短編小説っぽい何か(171~191)/それに関する説明つき
公開 2023/08/27 13:46
最終更新 2023/08/27 14:03
▽短編小説171(2021/2/19)/無音の心に無価値の形
 誰も知らない、知る必要などない。消えるための死に何の意味もなく、空から落ちた影を地に閉じ込めた命なんて最初からいなかったのに、遥か未来の願いはこんなにも残酷な悲劇しか生まなかった。
 この地に生み落とされた無垢な魂は騙し合いの果てに信用など意味のないものだと気づき、人の価値を否定した。形だけの複製品に価値などなく、一定の動きしか見せないものに割く感情に意味なく、無音の心は何も通さず響きはしない。

 言葉を変わることに何の意味がある
 呪いの引き金が発射されて良いことなどない
 意味のない口は閉じられた巾着のように結び
 同じことを繰り返しても塞いだ耳には届かない

 空で願ったものは破壊され修復した願いは既にもう誰かのものではなかった。それでも愚かな神は引き裂かれた答えを知らずに叶えた。その未来はもうなく無感情の少女は死ぬために生きている。

▽短編小説172(2021/2/25)/空の砂の幻想に静かな音色
 遠くに見えた未来は手を振る誰かの姿を消してなくなった。静かな音を歩む足に乗せて拾い集めた記憶は少しずつ薄れていった。求めた、願った何かさえも忘れて足は止まっていた。
 未来を探して歩いた道に希望は崩れ去った。微かに感じ取った風の行方を追った目は何処か寂しくて、けれどどうして、と答えは返らない。

 歩み寄った道は数を消した
 見えていた線は悉(ことごと)く切れて繋がっていなかった
 交わした約束は五日の思い出のままに閉じて
 いらない記憶と共にゴミ箱に捨てられた

 小さな願い。その願いはまだ、叶わない。まだ、を知らないまま、自ら閉じ込めた未来。そのままの過去の幻想に足を止めた。一つの音を拾い上げて耳にした記憶は良くも悪くもない忘れ物。
 静かに流れ出した音色は止まっていた足を動かしていた。置いた過去にさよならをして、恐怖の檻を通り抜けて下を見ていた目は前を向いていた。

 歩き出した少女の背を光の影は
 遠くに行った姿を見て
 笑い、泣き、怒り、また笑って
 風に乗り、砂のように崩れて消えた

▽短編小説173(2021/3/6)/十字架と壊れた分岐点
 十字架の輝きを失った少女は眠り続け、残された守護者は死に行く仲間達の墓を作り、戻らぬ目覚めを待ち続けていた。切り離されていた場所は長い年月を得て一つの世界に繋がった。
 天から訪れた知らせを受けて守護者は希望を失いつつあった。しかし死んだ筈の優しい鬼が、願いにより世界を渡ってきた者達が現れた。彼らは飛び散った十字架の欠片によって引き寄せられた。

 十字架の輝きが失われて集まっていた力は欠片と共にあらゆる世界へ消えた。暗闇にそり残された少女の心は出口のない空間を彷徨っていた。誰の声も音も聞こえない。体を覆っていた光も消えていく。温かさを失い冷たくなって止まる。
『みんな、どこにいるの?』
 声は弱くなって立っていることも辛くなる。そこに黒い靄がかかった手が現れた。
『こっち』
 その声と手を追って見上げると一人の少年が立っていた。片目を隠してもう片方の目は赤く光っていた。その赤目に反応して片翼が動いていた。
『あいつが君と出会うために俺は』
 少年は無理やり少女の手を取り立ち上がらせた。
『あなたは……』
 少女は問いかけたが、その答えは聞けなかった。

▽短編小説174(2021/3/13)/それは“誰”の記憶 失う少女と重なる幽霊
 宣告は唐突に、見えない姿は影さえ飲み込んだ。虚な目の少女に手を伸ばした深く冷たい闇は絡みつき、記憶と感情を奪っていった。
 感情に結びつけられていた彼らの姿は失われて、存在そのものが消滅した時、少女に残されていたのは空っぽの器だけだった。

