短編小説っぽい何か(88~110)/それに関する説明つき
公開 2023/08/27 13:21
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▽短編小説88(2019/7/28)/佇(たたず)む白い影は誰かを探して手を引く
夜の玄関にいる白い影は佇んでいた。けれど少し視界を外せば消えた。彼に会うには見続ける必要があった。
光より霧に似た白い影は何も語らない。そこに佇んでいるだけ。でもその時間だけ空気が冷たく悲しくそばにいたくなる。
のっぺらぼうの彼に言葉はない。触れた手はどこへ連れて行くのだろう。
「迎えに来たの?」
白い影は何も語らないけれど少女の手を握る。そっか、と呟く少女の目に三途の川。待ち人は船に乗り、白い影は少女に手を振る。
「……(また探しに、あの人を探しに)」
聞こえない白い影の声は三途の川へ消えた。
▽短編小説89(2019/8/4)/一瞬の終焉と白黒写真
夏の暑い日、風なく日照る空に重なる黒い球体。地に落ちた球体は白い光と共に爆発。音を超えた光はあらゆるものを消した。
多くの色は一色の地面。空は灰色の雲と黒い雨。地を歩く人は死を忘れ蒸発。残された液体は虹色の水。
体が朽ち果てようとも救いを求めて地を這う。目はかすみ強い光に燃える。噴水に集る人は虹色の水を飲む。渇きを癒すための水は体に毒を流す。
影のように残された体と散った命。たった一つの愚かな思考が生んだ兵器によって。
▽短編小説90(2019/8/11)/終わりを告げない灰色の空
悲しみは消えない。散った命は戻らない。触れた現実と愚かな過去、それを紡ぐ未来。
憎しみは連鎖を生み悲劇をもたらした。一つの葉が空に舞うように影は地を忘れた。
音を超えた光の結末は死の連鎖。灰にまみれた体は赤い血をなくし干からびる。腐敗の化物がかつて人だとしても死を与え殺す。望まずの答えは聞くことなく。
体を失い命をなくし、影となった青年は空を見る。覆われた灰の雲に薄くの緑。消えた緑は彼に恐怖を与えた。あれが全ての元凶だと。
浮く魂と別れの地。帰省(きせい)と流れ行く時代の中で青年はあの日のことを思い出す。
けれど今の彼はもう覚えていないはずなのに……知っている。
▽短編小説91(2019/8/18)/燈(あかり)の先の見えない落とし穴
暗闇の底、一つの光。照らす水は濁っている。歩く足に草の音。絡む腐敗臭は血を流す。浸かる体は気持ち悪い。
深い洞窟は何も映さない。燈は飛ぶ蛍だけ。濁る水は赤く服を染めた。足は沼にはまり歩く速さは遅くなった。
何か明るいけど警戒。水は枯れて足元も見えた。だが声が出ない。手に吐き出されたのは赤い血。そして揺れる視界と薄くなる感覚。
切りゆく草とそこに現れる影の子
お腹を空かせたその子は深い洞窟で
今日も罠を張って待っている。
▽短編小説92(2019/8/25)/始まりを告げる前の鏡の序章
暗闇の鏡に一点の光。覗き込む目に真実を。眠れず洗面所の鏡を見た少年は消えていた。
透明の少年と一人の旅人。旅人は神殿に消えた。落ちた見慣れない星座と燃え散る赤い花と葉が彫られた刃。少年はそれらを持ち旅人を追う。
旅人の記憶と鏡の扉。追いついた先に大きな扉。少年に気づくと旅人は持つ三つを自分に引き寄せるとそれらは光となり鏡に飲み込まれた。
「そっか、君は……」
旅人は何かに気づき少年に告げると鏡の中に消えた。
ハッとした少年の目には自分の部屋が映っていた。
▽短編小説93(2019/9/1)/反復の夢と希望の鍵
昔からあの夢達は彼の中で繰り返されていた。繰り返される三つの夢はどこか繋がっていた。そして終わりはいつも残酷だった。
夢に紛れた光は彼に救済を求めた。夢に囚われた三人を助けてと言う。しかし彼は頷かない。
光は彼の別の世を話す。勇者だった彼を生き返させるため、剣士は自らの命を神に捧げ願いは叶うが、神の罠に遭い仲間の二人も奪われた。一度の転生はあの夢に、死を得た三人は罪人となり記憶に錠をかけられ、魂と霊体は切り離された。
例え彼にかつての記憶がなくともどうにかしたいと思った。光は彼に三つの風景を見せた。星空と屋上、火災と病院、手紙と戦場。それは夢と酷似していた。
彼はいつも見る順に星空と屋上を選択した。
▽短編小説94(2019/9/8)/崩れ落ちていく星座の鍵
それは幸せと悲劇によって生まれた夢。繰り返すだけ無駄だと彼は知らない。残された少女は手を伸ばすが、あと一歩が届かない。
