短編小説っぽい何か(131~150)/それに関する説明つき
公開 2023/08/27 13:34
最終更新 2023/08/27 14:03
▽短編小説131(2020/5/17)/終らぬ夢に皆無の選択肢を
 暗闇の消えた夢に残された記憶。選択肢によって奪われた趙太一は自ら命を断った。だが一羽の蝶は交わる事の許されぬ夢の中で迷い人を待っていた。
 蝶が作り出した夢は過去、現在、未来を繋ぐ、正の選択を失った世界。偽の選択が作り出した蝶が望んだ世界。誰もが殺し合う世界。

 一人は大きな鞄を持ち歩いていた。写真を見て誰かを探していた。彼は霊の記憶を宿す真実の目。
 一人は人々を助ける魔法使い。しかしそれは表の顔。彼は鬼の記憶を宿す優しき裏切者。
 一人は黒き力に飲み込まれた友人を救う為に封印の地を目指す。彼は王の記憶を宿す白き癒し手。
 一人は気づけばそこにいた。終わったはずの夢がまた始まる。彼は遠い旅の記憶を宿す夢迷い人。

 夢に迷い、偽の記憶を蝶に植え付けられた彼らはそれが夢か現実かわからない。蝶は飛び立ち、また誰かを招く。終わりは死を迎えるだけだ。

「見つけた」
 誰かがそう呟き、終らぬ夢は動き出した。

▽短編小説132(2020/5/24)/未来を忘れた人の考えと答え
 小さな音が広がる事を忘れて閉じこもっていたとして、誰かがそれを拾い上げる事が出来たなら、それは救われるのと変わらない。
 静かな空間に落ちた音が散乱して広がっていたとして、誰にも目に入る事が出来なかったなら、それは何も起きないのと変わらない。

 時計の針が一周するまでに色んな音が鳴る。重なり合う音が和音になろうが不協になろうが、誰も知らないし、予測出来たら幸せなの?
 光が欠けるまでに色んな出来事がおきる。交わる言葉や感触が密着になろうが否定になろうが、誰も知らないし、それは時に傷つき壊れていく。

 理解する脳が未来を予測する事を諦めて止まったとして、それを救う誰かを探す考えが浮かばなくて、時間だけが無駄に過ぎていく。
 音を無くした声が勇気の言葉を発して否定されたとして、虚無に襲われた時間を流して、壊れた心は修復を忘れて全て無駄だったと理解する。

 流れ落ちて救われない命がすぐ側にあっても、それに気付くのは終わった後で誰も見えない。
 けれど見えない目の先に耳を澄ませて音を拾うなら、それはまだ生きていていいのかな。

▽短編小説133(2020/5/31)/空になく雨音の色は迷いの音色
 暗闇の見えない空に灰色の雲が覆い尽くし涙を流す。そして色んな所に当たって多くの音色を奏でる。一つの雫が何かと重なるまで降り続いた。
 止まって静かになった雨は遮断され聞こえない。窓に流れた水が跡を残して消えていくまで目は追う。薄く反射した姿に手を置いて目を閉じた。

 激しく降る雨に飛び散った水が足にかかる。傘に隠れた視界が歪んではっきり見えなくなる。すると耳に雨音が集中して話声が聞こえた気がした。
 聞こえなかった雨音が一つ、二つと広がって跳ねて消えた。酷くなった雨を目は覚める。耳にした一線の波長が雨に重なり揺れて音が変わった。

 灰色の雲に覆われていた空に入り込む光が撫でていた。雨は少しずつ弱まり音は空気に触れて消えていく。傘に残った一滴の水が地面に落ちた。
 強い光が雲の隙間から現れて目が痛む。窓に流れた水は後になって蒸発して消えた。けれど