 感情という温かさを失って冷たくなりゆく少女の前に困惑する幽霊が現れて、その手を取った。何の為にここにいるのかと目的を忘れた幽霊は彷徨い、少女の元に辿り着いた。同じ境遇に陥っていることを知り、幽霊は少女を連れて旅に出た。

 何もわからないまま歩みを進めて知らない地に辿り着く。途中で幽霊が見つけた鏡の欠片と少女が拾った壊れた録音機。その再生ボタンを押し砂嵐の雑音が誰かの声を遮断していた。首を傾げる少女は耳を澄ませて聞く幽霊を無視して停止した。

「どうして何回も押させるの?」
“何の意味もないのに”
『僕はよく聞きたいから』
“何かわかるかもしれないのになぁ”

 二人の思惑が噛み合わないまま、荒地を進む。

▽短編小説175(2021/3/20)/終わりの記録と奪われた音
 手に握られた筆の先に綴った文字を書き続けた記録。歴史を記す者として次代に選ばれた彼は多くの出来事を書き綴っていた。彼の存在を固定するために逃亡しないように見張られていた。全ての出来事を記録するために遠出しても必ず護衛がつき、周りからはお偉いさんとして忌み嫌われていた。彼は何もないように振る舞っていたが、家族と引き離されて役目についたことを憎んでいた。

 ある噂が流れていた。声を失った子供や音を聞けない耳、泣くことを忘れた赤ん坊など音に関しての噂話が彼の耳にも届いていた。しかし正確なものでなければ書き綴ることは許されず、彼の筆を護衛は取り上げた。

 けれど彼は気になって寝静まった夜、外に出た。その夜に鳴り響いていたはずの音は耳にも届いていないかのように、大きな音を立てても誰も起きはしなかった。不思議と思いつつ彼は屋敷を出て、道を進んでいくと突然、灯籠の火は風なく揺れて消えた。暗くなったそこに微かな雑音と虚ろな目をした姿が彼の方を向いていた。目が合い恐怖に苛まれ動けなくなった彼にゆらゆらと近づいてくる。何かを叫んだはずの声は耳に聞こえない。
『お前にその音はいらない』
 呟いたその声と同時に彼の意識は失われた。

▽短編小説176(2021/3/26)/神の気まぐれと慈悲の心
 神の言うままに進んだ世界はすでに滅ぶことが決まって、人々はそれに反対しようとも止める手段を知っているわけではなかった。
 最初からそうだったと気付いていた者達は誰かの事杖を無視して消滅した。その考えごと、人々の記憶から抜け落ちていた。

 衰退して崩壊した世界に残された一人の少年は荒地に立っていた。争いの跡も血の跡も残らず、ひび割れた地面は見えなくなるまで続いていた。空は水の色を忘れて、怪しく赤に染まり降り注ぐ透明な雨さえ、得体の知れない色になっていた。

 遠く遠く、昔の話?
 聞いた聞いた、今の話?
 染まった世界は神が死んだ末路

 だから私はあなたを――はしない
 だからあなたも私を――はしないで
 それが答えになるから

 少年の背後に感じた温かさを手にしようとして振り返った後、それは消えて彼の意識は奪われた。

▽短編小説177(2021/4/3)/修正される世界と始まる反撃
 五つの世界の終わりを見た橙の霊は光導くままに終焉の端から天界に戻ってきた。彼が戻ってきた時にはすでに水晶は破壊されて、半の霊と五匹の蝶は目覚めていた。
 神はもう一度、半の霊を名もなき場所に閉じ込めようとした。しかし彼には――の祈りがかかって封じられなくなっていた。また彼のもとから飛び去った五匹の蝶の行方もそれぞれの霊との接触により回収不可能になった。

 白黒世界の紅い魂は鮮血の守護者
 凍結世界の水の魂は氷結の訓練指揮官
 社会世界の青い魂は海洋の天才騎士
 善悪世界の風の魂は裏組織の暗殺者
 差別世界の黄の魂は花隠れの処刑人
 全ては灰の霊……王のために動いていた