降り立つ希望は少女を追う。記憶をなくした彼の救済を少女は望む。可能を肯定できず、だがそれを叶えようと奮闘する。
少女の触れ合いは引き金。希望は深い夢の真実へ落ちる。砂嵐で語られる惨劇の記憶。地に染まる影は笑い、痛みは希望に流れ着く。
真実の夢と嘘の記憶。やっと彼を見つけた。だが彼の嘘の記憶は少女を傷つける。希望は無意識に彼の頬を叩いていた。
壊れた星座と朝日。少女と彼の思い出。夜空に星座を。壊れた星座は鍵となり彼は記憶を取り戻す。
鍵は希望に、夢は崩れ少女と彼は消えた。
▽短編小説95(2019/9/15)/燃え散る朽ちない赤い花の鍵
願いの代償は記憶の消去。願いは我儘な反復。兄妹は幸せと不安の中、夢となる。
無知の白い花。二人の信用と大人の偽り。感じた思いは子供の頃から変わらない。
白い花に黒い影。揺れる教室と不明な言葉。風通り煙の匂いはもう遅い火の音。
散りゆく花弁残らず、火は彼を蝕む。気を失う彼女を抱え、朦朧と戦いながら進む。しかし少しだけ彼の足は届かない。
彼女は我儘と彼の不安が夢になったと希望に言う。火は今も彼を蝕み、半端な記憶は消去された。それが神に植えられた呪い。
希望は夢に残された力で鎮火。彼は徐々に記憶を取り戻す。
夢の崩壊と鍵の正体。彼女は希望に礼として赤い花の髪飾りを渡す。それは鍵となり兄妹の笑顔が消えるのと同じくらいに光は次を指した。
▽短編小説96(2019/9/22)/終焉の夢と葉に刻まれた手紙の鍵
生まれて捨てられた僕は銃声を聞いた。空から降る雨音を消し去り耳が痛いのを覚えている。
昔ある事件を引き金として世界は平和を忘れた。命の消耗と兵器の復活で世界は混乱の渦に飲み込まれ、僕もその駒になる。
争いの中、敵に捕まり強制労働を強いられるが、とある街の復讐と共に救われ少女に出会う。
しかし戦いの中で失った体は治らず座る。だが敵襲により街は混乱、僕は指揮を取る。
勝機が見えたがそれは囮。知ったのは心臓を撃ち抜かれた後だった。
霊となり地面を掴み天を拒む。戦争の終焉を見届けるために。
街に落ちた爆弾は生物全てを消し何もない。地に落ちた葉は傷つき、風の中灰になった。
▽短編小説97(2019/9/29)/夢巡りの旅に再開の願いを乗せて
白い扉の先、三つの鍵が示す神殿。その奥に大きな鏡。触れて彼は別の世の姿に映る。
鏡の扉が開き、そこに神と檻の妖精。その後ろに三つの光る魂が浮かぶ。彼を救うための代償として神の私欲、罪人に仕立て上げられた悲劇の魂。
神から生み出された空っぽの霊。夢を繰り返す歯車と彼の記憶を消す為に。しかし鍵と霊の腕輪が干渉し、霊達は魂と別の世の姿を取り戻す。
鍵は矢に、腕輪は弓に。星は光り、火は燃やし、笹は風吹く。最後の菘は夢を乗せて彼は神を射抜いた。
『約束の地でまた』
四人は手を重ねて目を閉じた。
夢から覚め彼は外に出てあの場所へ。世界は訂正され巡り会う。姿違えど絆は変わらない。いつまでも、終わりを告げるまでは。
▽短編小説98(2019/10/6)/白い花と想い鏡と愚かな贄
そこに風もなく月もなく、ただ鏡が一つ。鏡は誰かを映して誰かは消えた。
廃神社に置かれた鏡とそこに咲く白い花。誰かは花を踏む。花は血を流すように赤く鏡を染めた。
鏡が赤を忘れ映すことを思い出すと、白い花はまたそこに咲いた。だが誰かはもう消えた。
「綺麗な花なのに……また踏まれた」
その小さな鏡を持ち上げた幽霊の少女。
「腹減ったな、まだたりない」
廃神社の奥で休む下半身が蛇の少年。
昔、巫女は得体の知れない生物の生贄となった。しかし贄を必要としない彼は彼女を此方側に繋ぎ止め、一緒にいることにした。彼女は彼を愛し、彼のために悪しき者を喰らう鏡を置いた。
今日も知らぬ愚かな贄は鏡の前に立つ。
▽短編小説99(2019/10/14)/抗う運命は誰も救われず
何も見えない部屋に振り下ろされた小刀。飛び散る赤と透明な涙が混ざり合い溶ける。
「ありがとう」
笑い目を閉じた少女は安らかに命を落とす。
「なぜ……彼女なんだよ」
仮面を外した少年は少女を抱き寄せて、彼女の名を叫び泣き続けた。
幼馴染だった二人は敵と味方になった。姫の少女と暗殺者の少年。標的は時間と共に合い始め、少年は愛する少女を殺さなければならなくなった。
『開いた感情の蓋が閉まる前に、彼にさよならを告げなきゃいけない
そうしないと私は……』
残された少女の日記に少年は書き加える。
『約束は今からでも守れるから安心して』
少年は少女を寝かせ、自ら心臓を刺した。