『まだ雨音を探して彷徨っている』

 変わった音が戻る前に
 聞こえた方に

▽短編小説134(2020/6/6)/心に棲みつく穢れの誤謬(ごびゅう)の願い
 時の外れ、空の隙間に咲く白い花。枯れる事を忘れた花は止まっていた。暑さも寒さも感じる事なく、花は止まっていた。
 目の前に現れた人なき者が溢れていても、白い花は何も思わない。凍った時を溶かすものはない。
 一輪の花が人なき者に踏まれ折られても、白い花は何も思わない。弱き者に貸す感情は捨てた。

 空の外れ、時の隙間に咲く紅い花。同じときを繰返す花は動いていた。道の外れに落ちたかの友人を救う為に動いていた。
 目の前に現れた人なき者が溢れていても、紅い花は見えず踏まれても再生し歩みを止めない。
 一輪の花が人なき者に認識されなくても、紅い花は見つめて叫ぶが、その声は届かず踏まれた。

 不死の白い花、再生の紅い花、二つは一つの花。死を恐れた花の愚かな願いと囁く心の穢れの光。
 光に導かれた穢れは永遠の命を与えて白い花に、闇に落とされた魂は転生の命を与えて紅い花になった。分たれた心は過ちを知るまで戻らない。

▽短編小説135(2020/6/14)/雨音に隠れた景色の記憶
 薄暗い空が太陽を隠して雨を降らす様に、光を忘れて覆った雲が雷を落とした。大きな音がして揺れる地面は少しひび割れても気付かない。
 窓から遠くの風景に深緑の木々が映り、葉に当たる雨音が存在感を出しても、水の線は見えない。

 白色の紫陽花の花弁に雨がたまって、重さに負けて落ちた雫が細い影の葉に当たる。葉に隠れた小さな蕾が風に吹かれて少し姿を現した。
 暗い森の中に光る目が紫陽花を見ていた。それは花の死を見届けるまで誰の目にも映らない。

 森から切り離された一本の木は強い雨の痛みに押されて幹と同じくらいの枝を折った。地面についても最後まで折れずに少し浮いていた。
 覆われた雲に小雨が降り葉は微かに揺れた。枝に落ちた滴に当たる何かを映す目はぼやけていた。

 傘に隠れた影を多くの水の線が歪ませて、足音は雨音にかき消されて、見えなくなった何かを
 森の中に眠る彼の姿を、光る目から流れた涙を、例え雨音にかき消されても何かは覚えている。

▽短編小説136(2020/6/21)/生まれ堕ちた誤りの死人
 誰かは真実を吐いた。誰かは嘘を吐いた。そうやって世界は作られて壊されていった。そこに生み落とされた少女は誰人(だれがびと)を恨み愛した。
 少女の目に映る風景が綺麗に入っていたのは少しだけだった。それを破壊する日々が多くを占めて分からないと繰り返す、動けない程に止まった。

 誰かの操り人形のフリが誰人を傷つけたと気付いてもそれを戻す方法を少女は知らない。繰り返した日々はもう少女のものではないから戻らない。
 壊れた心が偽の感情を操作して、少女は頭に伝えられたそれが真実だと思うしか答えを知らない。

 だから壊れた機械は人には戻れないの。

 でも涙を流すの、流れた感情の本音を。

 叫び泣いた声が誰に届かぬとも枯れるまで流れていた涙を止めはしなかった。謝りしか知らない心は分からない感情を制御出来なかった。

 けれどそれで良かった。少女は既に
 流れた何かは手を伝って冷たくなっていた。

▽短編小説137(2020/6/27)/不安定な空と流れる影の行方
 空色の快晴を隠した薄灰色の雲が落とした雫雨(しずくあめ)が草木に当たり流れて土に染み込んだ。雨宿りの机に脚をつけた雀が空を見上げていた。
 覆い尽くされた雲の隙間から入る白い光が薄暗かった緑を明るくした。しかしすぐに薄灰色の雲が戻ってきて一瞬のうちに地面は暗くなった。

