短編小説っぽい何か(111~130)/それに関する説明つき
公開 2023/08/27 13:31
最終更新 2023/08/27 13:34
▽短編小説111(2020/1/6)/人と怪の繫がぬ未来の赤色
 火から飛ぶ灰は疑似雪のように風に舞う。煙の痛みと葉の水の音、無音の枯れ木が炭に変わる。地に混ざる自然に時間を任せて目を閉じた。
 目を開けあの風景を思い出し、今の惨劇を映す。炎は赤い血の道と共に続き、追う少女は変わり果てた彼を見た。刀から流れ落ちる無数の音と液が真っ赤な姿を表した。

 かつて人の住む地は彼らの住処だった。しかし彼らは人と仲良くしたくて譲った。だが人の欲は彼らを少しずつ蝕み、御伽噺だけの存在になった。
 少女には歳の近い兄がいて、血は繋がってなく捨てられていた。優しく強く頼れる存在だったが、山に行くと言い行方不明になった。

「お兄ちゃん」
 血に染まり人の姿を失っていても少女は言う。
「ごめん、もう戻れない。俺は」
 影が月に照らされ、赤が鮮明に見えるのと同時に兄の額から二本のツノが見えた。両親を殺したのは鬼だったから、兄が同じと信じたくなかった。
 近づく兄としゃがみ込む少女。兄は少女の額に口付けをし「さよなら」と。少女の弱々しい手が兄の姿を掴もうと遠ざかる。
「いかないで」、滲む先に彼はもういなかった。

▽短編小説112(2020/1/12)/迎えの時間が重なることはなく
 晴れた空に線の雲が一つ、夕焼けから逃げるように引かれていた。白よりの橙の光が止まっていることにも気付かずに雲は消えた。
 橙の光に覆われた地面は少しずつ影に染まった。ほのかの温かさは暗さと共に寒くなった。無風の香りがかき消されるように耳は痛みを訴えた。
 枯れた葉の育つ屋上に置かれた一冊の本。手に持つと風が吹き、頁は飛び去った。一枚の紙だけが残されたが読めない文字が並んでいた。
 風は暗さと共に酷くなった。マフラーを取り出し首に巻くが寒い。ひんやりとした冷たさが触れる誰かの跡を感じた。

 暗くなった夜の屋上に白装束の姿があった。生き人がつけた電灯に照らされた青いベンチ。そこに飛ばされ消えた本が置かれていた。その本を取り座ると開き黙読した。
 風の匂いと冷たさが変わり途中で顔を上げた。だが誰もいない。そのかわり土のない場所に花が咲く。彼はその花を摘むとすぐに手放した。
「また君に……やり直すことにするよ」と呟いて柵を越え飛び降りた。

▽短編小説113(2020/1/19)/最後の頁は終わりの合図
 水と白の層の空に隠れた太陽の光。風に吹かれようとも薄く残る白い雲が遮っていた。
 屋根の下の木で作られた机と椅子。腰掛けた先、遠くに時計台と近くの枯れ木に止まる雀の姿。冷たい空気流れる中、一羽の雀は木の机に乗る。蜜柑の皮を持って飛んでいく。

 一羽の雀がいなくなって少し経つ頃、大量の雀が寒く強い風と共に石道に止まった。木の実を嘴(くちばし)で掴み、黄や屋根の上に乗る。
 昼飯を食しようとした少女の近く、机には三羽の雀がいた。だが少女が気づくと石道に戻っていった。そして人が通れば雀達は飛び去っていった。

 しかし一羽の雀は少女から離れなかった。人や自転車が通ろうとも机の上にいた。少女が本を開き集中し始めて、ふと気がつくと距離が近づいていた。頁をめくると首に巻いていたマフラーと肩の近くに雀が乗った。
 寄り添う雀は本が終わるまで乗っていた。本を閉じ鞄に入れようとする姿を雀は机の上から見ていた。だが枯れ木の近くの草に烏が止まり、雀は烏の方へ飛び降りた。