▽短編小説100(2019/10/20)/見えない糸は本当の心さえも殺す
繋がれた糸は誰かを結びつけ引き寄せる。無意識の糸は薄く誰かの頭に残る。少女は糸に不幸を流す力があり、それを制御することが出来ず、知る時には遅く人が死ぬ。見えない糸が人を殺すのは日常茶飯事だった。
自ら誰も近寄らない森の中、小屋に暮らす少女の元に迷子の少年。道を教えて帰したのに毎日会いに来た。邪魔と感じた少女は初めて糸を使いたいと思うが、彼は糸を弾く。
少女は帰る間際の彼が黒猫になることを知った。しかしその日から彼は来ない。
一人が楽だったのに少女は寂しくなりいつしか彼を呼んでいた。扉の方で音がして開くと傷だらけの彼がいた。彼は糸で死んでいた。全てを弾くことは出来ず受け入れ会いに来ていた。手には秋桜(コスモス)が握られていた。彼は黒猫となり抱きかかえられ少女は小屋に入った。
▽短編小説101(2019/10/27)/繰り返しの消去の世界の中で
他人の言葉で生きる少女の姿を覚えている者はいない。少女は自らの存在を遮断するように仕向け見知らぬ誰かに上書きする。そうやって生き、それからもそうだと信じていた。
また誰かが話しかける自分を語りながら、上の存在を話し少女の姿を塗りつぶす、いつものことを繰り返す。けれど少年は少女の瞳を見ていた。
思い出したように少女の前に現れる少年。失敗しただけと少女は思うが少年は忘れないし消えない。少女は逃げるが少年は追いつく。二度と手放さないように少年は強く握る。
記憶に消され生きようとした子供を救った白猫は彼の呪いを願い死におちる。それを知った子供は出会う彼女を救うために来た。
少女の瞳はあの白猫に似ていた。怯える少女をよそに少年は抱き寄せる。わからない、なのに少女は涙を流していた。
▽短編小説102(2019/11/3)/負の穢れは化けた少女の食事
歪む目に本当の月は見えず、雲に染まる空は暗ささえ遮る。地に落ちる前に消えた雨は空気に舞う。歌う少女は微かに残る光の上で影と踊る。
声をかけた誰かは知らぬ手に引かれ呑む。
新月に堕ちた輝きは光を隠す。見えた氷は死の予言。刺さる体は冷気の風。無口の少女は闇に消えた。溶けた招きの闇は笑う。
見ぬふりは終わり闇はすでに後ろにいるの。
呑まれ溶けた者の着く先は同じ運命。形違えど負を好む。霊と違う死を失う魂の穢れ。
今宵も待つ穢れ達。生を忘れ落ちるなら……。
『ごちそうさまでした』
不協和音の声が聞こえて連鎖は止まらない。
▽短編小説103(2019/11/10)/無情の形は一定の音に修理される
悲鳴と激怒、憎悪と歓喜。そこに無表情の少女。人にして人になれない哀れな形。
声は音に、動きは妨げに、感情は氷に。人形のふりは見破られ、傷つく肌に見知らぬ血。望まぬ争いの結果は何もない絶望。
無知の心は小刀と鎖で形を失い、器は割れ受け止めもなく流れ落ち、忘れ感情は消える。
いつかの死は一度の涙で枯れ果てた。失うならば残らない生命を、誰も知らない死を。
少女は座る。冷たい地面と煩い声、悲鳴に似たそれは終わりの薬を打つ。打たれた人はただ目を覚まし動きは機械のように一定に。
番は回り少女は問う。だがその問いは否定。ただ一つ告げられ少女は失われた。
「次は修理されずに終わるといいですね」
少女? は動き光に手を伸ばした。
▽短編小説104(2019/11/17)/飛べない鳥は忘却の感情を開く
夕暮れが暗く夜になるはずの空にかかる雲。風寄る雲は快晴の星空を現すことなく隠す。白灰の雲を見上げる窓越しの少女の姿。
感情の糸が切れて枯れた涙。生地獄の中、信用を影に託して壊れるまま落ちていく。目に映った風景が多くの糸を繋いで壊れた。
窓硝子に触れるたびに映る想いは濁る快晴。白灰の空は揺らぐ草木に覆われ少女を手招く。虚ろな目は窓硝子を透過した。
無意識のうちに開けた窓から吹く風。冷たい体にちょうど良く軽くなる。鳥飛ばぬ空に手を伸ばそうとした時
『見つけた』
少女の腕を影が止め枯れた涙は流れていた。
▽短編小説105(2019/11/24)/歪む視界の先に復讐の標的
快晴の夜空が雲に覆われる。聞こえたはずの声は消える。叫びも泣きもかき消され、笑い声だけが響く。
浮かぶ火に人影、形無い者に言霊。最後の火は儚く目は誰かの足に潰される。歪む視界が暗闇に落ちて眠りにつく。
終焉の煙が消え静かな風が流れた。幽(かす)かな音が灯をつけた。笑い声は悲鳴、人影は復讐。
「やっと……終わる」
現れた人影の右の眼帯外す時、割れた目が彼らを見た。