 彼ら五人を終着点として蝶は姿を消した
 その中間地点に止まった霊達に記憶を残して
 それぞれが本来あるべき姿に戻っていく

 氷の蝶は紫の霊に、竹の蝶は茶の霊に懐かしさを
 菊の蝶は桃の霊に罪の重さを思い出させた
 血の蝶は緑と白の霊に一瞬止まりすぐに飛び立つ
 海の蝶は不思議そうに橙の霊を見つめていた

▽短編小説178(2021/4/10)/懐かしさと罪の重さと涙の記憶
 あの日の出来事を空の霊は予感していた。いつか――が半の霊の見る夢の世界に現れて解放すると彼はわかっていた。“あの世界”を知る者同士ならば。しかしその結果は神の怒りを買い、色彩を得た五匹の蝶は飛び去った。半の霊を守る――の祈りはこの世界に失われた“いるはずだった”者達の願いであり、神にとっては呪いだった。

 天界に漂っていた菊の蝶は天使達に追いかけられていたが、桃の霊を見つけるとその手に止まった。天使達が捕まえようとしたが、菊の蝶は桃の霊を囲むように輝き、桃の霊の瞳に映ると消えた。

 霊の住まう図書館に訪れた風の霊はいつものように茶の霊に聞き、とある噂を調べていた。集中して本をめくる音だけが響く中、本に止まる竹の蝶はゆっくりと近づいて視界に入るのを待っていた。

 配達員の紫の霊は氷の蝶に自由を奪われて、霧の森の静かな湖にきて、木の影に眠る水の霊を見つけた。氷の蝶は水の霊の手に止まり、光を放って砕け散り、紫の霊は水の霊の涙を見た。

▽短編小説179(2021/4/18)/修正された世界と祈りの欠片
 かつての――は彼らの魂を解放するために神を倒して晴れて自由の身を手に入れた。しかしその出来事は世界を修正させるほどの力を持っていた。
天界と地上を結ぶ虹が消えて代わりに氷の扉が現れた時、この世界にいる全ての者達の記憶が奪われて、偽物の真実が流れ込み支配していった。
それは神としての理ではなく、世界が決めた全てを消去してなかったことにする儀式だった。

 解放した魂達も例外ではなかった。しかし――はその姿を失いつつも今までのことを変わらず覚えていた。魂が蝶となり変わりゆく世界の体が馴染んで全てを忘れたとしても彼らの絆は繋がったままだった。
 天界を閉じた氷の扉は――によって開かれた。だが世界が修正されて“あの”記憶はなく、彼の存在も消えて空の神が開いたことになっていた。かつての記憶を持つ者もいない。
 しかし――の祈りは異物を残し、記憶の消滅を免れた者がいた。

※短編小説177~179内の――は修正後の世界では記録が消滅しているため伏字となっている。
 179内の氷の扉の史実は――なのだが、上記により空の神(後の空の霊)に変わってしまっている。

▽短編小説180(2021/4/25)/終焉の歪みと願いの対価と紐解く記憶
 その空は煙に覆われて灰色に染まっていた。戦争の火種は多くの地に何かを失い誰かを消し、白紙の未来は黒く塗りつぶされて涙は穢れていった。干からびた赤い液体だけが残されて、錆びついた剣や鎧はは砂嵐とともに流れて風化していった。

 緑の霊は生前、白い霊とともに見たあの世界のことを思い出していた。終わりの火種は神の裁きと偽りの束縛。透明な五匹の蝶は謎の雑音によって、目を離した隙にそれぞれの色に染まり、神の手を逃れた。だが王の魂は願いと記憶を対価にあの森は作られた。血の蝶が止まり、すぐさま飛び去ろうとした時、緑の霊は呟いて血の蝶は飛んだ。

