短編小説っぽい何か(61~87)/それに関する説明つき
公開 2023/08/27 13:07
最終更新
2023/08/27 13:09
▽短編小説61(2019/2/3)/見えないものからの救済を
少女は病気がちであった。新学期早々持病を拗らせて長い間休んでいた。少女が学校に戻った時には集まりができていて怖くては入れなかった。
けれどそれは周りから見れば何をしてもいいと取られたのか少女は標的となった。
助けてくれる人はいない。次の標的にされるのが怖くて近寄ることもしない。来るのは冷たい空気と見えない声と目だった。
けれどそれはもうすぐ終わる。人がいなくなった学校につれてこられた少女は屋上に立たされた。飛び降りればもうやらないって奴らは言った。
少女は一歩踏み出して落ちたと思っていた。けれど音はなくただ叫び声が響いていた。
少女が地面に落ちることなく屋上へとどまり、奴らは影だけを残して消えていた。
▽短編小説62(2019/2/11)/静かな虹の音色は始まりの冷花
「空は曇り風は冷たく、枯れた地に咲く花なし」
天と地を結ぶ境界線の虹に座る彼は地を歩く少女を見ていた。しかし背後の気配を感じて問うた。
「彼女のことが気になりますか?」
彼が振り返ると風の霊が立っていた。気づかれたと驚くことなく言った。
「彼女はまだ」
「しかし君は悪霊を放置しすぎている」
「それは」
「あの霊達は優秀だがそれ故に害悪だよ。このままじゃ彼女も地を彷徨うことになり、天に導かれないかもしれないね」
「……」
「私は回収するのが役目だから君に依頼しよう」
彼の依頼は風の霊にとって敵対行動であったが、自分に課せられた役目として地へ降りて行った。
「さて……」
立ち上がり手から靄を出すと大きな鎌が現れた。
「彼らの行く末を見届けるとしましょう」
彼……死神はゆっくりと歩き始めた。
※冷花=冷たい花
▽短編小説63(2019/2/17)/幸せの想いは氷と共に溢れ落ちる
彼は生まれてから幸せを感じることが出来なかった。神に隠れた額の災いの印のせいで隔離された。
しかし彼には話し相手がいた。奴は旅人で街に入った途端捕まえられたらしい。新しいことを取り入れる嫌がる街だから仕方がない。
彼は旅人の話を聞くたびにこんな箱から出たいと思った。
だが街は嫌がったのか、彼の目の前で旅人を殺した。返り血が顔にかかりバラバラになった体が散乱していた。さっきまで話をしていた旅人はもうなかった。
街は笑う。幸せを求めた罰だと。
あらゆる感情が混ざり合い彼は笑い声を消した。辺りは一面の氷の世界。けれどそれは一度きりの災いと死。
眠り落ちる暗闇の中で雫は氷になって想いは消えていく。
▽短編小説64(2019/2/25)/真実の光は映ることなく残される
綺麗な夜空は映らない
地へ漂う結晶の光は見える
それらは様々な色へ変化して
最後は見えなくなる
それは盲目の巫女が発した最後の詩。彼は残された屋敷でそれを言った。
「やっと意味がわかったのに」
屋敷から見える月の光は彼の嫌いなもの。それでもそこに立つと彼女を感じ取れた。
導かれるはずだった光に拒絶され、彼と彼女は引き離された。彼の穢れた容姿を綺麗な光達は拒んだ。彼女の伸ばした手は彼には届かずに残された。
彼は人ならず者、幽霊を忘れ穢れた影。
▽短編小説65(2019/2/28)/紡いだ音は新たな音楽のはじまり
何も知らない木に1人のロボットが座り込んでいた。そこに現れたのは橙の目を持つ小さなロボットだった。
かつて彼らは一緒に音を紡いで曲を奏でていた。しかし日々が経つごとに音は少しずつ忘れられて青い目を持つロボットは止まった。
静かなこの場所に電車が来た。降りたのは白猫だった。白猫は黒猫から教わった音を紡いで曲を作り、橙の目を持つロボットと一緒に奏でた。すると最初は砂嵐だった目が綺麗な青い目に変わりゆっくりと首を動かした。
曲になって響いた音は新たな道を作った。電車の警鈴が鳴って白猫が乗ると出発した。
「またね」
白猫が言うと2人のロボットは手を振った。
※ノスタルジアOp.2から想像して作った話 その2
▽短編小説66(2019/3/3)/最初の願いは呪いと化して運命を狂わす
最初の願いは少女の涙から生まれた。しかし長い年月の中でそれは願いではなく呪いと化した。そして呪いとして生まれた闇はあらゆる運命の道を曲げる出来事が起こるたびに殺した。
闇に問いかけられるのはたった一人。最初の少女と同じ魂を持つ者だけだった。しかしそれをする頃には少女が死ぬか人格が奪われるかで、まともに会話する手段をなくした時だった。
だがある日、闇は1人の少女に問われた。
「もうやめよう。誰かが死ぬのは見たくない。無理な願いをした私が悪いから……苦しい思いはしなくていいんだよ」
それは最初の少女の霊体だった。しかしその声は呪いと化した闇にはもう届かず、不敵な笑みを浮かべていた。
▽短編小説67(2019/3/10)/氷はいつか溶け出して水になる
心の器はあらゆる日々の繰り返しによって歪な形になっていた。その器では喜楽を流し込んでも穴から流れ落ちてしまう。けど棘を含むようなものは引っかかって溜まっていく。
突き刺さった棘はやがて器を破壊するだろう。負の感情に支配されたそれらを育てる涙は枯れることはないから。
「ないから……」
走らせたペンを置いて立ち上がると彼女がいた。しかし彼を通り抜けてしまう。音は雨と彼女の足音だけ。光のない目を見た彼は頷く。
「また……」
彼は彼女を抱きしめた。体は通り抜けようとも手は彼女の頭に乗っていた。
▽短編小説68(2019/3/17)/中身のない上書きは見えないうちに
怪物が少しずつ蝕(むしば)む
全てが染めるように
生まれた怪物は
もう半分まで来た
知っている
それを
誰とは
言わない
それは僕の患者が残した怪文書。
あれからあの子は眠り続けている。そして日を重ねるごとに体は固まり、不可思議な色へ染まる。もう半分まで来た。
それは先生の診断書。私が見た限りそんな現象は見られない。長いこと寝ているのは異常だけど……?