出会うことのない時間の中、歯車は人影の願いを聞いた。二度と同じ目に誰も合わないように、例え悪人になったとしても。
悲鳴は地に消えた。骨は砕かれて綺麗な目は握り潰す。流れた血の一滴を目に垂らす。痛みを伴うが、割れた目は視界と共に治った。
▽短編小説106(2019/12/1)/線に繋がれた星の奇跡と朝日の終末
深い海の底、見えない暗さは誰も映さない。降り注ぐ雨の音が届かない程静かで冷たい。落ちた雫は星の欠片、取る前に消え水に溶ける。微かな灯がまたなくなった。
水の泡が上り消えるのを繰り返した。暗い海と歪む空の星。見たい願いは叶えられず、囚われの少女。人の姿は病で人魚となった。
何かの音、繋がれた鎖は引きずり手を伸ばす。触れ崩れゆく物体。中身は星の砂と紙。
『最期の約束、星の線は朝日と共に』
それはあの夜の空を示していた。星の線が切れることなく繋がれた日。目に映るはずのない風景。そして失った。
錆びた鎖はとうに壊れ、慣れない足で浮上する。海と空の境界線に出た時、星は光に消えかけていた。だがあの星の線は見えた。少女は終わりを安堵して柔らかな朝日を浴びた。
▽短編小説107(2019/12/8)/一度の投与は終わらぬ悪夢を歪める
電車の中、疲れた私は眠りにつく。誰もいない物静かな中、不快な夢に一度落ちた。
大学時代友達が持っていた元気になる薬。危険と知るが口封じに打たれる針の水。少しずつ壊れゆくがまだ意思がある時に切り捨てた。
不快な夢は幸せな夢へ。祖父母と出かけた花畑。だが誰もいない迷子の私は茎を折る。花は悲鳴を上げ私を覆い尽くす。
暗闇の悪夢と終わらぬ夜。道に揺らぐ彼岸花と赤に染まる大量の死体。あの水が見せた悪夢が繰り返す。もうあれはやめたのに。
針に刺さり、捕まり引き裂かれ、一部を奪われた私。血溜まりが繰り返される映像のせいで道にまで侵食する赤色。
道の先で目覚めた。電車のレールの上、眠る椅子は何処。混乱の中、夢と錯覚する。終わらない悪夢は現実の判断を歪めていた。
▽短編小説108(2019/12/15)/壊れた時計は迷い猫を欺く
時計が壊れた過去の中、閉じた扉の鍵は音と共に消えた。黒猫は少女の名を呼ぶ。その答えはない。
描かれた扉は少女が見た風景。追うように黒猫は同じ風景を過去として受け取る。扉の先にいると信じて、少しずつ音を拾っていく。
最後の扉に触れた時、流れた不明の記憶。少女の優しい瞳が暗い瞳に塗り潰される。黒猫は迷いながらその扉を開ける。
待つのは少女、だが違うのにわからない。冷たい手が黒猫の頭に触れた時
「たすけて……」
もう一つの声が響く。しかし染められた記憶が戻ることなく黒猫はいなくなる。暗い瞳の少女は優しき瞳を嘲笑うように見て消えた。待って、と手を伸ばす時、姿が薄くなる優しき瞳の少女の足元に見知らぬ音が落ちた。
▽短編小説109(2019/12/22)/終の夢に絡まる蔦は再来の夢
古き建物と巻きつく蔦(つた)、止まった日は何度も繰り返し、赤い瞳は涙を流す。
蔦の針は本音を話し、少女を止まらせた。偽の夢の中から出る事を拒否した。
深く眠る気の記憶と温かな光。小さない光は偽の夢を引き裂く。絡まる蔦が一本切れた。
少女は拒否を貫き、終わらない夢を見せた。だが光は真実に近づく扉を開けた。
赤い霊気と蔦の針。偽の夢が壊れてまた一本と切れていく。少女は過去の自分の姿をした光に対して嫌みを放つ。でも止まらない。幻想の夢はいつか目覚めると知っているから。
蔦の針がなくなり終わりの扉は開く。白が夢にヒビを入れる時、少女は光に真実を晒す。光は言葉にならない声で叫ぶ。
「私は終わり……だけどあの子は私になる」
白に包まれ消えた少女の表情は安堵だった。
▽短編小説110(2019/12/29)/影手招く終なき夢と消えた――の姿
暗く冷たい床、静かに流れる風、招く手は真偽不明。見えない瞳は微かな光だけを信じてその手を取った。
音色響く黒い物と一枚の鏡。映す姿はかつての誰か。――を忘れた誰かの姿。――は目を閉じてまた開く。一瞬だけ姿が変わった。
昔の――の姿に似た何か。しかし分からない。だが戻る時、頭によぎる悲しき記憶。
「そう、私はその為だけに」
一人本を手に取る。あの日々の記憶の記録。どこかで音がした。少しずつ歩みを進め、影の中から見ていた。
「私は終わりたくない」
影の中、再来の歯車、終わらない夢。もう一度だけ願いを込めて、真実に背(そむ)き偽りの夢を取った。それは私の為、嫌いなあの子の為、そして――の為。
夜の玄関にいる白い影は佇んでいた。けれど少し視界を外せば消えた。彼に会うには見続ける必要があった。
