結晶と霊の詩(うた)(1/2)
公開 2023/09/16 15:07
最終更新
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それはある帰り道のことだった。用事を済ませた彼は道のない砂漠を歩いていた。いつも通っている道だから何も起きないだろうと安心していると叫び声が聞こえた。
「誰か彼女を助けてくれ」
その声の方へ歩くと黒い人とそのそばに倒れている人がいた。しかし彼は何を思ったのか。黒い人に銃を向けた。
黒い人は何か分からずあたふたしているにもかかわらず、その人の腕を打ち抜いた。飛んでいった腕は落ちることなく消えていった。
「人にとりつこうとする愚かな霊……か。さっきは試しに撃ってみたが、次は死んでもらう」
「ちょっと待て! 確かに俺は霊だが」
「霊なら死ね」
彼は黒い人の言葉を聞かずに銃を撃った。しかし銃弾は黒い人に当たらなかったようだ。当たる前に黒い人が逃げてしまったからだった。
残された意識不明の人を彼は抱え上げて、帰り道に戻ると歩き始めた。
彼が歩みを止めたのは開いているはずの扉が閉まっていたからだった。その扉を開けてもらわないと国に入ることが出来なかった。
「いつもいるはずの門番もいない……何かあったのか?」
扉は一人では動かせないので待っていると。開いてそこから一人出てきた。
「ごめん。研究所から何か逃げ出したって大騒ぎになって……。あれ? その子は」
「帰り道に砂漠の真ん中で倒れていた。霊にとりつかれる前でよかった」
「もしかして撃った?」
「ああ、ただ灰色以外の霊はあれが初めてだった。黒色もいるんだな」
「……黒」
「どうかしたか?」
「いや、何もないよ。そんなのがいるのかって思っただけさ。それよりもその子をどうにかしないといけないんじゃないか」
「そうだな。そろそろ疲れてきた」
そう言って二人は大きな扉を抜けるとすぐに城下町があり、そこをまっすぐ進むと彼らの家である城が見えてきた。
「おかえりなさいませ、ルト王子、それにクロムさん」
「僕はルトを迎えに行っただけだよ」
「……話は終わったか」
「あっ、抱えているから。……ごめんね」
「はい、ただいま、扉を開けます」
城の扉を開けて中に入ってすぐにルトは抱えていた人をクロムに預けた。
「えっ?」
「どっか開いているベッドにでも寝かせておけ。俺はやらなければいけないことがあるから」
そう言ってルトはクロムから離れて行ってしまった。仕方ないなと思いながらクロムは階段を上り二階に行き、自分の部屋に入り、ベッドに寝かせた。
目を覚ますと天井があった。天井にはよくわからない絵が描かれていた。それと左腕に黒い靄がかかっていてそちら側を見てみると彼が外を見ていた。
「お目覚めですか?」
窓を見る彼とは違う声がして少しビクッとしたが、起き上がって右を見ると人が立っていた。
「えっと……ここは?」
「僕の部屋です。霊を悪として消すために作られた国……と言った方がいいかな。見つけたのは僕じゃなくてルトだけど、砂漠の真ん中で倒れていたそうだね。どうしてあんなところにいたの?」
「あっ……」
口を開こうとした時、クロムの目の前に黒い人が現れて遮った。
「その前に名前を言え」
「君は……霊だね」
「ダメ! 彼は……」
「大丈夫。ルトなら殺していたかもしれないけど、僕は話を聞いてから決めるから。僕の名はクロム、この城の王子の補佐をしているよ。まぁ、たまに術を使うこともあるけど……説明はこのくらいでいいかな」
「……私はサラ、彼はレク。私達はある光の霊を探しているの。レクの大切な人を探しているの」
「光の霊……確か、古代遺跡に眠っていた二つの霊だったかな」
「知っているのですか!」
「僕が知っているのは光の霊と影の霊が今残る霊を作ったとしかわからないね。でも僕の知り合いの研究者なら何か知っているかもしれないけど」
「研究者の方は今どこへ?」
「……古代遺跡だよ。地下に眠るいろんな言葉を解読しようとしているみたい。ただ誰も入れなくてね」
「……えっ?」
