光無くし水晶の謎 不明
公開 2023/09/09 13:42
最終更新 -
光を失ってしまえば裏返しの影が現れることはなく、本心となった闇が浮かび上がってもそれが姿をとらえることは出来ない。闇に落ちた影が鏡となって現れても、反射の光を受け継ぐことなく消滅した。
 太陽の光が雲に覆われて影となり、また風に吹かれて雲が過ぎ去って光を取り戻した。それを繰り返すたびに影が増減したが、誰かに乗り移るまでの時間はなかった。

 線の見えない水色の絵の具で描かれた空は太陽の光を受け入れなかった。空に塗りつぶされた光は永遠に雲に覆われて、隙間からの光を地上に降り注いだ。だが空はそれを許さなかった。だから太陽を壊し、空は一つの光として生まれた。
 太陽を失ったことによって夜という暗闇が生まれなくなった。空という光のせいで永遠照らされた表面は生命を誕生させたが、天候が変わることなくずっと光っていたため、水は蒸発し、植物は枯れ、あらゆるものは風化し、耐えられなくなったものから消滅の道を歩んでいた。
 空の光に照らされていたのは何もかも失った地表だけだった。


 光を失ってしまえば闇が生まれて何も見えなくなる。見えないままどこかにぶつかって怪我をしてもそれが何なのかわからない。目が慣れるということがなければ誰も分からない。うっすら浮かび上がった影がそれを食らいつくすなど容易なことになる。
 太陽の光が空をとらえることなく、姿を現すことがなかったら永遠の暗闇になる。だが月や星達は空の先に存在していて、完全な闇とは言えなかった。

 空と呼ばれる独裁がない中で太陽は壊れたままだった。空は支配していたことが悪いことだと気づくまでがあまりにも遅すぎた。幼さゆえの過ちが全てを巻き込むことになろうとは思っていなかった。取り戻すためには太陽を復活させるしかない。天候の流れを失った今を変えるには自らの死をもって、その命と引き換えに太陽を得るしかなかった。
 現状、それは失敗し、太陽は壊れたままだ。空は死んだ。空の先にあった夜藍(よぞら)が覆いつくした。光を失った地表は冷たくなり、かろうじて残った水滴が凍らせていた。月が照らした光が氷に当たり、それを伝って反射していた。
 強い光に当たった氷は水になり、風に吹かれて空気となりまた別の氷に張りついた。それを繰り返した結果、一つの氷は巨大化して、それを誰かは水晶と呼んだ。


 光を失ってしまえば誰かの命が生まれることはない。誰かと呼ばれる存在はこの世にない。存在がないのだから、受け取るはずだった光を浴びることもない。影が生まれることも闇が生まれることもない。反射した誰かの姿を映す鏡が現れることもなかった。
 太陽を無くし生まれた存在の水晶は光の温かさを知らない。冷たく凍った地面と砕け散った空に夜藍の月と星。水晶はそれしか知らない。それ以上を知る方法を持ち合わせていなかった。

 水晶は動けぬ塊の中で流れては消えていく星を見上げていた。見上げるだけでよかったはずだったが、水晶は欲を持った。動く手段を知らない水晶は体の存在を理解していなかった。意識はいつからあったかは知らない。だが水晶の意思を認めたのは必然の行為と誰かは言った。
 水晶から伸びた細い氷は長い年月の中で腕となり足となった。そして頭となり体ができた。誰の姿を模したかまでは水晶も知らない。誰かが踏んだ地面が記憶した過去の痛みをもとに作られたのだろうか。


 太陽の光を壊した空は命と引き換えに元の世界を取り戻そうとしていた。しかしそれは失敗に終わり、空が砕け散った後の世界は夜藍が支配した。空の先にあったのは途方にくれた月と数えきれないほどの星が流れては消えていく風景であった。だがそれを視認する生き物はすでに全滅し、夜藍に包まれた世界は冷たくなり、空気中に残っていた水滴が凍って、水晶と呼ばれる巨大な氷がいろんな場所に現れた。
 そして水晶は意思を持ち、動くための体を地面という記憶から引き出し、目を覚ました。

 誰かは見ていた。その悲劇の始まりと進行する惨劇を、最初から知っていた。太陽が破壊されることも、空がいい加減なことも、夜藍が全てを支配することも、水晶が意思を持つことも、何もかも誰かは知っていた。
だが誰かは知らなかった。誰という存在を認識できるものは誰一人いなかった。それが自分自身であったとしても、それを認識する手段を持ち合わせていなかった。誰かは世界の観測者。そして


