったんだ」
「何……がっかりすることじゃないさ」
「レクはそれでいいかもしれないけど、人にとってはうれしいことなの」
「久しぶりにレクが怒られているのを見た」
「うれしそうにするな」
三人が幸せそうにしているのをルトとクロムは見ていたが、ルトはクロムに何かを伝えると馬に乗って帰ってしまった。
「サラさん」
「あっ、クロムさん」
「そろそろ国の方へ行きませんか? ルトがお礼をしたいと言っていて……」
「なぜ今、しなかった?」
「それはですね。準備が必要だからここでは無理ということで」
「そんな大掛かりなことをしなくてもいいのに……それに私ルトさんに何かしましたか?」
「僕にもわかりませんが、彼なりのお礼だそうです」
「そうですか……楽しみにしていますね」
そう言い三人とクロムは馬車に乗ろうとすると研究員もきた。
「すみません。騎士のところに乗れないから乗せてください」
「いいけど、もしかしてサラさんに何か聞こうとしているのか?」
「あっ、ばれちゃいました?」
「それはね」
「ばれちゃしょうがないですね。古代遺跡の最深部の奥まで行かれた方ですから話を聞いておかなければと思いまして……どうでしょうか」
「話だけなら構いません。ただ実験体として扱われなければいいです」
「わ、わかりました」
レクに睨みつけられながらサラに許可をもらった研究員は話を聞いていた。
国につくと門を閉めきれなかったのだろうと思うほどに人が集まっていて、城下町では多くのものが飛んでいた。サラは手を振りながら果物などをもらっていた。
なんとか城につき中に入ると、サラの前にルトが立っていた。
「私は……」
「今は何も言わずに受け取ってほしい」
「はい……」
受け取った小さな箱の中にはガラス玉のかんざしと蝶のチャームが入っていた。
「それは霊にもつけられる特注品でガラス玉のかんざしを光の霊にプレゼントしたいと思った。もう一つはサラさんのために作ったものだ。その蝶のチャームは人と霊の命を持つ者にしかつけられない……まぁ制御みたいなものだけど」
「その説明を聞くに俺のないけど」
「お前はその箱だけでいい」
「おい!」
そういうとみんなが笑っていた。サラは服にチャームをつけた。シナは長く白い髪を結ってかんざしで止めた。かんざしについている空色のガラス玉が光に反射してきれいに見えた。
「似合っている?」
「ああ……」
「レク、なんか照れている」
「照れてなんかいねぇーよ」
そういいながら影になって消えてしまった。
「きっと昔のことを思い出したんだろうな」
シナはそう呟いて影がいなくなるのを見ていた。
数日、お祭り騒ぎだった国はすぐに元に戻っていた。サラとシナとレクは誰にも言わずにその国から出ようとしていた。クロムの提案により、ずっとこの国にいてもいいとなったが、シナの願いである外の世界を歩きたいというものを優先するにはそういうわけにもいかなかった。
静かに階段を降りて城から出て、誰にも気づかれないように城下町を歩き、門が開いていることを確認して出ると門のところにイチがいた。
「出ていくのか?」
「あっ」
「別に他のやつには言わない」
「じゃあどうして?」
「いろんな国に行くんだろう。ならある人を探してほしい。どこかにいるリアラっていうやつを探してほしい」
「その人を探してどうするの?」
「どうするかは俺次第だ」
「……なんとなくわかったけど、見つけてもイチに伝えられないよ」
「だからこれをリアラに渡せ。そうすれば位置がわかる」
「なるほどね、わかった」
小さな石みたいな物体には画面がついていた。小さいがちゃんと地図が表示されていた。
「もう会うことはないかもしれないが、またな」
そう言ってイチは砂が舞ったのと同時に消えてしまった。
「私達も行かなきゃね」
そうシナとレクに言って三人は砂漠の道を歩き始めた。