「遺跡には守り人が存在していて、その人が認めた人しか入れなくなっている。その守り人はかつて二つの霊を封印してからずっとそこにいるんだってさ。だから人だけど死んでいて霊になっているみたい。ただ他の霊とは違って使命があるからルトも殺さずに放置しているけど」
「ならそいつに認められればいいのか」
「そういうことになる。だが、あなたなら認められるかもしれませんね、レク」
「彼が影の霊だから」
「はい。ただ一つ問題があって。ルトはレクのことを霊だと見てしまったので、また撃たれる可能性があるということ」
「あいつのせいで腕は撃たれた。まぁ、腕だけだから数時間で治ったけど」
「後、この国の人には霊が見えます。そして霊を撃退するための武器があって、霊だと分かってしまえば撃たれます」
「じゃあどうすればいいの?」
「僕の術を受けてください。そうすればあの人を除いては見えなくなりますから」
「あの人ってルトじゃないよな」
「はい、見えるのは僕とあの人だけです」
クロムはそう言って本棚に手を伸ばし、黒い本を取り出し開くとそこから杖が出てきた。目を閉じ本に書かれている文字を読むと文字で作られた輪がレクの体を包み、そのまま吸い込まれた。
「あれ? 本当に見えなくなったの」
「それは外に行ってからのお楽しみってところで」
「本当にこれでいいのかよ」
「ただ時間制なので夕方ぐらいには戻って来てね。それと古代遺跡の方は聞かなきゃいけないから僕に任せて……許可が出ないと守り人が殺しに来ちゃうから」
「……わかりました。今日は城下町を歩いてみますね」
「外に出るまで僕が一緒に行こう」
「はい、お願いします」
そう言われクロムとサラは二人並んで歩いていたが、後ろからついてきたレクは不満そうにしていた。
「ここまでくればすぐに城下町に出られると」
「ありがとうございます。ほらレクも」
「……」
仕方ないと思ってサラは黒い靄のところを掴み、レクに痛みを与えていた。
「それはやめてくれ」
「言わないと外さないから」
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして。なら夕方くらいに城の前で待っていますね」
「はい」
クロムはサラとレクを送り出して、城下町へ行ったのを確認すると城へ戻った。
「あら……新しい住居の方かしら」
「いえ、旅をしていて……倒れていたのをルトという方が助けてくれまして」
「なんと! その方はこの国の王子ですよ」
「そうなんですか」
「いいね……そういえばこの国に来るまで大変だったでしょう。街の過疎化と砂漠化が進んだせいで食料も水も手に入らなかったでしょう。でもこの国は大丈夫よ」
「はぁ……」
サラとレクは城下町で多くの人に囲まれていた。正確に言うとレクは見えていないようで話しかけられているのはサラだけだった。
「でも霊には気をつけないといけないよ。もしかしたら会っているのかもしれないけど」
「……」
「とりつかれてしまったらもう人ではなくなるからね。私達もサラちゃんを殺さなきゃいけなくなるから」
「はい。でも……」
「霊はね、みんな悪いものなのよ。良い霊なんていないの」
「はい……」
多くの人の声に押されてサラはあたふたしていた。
その様子を窓から見ていたクロムのもとにルトが来た。
「彼女は霊にとりつかれていたのか?」
「ううん、違うみたいだよ」
「そうか……彼女の近くにいた黒い霊にもう一度会えたらと思ったのだが、そうはいかないか」
「何か困ったことでもあったの?」
「いや、もしあれが影の霊だとしたら新しい発見でもなかったなと思ってさ」
「ああ、そういうこと」
「クロムはどう思うって言っても見ていないからわからないか」
「そうだね……でも黒ってことは影の霊の可能性はあるね。古代遺跡の光の霊のこともあるし、研究者に言った方がいいかも」
「あいつにか? まともな研究もせずに古代遺跡で遊んでいるんだぞ」
「そうなの? この前会った時に『古代遺跡の文字を解読するんだ』って言って張り切っていたけど」
「他のやつにしよう」
「まぁ、やる気はあるみたいだから……」
「あいつのことはどうでもいいんだ……本当に何も隠していないな?」
「えっ? いきなりどうしたの」
「彼女にはまだ霊がいるんじゃないのか? あの黒がすぐに離れるとは思えなくなってきた」