 草木揺れる冷たい風が吹き、二羽は飛んでいた。

▽短編小説114(2020/1/24)/流した涙の音色に光は見えない
 薄暗くなる空を覆い隠す灰色の雲。かすかに過ぎた雫が地面に落ちた時、それが雨だと気付いた。
 体育館では合唱部が練習していたが、指揮と演者で揉め事が起きていた。その指揮者、先生の代わりとして選ばれた生徒で、合唱部とはこれが初めてだった。罵倒が響き、歌声は濁声になった。
 しかしその直後、指揮の生徒がふらつき倒れた。床に頭を打つ前に別の生徒が支えた。練習は中止、解散となった。

 夢のような現実の話。一族にかけられた呪い。悪さは祖先から始まり発見の後埋められた。その呪いは受け継ぐ者に分岐して弱くなった。だが死を得て数が少なくなる度に寿命を削り、また一族の誰かを殺した。
 保健室で目を覚ましたが、痛みが酷くて起き上がれなかった。先生はおらず代わりにの生徒がいた。彼は運ばれた少女が呪いの一族であると知っていた。本に書かれた苗字と発症などから導いた。ベッドの軋む音が彼に届いていくと少女は手を伸ばしていた。その手を取られ驚いたが、そのおかげで起き上がれた。するとさっきまでの痛みは無かったように軽くなり立ち上がれた。少女はお礼を言い保健室を去った。
 しかし彼は少女の左目の光がなく黒く塗りつぶされていたことに気づいていた。

▽短編小説115(2020/2/3)/過去の手紙、風の音は遅く
 誰かとの思い出を手紙に残して机に乗せた。窓から流れた風がそれを浮かせて飛ばした。軽い紙は重ねても弱い風にさえ飛ばされた。
 黒い鉛筆で書かれた何事もない手紙。風なく暑い日に書きかけの手紙。封は一滴の糊、切手はまだない。

 床に手紙、次に鉛筆が落ちる。封筒は糊に、切手は別の何かに引っ掛かる。折られていた手紙は広げられ綺麗に伸ばす誰かの手。
 ふわりと風が紙を揺らしたがそれは飛ばない。凝視する瞳は複数の音を持つ幽霊の姿。一つの紙を囲み幽霊は黙読していた。

 読み終わる頃、手紙は本当の姿を現した。掠れた文字と古びた紙、座り込む床は草木が生茂る。
「また……」
 手紙に落ちる筈の涙は透過して地に染み込んだ。

 音に消えた白く、固い地面に落ちた影は赤く染まる。窓開き暑い日の事、終焉の期日。動かぬ手に幽霊は誰かを探したが、もう手遅れだった。

▽短編小説116(2020/2/8)/すれ違う日々、導く可能性の道
 橙の空は薄暗く染められて藍の空になった。数多い星が煌く中、月光は見えなかった。
 微かに溢れた光を見つけて発した声は届かない。冷たく体を凍らせる風は僅かな声も遮った。

 藍の空が開けて雲が蔓延る白の空になった。白に混じった黄色の太陽が隙間から見えていた。
 暗くなりかけの影に座る猫は雨の気配を知る。雲から落ちた雫が足元の草を濡らしていた。

 雲に染まる白の空は晴れて水の空になった。地面を濡らしていた雨は通り過ぎ乾き始めた。
 葉の下で雨宿りした猫の頭は少し濡れた。照らした光は影になれた眼には眩し過ぎた。

 陽が傾く空は笑い声が響く橙の空になった。硝子越しに照らす光はより眩しく見えた。
 だけど目が、こっちを見つめる猫の姿があった。猫は「やっと会えたね」と意味を込めて鳴いた。

▽短編小説117(2020/2/16)/凍え死ぬ雪降る小屋、天使の声
 冷たく細く響いた声が誰も届かず止まっていた。しかし壁のすぐ側の白服の男は椅子から立ち扉を開けた。血の気のない灰色の少女がいた。
 私は誰? 私は誰? と問いかけても声は消えて
 歩くたびに落ちる光の欠片は何処から?
 怯える皆は私に見知らぬ地図を渡して追い出した

 虚な瞳の少女は男に地図を渡した。その裏を見て理解した。空っぽの心と壊れ失う記録。少女の姿からしてまだだと。男は頭の上に手を上げた。
 歩く道の中、私の翼は灰に、そして黒に染まる
 硝子に映る私の輪は砕け散り風に消えた
 白服の男が触れようとした時、私は