少し歩いては休憩を取り、倒れないように配慮されていた。風で砂が舞っても目の前に霊が現れても騎士たちが守ってくれた。イチはそれよりも遠くにいる霊を観察して、その道を通らないように指示をしていた。
「話を聞いてもいいかな?」
「はい……でもこんなことになるなんて思ってなくて少し驚いています。整備された道とはいえ、馬車に乗ることになるとは……」
「初めての人は驚くね。でも客人に砂漠の道を歩かせるわけにもいかないから、少し前からこのシステムが出来たんだ」
「……風が吹いているはずなのに砂は入ってこないし、一瞬見えた霊は消えているし。すごいんですね」
「まぁ、そうだね。そんなことより」
「話……ですね。私が生まれた村は小さな池と森に囲まれていました。草原には花畑もあって豊かでした。しかしある日、私の村の中に霊にとりつかれた人間かいると噂が広まって、村ごと燃やされました。私は両親からここに隠れていなさいと押し入れに入れられて目を閉じていました。何日経ったかわからなかったけど声がして目を開けた。押し入れのふすまは壊れていてなかったけど、そこには黒い影がいた。それが今のレクだけど、その時は驚いて声も出なかった。そうしたらレクが『憎いのは誰だ?』って聞いてきた。怖いけど村を燃やした人って言ったら一日もかからずにみんな死んじゃった。村はその人たちに統治されていたんだけど、レクが殺したから村には私だけになった。育てられてきた野菜や動物たちは炭に変わって水も汚れていた。体に取り入れるものはなくて、死んだ方がよかったって思った。だけどレクがどこか知らない場所から林檎を持ってきて渡してきた。震えた手でそれをかじって泣いた。そしてレクは『光の霊を探してくれないか』って。その時初めて、レクが霊だってわかったけど、悪い霊じゃないって、命の恩人だからって助けることにしたの。あとで聞いたけどレクは生きている人間が必要だったって言っていた」
「昔は霊が人にとりついた時点で殺していたから多くの村がなくなったと聞いたことがある。サラさんの村もその被害に……」
「でもレクがいてくれるからどうにかなっている。まだ小さくて誰もいなかったら死んでいたから。多くの街をめぐって霊の状況を見てきた。どうしても伝承を信じて、霊は悪いと思う人が多かったけど。光の霊に関しても聞いてきたけどなかなか情報が得られなくて、挙句の果てに霊が見える人に見つかって殺されそうになったこともあった。でも他の霊と違ってレクは心臓の役割を持っている結晶さえ破壊されなければ死なないって言っていた。だから腕を撃たれても大丈夫だけど、修復するには時間がかかるから嫌だっていつも言っている」
「結晶……確か、研究者が光の霊から取ったって言っていたが、まさか」
「じゃあ、光の霊は死んでいるんじゃ……」
「しかし報告では光の霊は消えていないって書かれていたから、結晶の他に命と呼ばれる何かがあるのか」
「……結晶の他に命の代わりをなるものはない」
黒い靄から解放されて獣の姿となっていたレクは人の姿を取り戻していた。
「はっきり言える理由は?」
「一度だけ自分の結晶を引き抜いたことがあって、少しの間なら保っていられるが真っ先に結晶が消え始める。その時はすごく苦しくていろんなところが縛られて痛かった。そうなって体の中に結晶を戻したが……これでは理由にならないか」
「もし光の霊が結晶以外で命を得ているなら、それは悪い成分で作られた命ってこと?」
「そうなった場合、光の力を失っているかもしれない。そうなれば会うこと自体危険なのか」
「レク……」
「それでも俺は会うよ。危険にさらされているならなおさら」
「そう」
「……意見が言えるっていいね」
「えっ?」
「僕の意見はいつだってルトに遮られてしまう。どうしても王子だから優先されてしまう」
「でも今日は遮られていませんよ」
「そうだね……確かに」
クロムが外を見ると古代遺跡はもう着いていて、イチと騎士たちは三人が降りるのを待っていた。