「大丈夫だよ。本当に何もいなかったから」
「……」
何も言わずに去ってしまったルトをクロムはごめんねと呟いた。そしてまた窓の方を見てサラとレクを観察していると、多くの人がはけて誰かを通していた。
サラは多くの声に押しつぶされながらどこか隠れられないかとジャンプして探していた。しかし人が多すぎて着地点が見えてなくて誰かの足を踏んでいた。痛みなど関係なしのようで住民達はサラに興味を示し、そしてさらに逃げ場所を失っていった。
するとどこからか足音がすると同時に人の声は聞こえなくなって、サラの周りにいた人は離れて行った。サラと少し距離を取って少年は立っていた。住民達はその少年を見るな否や道を開けた。
「えっと……えっ!」
距離があったはずなのに一瞬で間を詰めてきてサラの腕を掴んで走り出した。それは住民達の目には追えず、砂が舞った。砂が落ち着くころにはもうそこにサラと少年の姿はなかった。
少年は路地裏の道に入り込んだ時、サラが気絶していることに気がついたが、黒い靄を見てレクの目を見た。
「お前があの人なのか? クロムの術を受けていても霊を確認できるっていうのは」
「……だからみんな視認できなかったのか」
「話がかみ合っていないのだが? そもそもお前は誰だ」
「イチ……名前というか記号。本当は殺そうかと思ったが、クロムの知り合いなら……」
「知り合いってわけではないが、助けてくれた」
「……用があるのはお前じゃない……が」
イチは気絶してしまったサラを見て、無理やり起こそうかとも考えたがあきらめた。またレクの方を見て話した。
「これ以上、外にいない方がいい」
「どうしてだ」
「もうすぐ夕方になる。そうなれば術が解ける」
「……まだ日は出ている方だと思うが、いけないのか」
「術が解けるのには日の欠けの時間とその人が持つ魔力に比例する。確か今日は夕方の時間が短かった気が……しているだけだ」
「俺もそう思う。危険を教えてくれている気がする」
「それにルトがたまに外に出ていることがあるから……気づかれたら困るだろう」
「……なぜそんなに」
「明日、古代遺跡に行くんだろう。その護衛を頼まれたから会っておこうと思った。しかし肝心の彼女と会えていないが……それに走る必要はどこにもなかった」
そうイチは自分の行動に反省していると気絶していたサラが目を覚ました。しかし光の反射でイチの姿をとらえることが出来なかった。
「誰かいるの?」
「サラ、大丈夫か」
「レクは消えていたから平気だったんだね」
「すまない」
「……イチさんだっけ。クロムさんと話している時に出てきていたから」
「はい、明日あなたを護衛することになった。あと聞きたいことがある」
「何?」
「あなたは生きている人間でいいのか? それとも……」
イチが声を発しようとした時、レクの黒い腕が凶器となり、イチの首元にきた。
「秘密ですか……それなら仕方ありませんね。それ以上は何も質問しないから」
「イチさんも言っているから離してあげて」
「わかった」
レクの腕が元に戻って、サラとイチの間にレクが入り込み、サラを守ろうとした。
「あなたが何者かはどうでもいい。クロムが聞いてほしいと言ってきたから……そろそろですか」
イチが空を見上げると橙色に少し暗い藍色がにじんでいた。
「あっ! クロムさんのところに戻らないと……」
「手を貸して……送るから。大丈夫、さっきみたいには走らないから」
サラがイチの手に乗せると、何か独り言をつぶやいたかと思うと、周りが光り出して目が眩んだ。強い光がなくなって、サラは目をこするとクロムの前に立っていた。
「クロム」
「ありがとう、イチ」
そう感謝を告げるとイチは一瞬にしてサラの前からいなくなってしまった。
「えっ」
「あれも術だと思ってもらった方がいい。さぁ、ルトとすれ違う前に」
「……はい」
前に歩くクロムにサラはイチが言っていたことを聞こうとしたが、立ち止まってクロムは振り返った。
「今日はいろんなことがあって疲れているんじゃないかな。何か聞きたいのはわかるけど、そういう話は古代遺跡に行く間に聞こう。許可は下りたから、大丈夫だよ」
全てを悟られていたかのようにクロムはサラに鍵を渡して、あっちだよと指差すと自室の扉を開けて手を振ると中に入っていった。