 光を失ってしまえばその存在を認識することができなくなる。光と呼ばれるもの自体がなかったことになる。その言葉を知らなければ、記憶していなければ、誰も知らないことになる。
 太陽を知らないことに繋がり、水晶は地面の記憶をもとに姿を変えた。生き物の種類は様々だったが、水晶は一人の女性として立ち上がり歩いていた。氷は徐々に色を作り始め、肌となり服となった。髪は透明な氷のまま、肩より長くあった。
「あ……、あ……」
 その声は水晶の音だが、人を真似しようと発しても言葉を知らないから何も言えない。地面が教えてくれたのは姿だけだった。

 一面氷の地面を歩き続けた水晶は足を止めた。星は流れては消えていく、追いつくことのできない領域で、地面が記憶した痛みが襲ってくるだけだった。欲は枯れ果て、何も無くなった水晶はその場で横になり眠った。


 誰かは漂う夜藍の中で目を覚ました。放り出されたわけでもなく生まれたわけでもない。存在した星のようにぶつかって砕けたわけでもない。何かを覚えていたはずなのにその記憶も、存在そのものの記録もない。誰かは不明な存在になり、その不明も記録されていない。
 誰かは太陽を知っている。その世界にもたらされる悲劇が起こる前を知っている。はずだった。今の誰かは記憶していない。昔の誰かは記録していたかもしれない。がそれは存在しない記録だ。

 誰かは水晶を予測した。生き物を失った氷の地面に現れる少女の存在を予測した。だがそれは否定され、紙は破られ捨てられた。しかし誰かは記録されていた。記録されていたが、それは本当の記述かは知らない。
 誰かは誰? ――不明な質問、見つけ――


 光を失ってしまえば何もなかったことにできたのか? その答えは否定しようか。光がなければ影が生まれることはない。という答えは夜藍でもうっすら存在できるに変えよう。氷に反射した姿を鏡と呼んでもかまわないとしよう。
 太陽が破壊されて長い年月が経ち、水晶が眠りについても氷は解けなかった。風は吹くことを忘れ、天候達はその風景に邪魔をしたくないようで動きがなかった。

 世界の観測者はそれが終わりだと悟った。だが最後の約束を果たしに水晶に近づいた。
 ――不明な判断、理解不能――。
 誰かは覚えていない。だが覚えていた。消滅した存在? 存在しない? それも否定するだろうか。誰かは誰? その答えを誰かは知っている。いや知らない。肯定と否定が混ざり合う考えの先に誰かは中心を見た。水晶の目覚めだ。