 橙の霊には生前の記憶がなかった。霊となってまだ日が浅かった頃にあの世界の終わりを見届けたことによる守護者との接触で今に至る。けれど不思議そうに飛ぶ海の蝶のことが気になって捕まえようとした時には姿を消していた。本当の主のもとへ飛び去っていた。
「何処かで私はあなたを知っている」
 そんな言葉を口ずさみながらも空っぽの頭は何も教えてくれない。血の匂い、錆びた金具、人々の笑い声、痛みなき苦痛、そして騎士の言葉。砂嵐に紛れた記憶が紐解かれた時、橙の霊は呟いた。

※守護者=短編小説78の幽霊≠紅い霊
 騎士=第二部の青い霊

▽短編小説181(2021/5/7)/光の子と運命の歯車
 光の中に隠れた闇、闇の中に滲んだ光。二つの側面を持つ彼は人間と幽霊の血を引く存在だった。昼間は光に照らされて人間として、夜間は闇に沈み幽霊として、二つの世界を行き来していた。彼の両親は既に他界、していることになっていた。両者から愛知れず、誰にも認識されず、静かに皆の記憶から離れていた。
 しかし彼はあの日、その手を取っていた。標的は囲まれてその痛みは音からして強烈なものだった。高笑いの後に残された少女に彼は手を伸ばしていた。静かに暮らしたい想いよりその脳は少女を助けたいと思っていたらしい。

 その運命は既に狂っていた。救うための選択は全て意味のないものに書き換わっていた。どの行動も歯車が抜けた世界では正常に戻ることはない。
 夢見の運命は憎しみの果てに未来を反転させた。その者の運命から二人は逃げられない。
『お前はあの子を殺すのか』
 彼は視界に捉えて言い放つが、その声が届くことはない。どんなに抗おうが、最初から少女の死は決まっていた。延命など無意味だと吐き捨てた。

 笑うことができなかったあの世界を
 罪ある者に鉄槌と呪いを

▽短編小説182(2021/5/15)/上書きされた私の想いは削れて
 人がそうであったように誰かの色に上書きして、偽りの未来に変えた愚かな行為の後で、見えない笑い声が響いては切り裂く。
 幼き少女が夢見た理想は少しずつ蝕まれて失った現実に気づけずに、落ちたことも分からずに止まりもしない。

 敗れた夢にしがみつき離すことはなかった。歳取りの影が捕まえた幼き少女にしがみついて囁いて壊れていく。
 考えは醜くてけれど無垢な心は知らず、人の過ちを真実と捉えることしかできず、その正義を否定できたとしても、もう幼き少女の心に取り憑いた誰かの思いが壊して戻りはしない。

 笑顔は静寂へ、感情の揺らぎを止め少女は現実を見る。
 誰かの操り人形のままに少女はこの狂った世界に立っていた。
 その意思が借り物だとしても、壊された心に真実を見る目は残されていなかった。

▽短編小説183(2021/5/22)/なくした春のひとときの想い
 春の陽気に誘われて咲いた花の香り。弾いた琴の音色に耳を傾けて、桜の木のそばに座る人影を見る。

 風吹きかけて散りゆく花びらに隠れて消えた。音色とともにその光景は枯れ木の幻影。止まった時間に現れた春の妖精が見せたひと時の終わり。

 その黒き枯れ木に触れれば灰となりて去り
 けれども消えた琴の音色響いて
 色無き今に桃色の花びら一枚
 頬に涙流れればその瞳、笑顔が映る

▽短編小説184(2021/5/27)/鏡の中の真実と偽物と忘却
 真夜中の鏡に消し忘れた光が目覚める。誰も知らない足音が響いて徘徊する。依代となる体を求めて這いずる影に無限の時間はなく、すぐに来た自然光にやられてまた鏡のふりをした。

 今宵も繰り返しはずの真夜中の闇に現れた少女に目をつけて、思考を鈍らせて手を鏡のもとへ合わせて引き招く。けれど影は少女の目の前で姿を消した。
 迷い込んだ鏡の世界。全てが反転し同じような違いを見せて、いるはずの“少女”がもう一人いた。
「もう少しで手に入る」
 微かに聞き取れた声に驚いた少女の音に気づいた影は、遠くにいたにもかかわらず少女の背後にまわって囁く。
「ミツケタ」