「仕方ないから明日聞こう……」
疲れた声でサラは部屋の鍵を開けると真っ先にベッドに飛び込んで眠りについた。レクはサラに掛け布団を乗せると、何もない真っ黒な空を見ていた。
地下に掘られた簡易的に作られた研究室はとある攻撃のせいで二つに割れてしまった。ただ一人残っていた研究者はある人にしがみついていた。ある人の目には真っ黒などろどろとした液体とその中心に浮遊している何かがニヤリと笑っていた。
「あなたはどうして守っているの? いいや、守る必要はどこにもない」
「昔はそんなではなかったのに、時間は人格さえも変えてしまうのでしょうか」
浮遊している何かは分厚い一枚の結界のせいでそれ以上近づけなかったが、それさえも時間があれば壊れてしまいそうになっていた。
研究者はそれに耐えきれなくなって、かすかに見えた光の方へ走り出した。
「助けて」
手を伸ばした先には浮遊したなにかという絶望しかないのに、陽の光が少し差し込んでそれを掴もうとした。
カーテンも閉めずに寝ていたため、サラの寝ていたベッドに陽の光が直接入ってきた。眩しいと感じているとさっとレクが光を覆い隠すような影を作って、直射日光を防いだ。
「ごめんね、暑いでしょう」
「別にもうすぐ彼女に会えるならこんなことどうでもいい」
「そういうものなの?」
「……それよりもクロムが呼んでいたが」
「えっ、早く言ってよ」
サラは急いで準備を済ませると扉を開けて出ていった。レクは黒い靄が途切れない程度になった時、ゆっくりと歩き始めた。
陽の光が入っているはずなのに部屋から出た廊下や階段は暗くなっていた。影になっているわけではなく、どうやらそこ自体に何かしらの術がかかっているようだった。レクは黒くなったところで人の姿から影となり、魚のように泳いでいた。黒いところがなくなってやっと陽の光が入ってきたと気づいた時、サラとクロムが何かを話していた。
「昨日、何か言おうとしていたみたいだけど何かな?」
「イチさんがクロムさんから私が人かどうかを聞きたいって言っていて」
「……そうだね。僕の考えだと霊の気配もしたからどうなのかなって思って。でもその様子だと人だって答えそうだね。まぁ答える前に殺されそうだけど」
「えっ?」
「君の後ろに見える黒いのはきっと……」
サラが振り返ると黒い靄に覆われて人の姿というより、赤い目を光らせて獣の手をクロムの方へ伸ばしていた。その獣の手がレクのものであると気がついたサラは黒い靄の中、つかむと元の腕に戻った。
「どうして? ただ答えるだけじゃない」
「……」
「何か隠しているの?」
「そういうつもりはない」
「……クロムさん、私は人です。レクが何か知っているみたいだけど私は知らない。質問に関してはこれだけですか?」
「質問ってわけじゃないけど、どうやって会ったのかなって思って」
「それは……長くなるので、古代遺跡に行く間に話してもいいですか?」
「かまわないよ。むしろそっちの方がいいね」
サラに遮られて何も言い返せずにいたレクは二人の会話に流されて黙っていた。そんな気も考えずにサラとクロムは城の外に出るとイチと他の護衛の騎士がいた。
「クロム……」
「今日は頼む」
「はい」
イチとクロムの軽い会話が終わるとすぐに別の騎士が話し始めた。
「今日はクロム様と客人のサラ様を古代遺跡まで護衛するということですが」
「間違いはないよ。あと黒い靄は気にしないで。彼も古代遺跡に関係するかもしれないから攻撃しないこと。それを約束してくれるかい」
「クロム様の願いなら承諾しました」
前に出ていた騎士は下がった。イチはサラの手にガラス玉を渡してきた。そのガラス玉は透明で中にサンゴなどの海を連想させるものが入っていた。
「これは?」
「古代遺跡に住み着いた霊に襲われないお守り。研究結果に基づいて作られたから効果はわからない」
「そっか……でもありがとう」
サラがニコッと笑ってもイチは表情一つ変えずにクロムの横へ行った。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
クロムの一声でイチと騎士たちは二人を囲むように砂漠の道を歩き始めた。
「誰か彼女を助けてくれ」