馬車から降りて古代遺跡に足を進めようとするとそこから誰かが走ってきてクロムにぶつかった。
「大変なんだよ!」
「どうした?」
「みんな死んでしまって霊になって守り人に攻撃してきた。光の霊の結界から黒いどろどろの何かが流れてきて、一枚一枚結界を破って、あと守り人が作った分厚い結界だけなんだ」
「あの……」
「あっ、あなたが客人の方ですか。古代遺跡で研究を頼まれた一人ですが、今はもう中に入って行くのはやめた方がいいです」
「入り口はどこだ」
「だから行かない方がってまさか霊! あっ……あの少しの隙間から行ってください。それと殺さないで」
「ありがとう。それに人を殺すことはしない」
「行かない方が……」
否定する多くの声にも応じずに隙間から古代遺跡の中に入ってしまった。するとサラの持っていたガラス玉が砕け散って、意識を奪われ勝手に古代遺跡の方に歩き始めた。クロムは異変に気付いてそれを止めようと近づくが、何かに包まれて弾かれる。その状態のサラも古代遺跡の隙間から中へ入ってしまった。
「どういうことなんだ? 霊はともかく人さえも引き寄せるのか?」
「おそらくお前の考えは違う。彼女はやはり人ではないのか……」
「クロム」
「イチはよくわかっているな。本当は呼びたくなかったけど……頼めるか」
「承知した」
「僕はどうにか古代遺跡の中に入ってみるよ。君は外で騎士たちと待っていて」
「えっ」
研究員は何も言えずに残されて、クロムは自分の術を行使して古代遺跡に入る方法を模索し始めた。
薄暗いろうそくの光だけが道の頼りになっていて、それ以外は感じ取った霊の気を信じるしかなかった。レクは近づくたびに彼女の力を感じて走っていた。道が崩れ落ち歩けなくなっても、かすかの影に身を任せて姿を変化させていた。
真っ黒な部屋を見つけた時、そこに見える小さな光がまだ人がいるのかと錯覚した。しかしそれは人ではなく、おそらく研究員が言っていた守り人だろうとレクはわかった。
「大丈夫か?」
「あなたは……影の霊」
「俺のことがわかるのか」
「何百年もここにいますから知っています。人という存在を捨て霊となっても、あなた方二人を守るのが私の使命ですから。でも今は……光の霊はこの世界に漂った灰色の霊の感情によって歪み、光の力は闇に覆われて落ちてしまった」
「……ここからは俺に任せてくれ。どうにかする」
「どうか霊の終焉と豊かな世界のために」
「ああ……」
守り人は力を使い果たしたのか光り輝いて消えてしまった。
「あら? やっと消えてくれたのね」
その声に聞き覚えはあるが口調が何か変だなとレクは感じた。暗闇の奥に進むと足に水のようなものが当たっていたと思うと固体が流れてきた。見えない固体を拾い上げるとかすかに心臓の音がした。
「それはね。かつて人だったものよ。おしゃべりさんだったから口封じを兼ねて姿をその丸っこいのにしてあげたの。機能は心臓のみで何もできないけどね」
真っ黒だった部屋は光を取り戻してその姿を現した。かつて二人で閉じ込められていた古代遺跡の最深部。罪を擦り付けられた光と影の霊は何百年の間ここにいた。ある日を境に光と影は引き裂かれた。
光の霊だと思っていた姿はそこにはなく、白い服は黒に染まりかけ、翼などなかったはずなのに片翼が黒に染まっていた。頭には黒い宝石のティアラが乗っていたが、目は相変わらず赤い。何よりも彼女の周りに流れる黒いドロドロは足に絡みつく。
「久しぶりだっていうのに悲しい顔をするのね」
「何があった」
「そんなことを聞くの」
「俺がいなくなってからどうやったらそうなるんだ」
「……つまらない。来てくれるってわかったから閉めていた道を開けてあげたのに。それにいらない害虫も入って来っちゃったし」
別の気がレクの前を通り抜けた。何かに包まれたサラはそれから解放されて意識を取り戻した。
「あれ? ここどこ」
「……心臓」
「あ、えっ?」
「私の心臓を返して!」