 雫雨が降り白い光が現れるのを繰り返す不安定な空を雀は木に止まり眺めていた。でも雫雨の涙が少なくなって薄灰色の雲は白色の雲と空色の快晴を返し始めていた。
 それを見込んだように強く吹いた風は木々を揺らし、葉に溜まった雫が地面に当たるまもなく飛ばされて雀の体に当たって翼が濡れた。

 薄灰色の雲が消えて雫雨が降らない白色の雲は少しの光を許して緑は明暗を繰り返していた。そこにそよ風が吹いて光で生まれた影が波のように流れていった。
 それをよく見ようと木から降りた雀は地面に着地したが、細長い草が邪魔をして雀もまたその一部になっていた。そして草の雫で頭を濡らした。

 鐘の音が鳴り辺りは明るくなった。雀が再び木に止まろうとした時に見た音は光の中に消えた。

▽短編小説138(2020/7/5)/雨粒に隠した空の声
 白に染まった空から降る雨粒が窓に当たる。一粒の雫が別の雫に重なって水の線となって地面に流れていった。
 水色の空は失われて覆われた雲は風に吹かれながらも分厚い曇りは流れない。微かに光る灯が暗さを抑えるように照らしていた。

 ひと時の気まぐれか雨は消えた。泣き止んだかの様に空の声は聞こえなくなった。そう思いたかったが、また雨が降り出した。
 通り雨に似た期限の変わり様は楽しんでいる気がした。けれど消して空の涙は嘘泣きじゃない。不安に重ねた多くの雨粒に隠した空の――。

 地面にもたらされた雨は潤いに満たされた。暑さに参った草木も乾いた体に染みる。幸せの風が吹き、再生の香りがした。
 雨は降り続けて止まりを繰り返しながら、空の声は変わっていく。流れゆく雲の中、忘れられた声を隠して雨と共に消えていった。

▽短編小説139(2020/7/12)/雨の悲劇の天候の怒り
 薄灰色の雲しか見せなかった空が雷を落としたのは何時だったか。小雨はそれに反応した様に大量の水を吐き出した。
 雨は地面に水を叩きつける程に強く、空は雲と夜の狭間も分からず暗くなっていた。白く見えた線が微かに雨だと認識するしかなかった。

 雷の音を隠す様に雨の音は棘を持っていた。固い地面は何本の棘によって繋がりを破壊された。隙間に入った雨が深く染み込んで砕け散る。
 清らかな川は砕けた土に汚されて流れた先は踏み込む事のない場所。止まらない水嵩(みずかさ)は増してそれは流れ続けて何かにぶつかっても終わらない。

 叫びと悲鳴は水に流されて届かない。雨音は酷くなり水の跳ねる音が響いていた。でも空に残っていた水は何時か尽きる。
 雲を作る水さえ無くなり空に光が戻った。けれど雨の悲劇は光を照らして初めて全てを物語る。

▽短編小説140(2020/7/18)/暗闇に広がる痛みの反復
 暗闇に近づく誰かは知っている。そして知らない。風を切る音と壁に刺さる刃物が少女を傷つけるものだと分かって流れる赤は少ない。
 無防備な状態を狙い誰かは少女に向かって刃物を振ったが、いつまで経っても擦り傷。誰かの目に映る風景はいつもぼやけている。

 暗闇に生きる少女は知っていた。そして知らない。背後に迫る首の手は躊躇なく締めた。――を殺してもそれを手に入れる為に何も思わない。
 無防備な状態を狙う事もなく少女は近づいた。その命を誰かの為に捧げるならそれを頂戴と。

 傷ついた心に正常な答えは、壊れていた。

 暗闇に眠る――は壊れた。染まった色の見分けもつかないままに倒れていた。そこに落ちた白い破片が模細工(もざいく)の人形になってやり直しを願う、

 擦り傷は、痛みは蓄積されてまた繰り返す。

▽短編小説141(2020/7/26)/暗闇に潜む者の悪戯の罰
 冷たく暗く見えない隧道(ずいどう)に響く叫び声。震わせた体は後ろを忘れて囚われた。悲鳴は近づいて通り過ぎるまで目は黒に染まった。
 言葉は砂嵐に消え、水滴の落ちる音が悲しく響いた。二つの光が奥からやってきて爆音と共に去った。風が吹き飛んだ靴は日に当たった。