あの子が患者になってから先生はおかしい。
夜中、手は動く。開いた目は油の水。
終わりはもうすぐ
あの人は気づく
私と怪物の
死と生を
▽短編小説69(2019/3/24)/抜け落ちた映像は歯車の記憶
春の訪れを忘れた風が吹く。それは助けてくれた霊と出会ったあの日に似ていた。
しかし事柄は霊となる時に置いてきてしまったらしい。頭には記憶として残っていなかった。
ここは霧隠れの森の小さな施設。名前を持たない霊が集まる場所。
「えっとお集まりの霊諸君……」
慣れていないのか、辺りを見ながら色の霊は話す。しかし横から紙を奪い水の霊が話した。
「何をやっている……青い霊。紅い霊の代わりとはいえ、やはりこの程度か」
「すみません……」
「お前は下がれ……ここか……今から一人を選ぶ。その者に役目を与える。灰の霊より」
多くの歓声が起こる中、水の霊は僕を見ていた。
冷たい風が春を覆い被さる。その瞳は懐かしく、ただ抜けなくなった棘のように鋭い。
砂嵐のかかった映像は少しだけあの日を映していた。
※僕=後の紫の霊
▽短編小説70(2019/3/31)/霧に消えた名は色と霊のはじまり
目が覚めると霧の中にいた。薄く見える景色を頼りに歩いてみた。しかし足取りが軽く何の痛みもない。
すると墓が置かれた場所を見つけた。そこに自分の名前が記されていた。やはり死んだのかと驚く様子もなく触れてみた。すると左腕に腕章がつくと墓も名前を変えた。腕章には狐火と銃が書かれていた。
「……灰の霊」
そう記された墓は薄暗い灰色の光を放っていた。
「起きてください」
「……夢か」
「何か見たの?」
「いや、君達に会う前のことを夢で見ただけだ。それよりももう揃ったのか」
紅と緑の霊は頷く。灰の霊が立ち上がって二人について行くように歩くと確かに揃っていた。だがもうすでに宴会は始まっていた。入れずにいると緑の霊が引っ張った。残された紅い霊はみんなに呼ばれて楽しむことにした。
彼らは十四の色の霊、転生を禁じられた者達。しかしその顔はそれさえも忘れ今日という日を楽しみにしている。
▽短編小説71(2019/4/1)/無色の駒は焼却の紅い果実
生まれた時からこの体は自分のものではなかった。最初の記憶は灰色の空と緑の飛行機。
貧しい生活は当たり前、だって勝つためだから、それ相当の代償を支払うのはわかっていた。でもそれも終わり、僕は選ばれたから。
連れてこられた場所は知らぬ地。僕は見張り、敵を見つけ次第射殺した。周りは死に、食料はつき始めていた。所詮は僕もあいつらの駒でしかしかなかった。また敵が見えた……と思った時、後ろから撃たれていた。
「……」
「あの?」
「ああ、何だっけ」
「生前ってどうだったのか気になって」
「それはもう忘れたことだよ」
紅い霊は隠すようにごまかして少女に答えなかった。
「じゃあ、思い出したら聞かせて下さい」
そう言い少女は霊達のところに行った。
残された紅い霊は快晴の空に飛ぶ白の飛行機を見ていた。
▽短編小説72(2019/4/7)/落ちゆく氷はなくした感情
彼は何もない暗闇の中で目が覚めた。感情の混合によって起こった災いは彼の命と引き換えに嘲笑う人々と街を一瞬で凍らせた。
徐々に薄くなる体を見て死を確信すると頬に何か落ちた。それは涙だったが、地面に落ちるとそれはすぐに凍り結晶になった。
涙はあらゆる結晶の色を作っていた。しかし彼はそれが感情の一部だと知らないまま涙を流し続けた。
「僕は何を……?」
感情が揺らいだ全ての記憶を失った彼にかつての想いはない。
ふと意識を奪われて目を覚ますと知らない墓の前にいた。そこに自分の名が彫られている。触れると狐火と透明な心が描かれたリストバンドが右についた。するとその墓は水色の光を放ち始めていた。
▽短編小説73(2019/4/14)/決意の迷子は青い空の下で
僕は何のために生きているんだろう。生まれて今まで僕は必要とされたのだろうか。居場所といわれる場所は存在しても僕は迷子だ。社会の波に飲み込まれて生きている命はもうわからない。
誰かのために尽くす命は自分の生き方じゃないと気づいても、僕は今を手放すことに恐怖を覚えて言われるまま生きていた。積み上げられた資料と画面を見ながらため息をついた。
そんな毎日を繰り返しながらも考えは決まらず迷子のままだった。
だけど遅刻しそうな朝、聞かない叫び声と見えない影。影が日を遮り過ぎた後、痛みが襲い僕は倒れた。抑えた手は血に染まり意識は薄くなった。
▽短編小説74(2019/4/22)/冷たい風が吹く時、それは消える
誰かが生きている。誰かが歩いている。けれど俺はこの道もこの人も知らない。
歩く道には影は現れず、すれ違い重なることもない。
綺麗な灰色の道から浮かび上がる黒い霊の塊はあの人から頼まれた依頼の目的。人にとりつく悪霊。それを俺は殺す。
見つけた標的。シネラリアの花のネックレスが風で揺れる。影は真っ二つ、悲鳴は上げさせない。小さな鞘から現れたナイフは悪霊を断つ。ナイフは鞘に戻りまた歩き出す。
依頼は黄色の花弁。それを断つこと。
あの人の為に俺は生かされている。
▽短編小説75(2019/4/29)/繋がる記憶の破片は始まりの合図
生まれたのは彼女の壊れた心の中。それから外に出たはずなのに影の青年は不思議な夢を見る。
知らない土地と体の痛み、刺さった枝は血を流す。見下す誰かに不幸の存在だと虐められた。通り過ぎる人に助けても彼の姿は見えないようだった。