その声の方へ歩くと黒い人とそのそばに倒れている人がいた。しかし彼は何を思ったのか。黒い人に銃を向けた。
黒い人は何か分からずあたふたしているにもかかわらず、その人の腕を打ち抜いた。飛んでいった腕は落ちることなく消えていった。
「人にとりつこうとする愚かな霊……か。さっきは試しに撃ってみたが、次は死んでもらう」
「ちょっと待て! 確かに俺は霊だが」
「霊なら死ね」
彼は黒い人の言葉を聞かずに銃を撃った。しかし銃弾は黒い人に当たらなかったようだ。当たる前に黒い人が逃げてしまったからだった。
残された意識不明の人を彼は抱え上げて、帰り道に戻ると歩き始めた。
彼が歩みを止めたのは開いているはずの扉が閉まっていたからだった。その扉を開けてもらわないと国に入ることが出来なかった。
「いつもいるはずの門番もいない……何かあったのか?」
扉は一人では動かせないので待っていると。開いてそこから一人出てきた。
「ごめん。研究所から何か逃げ出したって大騒ぎになって……。あれ? その子は」
「帰り道に砂漠の真ん中で倒れていた。霊にとりつかれる前でよかった」
「もしかして撃った?」
「ああ、ただ灰色以外の霊はあれが初めてだった。黒色もいるんだな」
「……黒」
「どうかしたか?」
「いや、何もないよ。そんなのがいるのかって思っただけさ。それよりもその子をどうにかしないといけないんじゃないか」
「そうだな。そろそろ疲れてきた」
そう言って二人は大きな扉を抜けるとすぐに城下町があり、そこをまっすぐ進むと彼らの家である城が見えてきた。
「おかえりなさいませ、ルト王子、それにクロムさん」
「僕はルトを迎えに行っただけだよ」
「……話は終わったか」
「あっ、抱えているから。……ごめんね」
「はい、ただいま、扉を開けます」
城の扉を開けて中に入ってすぐにルトは抱えていた人をクロムに預けた。
「えっ?」
「どっか開いているベッドにでも寝かせておけ。俺はやらなければいけないことがあるから」
そう言ってルトはクロムから離れて行ってしまった。仕方ないなと思いながらクロムは階段を上り二階に行き、自分の部屋に入り、ベッドに寝かせた。
目を覚ますと天井があった。天井にはよくわからない絵が描かれていた。それと左腕に黒い靄がかかっていてそちら側を見てみると彼が外を見ていた。
「お目覚めですか?」
窓を見る彼とは違う声がして少しビクッとしたが、起き上がって右を見ると人が立っていた。
「えっと……ここは?」
「僕の部屋です。霊を悪として消すために作られた国……と言った方がいいかな。見つけたのは僕じゃなくてルトだけど、砂漠の真ん中で倒れていたそうだね。どうしてあんなところにいたの?」
「あっ……」
口を開こうとした時、クロムの目の前に黒い人が現れて遮った。
「その前に名前を言え」
「君は……霊だね」
「ダメ! 彼は……」
「大丈夫。ルトなら殺していたかもしれないけど、僕は話を聞いてから決めるから。僕の名はクロム、この城の王子の補佐をしているよ。まぁ、たまに術を使うこともあるけど……説明はこのくらいでいいかな」
「……私はサラ、彼はレク。私達はある光の霊を探しているの。レクの大切な人を探しているの」
「光の霊……確か、古代遺跡に眠っていた二つの霊だったかな」
「知っているのですか!」
「僕が知っているのは光の霊と影の霊が今残る霊を作ったとしかわからないね。でも僕の知り合いの研究者なら何か知っているかもしれないけど」
「研究者の方は今どこへ?」
「……古代遺跡だよ。地下に眠るいろんな言葉を解読しようとしているみたい。ただ誰も入れなくてね」
「……えっ?」
「遺跡には守り人が存在していて、その人が認めた人しか入れなくなっている。その守り人はかつて二つの霊を封印してからずっとそこにいるんだってさ。だから人だけど死んでいて霊になっているみたい。ただ他の霊とは違って使命があるからルトも殺さずに放置しているけど」
「ならそいつに認められればいいのか」
「そういうことになる。だが、あなたなら認められるかもしれませんね、レク」
「彼が影の霊だから」
「はい。ただ一つ問題があって。ルトはレクのことを霊だと見てしまったので、また撃たれる可能性があるということ」