最後の結界を破ったかと思ったら、サラの体を貫いた。貫いた手から現れたのは心臓ではなく消えかかる結晶だった。抜き取られたサラの目は虚ろになってその場に倒れた。
「どうして私の結晶をこんな醜い人間に使ったの?」
「お前を探すには生きている人間が必要だった。もう一度会うために。結晶が別の人の手に渡っていることを知った俺はもうお前が死んでいるのだと思って、復活させるために結晶と人を使って蘇らせようとした。でも生きているのなら意味がなかった」
「でもこの結晶と体に取り込んで思ったけど楽しそうね、嫌なほどに」
「あの日々に戻ることは出来ないのか……シナ」
「やっと私の名前を呼んでくれたのね。忘れているのかと思った。そうね、元に戻るよりこの世界を霊の世界に変えたらいいんじゃないの。こっちの方が楽しいよ」
「離れ離れになった最初の俺ならそれに賛成していた。だが最初は生け贄としか見えていなかったサラは他の灰色の霊に優しく接していた。長い時間の中で霊が悪い存在に変わってしまっても……」
「それはあなたがそばにいたから。灰色の霊が反抗できなかったからでしょう。私とレクは霊の中の守り子だから。守り子だから閉じ込められた。悪いのは人なのにそれを全て私たちに擦り付けた」
「……わかっているよ」
「ううん、何もわかっていないわ! 何百年閉じ込められても、守り人が邪魔をして出られなかった。世界が何度変わろうともその風景を見ることなくずっと地面の中にいた。やっと出られると思ったら私は実験体にされて、レクはいなくなった。一人になっても味方がいなかった。灰色の霊達は私に命の代わりをくれた。けれどそれにしかならなかった。そうして怒りと憎しみ、苦しみが私を支配してこの世界がどうでもよくなった。私の悲しみが霊の力によって愚かな人に伝われば、それで死んでくれたらいいの」
「それは……シナも苦しむよ」
「どうして? 私は笑っているから平気……なの」
どうやらサラが持っていた結晶を取り込んだせいか、シナの心が少し揺らいでいる気がした。レクはもう少し、大きく揺れてくれれば隙間に入れるかもしれないと考えていた。
「何を言っても私に賛成してくれないなら、こんなことしたくなかったけど無理やりこれに取り込むしかないね」
シナがそう言うと黒いドロドロはツタに変わって、一瞬にしてレクを巻き付けた。しかしそれと同時にレクは一部を反射した形でシナに飛ばし、右腕に巻き付いた。
「これで力の差がわかったでしょう。……でもこれ痛い」
泣きそうになっているシナとは対照的にレクは力を込めて巻き付いていたツタをほどいた。
「えっ?」
「こんな弱い巻き付きじゃ、誰でも解けるよ。本当はこんなことしたくないんじゃないのか」
「違う。一時的に動きを止めようと思っただけ……」
シナがしゃべっているうちにレクは距離をつめて、右腕に巻き付いた黒いツタをほどこうとしていた。しかしそれを狙っていたかのようにシナはニヤッとして、レクの結晶めがけて黒いツタを飛ばし貫いた。
「そんな簡単なことするわけないじゃん」
シナが崩れ落ちるレクを見ながら大笑いしていると、貫いたはずのレクの結晶が消えることなく元に戻り、体の中に入ると立ち上がった。
「そんな……」
「……知らないうちに結ばれていたのか」
「まさか人との繋がり? 私とレクにしかできない、認められた人間が死ぬまで生き続ける呪い……でもあいつは死んでいるのにどうして?」
「そりゃ、死んでいないってことだろう」
「そんなの信じない!」
やけくそに黒いツタをレクの結晶めがけて飛ばして貫いてを繰り返したが、一瞬にして元の姿になり何もなかったことになった。レクはその攻撃を食らいながらもう一度、黒いツタを操作している左腕を掴んだ。
「もう……シナの持つ負の感情はすべて俺がもらうから」
レクはシナの頭を撫でながら抱き寄せた。シナは涙を浮かべていたが、黒いドロドロが彼女を取り込もうとしてしがみついた。レクがそれを追い払おうとしても勢いは止まらない。