薄くなる意識の中で人が燃える光景を見た。予言だと気付いた時、人の気配がした。止めるのは無理だろうと思いながら声をかけた。
「……行くな」
「……? 黒い蛇?」
「(蛇の姿なのか)……見えるのか、俺の姿が」
「うん」
少女は籠を開け、彼の方に手を伸ばした。彼は痛みをこらえて少女の手に触れた。
知らないはずなのに懐かしさを感じていた。
▽短編小説76(2019/5/6)/動き始めた針は日常の終点
誰よりも早く目を覚まし、着替えて主の部屋を訪れる彼は執事だった。主を起こして食事を取る机まで連れて行く。他のメイド達が主の家族を連れて来たり料理を作ったりして、机には揃っていた。
「いただきます」
主の声と共に彼は現実に引き戻された。
あの日から彼は戻らない日常を繰り返していた。朝早く起き部屋に訪れたとしても、荒らされたベッドに染み付いた血は現実を受け止めるには十分だった。
しかし今日は違う。誰かが玄関の扉を開けた。あの時によく似た空気が流れ、いつもより長い階段を下った気がした。玄関には人がいて、その人は彼に気づくと言った。
「……君はここに住み着いた幽霊か」
「幽……霊」
彼は気づかないうちに死んでいたことを知った。そう思うと、もういいのかと目を閉じた。
▽短編小説77(2019/5/13)/抱いた希望は否定の未来
力を持たない僕は魔法使いに奴隷と言われた。人は能力を持つ者だけに与えられた呼称(こしょう)。だから僕は否定権のない奴隷。
連れられたのは身寄りを失った子供達が住む孤児院。僕はそこで料理を作る役目を任された。そこに住む彼らと同じ子供であったが、少し大人だった僕はすぐに馴染んだ。
しかしある日、料理を作る時間以外の記憶がないことに気づいた。それと同時に子供達が少しずついなくなっていた。
夜になり夢を見た。そこには僕と異様な影がいた。異様な影は三つになり、女、幼い子供、魔物となった。
『あなたはもう“ひとり”じゃない』
そこに映し出されたあらゆる映像は僕が知らない記憶だった。
目覚めた僕は怖くなって起きた。まだ夜だった。
「そうか……は」
その声は僕、けれど手は溶けていた。
連れられたあの日僕は希望を抱いていた。けれどそれは今、絶望感に満たされていた。
ちょうどその日も今日も満月だった。
▽短編小説78(2019/5/19)/時の旅人が見た最後の夢
それは助けるための死だった。彼らは一人を守るためにあらゆる敵に立ち向かい死んでいった。僕はそれを内と呼び外から見ていた。そして守られた一人は未来の風景を憎み、願い消滅した。
僕は首にかけられた懐中時計を見た。針は動かない。これが正常だ。この世界は終わったから。
でも次の瞬間針は動き出した。進む道の中で時間は加速し、僕は墓の前に立っていた。英雄となった彼らの中にあの人の名はなかった。
『彼は幸せだったのだろうか?』
僕と誰かの声が交差する。周りを見渡すと彼岸花が咲いていた。彼岸花の道は見えない墓を映す。
「あなたは」
「知る必要はないよ。生者は忘れるから」
誰かが墓に触れると消えた。それは幽霊だった。驚いたが知りたくなった。僕は墓に触れていた。懐中時計の針は止まっていた。
※僕=後の橙の霊
幽霊≠紅い霊
▽短編小説79(2019/5/26)/進まぬ本に集まる霊達
静かな空間と温かい紅茶、机に乗った本を読み、一人時間を過ごしていた。足音がして誰かが来た。しかし気づかないふりをする。
「何か知らないか」
そこにいたのは風の霊だった。
「主語がなければわかりませんよ」
「ああ、そうだったな。時を知りたい」
そう言われて探し一つの資料を手に取った。
「……うーん、情報は少ないです。現れたばかりですから」
「それでいい、くれ」
風の霊に渡すと礼を言いいなくなった。
また本を読み始める。だが音がして扉の方を見たが気配がして振り返ると紅い霊と誰かがいた。
「お久しぶりですね」
「そうだね。……紹介するよ、青い霊だ」
「この前彼が言ったのは君でしたか」
「彼……風の霊のことか。青い霊……彼は茶の霊、この図書館を管理している天側の霊だ」
茶の霊と呼ばれた彼は立ち上がり礼をした。
▽短編小説80(2019/6/2)/不器用な支援は揺れる白い布
真夜中に住まう白い布は振り返りざまに消えた。そこに何もないけど冷たい息が吹く。
トンとする音に影はなく、伝う手の形はない。ただ音は続き迫る。振り返る先に誰もおらず。
寝る時這うような感覚は視覚さえ飲み込む。見えない気配は暗闇に消え、朝日に弱い。
けれど朝になれば音が部屋に響き、それは人の音じゃない。耳に入れられた不協和音は彼の叫び声。
今日も暗闇に白い布で現れた彼は消えた。あの日聞こえた叫び声は幻聴かわからない。けれど今首元が冷たい。そして怖い。
暗闇の中、一筋の光は赤く、
塗られた布は冷たくなる手を握った。
▽短編小説81(2019/6/9)/消えゆく時の二つの針
暗く静かな何もない場所。目を覚まし映し出される風景はそよぐ草原。雪降る山と快晴の空。踏み出す一歩に足はなく、天を伸ばす手もない。影はただ球体を示した。
風景は変わらず星空は来ない。浮遊の影が歩みを始めても進まない。途方な彼に落ちた針。地に刺さった針は浮かび、時計のように動き出した。
風景は時と共に変わり砂漠の真ん中。影は人になる。前に石と長針。刻む字は無い名。でも彼は知る名。彼の無くした名。
手に残された短針はある名。今の彼は無知。