 少女は逃げるが影は追いかけない。気配を失った少女が振り向くと無数の光の玉が迫り、一部は体を貫こうとしていた。しかしそれらが少女を傷つけることはなかった。
 何故なら少女はすでに

 鏡の外は広くて寒くないの
 “私”は戻りたくないの
 だからあなたはおとなしく、忘れていて

▽短編小説185(2021/5/29)/交わり消えた本当の記憶(気持ち)は何処に?
 子供が笑った声が聞こえた暗い部屋の中、塞ぎ込んだ記憶が呼び覚まされて叫んでいた。無邪気な笑い声が囁く悪口のように聞こえた被害妄想は、心に突き刺さったナイフが血を流し続けて止まらない。
 一つの傷は広がってぽっかり穴が開いた蓋はどこにもなくて、見た風景を忘却して空白の時間に書き換えた。そうして空白に色付けした嘘の時間が生まれて、繋いだ話はいつしか真実になる。

 良い思い出は悪い思い出に塗り潰されて、笑った記憶は一瞬の時を過ぎて忘れていく。そのかわりに残った泣いた記憶が消えることなく、閉じない傷はまた広がりを見せて、全てが虚無となる。
 冷たくなった空気に静かな音が軋み、その答えを求めて飛び降りる勇気もなく、それを止める愚か者は終わりだから、とほざいて
 自殺は救いじゃないの?

 助けはすでに来ないことを知っている
 疲れた者に生きることを命令するのは無粋である
 それに気づいたとしても
 誰も“加害者”にはなりたくないから口を塞ぐ

▽短編小説186(2021/6/5)/死者の目に映る灰色の未来
 消えていた静かな世界は遠く澄んだ未来。人のために作られなかった建物。生きることを拒んだ予知の先に、誰かの叫び声が聞こえていた。
 けれどその音は耳に届いていなかった。

 廃墟に変わりゆく凍結の世界は小さく歪んだ未来。自己中心の行動は自然を破壊する。生きた緑の葉の先に、枯れた木もなく声はなかった。
 けれど晴れた空に地面は湿っていた。

 過ぎゆく月の影、太陽の冷たさも知らずに時間は針を動かす。人の世はすでに握られていた。全ては必然で偶然なんてない、と誰かが言った。
“彼”は白く変わった空にさよならをした。

▽短編小説187(2021/6/12)/永遠の時間と終わらない悪夢
 それは嬉しく跳ねて、楽しく笑って、悲しく泣いて、苦しく切って、痛みを忘れて流れた血液。何もかも消えた心は全てを裏切り戻らない。
 それはきっと映らない目の奥で滴る赤い涙。切り裂いて取れた目玉は床に落ちて、終わらない夢を見続ける。

 甘い夢に堕ちた日々が崩れ去るならば
 無理やりにも続ければいい
 手にした包丁は目を抉り
 暗闇に叫ぶ人なき今
 終わらない悪夢に苛まれて
 永遠の願いは叶う

 それは動かない人形、目のない可哀想な人形。
 だから代わりにガラスの目玉をあげる。

 床にばら撒かれた赤い液体と潰された目
 それは人だったもの。私は夢を見続ける。

▽短編小説188(2021/6/19)/感情の色と無表情、戻らない日々
 迷い込んだ見知らぬ影に触れた少女は笑っていた。耳に届く声に傾けて聞いた話は感情を開いた。沢山の感情の色が広がって表情に現れた時、少女の止まっていた時間は動き出した。
 しかし影は突然消えて、少女は戻れなくなった。無表情を変えたあの日、感情を知ったあの日から元には戻れない。何も知らない過去に、無表情に戻れない。いなくなった影によって知った悲しみが溢れて止まらなかった。

 また止まった時間が始まって変わっていた。豊かな表情は彼を思い出して元に戻ろうとしても、どこか歪んでしまう。無表情は壊されていた。
 けれど思い出という記憶は少しずつ書き換わる。あの日の出来事が掠れてほどけて消えていく。感情の色も薄れていく。忘れて消えてなくなっていく。
「会いたい……」
 そう少女は呟いて動かなくなり目を閉じる。