『約束は果たされた』
 その音は水晶の声? いや誰かの声? 存在は記録されない。記録できない。

 この世界が存在したことも記録、で、き――


再生不能、巻き戻しますか?
桜詩凛の読みは「さくらしりん」で、由来は二つ。一つは元から使っていた桜子凛花が長いと思ったため、短くするために「桜」と「凛」を取り、その間に当時から書いていた「詩」をいれたもの。もう一つは『複雑な生き方をする少女』に登場する「さくら、黒蛇、シラ、理夏(りか)、ラナン」の頭文字を取ったものとなってい…
最近の記事
『闇堕ちの能力者 第四章 亡くした心は蝶の夢を見る』に関する説明
今作は第一章を書いている時点で第四章に何を書くかは決まっており、それは『霊の話 番外編 青い霊編』の内容を少し改変しな…
2026/01/22 14:10
闇堕ちの能力者 第四章 亡くした心は蝶の夢を見る(3/3)
(空白)  簡単にコタラが三人を逃がすとは思えなかった。体の痛みがまだ治りきっていないセオンは体力の消費も相まって遠…
2026/01/22 14:09
闇堕ちの能力者 第四章 亡くした心は蝶の夢を見る(2/3)
(空白)  次の日、セオンはとある建物の屋上でマスターからもらった小さな蝶のブローチを見ていた。もらった時よりも藍色…
2026/01/22 14:07
闇堕ちの能力者 第四章 亡くした心は蝶の夢を見る(1/3)
(空白)  不気味な空、灰色の大地。その山頂に立っていた。雲一つないその風景を眺めていた瞳は飛び立った無数のカラスに驚…
2026/01/22 14:01
『”不明”に隠れた世界を渡る少女の話』に関する説明
今作は2025年12月17日と18日の二日間で書かれたものです。当初、別の話を考えていたのですが、思うようにいかなくて時間だけが…
2025/12/20 20:48
”不明”に隠れた世界を渡る少女の話
(空白)  世界を救済するために書き加えられたものは、正常だった世界を汚染する。けれど彼はそれを知らなかった。あの世界…
2025/12/20 20:46
短編小説っぽい何か(411~420)/それに関する説明つき
▽短編小説411(2025/9/27)/未熟な偽物の呪い “魔女”は死の道をゆく  吊られた命は天に召されて  次の光へと導かれる  …
2025/11/30 12:58
『複雑な生き方をする少女 厄災編 第一章 ”はじまり”の厄災と若き魔女』に関する説明
今作は『複雑な生き方をする少女』の新しい話として作り出したもので、『異世界編』を元に設定を組み直したものとなります。た…
2025/11/24 09:53
複雑な生き方をする少女 厄災編 第一章 ”はじまり”の厄災と若き魔女(2/2)
(空白)  目的地の村付近で箒から降りて少し歩くと辿り着いた。見た目は簡素で何不自由ない普通の村に見えたが、中に入る…
2025/11/24 09:52
複雑な生き方をする少女 厄災編 第一章 ”はじまり”の厄災と若き魔女(1/2)
(空白)  この世界は異常だ。狂っていると表現してもいいほどに。世界を記録する者として訪れた時から思っていた。けれど他…
2025/11/24 09:49
『誰も知らない現世を生きる二人の幽霊 第四章 断片的な“彼女”の記憶と“この世界”の真実』に…
今作は第一章~第三章までの第一節~第八節の構成ではなく、二人の生前の話……を書くはずだったのですが、あまりにも難しすぎた…
2025/10/09 10:13
誰も知らない現世を生きる二人の幽霊 第四章 断片的な“彼女”の記憶と“この世界”の真実
(空白)  薄暗い空が何もない世界を作り出していた。そこにあった道を歩く一人の少女がいた。途方もない道を歩き続けていた…
2025/10/09 10:02
短編小説っぽい何か(401~410)/それに関する説明つき
▽短編小説401(2025/7/19)/無垢なる命は真実を知り閉ざした扉を開く  希望を託そう 未来を信じて  願い続けた世界は残酷…
2025/09/28 17:16
『闇堕ちの能力者 第三章 楽しい祭りと記念の宴を』に関する説明
今作は2025年5月23日に第三章の設定を書こうとした形跡があり、それを覚えてなくて2025年9月10日に本文と同時に設定を作ったも…
2025/09/21 10:18
闇堕ちの能力者 第三章 楽しい祭りと記念の宴を(2/2)
(空白)  三人が休憩所でご飯を食べている頃、コタラは祭りの会場にあるステージで司会をしていた。肩にはぬいぐるみを乗…
2025/09/21 10:16
闇堕ちの能力者 第三章 楽しい祭りと記念の宴を(1/2)
(空白)  季節の変わり目を忘れた空、日の光が照らしたアスファルトの地面から籠った熱が風に乗って、夏の暑さから逃れたい…
2025/09/21 10:14
『消極的な幽霊 第二章 冷酷の歩いた惨劇』に関する説明
今作は2025年7月22日に設定を作り、2025年8月4日に没となって、2025年8月9日~14日に新しく書いたものとなります。しかし初期に…
2025/08/15 09:07
消極的な幽霊 第二章 冷酷の歩いた惨劇
(空白)  それは昼食を作り始めた頃だった  曇っていた空は一瞬だけ晴れた  それが最悪な結果を生むなんて  その時は…
2025/08/15 09:04
短編小説っぽい何か(391~400)/それに関する説明つき
▽短編小説391(2025/5/10)/伸ばした手が新たな世界への道標(みちしるべ)となる  遠くも近い未来の話  現実とは違うもう…
2025/07/27 17:22
『壊れた“君”と“彼”の答えのない現実』に関する説明
今作は2025年7月17日の夜、かなり病みまくった結果、生まれた文章。そのため、描写そのものが残酷性を秘めていることとそれによ…
2025/07/19 20:51
もっと見る
タグ
創作(172)
小説(172)
短編小説(129)
説明(75)
一次創作(50)
中編小説(43)
掌編小説(27)
詩(2)
設定(1)
もっと見る