それを見届ける氷の蝶。見ぬ彼を通り過ぎた。
▽短編小説82(2019/6/17)/なくした本の道しるべ
涼しげな森、誰もいない静けさ。彼は目を覚ます。そこにある本を手に取ると道が示された。
木々の折れる音と風に揺れる葉。そこにあるのは恐怖だった。
開けた場所に出た。木々に囲まれた池には鯉がいた。水は冷たく気持ちがいい。
近くに花畑が広がっていた。あらゆる花が風に揺れる。けれど一輪の白い花は動かない。
手がその花に触れた時、ヒビが入り今までの風景は廃墟と化した。森は燃え、池は枯れて、色を無くした花が散る。持つ本は姿を変えて一枚の葉となった。
彼は思い出していた。あの約束とともに。
それを森の蝶は遠くから見守っていた。
※森の蝶は『霊の話 外伝』を考慮した結果、竹の蝶に変わった。
▽短編小説83(2019/6/23)/再生の闇と絡まる赤糸
僕は知らない。自分が誰かすら知らない。ただ残された記憶は十字架に映る風景。
声を聞いた。小さく重なった声。感覚に痛覚、何か入れられた。微かに喜びが見えた。
ゆっくりと目を覚まして手を足を見た。硝子に反射した姿は人の形。霧の僕はもういない。
赤い光が点滅したあの日、硝子が割れた。僕は硝子の破片があらゆる肌に傷がついた。流れた水に黒い羽根が浮かぶ。
「これが完成品ってやつか?」
「あの方の力と呪いの遺伝子、十字架の欠片……それらを拒絶しなかったなら」
何かを話している。けれど水に溶ける血は瞼を落とした。
落ちる前に見たのは血を流す少女の安らかな眠りだった。
※あの方の力=魔王の力
呪いの遺伝子=さくらの遺伝子
▽短編小説84(2019/6/30)/無知の心が闇に染まる前に
普通の日常は歪んだ扉によって変わった。映った風景は死の秒読み。大きな影と放たれる光、僕の音はしない。地が揺れ黒と白が交わる。
光包まれた後に残された闇。目覚めは薄くなる体。霊体の僕は死を確信した。重い体は落ちた。きっと天に昇って行くのだろう。
けれど薄くなる手を暗く冷たい手が引いた。
「目覚めた」
顔を隠した誰かが言う。人工の光は僕を照らす。薄くなる手は重く感覚を残す。
「僕は……?」
「あの方の最後の願い……だから叶った」
誰かはそれだけを言い、暗闇に消えた。
誰かの心が僕に問いかける。その答えを僕は……。
▼短編小説84は『複雑な生き方をする少女 学園編』(第一部第六章)で亡くなった主人公(僕)が魔王残した力を受け取って闇として生き返った話
※誰か=魔王の後継者(一応) ラカイユ
大きな影=魔王、放たれる光=十字架の力
▽短編小説85(2019/7/7・8)/冷却に流れ落ちる十字架と書
あの方は呪いの魂と十字架に執着してから僕に周りの指揮を取らせていた。だが執着するあまりあの方は十字架に触れ死んだ。
あの方の死は僕含めて二人しか知らない。だから混乱はない。何も変わらない。だが使者は写真をくれた。僕はそれを知っていた。
七つの書、封印と解放、伝承に記された願いを叶える儀式。出現が不明。でも十字架が消えたこととの関係は使者も僕も思った。
あの方の部屋の隠し地下、研究室。降りた先に彼がいた。彼があの方の死を知る一人。
「おーい、今終わったのか」
その声を無視して歩き出すと彼はついてくる。窓から見える大量の試作人形。あれは全てあの方の複製……依頼は生前のあの方。
僕は足を止め、一つの硝子の円柱を見る。不思議と僕は安堵した。
※彼=堕天使 キルン
▽短編小説86(2019/7/14)/願いの果てに想いの亡失
小さな天使はある泣き声を聞いた。悲しみに落ちた彼女の弱々しい声はあの日の出来事。
彼女の願いに賛同した数少ない天使達。天界から無の世界へ。けど叶える力はなかった。
無の影響により白の翼は黒に染まり、天使は醜い悪魔になり始めていた。彼も影響を受け灰色の羽根が落ちた。無理だと思いつつ彼女に戻ると約束して自ら地獄へ落ちた。
しかし落ちた先は何もない暗闇。灼熱の炎もない。ただ影が立っていた。運がいいね、と言い手を出した。彼は願いのために力が欲しかった。だから影の手を取った。
「……愚かな欲望に落ちた天使」
影の小声と共に何かが抜け落ちるのと同時に力を得た。
立ち竦(すく)む深い闇の中で彼は堕天使になった。
※あの日の出来事=『おわりははじまりへ』内のこと
彼女=エミカ
影=魔王の残り火
▽短編小説87(2019/7/21)/戻らぬ過去に消えぬ星の輝きを
暗く濁った空に灰色の雲。見えるはずの月は隠れ星は雨に濡れる。人工の光は空を汚し輝きは失われた。
揺れる木々に一匹の蛍。その光に照らされる影は星を眺める。雲に遮られた空に星はなく。
触れゆく地面に風の声。踏み出す足はゆっくりと。柵に手をその鉄は冷たく、地に雨が降る。
声をかけては遅く、過去には戻れず。浮かぶ影は咲いた花を見る。手は花を通り抜け、足は地面につくことなく。
あの日の穢れた空は晴れて星は輝く。曇る灰色は新月の空に消える。
足音響く時、その姿映らず消えた。残された花は一枚散らした。
少女は病気がちであった。新学期早々持病を拗らせて長い間休んでいた。少女が学校に戻った時には集まりができていて怖くては入れなかった。
けれどそれは周りから見れば何をしてもいいと取られたのか少女は標的となった。
助けてくれる人はいない。次の標的にされるのが怖くて近寄ることもしない。来るのは冷たい空気と見えない声と目だった。