光より霧に似た白い影は何も語らない。そこに佇んでいるだけ。でもその時間だけ空気が冷たく悲しくそばにいたくなる。
のっぺらぼうの彼に言葉はない。触れた手はどこへ連れて行くのだろう。
「迎えに来たの?」
白い影は何も語らないけれど少女の手を握る。そっか、と呟く少女の目に三途の川。待ち人は船に乗り、白い影は少女に手を振る。
「……(また探しに、あの人を探しに)」
聞こえない白い影の声は三途の川へ消えた。
▽短編小説89(2019/8/4)/一瞬の終焉と白黒写真
夏の暑い日、風なく日照る空に重なる黒い球体。地に落ちた球体は白い光と共に爆発。音を超えた光はあらゆるものを消した。
多くの色は一色の地面。空は灰色の雲と黒い雨。地を歩く人は死を忘れ蒸発。残された液体は虹色の水。
体が朽ち果てようとも救いを求めて地を這う。目はかすみ強い光に燃える。噴水に集る人は虹色の水を飲む。渇きを癒すための水は体に毒を流す。
影のように残された体と散った命。たった一つの愚かな思考が生んだ兵器によって。
▽短編小説90(2019/8/11)/終わりを告げない灰色の空
悲しみは消えない。散った命は戻らない。触れた現実と愚かな過去、それを紡ぐ未来。
憎しみは連鎖を生み悲劇をもたらした。一つの葉が空に舞うように影は地を忘れた。
音を超えた光の結末は死の連鎖。灰にまみれた体は赤い血をなくし干からびる。腐敗の化物がかつて人だとしても死を与え殺す。望まずの答えは聞くことなく。
体を失い命をなくし、影となった青年は空を見る。覆われた灰の雲に薄くの緑。消えた緑は彼に恐怖を与えた。あれが全ての元凶だと。
浮く魂と別れの地。帰省(きせい)と流れ行く時代の中で青年はあの日のことを思い出す。
けれど今の彼はもう覚えていないはずなのに……知っている。
▽短編小説91(2019/8/18)/燈(あかり)の先の見えない落とし穴
暗闇の底、一つの光。照らす水は濁っている。歩く足に草の音。絡む腐敗臭は血を流す。浸かる体は気持ち悪い。
深い洞窟は何も映さない。燈は飛ぶ蛍だけ。濁る水は赤く服を染めた。足は沼にはまり歩く速さは遅くなった。
何か明るいけど警戒。水は枯れて足元も見えた。だが声が出ない。手に吐き出されたのは赤い血。そして揺れる視界と薄くなる感覚。
切りゆく草とそこに現れる影の子
お腹を空かせたその子は深い洞窟で
今日も罠を張って待っている。
▽短編小説92(2019/8/25)/始まりを告げる前の鏡の序章
暗闇の鏡に一点の光。覗き込む目に真実を。眠れず洗面所の鏡を見た少年は消えていた。
透明の少年と一人の旅人。旅人は神殿に消えた。落ちた見慣れない星座と燃え散る赤い花と葉が彫られた刃。少年はそれらを持ち旅人を追う。
旅人の記憶と鏡の扉。追いついた先に大きな扉。少年に気づくと旅人は持つ三つを自分に引き寄せるとそれらは光となり鏡に飲み込まれた。
「そっか、君は……」
旅人は何かに気づき少年に告げると鏡の中に消えた。
ハッとした少年の目には自分の部屋が映っていた。
▽短編小説93(2019/9/1)/反復の夢と希望の鍵
昔からあの夢達は彼の中で繰り返されていた。繰り返される三つの夢はどこか繋がっていた。そして終わりはいつも残酷だった。
夢に紛れた光は彼に救済を求めた。夢に囚われた三人を助けてと言う。しかし彼は頷かない。
光は彼の別の世を話す。勇者だった彼を生き返させるため、剣士は自らの命を神に捧げ願いは叶うが、神の罠に遭い仲間の二人も奪われた。一度の転生はあの夢に、死を得た三人は罪人となり記憶に錠をかけられ、魂と霊体は切り離された。
例え彼にかつての記憶がなくともどうにかしたいと思った。光は彼に三つの風景を見せた。星空と屋上、火災と病院、手紙と戦場。それは夢と酷似していた。
彼はいつも見る順に星空と屋上を選択した。
▽短編小説94(2019/9/8)/崩れ落ちていく星座の鍵
それは幸せと悲劇によって生まれた夢。繰り返すだけ無駄だと彼は知らない。残された少女は手を伸ばすが、あと一歩が届かない。
降り立つ希望は少女を追う。記憶をなくした彼の救済を少女は望む。可能を肯定できず、だがそれを叶えようと奮闘する。
少女の触れ合いは引き金。希望は深い夢の真実へ落ちる。砂嵐で語られる惨劇の記憶。地に染まる影は笑い、痛みは希望に流れ着く。
真実の夢と嘘の記憶。やっと彼を見つけた。だが彼の嘘の記憶は少女を傷つける。希望は無意識に彼の頬を叩いていた。