 冷たく光り見えた隧道に響く誰かの声。古びた壁に落書きの痕が引き寄せる。暗闇に落ちる夕暮れに迫る影はその主を嫌った。
 灯火は消える事なく、伸びた蔦が入口を覆い尽くそうとした。足音が奥からやってきて小さく響いて去った。いらない臭いが充満した。

 冷たく光る隧道に消えた声。落書きは修正液に上書きされていた。暗闇に落ちる夕暮れに迫る影の周りに集まる叫び声。
 生気は暗所に消え、水滴の落ちる音が嬉しく響いた。隧道に浮かぶ影がやってきて放り投げて去った。枝に落ちた塵は無声のままだった。

※隧道(ずいどう)=トンネル

▽短編小説142(2020/8/3)/あの日、反復禁止の記憶
 水の空の風景は一瞬にしてかき消された。日の光は分厚い雲に重なって、辺りは薄暗くなった。多色は飲み込まれ、灰色のみに書き換わっていた。
 歩く道は複雑な色と残された人影が散乱し、それを踏むならば、溶け出した赤と汗が付着した。その音は耳に悲鳴がこびり付き、魂に刻まれた。

 灰の空の風景はあれが来るまで同じだった。日の光の代わりを果たす様に跳ねた火柱が近くに落ちた。近寄る者に帰りの命はなかった。
 歩く道に不可解な足音と血の匂いが散乱し、それに怯えた者は洞窟に潜(ひそ)み隠れていた。通り過ぎた音に続く煙にむせて、火は暗く倒れた。

 警報はなり、けど耳を傾ける程の時間はなかった

 暗の空の風景は一瞬にして終わりを告げた。日の光は分厚い雲を貫通し地を照らしていた。晴れた空が映すのは二度と起こしてはならない風景。
 歩く道に壊れた体と強い日差しがますます腐らせて臭いが充満した。何も映らぬ目に流れた液体が地に落ちた時、何か崩れる音がした。

▽短編小説143(2020/8/9)/灰色の雲は晴れても、苦痛は終わらない
 光忘れた白い空に浮かぶ物体は灰色の雲の隙間から黒い何かを落とした。薄暗い地面に反して放った光が全てを消し去っても物体は知らん顔した。
 音無くして割れた地面の高低差に体の均衡が崩れた。包み込む光は熱を帯びて痛みを消し去ったり、残ったのは炭になった誰かの人影だけだった。

 辺り一面を光によって歪まされた風景を見た者は滴り落ちる雨に気付く事なく眠りについた。光から漏れた煙は空に上がり、雲は隙間を埋めた。
 治った光の次に降った雨は黒く、暑さは酷くなってやっと痛みを感じ、けれど遅く、体は溶けていく。赤と白が見え、視界は下を向いた。

 物体は笑い、悲劇を知らずに消えていく

 黒い雨は降り続けて体を引き摺り辿り着いた噴水に残された水。暑さは理性を鈍らせて喉を潤そうとして油の浮いた毒を体に取り込み、死を得た。
 光に奪われた視界、無くした体の一部、辛うじて残った命。けれどもうその姿を見た者達は銃を向け、火をつけて燃やしたのだった。

▽短編小説144(2020/8/16)/暗闇の影、見えない目の光
 暗闇に潜む影が見えない目を通り過ぎた。気配だけを残して消えたそれは音を鳴らした。壁に反響した音は耳が拾って体は震えた。
 這い寄る暗闇が体を覆いつく前にその目は光を捉えて、消えた気配を追っても冷たい風に吹かれた影に隠れて、それを無くして奪われた。