けれどそれはもうすぐ終わる。人がいなくなった学校につれてこられた少女は屋上に立たされた。飛び降りればもうやらないって奴らは言った。
少女は一歩踏み出して落ちたと思っていた。けれど音はなくただ叫び声が響いていた。
少女が地面に落ちることなく屋上へとどまり、奴らは影だけを残して消えていた。
▽短編小説62(2019/2/11)/静かな虹の音色は始まりの冷花
「空は曇り風は冷たく、枯れた地に咲く花なし」
天と地を結ぶ境界線の虹に座る彼は地を歩く少女を見ていた。しかし背後の気配を感じて問うた。
「彼女のことが気になりますか?」
彼が振り返ると風の霊が立っていた。気づかれたと驚くことなく言った。
「彼女はまだ」
「しかし君は悪霊を放置しすぎている」
「それは」
「あの霊達は優秀だがそれ故に害悪だよ。このままじゃ彼女も地を彷徨うことになり、天に導かれないかもしれないね」
「……」
「私は回収するのが役目だから君に依頼しよう」
彼の依頼は風の霊にとって敵対行動であったが、自分に課せられた役目として地へ降りて行った。
「さて……」
立ち上がり手から靄を出すと大きな鎌が現れた。
「彼らの行く末を見届けるとしましょう」
彼……死神はゆっくりと歩き始めた。
※冷花=冷たい花
▽短編小説63(2019/2/17)/幸せの想いは氷と共に溢れ落ちる
彼は生まれてから幸せを感じることが出来なかった。神に隠れた額の災いの印のせいで隔離された。
しかし彼には話し相手がいた。奴は旅人で街に入った途端捕まえられたらしい。新しいことを取り入れる嫌がる街だから仕方がない。
彼は旅人の話を聞くたびにこんな箱から出たいと思った。
だが街は嫌がったのか、彼の目の前で旅人を殺した。返り血が顔にかかりバラバラになった体が散乱していた。さっきまで話をしていた旅人はもうなかった。
街は笑う。幸せを求めた罰だと。
あらゆる感情が混ざり合い彼は笑い声を消した。辺りは一面の氷の世界。けれどそれは一度きりの災いと死。
眠り落ちる暗闇の中で雫は氷になって想いは消えていく。
▽短編小説64(2019/2/25)/真実の光は映ることなく残される
綺麗な夜空は映らない
地へ漂う結晶の光は見える
それらは様々な色へ変化して
最後は見えなくなる
それは盲目の巫女が発した最後の詩。彼は残された屋敷でそれを言った。
「やっと意味がわかったのに」
屋敷から見える月の光は彼の嫌いなもの。それでもそこに立つと彼女を感じ取れた。
導かれるはずだった光に拒絶され、彼と彼女は引き離された。彼の穢れた容姿を綺麗な光達は拒んだ。彼女の伸ばした手は彼には届かずに残された。
彼は人ならず者、幽霊を忘れ穢れた影。
▽短編小説65(2019/2/28)/紡いだ音は新たな音楽のはじまり
何も知らない木に1人のロボットが座り込んでいた。そこに現れたのは橙の目を持つ小さなロボットだった。
かつて彼らは一緒に音を紡いで曲を奏でていた。しかし日々が経つごとに音は少しずつ忘れられて青い目を持つロボットは止まった。
静かなこの場所に電車が来た。降りたのは白猫だった。白猫は黒猫から教わった音を紡いで曲を作り、橙の目を持つロボットと一緒に奏でた。すると最初は砂嵐だった目が綺麗な青い目に変わりゆっくりと首を動かした。
曲になって響いた音は新たな道を作った。電車の警鈴が鳴って白猫が乗ると出発した。
「またね」
白猫が言うと2人のロボットは手を振った。
※ノスタルジアOp.2から想像して作った話 その2
▽短編小説66(2019/3/3)/最初の願いは呪いと化して運命を狂わす
最初の願いは少女の涙から生まれた。しかし長い年月の中でそれは願いではなく呪いと化した。そして呪いとして生まれた闇はあらゆる運命の道を曲げる出来事が起こるたびに殺した。
闇に問いかけられるのはたった一人。最初の少女と同じ魂を持つ者だけだった。しかしそれをする頃には少女が死ぬか人格が奪われるかで、まともに会話する手段をなくした時だった。
だがある日、闇は1人の少女に問われた。
「もうやめよう。誰かが死ぬのは見たくない。無理な願いをした私が悪いから……苦しい思いはしなくていいんだよ」
それは最初の少女の霊体だった。しかしその声は呪いと化した闇にはもう届かず、不敵な笑みを浮かべていた。
▽短編小説67(2019/3/10)/氷はいつか溶け出して水になる
心の器はあらゆる日々の繰り返しによって歪な形になっていた。その器では喜楽を流し込んでも穴から流れ落ちてしまう。けど棘を含むようなものは引っかかって溜まっていく。
突き刺さった棘はやがて器を破壊するだろう。負の感情に支配されたそれらを育てる涙は枯れることはないから。
「ないから……」
走らせたペンを置いて立ち上がると彼女がいた。しかし彼を通り抜けてしまう。音は雨と彼女の足音だけ。光のない目を見た彼は頷く。
「また……」
彼は彼女を抱きしめた。体は通り抜けようとも手は彼女の頭に乗っていた。
▽短編小説68(2019/3/17)/中身のない上書きは見えないうちに
怪物が少しずつ蝕(むしば)む
全てが染めるように
生まれた怪物は
もう半分まで来た
知っている
それを
誰とは
言わない
それは僕の患者が残した怪文書。
あれからあの子は眠り続けている。そして日を重ねるごとに体は固まり、不可思議な色へ染まる。もう半分まで来た。
それは先生の診断書。私が見た限りそんな現象は見られない。長いこと寝ているのは異常だけど……?