壊れた星座と朝日。少女と彼の思い出。夜空に星座を。壊れた星座は鍵となり彼は記憶を取り戻す。
鍵は希望に、夢は崩れ少女と彼は消えた。
▽短編小説95(2019/9/15)/燃え散る朽ちない赤い花の鍵
願いの代償は記憶の消去。願いは我儘な反復。兄妹は幸せと不安の中、夢となる。
無知の白い花。二人の信用と大人の偽り。感じた思いは子供の頃から変わらない。
白い花に黒い影。揺れる教室と不明な言葉。風通り煙の匂いはもう遅い火の音。
散りゆく花弁残らず、火は彼を蝕む。気を失う彼女を抱え、朦朧と戦いながら進む。しかし少しだけ彼の足は届かない。
彼女は我儘と彼の不安が夢になったと希望に言う。火は今も彼を蝕み、半端な記憶は消去された。それが神に植えられた呪い。
希望は夢に残された力で鎮火。彼は徐々に記憶を取り戻す。
夢の崩壊と鍵の正体。彼女は希望に礼として赤い花の髪飾りを渡す。それは鍵となり兄妹の笑顔が消えるのと同じくらいに光は次を指した。
▽短編小説96(2019/9/22)/終焉の夢と葉に刻まれた手紙の鍵
生まれて捨てられた僕は銃声を聞いた。空から降る雨音を消し去り耳が痛いのを覚えている。
昔ある事件を引き金として世界は平和を忘れた。命の消耗と兵器の復活で世界は混乱の渦に飲み込まれ、僕もその駒になる。
争いの中、敵に捕まり強制労働を強いられるが、とある街の復讐と共に救われ少女に出会う。
しかし戦いの中で失った体は治らず座る。だが敵襲により街は混乱、僕は指揮を取る。
勝機が見えたがそれは囮。知ったのは心臓を撃ち抜かれた後だった。
霊となり地面を掴み天を拒む。戦争の終焉を見届けるために。
街に落ちた爆弾は生物全てを消し何もない。地に落ちた葉は傷つき、風の中灰になった。
▽短編小説97(2019/9/29)/夢巡りの旅に再開の願いを乗せて
白い扉の先、三つの鍵が示す神殿。その奥に大きな鏡。触れて彼は別の世の姿に映る。
鏡の扉が開き、そこに神と檻の妖精。その後ろに三つの光る魂が浮かぶ。彼を救うための代償として神の私欲、罪人に仕立て上げられた悲劇の魂。
神から生み出された空っぽの霊。夢を繰り返す歯車と彼の記憶を消す為に。しかし鍵と霊の腕輪が干渉し、霊達は魂と別の世の姿を取り戻す。
鍵は矢に、腕輪は弓に。星は光り、火は燃やし、笹は風吹く。最後の菘は夢を乗せて彼は神を射抜いた。
『約束の地でまた』
四人は手を重ねて目を閉じた。
夢から覚め彼は外に出てあの場所へ。世界は訂正され巡り会う。姿違えど絆は変わらない。いつまでも、終わりを告げるまでは。
▽短編小説98(2019/10/6)/白い花と想い鏡と愚かな贄
そこに風もなく月もなく、ただ鏡が一つ。鏡は誰かを映して誰かは消えた。
廃神社に置かれた鏡とそこに咲く白い花。誰かは花を踏む。花は血を流すように赤く鏡を染めた。
鏡が赤を忘れ映すことを思い出すと、白い花はまたそこに咲いた。だが誰かはもう消えた。
「綺麗な花なのに……また踏まれた」
その小さな鏡を持ち上げた幽霊の少女。
「腹減ったな、まだたりない」
廃神社の奥で休む下半身が蛇の少年。
昔、巫女は得体の知れない生物の生贄となった。しかし贄を必要としない彼は彼女を此方側に繋ぎ止め、一緒にいることにした。彼女は彼を愛し、彼のために悪しき者を喰らう鏡を置いた。
今日も知らぬ愚かな贄は鏡の前に立つ。
▽短編小説99(2019/10/14)/抗う運命は誰も救われず
何も見えない部屋に振り下ろされた小刀。飛び散る赤と透明な涙が混ざり合い溶ける。
「ありがとう」
笑い目を閉じた少女は安らかに命を落とす。
「なぜ……彼女なんだよ」
仮面を外した少年は少女を抱き寄せて、彼女の名を叫び泣き続けた。
幼馴染だった二人は敵と味方になった。姫の少女と暗殺者の少年。標的は時間と共に合い始め、少年は愛する少女を殺さなければならなくなった。
『開いた感情の蓋が閉まる前に、彼にさよならを告げなきゃいけない
そうしないと私は……』
残された少女の日記に少年は書き加える。
『約束は今からでも守れるから安心して』
少年は少女を寝かせ、自ら心臓を刺した。
▽短編小説100(2019/10/20)/見えない糸は本当の心さえも殺す
繋がれた糸は誰かを結びつけ引き寄せる。無意識の糸は薄く誰かの頭に残る。少女は糸に不幸を流す力があり、それを制御することが出来ず、知る時には遅く人が死ぬ。見えない糸が人を殺すのは日常茶飯事だった。
自ら誰も近寄らない森の中、小屋に暮らす少女の元に迷子の少年。道を教えて帰したのに毎日会いに来た。邪魔と感じた少女は初めて糸を使いたいと思うが、彼は糸を弾く。