 私は生死の狭間にいる。死を受け入れようとした弱い心が未熟な天使像。輪が壊れ翼が染まるのは私という存在がまだ生きていたいと思ったから。
 涙を流し消えた少女は翼と輪を失い、霊体となった彼女は光に包まれて消えた。男はホッとして机に置かれた患者一覧から少女の名を消した。

 ここは狭間に落ちた患者を救う病院。天と地から見放された白服の男は無の世界であの人を待つ。

▽短編小説118(2020/2/23)/白い熊の縫ぐるみ、開いた何かに惹かれて
 泣く涙は夜に消えて眠るまで流れた。雫は枕が吸う前に白い手が受け止めた。眠り落ちた後、白い熊はひとり頭を撫でるのだ。

 繰り返す日々、白い熊は掛け布団の上で眠る。暖かな朝日は布に遮られても微かな日差しが入る。
 手を引かれた白い熊は抱き寄せられた。湿る頭の上と謝る小さな声が聞こえた。

 とある冬のこと、同じ姿の白い熊。その一つの手に触れた少女。嬉しそうに笑う顔と外の寒さを覚えている。
 けれど少女の笑顔は消え、声は本音を恐れて、白い熊はまた少女の涙を受け取るしか出来ない。

 歌声が聞こえて耳を傾けた。忘れかけた少女の声が感情を流して白い熊に響く。風に吹かれた毛を揺らして分からない何かが開いた。

 深く沈んだ夜の日に動き出した白い熊。眠る少女の横で冷たくなった手を、温かな毛だらけの手が握っていた。

▽短編小説119(2020/3/1)/終わりを告げた温かな夢に残された音楽
 黒猫は音に導かれた。無くした思い出と共に少女を追って鍵盤の階段を上がってみた風景は綺麗だった。しかし一つの扉が記憶を歪めた。
 撫でてくれた温かい手と奏でるピアノの音。その思い出に侵食する暗く冷たい影の少女の姿。声は重なり思い出は塗り変わる。
 白鍵盤の道を踏み外し、黒に染まった鍵盤と複数の扉を見つけた。開くたびに上書きされる思い出だったが風に吹かれて帽子は飛ぶ。
 帽子はあの少女の手に、砂嵐の見えない顔を。黒猫が着く頃に帽子は光り、少女は消えた。鍵盤は白く遠くの道を示し足跡が残っていた。
 鍵盤の先に古びたピアノがあった。そこから聞こえる音が光に包まれ旅立ち、少女はッ黒猫に……。

 黒猫は古びた電車の中で目を覚ます。託された少女の願いと消えた音楽を探していた。電車に残された汚れた楽譜を綺麗にして順番に鈴を鳴らす。鈴の音は壊れたレールを直して勝手に動き出す。風景は何もない。窓に触れた手がぼやけていた。
急に止まる電車と待つ白猫の姿。何も言わずに乗る白猫に聞くが音楽を知らないと。黒猫は到着するまでの間、鈴の音が響いた。

 また電車が止まった。そこに待つ少年は帽子を被った白猫を見た。帽子にあるブローチを見てどこか懐かしさを感じていた。

▽短編小説120(2020/3/8)/風の塵が止まることを知らず
 カーテンを開けば眩しい空。出掛けるには丁度良い朝日が目を眩ませても、風に流れた水滴は影を少なくする。
 一つの足音に被さる灰色の煙の臭いは、大きな影となり過ぎ去っていく。照らされた道を隠した雲の冷たさが小さな影の道を静寂にする。

 真偽の混乱は信用なく、ただ伏せられた日々を繰り返す。溶けた水に包まれた風の塵は舞う。
 偽の記憶は言葉を忘れ、悪意の心は支配される。小さな影達が消える事に恐れた結果の答え。
 隠蔽の音はもう聞き飽きた。影の声の想いは届かず消え、風の塵と共に飛ばされていた。

 小鳥の囀(さえず)りと白装束の光。昼の声は夜の苦しみと恐怖を煽り、混乱の元壊れていく。
 塵は箱にしまって、鍵を閉めて出られない様に。偽の声は塞いで、空人は地面を這う虫に。

 遠方の笛が聞こえなくなったら、おやすみの鐘が鳴る。そうなったら影は消えるしかないの。

▽短編小説121(2020/3/15)/残酷の世界は幻影の居所(いるところ)
 引っ張られた誰かの顔は黒に染まり、その手は接着剤を塗られたように離れず、固まり見知らぬ場所に連れて行かれた。
 投げ飛ばされた後、少女は目を覚ました。