あの子が患者になってから先生はおかしい。
夜中、手は動く。開いた目は油の水。
終わりはもうすぐ
あの人は気づく
私と怪物の
死と生を
▽短編小説69(2019/3/24)/抜け落ちた映像は歯車の記憶
春の訪れを忘れた風が吹く。それは助けてくれた霊と出会ったあの日に似ていた。
しかし事柄は霊となる時に置いてきてしまったらしい。頭には記憶として残っていなかった。
ここは霧隠れの森の小さな施設。名前を持たない霊が集まる場所。
「えっとお集まりの霊諸君……」
慣れていないのか、辺りを見ながら色の霊は話す。しかし横から紙を奪い水の霊が話した。
「何をやっている……青い霊。紅い霊の代わりとはいえ、やはりこの程度か」
「すみません……」
「お前は下がれ……ここか……今から一人を選ぶ。その者に役目を与える。灰の霊より」
多くの歓声が起こる中、水の霊は僕を見ていた。
冷たい風が春を覆い被さる。その瞳は懐かしく、ただ抜けなくなった棘のように鋭い。
砂嵐のかかった映像は少しだけあの日を映していた。
※僕=後の紫の霊
▽短編小説70(2019/3/31)/霧に消えた名は色と霊のはじまり
目が覚めると霧の中にいた。薄く見える景色を頼りに歩いてみた。しかし足取りが軽く何の痛みもない。
すると墓が置かれた場所を見つけた。そこに自分の名前が記されていた。やはり死んだのかと驚く様子もなく触れてみた。すると左腕に腕章がつくと墓も名前を変えた。腕章には狐火と銃が書かれていた。
「……灰の霊」
そう記された墓は薄暗い灰色の光を放っていた。
「起きてください」
「……夢か」
「何か見たの?」
「いや、君達に会う前のことを夢で見ただけだ。それよりももう揃ったのか」
紅と緑の霊は頷く。灰の霊が立ち上がって二人について行くように歩くと確かに揃っていた。だがもうすでに宴会は始まっていた。入れずにいると緑の霊が引っ張った。残された紅い霊はみんなに呼ばれて楽しむことにした。
彼らは十四の色の霊、転生を禁じられた者達。しかしその顔はそれさえも忘れ今日という日を楽しみにしている。
▽短編小説71(2019/4/1)/無色の駒は焼却の紅い果実
生まれた時からこの体は自分のものではなかった。最初の記憶は灰色の空と緑の飛行機。
貧しい生活は当たり前、だって勝つためだから、それ相当の代償を支払うのはわかっていた。でもそれも終わり、僕は選ばれたから。
連れてこられた場所は知らぬ地。僕は見張り、敵を見つけ次第射殺した。周りは死に、食料はつき始めていた。所詮は僕もあいつらの駒でしかしかなかった。また敵が見えた……と思った時、後ろから撃たれていた。
「……」
「あの?」
「ああ、何だっけ」
「生前ってどうだったのか気になって」
「それはもう忘れたことだよ」
紅い霊は隠すようにごまかして少女に答えなかった。
「じゃあ、思い出したら聞かせて下さい」
そう言い少女は霊達のところに行った。
残された紅い霊は快晴の空に飛ぶ白の飛行機を見ていた。
▽短編小説72(2019/4/7)/落ちゆく氷はなくした感情
彼は何もない暗闇の中で目が覚めた。感情の混合によって起こった災いは彼の命と引き換えに嘲笑う人々と街を一瞬で凍らせた。
徐々に薄くなる体を見て死を確信すると頬に何か落ちた。それは涙だったが、地面に落ちるとそれはすぐに凍り結晶になった。
涙はあらゆる結晶の色を作っていた。しかし彼はそれが感情の一部だと知らないまま涙を流し続けた。
「僕は何を……?」
感情が揺らいだ全ての記憶を失った彼にかつての想いはない。
ふと意識を奪われて目を覚ますと知らない墓の前にいた。そこに自分の名が彫られている。触れると狐火と透明な心が描かれたリストバンドが右についた。するとその墓は水色の光を放ち始めていた。
▽短編小説73(2019/4/14)/決意の迷子は青い空の下で
僕は何のために生きているんだろう。生まれて今まで僕は必要とされたのだろうか。居場所といわれる場所は存在しても僕は迷子だ。社会の波に飲み込まれて生きている命はもうわからない。
誰かのために尽くす命は自分の生き方じゃないと気づいても、僕は今を手放すことに恐怖を覚えて言われるまま生きていた。積み上げられた資料と画面を見ながらため息をついた。
そんな毎日を繰り返しながらも考えは決まらず迷子のままだった。
だけど遅刻しそうな朝、聞かない叫び声と見えない影。影が日を遮り過ぎた後、痛みが襲い僕は倒れた。抑えた手は血に染まり意識は薄くなった。
▽短編小説74(2019/4/22)/冷たい風が吹く時、それは消える
誰かが生きている。誰かが歩いている。けれど俺はこの道もこの人も知らない。
歩く道には影は現れず、すれ違い重なることもない。
綺麗な灰色の道から浮かび上がる黒い霊の塊はあの人から頼まれた依頼の目的。人にとりつく悪霊。それを俺は殺す。
見つけた標的。シネラリアの花のネックレスが風で揺れる。影は真っ二つ、悲鳴は上げさせない。小さな鞘から現れたナイフは悪霊を断つ。ナイフは鞘に戻りまた歩き出す。
依頼は黄色の花弁。それを断つこと。
あの人の為に俺は生かされている。
▽短編小説75(2019/4/29)/繋がる記憶の破片は始まりの合図
生まれたのは彼女の壊れた心の中。それから外に出たはずなのに影の青年は不思議な夢を見る。
知らない土地と体の痛み、刺さった枝は血を流す。見下す誰かに不幸の存在だと虐められた。通り過ぎる人に助けても彼の姿は見えないようだった。