「あいつのせいで腕は撃たれた。まぁ、腕だけだから数時間で治ったけど」
「後、この国の人には霊が見えます。そして霊を撃退するための武器があって、霊だと分かってしまえば撃たれます」
「じゃあどうすればいいの?」
「僕の術を受けてください。そうすればあの人を除いては見えなくなりますから」
「あの人ってルトじゃないよな」
「はい、見えるのは僕とあの人だけです」
クロムはそう言って本棚に手を伸ばし、黒い本を取り出し開くとそこから杖が出てきた。目を閉じ本に書かれている文字を読むと文字で作られた輪がレクの体を包み、そのまま吸い込まれた。
「あれ? 本当に見えなくなったの」
「それは外に行ってからのお楽しみってところで」
「本当にこれでいいのかよ」
「ただ時間制なので夕方ぐらいには戻って来てね。それと古代遺跡の方は聞かなきゃいけないから僕に任せて……許可が出ないと守り人が殺しに来ちゃうから」
「……わかりました。今日は城下町を歩いてみますね」
「外に出るまで僕が一緒に行こう」
「はい、お願いします」
そう言われクロムとサラは二人並んで歩いていたが、後ろからついてきたレクは不満そうにしていた。
「ここまでくればすぐに城下町に出られると」
「ありがとうございます。ほらレクも」
「……」
仕方ないと思ってサラは黒い靄のところを掴み、レクに痛みを与えていた。
「それはやめてくれ」
「言わないと外さないから」
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして。なら夕方くらいに城の前で待っていますね」
「はい」
クロムはサラとレクを送り出して、城下町へ行ったのを確認すると城へ戻った。
「あら……新しい住居の方かしら」
「いえ、旅をしていて……倒れていたのをルトという方が助けてくれまして」
「なんと! その方はこの国の王子ですよ」
「そうなんですか」
「いいね……そういえばこの国に来るまで大変だったでしょう。街の過疎化と砂漠化が進んだせいで食料も水も手に入らなかったでしょう。でもこの国は大丈夫よ」
「はぁ……」
サラとレクは城下町で多くの人に囲まれていた。正確に言うとレクは見えていないようで話しかけられているのはサラだけだった。
「でも霊には気をつけないといけないよ。もしかしたら会っているのかもしれないけど」
「……」
「とりつかれてしまったらもう人ではなくなるからね。私達もサラちゃんを殺さなきゃいけなくなるから」
「はい。でも……」
「霊はね、みんな悪いものなのよ。良い霊なんていないの」
「はい……」
多くの人の声に押されてサラはあたふたしていた。
その様子を窓から見ていたクロムのもとにルトが来た。
「彼女は霊にとりつかれていたのか?」
「ううん、違うみたいだよ」
「そうか……彼女の近くにいた黒い霊にもう一度会えたらと思ったのだが、そうはいかないか」
「何か困ったことでもあったの?」
「いや、もしあれが影の霊だとしたら新しい発見でもなかったなと思ってさ」
「ああ、そういうこと」
「クロムはどう思うって言っても見ていないからわからないか」
「そうだね……でも黒ってことは影の霊の可能性はあるね。古代遺跡の光の霊のこともあるし、研究者に言った方がいいかも」
「あいつにか? まともな研究もせずに古代遺跡で遊んでいるんだぞ」
「そうなの? この前会った時に『古代遺跡の文字を解読するんだ』って言って張り切っていたけど」
「他のやつにしよう」
「まぁ、やる気はあるみたいだから……」
「あいつのことはどうでもいいんだ……本当に何も隠していないな?」
「えっ? いきなりどうしたの」
「彼女にはまだ霊がいるんじゃないのか? あの黒がすぐに離れるとは思えなくなってきた」
「大丈夫だよ。本当に何もいなかったから」
「……」
何も言わずに去ってしまったルトをクロムはごめんねと呟いた。そしてまた窓の方を見てサラとレクを観察していると、多くの人がはけて誰かを通していた。
サラは多くの声に押しつぶされながらどこか隠れられないかとジャンプして探していた。しかし人が多すぎて着地点が見えてなくて誰かの足を踏んでいた。痛みなど関係なしのようで住民達はサラに興味を示し、そしてさらに逃げ場所を失っていった。