 目に映らず揺れる影人が流れ着いた部屋の床。細い紐が死を逃した少女の首に巻かれ眠る。暑さに枯れる体に影人は触れてそこは冷たくなった。
 目に映らず漂う影人の姿は死を見定める様に現れて見えないその目に問いかけた。声もなく、冷たい風が流れてもその目に、心に問いかけた。

 見えない暗闇の中で微かに光は赤に変わった。体は暖かく、しかし温度は高く熱くなる。逃げたい心に反して体は何かの重さで動けない。
 穢れた雨を受けて人を無くした化物の姿。運ばれ山積みの命に火を投げ入れて燃やす。その中に生者がいても、それはもう見たくない。

 影人が見せた怖い夢。少女が流した涙。
 光に照らされた目にその姿は映っていた。

▽短編小説145(2020/8/22)/生花に残す幽霊の儚い願い
 雲行き怪しい流れは雷と共に現れて、風に吹かれた雨が降っていた。熱の痛みは日差しと共に消えて、雲は黒く染まっていった。
 明るさが勘違いを起こし、耳は怒りの音を聞く。影に落とした部屋に求めた光は砕け散る。最後の欠片が消えた後、声は本音を殺し上書きされた。

 肌に触れた気配はあの墓の記憶

 熱さを忘れた船の迎え。墓石に座る幽霊。昼に姿を消され、夜に姿を現した。暑さに枯れた水が生ける花を殺して、色を失っていく。
 夕暮れの人影に水の流れる音。墓の塀に座り直す幽霊。供養する人影に幽霊の姿は映らない。蒸し暑い風は涼しく変わり、幽霊は濡れた手を取る。

 誰かの影に悲しみの重さは深い

 手にしたのは白い菊の花。人影の横に添(そな)えても気付かず踏まれて散る。汚れた花弁を拾い集めてもその目に映ること叶わず、風に消えていく。
 手にしたのは黄のユリ。人影の横で枯れない花。幽霊の手に貫く棘は失われた本音の跡。隠れた花の先を探し血だらけの手は、姿は終わりを知る、

 それでも彼は一枚の花弁を残して

▽短編小説146(2020/8/29)/目覚めぬ悪夢、繰返しの毒
 見えない空気の欠片が体の中に入り、長い時間を過ごし変形した事も知らずに、暴れ始めれば主人は気づくだろう。
 けれどその音が無のままに流れて、頭に響いた一つが毒だと判断する前に乗っ取られたら、それは何も教えてはくれない。

 一つ、また一つと回る景色に浮かぶ文字。止まる言葉を読むたびに視界は悪くなり、者は崩れた化物のように見えた。
 けれどそれは逆のこと。知らぬうちに入り込んだ毒が人を変える。中から外へ、気づかぬままに偽の景色に描き変わる。

 人を切り裂く音は軽く、全て血に染まる。人無き化け物の成れの果て。かつての仲間も分からず、その目は殺しを楽しみ笑っていた。
 逃げる悲鳴は化物を楽しませ、静寂な匂いは化物を喜ばせた。毒は広がり誰の目にも真実は映さない。

▽短編小説147(2020/9/6)/永遠の静寂に分かたれた四人
 何も書かれていない手紙に触れた先で文字を綴っていく。だがその言葉を、文章を読む事は叶わない。文字は白くなり消えてしまうから。
 残った記憶が抜け落ちる感覚が恐ろしく、けれどそれを止められはしない。砂時計の終わりを見て上に動かしてまた欠ける音が聞こえた。

 見えない手紙を書き続けて消えた記憶は増えて、その手は止まる。しかし砂時計は止まらない。時は過ぎて行き、最後の記憶を引き抜こうとする。
 止まった時と三人の――。砂時計と生贄の――。
 静寂な永遠を打ち下す為に旅立った三人と
 砂時計の食料として生かされる生贄の彼。