薄くなる意識の中で人が燃える光景を見た。予言だと気付いた時、人の気配がした。止めるのは無理だろうと思いながら声をかけた。
「……行くな」
「……? 黒い蛇?」
「(蛇の姿なのか)……見えるのか、俺の姿が」
「うん」
少女は籠を開け、彼の方に手を伸ばした。彼は痛みをこらえて少女の手に触れた。
知らないはずなのに懐かしさを感じていた。
▽短編小説76(2019/5/6)/動き始めた針は日常の終点
誰よりも早く目を覚まし、着替えて主の部屋を訪れる彼は執事だった。主を起こして食事を取る机まで連れて行く。他のメイド達が主の家族を連れて来たり料理を作ったりして、机には揃っていた。
「いただきます」
主の声と共に彼は現実に引き戻された。
あの日から彼は戻らない日常を繰り返していた。朝早く起き部屋に訪れたとしても、荒らされたベッドに染み付いた血は現実を受け止めるには十分だった。
しかし今日は違う。誰かが玄関の扉を開けた。あの時によく似た空気が流れ、いつもより長い階段を下った気がした。玄関には人がいて、その人は彼に気づくと言った。
「……君はここに住み着いた幽霊か」
「幽……霊」
彼は気づかないうちに死んでいたことを知った。そう思うと、もういいのかと目を閉じた。
▽短編小説77(2019/5/13)/抱いた希望は否定の未来
力を持たない僕は魔法使いに奴隷と言われた。人は能力を持つ者だけに与えられた呼称(こしょう)。だから僕は否定権のない奴隷。
連れられたのは身寄りを失った子供達が住む孤児院。僕はそこで料理を作る役目を任された。そこに住む彼らと同じ子供であったが、少し大人だった僕はすぐに馴染んだ。
しかしある日、料理を作る時間以外の記憶がないことに気づいた。それと同時に子供達が少しずついなくなっていた。
夜になり夢を見た。そこには僕と異様な影がいた。異様な影は三つになり、女、幼い子供、魔物となった。
『あなたはもう“ひとり”じゃない』
そこに映し出されたあらゆる映像は僕が知らない記憶だった。
目覚めた僕は怖くなって起きた。まだ夜だった。
「そうか……は」
その声は僕、けれど手は溶けていた。
連れられたあの日僕は希望を抱いていた。けれどそれは今、絶望感に満たされていた。
ちょうどその日も今日も満月だった。
▽短編小説78(2019/5/19)/時の旅人が見た最後の夢
それは助けるための死だった。彼らは一人を守るためにあらゆる敵に立ち向かい死んでいった。僕はそれを内と呼び外から見ていた。そして守られた一人は未来の風景を憎み、願い消滅した。
僕は首にかけられた懐中時計を見た。針は動かない。これが正常だ。この世界は終わったから。
でも次の瞬間針は動き出した。進む道の中で時間は加速し、僕は墓の前に立っていた。英雄となった彼らの中にあの人の名はなかった。
『彼は幸せだったのだろうか?』
僕と誰かの声が交差する。周りを見渡すと彼岸花が咲いていた。彼岸花の道は見えない墓を映す。
「あなたは」
「知る必要はないよ。生者は忘れるから」
誰かが墓に触れると消えた。それは幽霊だった。驚いたが知りたくなった。僕は墓に触れていた。懐中時計の針は止まっていた。
※僕=後の橙の霊
幽霊≠紅い霊
▽短編小説79(2019/5/26)/進まぬ本に集まる霊達
静かな空間と温かい紅茶、机に乗った本を読み、一人時間を過ごしていた。足音がして誰かが来た。しかし気づかないふりをする。
「何か知らないか」
そこにいたのは風の霊だった。
「主語がなければわかりませんよ」
「ああ、そうだったな。時を知りたい」
そう言われて探し一つの資料を手に取った。
「……うーん、情報は少ないです。現れたばかりですから」
「それでいい、くれ」
風の霊に渡すと礼を言いいなくなった。
また本を読み始める。だが音がして扉の方を見たが気配がして振り返ると紅い霊と誰かがいた。
「お久しぶりですね」
「そうだね。……紹介するよ、青い霊だ」
「この前彼が言ったのは君でしたか」
「彼……風の霊のことか。青い霊……彼は茶の霊、この図書館を管理している天側の霊だ」
茶の霊と呼ばれた彼は立ち上がり礼をした。
▽短編小説80(2019/6/2)/不器用な支援は揺れる白い布
真夜中に住まう白い布は振り返りざまに消えた。そこに何もないけど冷たい息が吹く。
トンとする音に影はなく、伝う手の形はない。ただ音は続き迫る。振り返る先に誰もおらず。
寝る時這うような感覚は視覚さえ飲み込む。見えない気配は暗闇に消え、朝日に弱い。
けれど朝になれば音が部屋に響き、それは人の音じゃない。耳に入れられた不協和音は彼の叫び声。
今日も暗闇に白い布で現れた彼は消えた。あの日聞こえた叫び声は幻聴かわからない。けれど今首元が冷たい。そして怖い。
暗闇の中、一筋の光は赤く、
塗られた布は冷たくなる手を握った。
▽短編小説81(2019/6/9)/消えゆく時の二つの針
暗く静かな何もない場所。目を覚まし映し出される風景はそよぐ草原。雪降る山と快晴の空。踏み出す一歩に足はなく、天を伸ばす手もない。影はただ球体を示した。
風景は変わらず星空は来ない。浮遊の影が歩みを始めても進まない。途方な彼に落ちた針。地に刺さった針は浮かび、時計のように動き出した。
風景は時と共に変わり砂漠の真ん中。影は人になる。前に石と長針。刻む字は無い名。でも彼は知る名。彼の無くした名。
手に残された短針はある名。今の彼は無知。
それを見届ける氷の蝶。見ぬ彼を通り過ぎた。