するとどこからか足音がすると同時に人の声は聞こえなくなって、サラの周りにいた人は離れて行った。サラと少し距離を取って少年は立っていた。住民達はその少年を見るな否や道を開けた。
「えっと……えっ!」
距離があったはずなのに一瞬で間を詰めてきてサラの腕を掴んで走り出した。それは住民達の目には追えず、砂が舞った。砂が落ち着くころにはもうそこにサラと少年の姿はなかった。
少年は路地裏の道に入り込んだ時、サラが気絶していることに気がついたが、黒い靄を見てレクの目を見た。
「お前があの人なのか? クロムの術を受けていても霊を確認できるっていうのは」
「……だからみんな視認できなかったのか」
「話がかみ合っていないのだが? そもそもお前は誰だ」
「イチ……名前というか記号。本当は殺そうかと思ったが、クロムの知り合いなら……」
「知り合いってわけではないが、助けてくれた」
「……用があるのはお前じゃない……が」
イチは気絶してしまったサラを見て、無理やり起こそうかとも考えたがあきらめた。またレクの方を見て話した。
「これ以上、外にいない方がいい」
「どうしてだ」
「もうすぐ夕方になる。そうなれば術が解ける」
「……まだ日は出ている方だと思うが、いけないのか」
「術が解けるのには日の欠けの時間とその人が持つ魔力に比例する。確か今日は夕方の時間が短かった気が……しているだけだ」
「俺もそう思う。危険を教えてくれている気がする」
「それにルトがたまに外に出ていることがあるから……気づかれたら困るだろう」
「……なぜそんなに」
「明日、古代遺跡に行くんだろう。その護衛を頼まれたから会っておこうと思った。しかし肝心の彼女と会えていないが……それに走る必要はどこにもなかった」
そうイチは自分の行動に反省していると気絶していたサラが目を覚ました。しかし光の反射でイチの姿をとらえることが出来なかった。
「誰かいるの?」
「サラ、大丈夫か」
「レクは消えていたから平気だったんだね」
「すまない」
「……イチさんだっけ。クロムさんと話している時に出てきていたから」
「はい、明日あなたを護衛することになった。あと聞きたいことがある」
「何?」
「あなたは生きている人間でいいのか? それとも……」
イチが声を発しようとした時、レクの黒い腕が凶器となり、イチの首元にきた。
「秘密ですか……それなら仕方ありませんね。それ以上は何も質問しないから」
「イチさんも言っているから離してあげて」
「わかった」
レクの腕が元に戻って、サラとイチの間にレクが入り込み、サラを守ろうとした。
「あなたが何者かはどうでもいい。クロムが聞いてほしいと言ってきたから……そろそろですか」
イチが空を見上げると橙色に少し暗い藍色がにじんでいた。
「あっ! クロムさんのところに戻らないと……」
「手を貸して……送るから。大丈夫、さっきみたいには走らないから」
サラがイチの手に乗せると、何か独り言をつぶやいたかと思うと、周りが光り出して目が眩んだ。強い光がなくなって、サラは目をこするとクロムの前に立っていた。
「クロム」
「ありがとう、イチ」
そう感謝を告げるとイチは一瞬にしてサラの前からいなくなってしまった。
「えっ」
「あれも術だと思ってもらった方がいい。さぁ、ルトとすれ違う前に」
「……はい」
前に歩くクロムにサラはイチが言っていたことを聞こうとしたが、立ち止まってクロムは振り返った。
「今日はいろんなことがあって疲れているんじゃないかな。何か聞きたいのはわかるけど、そういう話は古代遺跡に行く間に聞こう。許可は下りたから、大丈夫だよ」
全てを悟られていたかのようにクロムはサラに鍵を渡して、あっちだよと指差すと自室の扉を開けて手を振ると中に入っていった。
「仕方ないから明日聞こう……」
疲れた声でサラは部屋の鍵を開けると真っ先にベッドに飛び込んで眠りについた。レクはサラに掛け布団を乗せると、何もない真っ黒な空を見ていた。
地下に掘られた簡易的に作られた研究室はとある攻撃のせいで二つに割れてしまった。ただ一人残っていた研究者はある人にしがみついていた。ある人の目には真っ黒などろどろとした液体とその中心に浮遊している何かがニヤリと笑っていた。