少女は帰る間際の彼が黒猫になることを知った。しかしその日から彼は来ない。
一人が楽だったのに少女は寂しくなりいつしか彼を呼んでいた。扉の方で音がして開くと傷だらけの彼がいた。彼は糸で死んでいた。全てを弾くことは出来ず受け入れ会いに来ていた。手には秋桜(コスモス)が握られていた。彼は黒猫となり抱きかかえられ少女は小屋に入った。
▽短編小説101(2019/10/27)/繰り返しの消去の世界の中で
他人の言葉で生きる少女の姿を覚えている者はいない。少女は自らの存在を遮断するように仕向け見知らぬ誰かに上書きする。そうやって生き、それからもそうだと信じていた。
また誰かが話しかける自分を語りながら、上の存在を話し少女の姿を塗りつぶす、いつものことを繰り返す。けれど少年は少女の瞳を見ていた。
思い出したように少女の前に現れる少年。失敗しただけと少女は思うが少年は忘れないし消えない。少女は逃げるが少年は追いつく。二度と手放さないように少年は強く握る。
記憶に消され生きようとした子供を救った白猫は彼の呪いを願い死におちる。それを知った子供は出会う彼女を救うために来た。
少女の瞳はあの白猫に似ていた。怯える少女をよそに少年は抱き寄せる。わからない、なのに少女は涙を流していた。
▽短編小説102(2019/11/3)/負の穢れは化けた少女の食事
歪む目に本当の月は見えず、雲に染まる空は暗ささえ遮る。地に落ちる前に消えた雨は空気に舞う。歌う少女は微かに残る光の上で影と踊る。
声をかけた誰かは知らぬ手に引かれ呑む。
新月に堕ちた輝きは光を隠す。見えた氷は死の予言。刺さる体は冷気の風。無口の少女は闇に消えた。溶けた招きの闇は笑う。
見ぬふりは終わり闇はすでに後ろにいるの。
呑まれ溶けた者の着く先は同じ運命。形違えど負を好む。霊と違う死を失う魂の穢れ。
今宵も待つ穢れ達。生を忘れ落ちるなら……。
『ごちそうさまでした』
不協和音の声が聞こえて連鎖は止まらない。
▽短編小説103(2019/11/10)/無情の形は一定の音に修理される
悲鳴と激怒、憎悪と歓喜。そこに無表情の少女。人にして人になれない哀れな形。
声は音に、動きは妨げに、感情は氷に。人形のふりは見破られ、傷つく肌に見知らぬ血。望まぬ争いの結果は何もない絶望。
無知の心は小刀と鎖で形を失い、器は割れ受け止めもなく流れ落ち、忘れ感情は消える。
いつかの死は一度の涙で枯れ果てた。失うならば残らない生命を、誰も知らない死を。
少女は座る。冷たい地面と煩い声、悲鳴に似たそれは終わりの薬を打つ。打たれた人はただ目を覚まし動きは機械のように一定に。
番は回り少女は問う。だがその問いは否定。ただ一つ告げられ少女は失われた。
「次は修理されずに終わるといいですね」
少女? は動き光に手を伸ばした。
▽短編小説104(2019/11/17)/飛べない鳥は忘却の感情を開く
夕暮れが暗く夜になるはずの空にかかる雲。風寄る雲は快晴の星空を現すことなく隠す。白灰の雲を見上げる窓越しの少女の姿。
感情の糸が切れて枯れた涙。生地獄の中、信用を影に託して壊れるまま落ちていく。目に映った風景が多くの糸を繋いで壊れた。
窓硝子に触れるたびに映る想いは濁る快晴。白灰の空は揺らぐ草木に覆われ少女を手招く。虚ろな目は窓硝子を透過した。
無意識のうちに開けた窓から吹く風。冷たい体にちょうど良く軽くなる。鳥飛ばぬ空に手を伸ばそうとした時
『見つけた』
少女の腕を影が止め枯れた涙は流れていた。
▽短編小説105(2019/11/24)/歪む視界の先に復讐の標的
快晴の夜空が雲に覆われる。聞こえたはずの声は消える。叫びも泣きもかき消され、笑い声だけが響く。
浮かぶ火に人影、形無い者に言霊。最後の火は儚く目は誰かの足に潰される。歪む視界が暗闇に落ちて眠りにつく。
終焉の煙が消え静かな風が流れた。幽(かす)かな音が灯をつけた。笑い声は悲鳴、人影は復讐。
「やっと……終わる」
現れた人影の右の眼帯外す時、割れた目が彼らを見た。
出会うことのない時間の中、歯車は人影の願いを聞いた。二度と同じ目に誰も合わないように、例え悪人になったとしても。
悲鳴は地に消えた。骨は砕かれて綺麗な目は握り潰す。流れた血の一滴を目に垂らす。痛みを伴うが、割れた目は視界と共に治った。
▽短編小説106(2019/12/1)/線に繋がれた星の奇跡と朝日の終末