 目に塵が入って赤くなる瞳をお構いなしに、誰かは力のない体を鎖に繋ぎとめて放置する。古びた鉄格子の部屋は埃まみれで咳が出る。
 開く音が聞こえた後、少女は目を覚ました。

 現れた誰かは弱った体を殴って、頭を掴むと引っ張る。声を上げても口から音が鳴らない。痛みに耐えきれない脳は目に伝える。
『早く目を覚ませ』と。

 だが少女の瞼は開かない。誰かに遮断されているような感覚に襲われて……。

 多分気を失ったのか、少女は目を覚ました。
 そこはベッド上、しかし痛みは残っていた。

▽短編小説122(2020/3/22)/封された笹の見えない紅い糸
 僕は知らぬ男の記録を集める。夢に迷い込む旅人から手紙を受け取って本に閉じる。
 誰もいない夢の端で一人、木々に囲まれた小屋で待っていた。
 その日は誰も迷い込まなかった。だが閉じた本が増え始め、手紙の新旧が分からなくなって整理する事にした。すると不明な手紙を発見した。

 封は閉じられたままだった。他は旅人が切る為に封自体がない。不明な手紙の封を切ると手紙ではなく写真が入っていた。写真には三人いて、裏にすると何か書かれていた。
『愛する未来の息子へ 両親より』
 写真の一人をよく見ると、記録対象の男だった。死ぬ間際に撮られたものだろうかと思ったが、何故か懐かしさを覚えた。しかしそれだけだった。写真は手紙と同じく本に閉じ再び整理を始めた。

 木々の隙間から笹が揺れる。その笹に絡まる細く紅い毛糸が一本あった。

▽短編小説123(2020/3/28)/歪曲(わいきょく)の秒針に音はなく
 針が少女の目に映った時、鳴ったはずの時音(ときのおと)は戻っていた。時計に反射した空から誰かが落ちた。
 窓を覗き込む先に影はなく、針の時音が鳴る。少女の頭を掠って白い服が落ちた。
 少女は目を閉じてゆっくりと開けた。地面に落ちた白い服は血を流す死体に変わっていた。

 秒針の音が静かな空気に響いてないていた。
 少女はまた目を閉じて次は祈っていた。

 乾いた風が吹いていた立入禁止の屋上で、鉄格子を掴む少年はそれを飛び越えた。半分の白い足場に怯える事も忘れて何もない空に踏み出した。
 地表が近くなってぶつかる目の前に針が落ちた。形を失っても針から時音が響きないていた。瞬きの後、揺らぐ痛みに襲われて視界は暗くなった。

 秒針が時間に合わせてゆっくり動いていた。時音は進行方向を失って、針は折れていた。
 彼は透明な体で死体を覗きながら、針を拾い上げた。そして最後の針も動かなくなった。

▽短編小説124(2020/4/1)/贈り物に記された約束の合図
 薄暗い霧の森、葉に遮られた青空は白雲は見えず、光が影と混ざりながら彼を照らしていた。
 その彼の元に水の霊は郵便物を渡してきた。送り主は半の霊、天界に住む夢の案内人。
 箱を開け中を見ると橙の袋と紫の菫の模造品があり、袋には紅茶の葉が入っていた。取り出した後手紙と緑玉髄(りょくぎょくずい)が挟まっていた。

 手紙は招待状と緑玉髄の意味が記されていた。森を管理する彼はここから離れられなかったがこの石がその代わりをすると書いてあった。
 微かに揺れた木々が光を溢し、複数の足音が聞こえた。開いた扉の先に黄の霊が花桃の枝を手に、風の霊は黄の霊を見てすぐに彼を見た。
 花瓶に枝を入れ黄の霊は去り、風の霊が話そうとした時、彼は頷き、察した様に風の霊も頷いた。

 風の霊が森の入り口で待つと言い残しでていくと、彼は緑玉髄を置き立ち上がった。重石を感じていた足は軽くなった。森の入り口に近づくと他の霊を引き連れた紅い霊がいた。
 目を合わせ確認した彼は森を出た。薄れた灰色の影が改めて霊と認識するまで少し時が止まった。彼は他の霊の後を追いつつ、変わりゆく風景を眺めて、隠れた涙は頬を濡らしていた。