「あなたはどうして守っているの? いいや、守る必要はどこにもない」
「昔はそんなではなかったのに、時間は人格さえも変えてしまうのでしょうか」
浮遊している何かは分厚い一枚の結界のせいでそれ以上近づけなかったが、それさえも時間があれば壊れてしまいそうになっていた。
研究者はそれに耐えきれなくなって、かすかに見えた光の方へ走り出した。
「助けて」
手を伸ばした先には浮遊したなにかという絶望しかないのに、陽の光が少し差し込んでそれを掴もうとした。
カーテンも閉めずに寝ていたため、サラの寝ていたベッドに陽の光が直接入ってきた。眩しいと感じているとさっとレクが光を覆い隠すような影を作って、直射日光を防いだ。
「ごめんね、暑いでしょう」
「別にもうすぐ彼女に会えるならこんなことどうでもいい」
「そういうものなの?」
「……それよりもクロムが呼んでいたが」
「えっ、早く言ってよ」
サラは急いで準備を済ませると扉を開けて出ていった。レクは黒い靄が途切れない程度になった時、ゆっくりと歩き始めた。
陽の光が入っているはずなのに部屋から出た廊下や階段は暗くなっていた。影になっているわけではなく、どうやらそこ自体に何かしらの術がかかっているようだった。レクは黒くなったところで人の姿から影となり、魚のように泳いでいた。黒いところがなくなってやっと陽の光が入ってきたと気づいた時、サラとクロムが何かを話していた。
「昨日、何か言おうとしていたみたいだけど何かな?」
「イチさんがクロムさんから私が人かどうかを聞きたいって言っていて」
「……そうだね。僕の考えだと霊の気配もしたからどうなのかなって思って。でもその様子だと人だって答えそうだね。まぁ答える前に殺されそうだけど」
「えっ?」
「君の後ろに見える黒いのはきっと……」
サラが振り返ると黒い靄に覆われて人の姿というより、赤い目を光らせて獣の手をクロムの方へ伸ばしていた。その獣の手がレクのものであると気がついたサラは黒い靄の中、つかむと元の腕に戻った。
「どうして? ただ答えるだけじゃない」
「……」
「何か隠しているの?」
「そういうつもりはない」
「……クロムさん、私は人です。レクが何か知っているみたいだけど私は知らない。質問に関してはこれだけですか?」
「質問ってわけじゃないけど、どうやって会ったのかなって思って」
「それは……長くなるので、古代遺跡に行く間に話してもいいですか?」
「かまわないよ。むしろそっちの方がいいね」
サラに遮られて何も言い返せずにいたレクは二人の会話に流されて黙っていた。そんな気も考えずにサラとクロムは城の外に出るとイチと他の護衛の騎士がいた。
「クロム……」
「今日は頼む」
「はい」
イチとクロムの軽い会話が終わるとすぐに別の騎士が話し始めた。
「今日はクロム様と客人のサラ様を古代遺跡まで護衛するということですが」
「間違いはないよ。あと黒い靄は気にしないで。彼も古代遺跡に関係するかもしれないから攻撃しないこと。それを約束してくれるかい」
「クロム様の願いなら承諾しました」
前に出ていた騎士は下がった。イチはサラの手にガラス玉を渡してきた。そのガラス玉は透明で中にサンゴなどの海を連想させるものが入っていた。
「これは?」
「古代遺跡に住み着いた霊に襲われないお守り。研究結果に基づいて作られたから効果はわからない」
「そっか……でもありがとう」
サラがニコッと笑ってもイチは表情一つ変えずにクロムの横へ行った。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
クロムの一声でイチと騎士たちは二人を囲むように砂漠の道を歩き始めた。
桜詩凛の読みは「さくらしりん」で、由来は二つ。一つは元から使っていた桜子凛花が長いと思ったため、短くするために「桜」と「凛」を取り、その間に当時から書いていた「詩」をいれたもの。もう一つは『複雑な生き方をする少女』に登場する「さくら、黒蛇、シラ、理夏(りか)、ラナン」の頭文字を取ったものとなってい…
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