シナの左手と顔が埋まろうとしていた時、息を引き取っていたはずのサラの体が光だし、サラの周りにあった黒いドロドロは一瞬にして消え去った。そして体から出てきたのは結晶だった。しかしその結晶は霊が持っているものとは違い、空色に染まっていた。
空色の結晶が浮遊するところは黒いドロドロが消えて、シナを包んでいた固くなったものだけとなった。こびりついてしまったらしくちっとも消えようとしない。すると空色の結晶はその固くなったものめがけて強い光を発して溶かそうとした。そうすると少しながら溶け始めてシナの周りに会った黒い固まりは小さな球体だけになった。
レクがその小さな球体を足で踏むと影のように消えてしまった。空色の結晶は強い光を放っていたせいかその場で砕け散った。砕け散った光はシナの姿と傷を癒し、光の霊のシナに戻った。
「私は……戻ってもいいの」
「どうやら許しが出たらしい」
「……でも」
シナがサラの体に触れた時、それは冷たく氷のようだった。
「サラは俺以上にシナを助けようとしていたのかもしれないな」
「だから最後の力を使って……私を助けてくれた恩人に願いを」
「シナ?」
「どうかサラに私たちとともにいられる命をください」
「おい、そんなこと願ったら次はシナが」
「大丈夫……レクも祈ってくれたら罪も半分になるから」
「俺ありきかよ。まぁ願うけど」
二人手を合わせて願っていると、穴の開いた天井から薄っすら光が入り込んできて、シナの光とレクの影の結晶の一部が取り出されるとそれが混ざり合うことなく一つの結晶となった。その結晶はサラの体の中に入った。サラの体をレクが支えて、シナは手を握っていた。
すると握っていた手に反応があって、シナはビクッとした。
「……」
サラの目が開いたものの、しゃべることなくシナとレクを見ていた。そして破壊された古代遺跡の部屋を見終わるとまた目を閉じた。
しかしすぐに目を覚ましてまた二人を見た。
「あの……サラ、大丈夫?」
「もしかしたら結晶があっていないのかもしれないな」
「……そうだとしたらどうするの。しゃべれない人なんて生きている機械じゃない」
「機械って言葉知っているのか」
「灰色の霊が教えてくれたの……ってそういうことじゃなくて」
二人が騒がしくしていると何かの声が聞こえた。
「……うるさい」
「お?」
「レク、うるさい」
「サラちゃん、ごめんね……」
シナがサラに抱き付くとそれを受け入れるように抱き寄せた。
「ごめんなさい」
「……私もごめんね。それに一度死んでいたんだって初めて知ったから」
「教えたら絶望すると思って言わなかった」
「言わなくてよかったって今なら思える」
「それならよかった……まぁ、二回死んでいるんだけどな」
「そんなことどうでもいいから早く外の世界を教えてよ」
シナがサラの手を引っ張るがふらつくのでレクがサラの体を支えて歩いた。崩れゆく古代遺跡からレクが影で防御壁を作って天井や横からの崩れを防いだ。出口の光が見えて騎士達の姿が見えるのと同時にクロムとルトがいた。ルトは三人を見るな否や銃を向けた。
「また会ったな。黒い霊」
「待ってください」
サラが声を張ろうとするが気力がなくて声が出ない。しかし銃を撃つ気配はなくそのままおろした。
「これがクロムの言っていた光と影の霊か」
「だから最初から言ったじゃないか」
「自力で出てきたことを誇りに思うが……君も人と霊の間になったのか」
「もってどういうことですか?」
「昔の記録にそう書かれていた」
「……珍しいことじゃなかったんだ」
「何……がっかりすることじゃないさ」
「レクはそれでいいかもしれないけど、人にとってはうれしいことなの」
「久しぶりにレクが怒られているのを見た」
「うれしそうにするな」
三人が幸せそうにしているのをルトとクロムは見ていたが、ルトはクロムに何かを伝えると馬に乗って帰ってしまった。
「サラさん」
「あっ、クロムさん」