※霧隠れの森は霧の森に変わりました。

▽短編小説125(2020/4/5)/約束の手紙と天結ぶ霊の前日譚
 天の鎖に繋がれた半の霊は一年に一度の光で目を覚ました。数日の後、眠りにつく前に彼は手紙を送らなければと急いで筆を取った。
 砕ける結晶の音が空の霊には聞こえていた。もうすぐかと思い、ふらふらと緑の霊の前に現れた。側にいた白い霊に何かを告げ、承諾し消えた。

 手紙は書き終わり封をした。後は外にと。だが扉は一年に一度しか開かず、今日はその日ではない。諦めた時、扉は切られ白い霊が立っていた。
 神を欺く為に握られた緑玉髄と伝言を言われた白い霊は扉を切り半の霊を見た。渡された手紙を持ち、緑の霊の元に戻ると箱を渡し、また呟いた。

 贈物の整理をしていた配達人の紫の霊はうんざりしていた。埃臭い部屋から外に行きたかった。そこに白い霊が現れ、箱を渡してきた。
 他は送り先を見るや否や退けて、紫の霊は見ていた。恐る恐る見ると霧の森と書かれていた。箱を持ち、出ると配達バイクに乗り虹を下った。

 上る墓の先、霧の森の入り口が何処かにある筈だったが、数回来る紫の霊でも迷っていた。すると珍しくいた水の霊が声を掛け、荷物を手渡した。

▽短編小説126(2020/4/12)/窓越しの合わせ手は消滅の解錠
 藍色の空に黒い草木が覆い隠そうとも満月の光は辺りを照らして寄せ付けなかった。
 けれどその光は少女の前では無意味だった。虚ろな目に歪み見えたのは浮かぶ黒い靄だったから。

 不安の種を傷つけて暗闇に染みを作る。暗く見えない布に落ちた血と涙が滲んで広がった。
 硝子戸を見て反射した姿を過ぎ去る光が映す。少女はふらついて瞼が落ちた。

 平気なふりをして日々を過ごしても暗闇が覆い尽くし行為は繰り返す。
 けれど硝子戸から音がして少女の手は止まる。悲しそうに黄の霊は花を持っていた。
『ずっと気付くのを待っていたよ』
 少女の頭に響く黄の霊の声。星無くし空に暗い部屋を照らす人光の黄の霊の姿。少女は無意識に伸ばしていたが、すぐに引っ込めた。

 黄の霊は首を振り『大丈夫』と硝子戸を通り抜けると少女の手を取る。静電気の代わりに流れた温かさは寒く弱った氷の心を解かして目を閉じて泣いた。
 開けると握った手は花に変わっていた。
『消えるのは僕だけで十分だから』
 紙に記された言葉が消えた記憶の封を解いた。

▽短編小説127(2020/4/19)/見慣れぬ風景が狂う原因となれど
 吹き荒れた暴風に奇妙な緑の木々。目を開けることの困難な場所に揺れた人影が一つあった。
 彼は一点を見つめ、異なる風景に疑問を持つ。日差しに数えられる影、音少々に臭さを忘れて、冷たくなった地面に足をつけた。
 空気は淀み、穢れた風は日を越す度に濃くなり、照す日が浄化しようとしても届かない。

 揺れたシネラリアの花が切り裂いて赤に染まっても、風の霊は繰り返す日々に崩壊の夢を見た。
 それが現実の様に暗く騒いだ雨が全てを濡らしても、乾くはずだった日差しは弱く、残った滴が地面を腐らせて、道は少しずつ失われていく。

 中身を失った影が風の霊の目に映り通り抜けて、切りつけようとしたナイフは半分で止まる。
 善悪を失った影が徘徊して覆い尽くし、救済と悲鳴が響いて押し潰そうとした悪を切り脱出した。
 浮かぶ風の霊を引き摺り下そうと多くの手が伸ばすが、影を切って悪霊は消えた。

 残された小さな子供の霊が口を動かして泣いていた。声にならなくても風の霊には聞こえていた。
「未来を返して……私は……だったのに」
 だが声は途切れていき、子供の姿は消滅した。風の霊は深くフードを被り、ナイフに雫が落ちた。