▽短編小説82(2019/6/17)/なくした本の道しるべ
涼しげな森、誰もいない静けさ。彼は目を覚ます。そこにある本を手に取ると道が示された。
木々の折れる音と風に揺れる葉。そこにあるのは恐怖だった。
開けた場所に出た。木々に囲まれた池には鯉がいた。水は冷たく気持ちがいい。
近くに花畑が広がっていた。あらゆる花が風に揺れる。けれど一輪の白い花は動かない。
手がその花に触れた時、ヒビが入り今までの風景は廃墟と化した。森は燃え、池は枯れて、色を無くした花が散る。持つ本は姿を変えて一枚の葉となった。
彼は思い出していた。あの約束とともに。
それを森の蝶は遠くから見守っていた。
※森の蝶は『霊の話 外伝』を考慮した結果、竹の蝶に変わった。
▽短編小説83(2019/6/23)/再生の闇と絡まる赤糸
僕は知らない。自分が誰かすら知らない。ただ残された記憶は十字架に映る風景。
声を聞いた。小さく重なった声。感覚に痛覚、何か入れられた。微かに喜びが見えた。
ゆっくりと目を覚まして手を足を見た。硝子に反射した姿は人の形。霧の僕はもういない。
赤い光が点滅したあの日、硝子が割れた。僕は硝子の破片があらゆる肌に傷がついた。流れた水に黒い羽根が浮かぶ。
「これが完成品ってやつか?」
「あの方の力と呪いの遺伝子、十字架の欠片……それらを拒絶しなかったなら」
何かを話している。けれど水に溶ける血は瞼を落とした。
落ちる前に見たのは血を流す少女の安らかな眠りだった。
※あの方の力=魔王の力
呪いの遺伝子=さくらの遺伝子
▽短編小説84(2019/6/30)/無知の心が闇に染まる前に
普通の日常は歪んだ扉によって変わった。映った風景は死の秒読み。大きな影と放たれる光、僕の音はしない。地が揺れ黒と白が交わる。
光包まれた後に残された闇。目覚めは薄くなる体。霊体の僕は死を確信した。重い体は落ちた。きっと天に昇って行くのだろう。
けれど薄くなる手を暗く冷たい手が引いた。
「目覚めた」
顔を隠した誰かが言う。人工の光は僕を照らす。薄くなる手は重く感覚を残す。
「僕は……?」
「あの方の最後の願い……だから叶った」
誰かはそれだけを言い、暗闇に消えた。
誰かの心が僕に問いかける。その答えを僕は……。
▼短編小説84は『複雑な生き方をする少女 学園編』(第一部第六章)で亡くなった主人公(僕)が魔王残した力を受け取って闇として生き返った話
※誰か=魔王の後継者(一応) ラカイユ
大きな影=魔王、放たれる光=十字架の力
▽短編小説85(2019/7/7・8)/冷却に流れ落ちる十字架と書
あの方は呪いの魂と十字架に執着してから僕に周りの指揮を取らせていた。だが執着するあまりあの方は十字架に触れ死んだ。
あの方の死は僕含めて二人しか知らない。だから混乱はない。何も変わらない。だが使者は写真をくれた。僕はそれを知っていた。
七つの書、封印と解放、伝承に記された願いを叶える儀式。出現が不明。でも十字架が消えたこととの関係は使者も僕も思った。
あの方の部屋の隠し地下、研究室。降りた先に彼がいた。彼があの方の死を知る一人。
「おーい、今終わったのか」
その声を無視して歩き出すと彼はついてくる。窓から見える大量の試作人形。あれは全てあの方の複製……依頼は生前のあの方。
僕は足を止め、一つの硝子の円柱を見る。不思議と僕は安堵した。
※彼=堕天使 キルン
▽短編小説86(2019/7/14)/願いの果てに想いの亡失
小さな天使はある泣き声を聞いた。悲しみに落ちた彼女の弱々しい声はあの日の出来事。
彼女の願いに賛同した数少ない天使達。天界から無の世界へ。けど叶える力はなかった。
無の影響により白の翼は黒に染まり、天使は醜い悪魔になり始めていた。彼も影響を受け灰色の羽根が落ちた。無理だと思いつつ彼女に戻ると約束して自ら地獄へ落ちた。
しかし落ちた先は何もない暗闇。灼熱の炎もない。ただ影が立っていた。運がいいね、と言い手を出した。彼は願いのために力が欲しかった。だから影の手を取った。
「……愚かな欲望に落ちた天使」
影の小声と共に何かが抜け落ちるのと同時に力を得た。
立ち竦(すく)む深い闇の中で彼は堕天使になった。
※あの日の出来事=『おわりははじまりへ』内のこと
彼女=エミカ
影=魔王の残り火
▽短編小説87(2019/7/21)/戻らぬ過去に消えぬ星の輝きを
暗く濁った空に灰色の雲。見えるはずの月は隠れ星は雨に濡れる。人工の光は空を汚し輝きは失われた。
揺れる木々に一匹の蛍。その光に照らされる影は星を眺める。雲に遮られた空に星はなく。
触れゆく地面に風の声。踏み出す足はゆっくりと。柵に手をその鉄は冷たく、地に雨が降る。
声をかけては遅く、過去には戻れず。浮かぶ影は咲いた花を見る。手は花を通り抜け、足は地面につくことなく。
あの日の穢れた空は晴れて星は輝く。曇る灰色は新月の空に消える。
足音響く時、その姿映らず消えた。残された花は一枚散らした。
桜詩凛の読みは「さくらしりん」で、由来は二つ。一つは元から使っていた桜子凛花が長いと思ったため、短くするために「桜」と「凛」を取り、その間に当時から書いていた「詩」をいれたもの。もう一つは『複雑な生き方をする少女』に登場する「さくら、黒蛇、シラ、理夏(りか)、ラナン」の頭文字を取ったものとなってい…
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