「そろそろ国の方へ行きませんか? ルトがお礼をしたいと言っていて……」
「なぜ今、しなかった?」
「それはですね。準備が必要だからここでは無理ということで」
「そんな大掛かりなことをしなくてもいいのに……それに私ルトさんに何かしましたか?」
「僕にもわかりませんが、彼なりのお礼だそうです」
「そうですか……楽しみにしていますね」
そう言い三人とクロムは馬車に乗ろうとすると研究員もきた。
「すみません。騎士のところに乗れないから乗せてください」
「いいけど、もしかしてサラさんに何か聞こうとしているのか?」
「あっ、ばれちゃいました?」
「それはね」
「ばれちゃしょうがないですね。古代遺跡の最深部の奥まで行かれた方ですから話を聞いておかなければと思いまして……どうでしょうか」
「話だけなら構いません。ただ実験体として扱われなければいいです」
「わ、わかりました」
レクに睨みつけられながらサラに許可をもらった研究員は話を聞いていた。
国につくと門を閉めきれなかったのだろうと思うほどに人が集まっていて、城下町では多くのものが飛んでいた。サラは手を振りながら果物などをもらっていた。
なんとか城につき中に入ると、サラの前にルトが立っていた。
「私は……」
「今は何も言わずに受け取ってほしい」
「はい……」
受け取った小さな箱の中にはガラス玉のかんざしと蝶のチャームが入っていた。
「それは霊にもつけられる特注品でガラス玉のかんざしを光の霊にプレゼントしたいと思った。もう一つはサラさんのために作ったものだ。その蝶のチャームは人と霊の命を持つ者にしかつけられない……まぁ制御みたいなものだけど」
「その説明を聞くに俺のないけど」
「お前はその箱だけでいい」
「おい!」
そういうとみんなが笑っていた。サラは服にチャームをつけた。シナは長く白い髪を結ってかんざしで止めた。かんざしについている空色のガラス玉が光に反射してきれいに見えた。
「似合っている?」
「ああ……」
「レク、なんか照れている」
「照れてなんかいねぇーよ」
そういいながら影になって消えてしまった。
「きっと昔のことを思い出したんだろうな」
シナはそう呟いて影がいなくなるのを見ていた。
数日、お祭り騒ぎだった国はすぐに元に戻っていた。サラとシナとレクは誰にも言わずにその国から出ようとしていた。クロムの提案により、ずっとこの国にいてもいいとなったが、シナの願いである外の世界を歩きたいというものを優先するにはそういうわけにもいかなかった。
静かに階段を降りて城から出て、誰にも気づかれないように城下町を歩き、門が開いていることを確認して出ると門のところにイチがいた。
「出ていくのか?」
「あっ」
「別に他のやつには言わない」
「じゃあどうして?」
「いろんな国に行くんだろう。ならある人を探してほしい。どこかにいるリアラっていうやつを探してほしい」
「その人を探してどうするの?」
「どうするかは俺次第だ」
「……なんとなくわかったけど、見つけてもイチに伝えられないよ」
「だからこれをリアラに渡せ。そうすれば位置がわかる」
「なるほどね、わかった」
小さな石みたいな物体には画面がついていた。小さいがちゃんと地図が表示されていた。
「もう会うことはないかもしれないが、またな」
そう言ってイチは砂が舞ったのと同時に消えてしまった。
「私達も行かなきゃね」
そうシナとレクに言って三人は砂漠の道を歩き始めた。
桜詩凛の読みは「さくらしりん」で、由来は二つ。一つは元から使っていた桜子凛花が長いと思ったため、短くするために「桜」と「凛」を取り、その間に当時から書いていた「詩」をいれたもの。もう一つは『複雑な生き方をする少女』に登場する「さくら、黒蛇、シラ、理夏(りか)、ラナン」の頭文字を取ったものとなってい…
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