深い海の底、見えない暗さは誰も映さない。降り注ぐ雨の音が届かない程静かで冷たい。落ちた雫は星の欠片、取る前に消え水に溶ける。微かな灯がまたなくなった。
水の泡が上り消えるのを繰り返した。暗い海と歪む空の星。見たい願いは叶えられず、囚われの少女。人の姿は病で人魚となった。
何かの音、繋がれた鎖は引きずり手を伸ばす。触れ崩れゆく物体。中身は星の砂と紙。
『最期の約束、星の線は朝日と共に』
それはあの夜の空を示していた。星の線が切れることなく繋がれた日。目に映るはずのない風景。そして失った。
錆びた鎖はとうに壊れ、慣れない足で浮上する。海と空の境界線に出た時、星は光に消えかけていた。だがあの星の線は見えた。少女は終わりを安堵して柔らかな朝日を浴びた。
▽短編小説107(2019/12/8)/一度の投与は終わらぬ悪夢を歪める
電車の中、疲れた私は眠りにつく。誰もいない物静かな中、不快な夢に一度落ちた。
大学時代友達が持っていた元気になる薬。危険と知るが口封じに打たれる針の水。少しずつ壊れゆくがまだ意思がある時に切り捨てた。
不快な夢は幸せな夢へ。祖父母と出かけた花畑。だが誰もいない迷子の私は茎を折る。花は悲鳴を上げ私を覆い尽くす。
暗闇の悪夢と終わらぬ夜。道に揺らぐ彼岸花と赤に染まる大量の死体。あの水が見せた悪夢が繰り返す。もうあれはやめたのに。
針に刺さり、捕まり引き裂かれ、一部を奪われた私。血溜まりが繰り返される映像のせいで道にまで侵食する赤色。
道の先で目覚めた。電車のレールの上、眠る椅子は何処。混乱の中、夢と錯覚する。終わらない悪夢は現実の判断を歪めていた。
▽短編小説108(2019/12/15)/壊れた時計は迷い猫を欺く
時計が壊れた過去の中、閉じた扉の鍵は音と共に消えた。黒猫は少女の名を呼ぶ。その答えはない。
描かれた扉は少女が見た風景。追うように黒猫は同じ風景を過去として受け取る。扉の先にいると信じて、少しずつ音を拾っていく。
最後の扉に触れた時、流れた不明の記憶。少女の優しい瞳が暗い瞳に塗り潰される。黒猫は迷いながらその扉を開ける。
待つのは少女、だが違うのにわからない。冷たい手が黒猫の頭に触れた時
「たすけて……」
もう一つの声が響く。しかし染められた記憶が戻ることなく黒猫はいなくなる。暗い瞳の少女は優しき瞳を嘲笑うように見て消えた。待って、と手を伸ばす時、姿が薄くなる優しき瞳の少女の足元に見知らぬ音が落ちた。
▽短編小説109(2019/12/22)/終の夢に絡まる蔦は再来の夢
古き建物と巻きつく蔦(つた)、止まった日は何度も繰り返し、赤い瞳は涙を流す。
蔦の針は本音を話し、少女を止まらせた。偽の夢の中から出る事を拒否した。
深く眠る気の記憶と温かな光。小さない光は偽の夢を引き裂く。絡まる蔦が一本切れた。
少女は拒否を貫き、終わらない夢を見せた。だが光は真実に近づく扉を開けた。
赤い霊気と蔦の針。偽の夢が壊れてまた一本と切れていく。少女は過去の自分の姿をした光に対して嫌みを放つ。でも止まらない。幻想の夢はいつか目覚めると知っているから。
蔦の針がなくなり終わりの扉は開く。白が夢にヒビを入れる時、少女は光に真実を晒す。光は言葉にならない声で叫ぶ。
「私は終わり……だけどあの子は私になる」
白に包まれ消えた少女の表情は安堵だった。
▽短編小説110(2019/12/29)/影手招く終なき夢と消えた――の姿
暗く冷たい床、静かに流れる風、招く手は真偽不明。見えない瞳は微かな光だけを信じてその手を取った。
音色響く黒い物と一枚の鏡。映す姿はかつての誰か。――を忘れた誰かの姿。――は目を閉じてまた開く。一瞬だけ姿が変わった。
昔の――の姿に似た何か。しかし分からない。だが戻る時、頭によぎる悲しき記憶。
「そう、私はその為だけに」
一人本を手に取る。あの日々の記憶の記録。どこかで音がした。少しずつ歩みを進め、影の中から見ていた。
「私は終わりたくない」
影の中、再来の歯車、終わらない夢。もう一度だけ願いを込めて、真実に背(そむ)き偽りの夢を取った。それは私の為、嫌いなあの子の為、そして――の為。
桜詩凛の読みは「さくらしりん」で、由来は二つ。一つは元から使っていた桜子凛花が長いと思ったため、短くするために「桜」と「凛」を取り、その間に当時から書いていた「詩」をいれたもの。もう一つは『複雑な生き方をする少女』に登場する「さくら、黒蛇、シラ、理夏(りか)、ラナン」の頭文字を取ったものとなってい…
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