 最後の時はすぐそこまで来た。もう残された記憶は一欠片。思い出は羽のように飛び去った。あと一回しで何もかも忘れてしまうだろう。
 しかし手紙は黒く浮かび上がり文字が現れた。頭を上げると風は吹き、雲は動き始めた。砂時計は壊れていた。彼の記憶は、手紙が記録していた。

 時は動き出し、約束は果たされ、彼らは笑った。

▽短編小説148(2020/9/12)/星の海に映る青い空のように
 黒く塗りつぶされた現れた星達。新月の影に眠る月光。土瀝青(どれきせい)の冷たい屋上に座り、星の霊は空を見上げていた。
 何処か懐かしく知らない空を見て立ち上がる。弱く光る星々が線で結ばれて星座を作り出してもわからない。けれど何故か寂しいと感じた。

 静寂な空に上る階段の音が響き、星の霊は振り返る。その姿は維持出来ない砂嵐の影。握られていた本が落ちて空中に紙が舞う。
 バツ印の顔写真を見て気付く。屋上から散った顔がいた。幾度となく救えずに散らせた複数人のことを思い出した。

 ヒビが入り影は笑い狐火が光を失い消えていく。
『あなたは彼を、―――を救うことは出来ない』
 誰かの声が頭に響いたが星の霊は否定する。
 影の手を握り何かが流れてきた。死に切れず彷徨い、死を探す。決して知ることのない。迷惑行為が目立つがほっとけない青い霊の姿を見た。

 浸食に飲み込まれそうになる星の霊の横を光る海の蝶が飛び、手は重なり影は跡形もなく消えた。

▼短編小説58と59での青い霊の悪霊の姿である紺の霊が、星の霊の繰り返す夢の一部に干渉してきた時の話。偽りの神から救う術を得た星の霊と死を得る紺の霊。

▽短編小説149(2020/9/21)/一点の光が消えた時、影はあなたの側で
 光無くし夜の玄関に揺らぐ目は新しい灯に上書きされて見えなくなった。砂嵐の影が消え失せて誰かの高い声が響いて静かになった。
 階段の足音に姿は無く扉開ける風無く、近づく影が首を絞めるまで手は透過し、冷たさも暖かさも忘れ触れた面影も知らない夜に落ちた。

 星無くし夜の窓から現れた目は壁の音を鳴らして冷たい風の方へ近づいた。気配は温かさと寒さを持って揺らぐ視界がそれを捉えはしない。
 床を歩く足音に重くなる頭の痛みが酷くなり、叫びを影は承諾せず強く掴み、静かになって冷たくなった手を握り眠るように夜を終わらせた。

 鏡無くしの夜の部屋に過ぎた目はその姿を良しとせず、映した影を奪い去って真似を知らず、気付かれてもその視界が彼らを見ることは無い。
 止まる足音に似た風の触りは増え続けて、重く痛みを伴っても知らぬ顔をして、寝床に居座ると凍えた手を重ねて同化し盗むように夜を消した。

▽短編小説150(2020/9/25)/取り憑く悪霊の最後の良心
 暗闇に光る目を追っても次の目には映らない。影が少し気配を残して、這いずる体の感覚を恐れなくてもすぐに消えてなくなる。
 声をかけた哀れな少女は雨の音に負けて、反応した影の声を聞き取る事は愚か、残された感覚に支配されて冷たくなって終わりを迎える。

 耳に鳴く空気の音が煩くても悲鳴を上げた声は遮られて覆われて、酸素を奪われる一歩手前で霊は手を離してまた遮る繰返しを好み楽しんでいた。
 失われそうな心臓の鼓動が霊の笑い声に上書きされそうで意識を保とうとしても、体は限界に達して冷たくなり窒息死して、霊は笑わなくなった。

 首に纏わり付く感覚が手に、足に移動しながら体全体を貪り尽くそうと絡み付いた彼は離れるという選択肢を忘れ、少女に取り憑いた。
 影となり気配を消して近づき張り付いて、霊として認識する少女の頭を利用して彼は死を与えた。

 しかしその“少女”の命を殺めることはなかった
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