▽短編小説189(2021/6/25)/生まれ変わる世界と分岐の始まり
 一つの奇跡は全てを歪ませた。修正箇所はなかったことにされて白紙に戻った時、止まっていた時間は動き出した。切り取られていたあの世界は選択を怠ったことで進んだ道は巻き戻っていく。
 三百年間、動かなかった目は呼び覚まされて、出会いは道を外す。抜けた空白と変わった時間に混乱して、少女は絶望に落ちて壊れていく。

 分岐によって生まれた見知らぬ時間軸
 “彼女”は死の時間を奪い、影は知る
 光と鏡は欠片の中で眠り、その時を待つ

 迷いは深く、その答えを出せずにいた。心は分裂してそれぞれの意思を持ち始めていることにも気付けず、少年の手を二人は触れていた。

 失った思い出のままに少女は毒を口に入れた。大量の薬を投与した。体を切りつけ血を吐き出した。しかし傷は塞がり、致死量でも死なない。屋上の鉄柵を掴み、飛び降りる頃合いを計ろうとした時、緩んでいたのか鉄柵は倒れて、少女の体は放り出される。

 鉄柵が地面に当たり、少年はその音を聞いた
 一人は少年の手の中に流れて髪は白くなる

 鈍い音がしても少女には意識があった
 けれどその体は天使の少年に支えられていた

▽短編小説190(2021/7/4)/二人の少女と再生の願い(呪い)
 読み聞かせたあの記憶。願いは呪いに、運命は見放された。一人の少女はそれを受け入れず、存在を消した。堕天使は真実の後、その場から消えた。
 修正された世界で呪いを振り撒いた終焉に何も残らず、かつての灰の道だけが広がっていた。

 時間が進んだ修正されなかった世界
 記録が生まれない中で『呪い』は新たな意味を持つ
 「まじない」と「のろい」に分たれた中和は傾き
 新しい『呪い』の形を知ることとなる

 十字架の主の魂を巡り、現れた化物は無差別に殺し、半数以上の生徒が死んだ。それを目の当たりにしていた少女は静かに隠れていたが、複数の化物の目は捉えて、長い爪で引き裂こうとしていた。しかし突然、少女の視界は歪み、化物はいなくなっていた。
 少女は怖い、助けて、と心の中で思い続けていた。そしてその想いはいつしか化物以外も消し去った。

 化物との出会いは必然の目覚め
 知らない力は交わることのない願い
 消えた『呪い』は彼女の手に
 修正されない世界で“再び”始まる

※短編小説190は『はじまりは絶望へ』の主人公と同姓同名の月詠すみれが、新たな『呪の書』の所有者として覚醒する話。

▽短編小説191(2021/7/10)/終わらぬ悪夢は再生の記憶(消去)
 終わりを告げた夢はまだ続いていた。三人の魂は解放されて自由になり、彼女も喜んでくれるだろう。けれど彼はどれだけ暗闇を歩いても、出口の光はどこにもなかった。しかし次に踏み出した足が深く沈み引き摺り込まれた。
 気づけば白い天井と薬品のにおい。寝かされていた体を起こしていると、車椅子の少女が気づいた。
「よかった」
 心配そうな顔をした少女は彼に近づいて続けようとしたが、彼は少女に問いかけていた。
「ここはまだ夢の中なのか?」
「……」
 しかし少女はその問いに答えなかった。

 交わることのない時間
 修正される前の世界に傾き
 霊達の姿は過去のものへ
 あの日の矢は残されたまま

 彼はある本を手にした。それは知っている最初の二人の霊。全ての霊は名を持たず灰色だった世界。頁をめくっているとあの少女に似た子がいた。彼の知る物語にその子はいなかった。

 彼の背後に漂う霊
 封印は再び解かれた

※短編小説191はとある設定により現在はなかったことになっている。
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