▽短編小説128(2020/4/25)/抹消の笹が紅い手に触れていたなら
 霧の森の奥、円状の墓。中心に一つ、その周りに五つ、そしてそれらを囲む八つの墓があった。
 紅い霊は五つの内の一つに向日葵の花を直で置かれていたことに気づき、近くの花瓶に備えた。
 透明な花瓶に水を入れるとすぐに花弁が水面に落ちた。しかし色素に反して水は赤に染まった。
 紅い霊はため息をつき、そうか、と呟き、立ち墓を後にしたが、何かを落とした様だった。

 向日葵の花が最後の花弁を散らせて茎は枯れた。赤に染まった水が毒かの様に一瞬で朽ちた。
 風に揺れた葉が少し日を入れて墓は照らされた。古びた墓に書かれた名は強い光に遮られた。

 一本の枝から離れた葉がひらひらと墓に落ちた。赤に染まった水は蒸発して空気に舞った。
 強い光は落ちた葉に反射して影に隠れず消えた。古びた墓に書かれた名は彼の名前だった。

 夜の墓、紅い霊が落とした写真を青い霊が拾う。遮った日は星に変わり、花瓶の底に残る水が火のように見えた。写真は兵士の青年と村の少女の二人だが、青年の方の顔は黒く塗りつぶされていた。

▽短編小説129(2020/5/1)/菘の花に止まった五匹の蝶は飛び立つ
 繰返す夢の中、神の悪意を逃れた菘の魂は囚われた三人を救い、狂った運命から切り離した。
 絶望は希望となり、想いの矢は神を射抜いた。だがそれは終わりと同時に始まりであった。

 薄れていく夢に一人の霊の姿。重なる五匹の蝶が彼を見ていた。星空と屋上、火災と病院、手紙と戦場、とは違うが、どこか似た夢だった。
 神は王の魂を奪い、仕えた者も神の操り人形にしようと手招き、浮かぶ蝶は知らずに近づいていた。彼の手は駄目だと言う様に夢に触れていた。

 彼が夢に触れて映像が歪み消えて、新しく夢が始まった。蝶は神の手を見て下がっていく。神が動けど蝶は逃げて、色んな所に飛び去った。
 夢が消え、暗闇を照らす五匹の蝶と不思議そうに彼を見た霊。霊が彼をじっと見た後、腕を上げ指した。そこには夢の出口があった。
「貴方は私達を救い、そして壊した」
 霊の声が聞こえた時、彼は出口に落ちた。

「修復を……しなければ……ならない」
 かつての記憶が上書きされる様に壊れていく。無色の蝶も例外ではなく、其々の色に染まっていく。そして蝶は修復の中、再来の夢を見た。

▽短編小説130(2020/5/10)/光無くし水晶の謎 破片
空に開いた穴から見えた夜が閉じた偽物を知る。
地に落ちた破片が刺さり生まれた水晶は広がる。
辺りは水晶に支配されて伸びた手は人を掴む。

 誰かは水晶に興味を持ち、近づき飲み込まれた。
 誰かは水晶を危険視して、逃げたが食われた。
 誰かは水晶を恐怖し、動かぬ足に触れなかった。
 その代わり誰かに水晶の欠片を与えた。

 誰かは欠片を受取、水晶は手伸ばすが食わない。だが誰かは恐怖で水晶を破壊した。しかし破壊された水晶は砕かれた破片に触れた人を媒体にして復活した。水晶の人格は誰かを守る様に固まる。


 誰かの記録、誰かの存在、誰かの真実
 水晶の言葉、水晶の人格、水晶の――
 太陽は破壊され、空は消滅し……いいえここは違う
 空は自害を、あの水晶を生み出す元凶になる。

 この世界も駄目だったのでしょうか?
 ――その回答は認められていません

 また初期化されたいのですか?
 ――私は真実を知りた……
 消去。あなたは機械らしく記述するだけでいい
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2025/07/27 17:22
『壊れた“君”と“彼”の答えのない現実』に関する説明
今作は2025年7月17日の夜、かなり病みまくった結果、生まれた文章。そのため、描写そのものが残酷性を秘めていることとそれによ…
2025/07/19 20:51
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