短編小説っぽい何か(31~60)/それに関する説明つき
公開 2023/08/27 12:54
最終更新
-
▽短編小説31(2018/8/25)/罪なき日記は一滴の水で終わる
私達は二重人格。彼と私の性別も違う珍しいもの。彼は普通の高校生。しかしある予防注射だと言われた薬の投与により私は生まれた。彼は私を知っている。鏡に映る姿は彼ではなく私だから。昼と夜の約束をした。昼は彼、夜は私の時間。従業を受けている間は眠ること。
でも生まれた私には嘘を本当のことに変える力がある。それも薬の効果か分からないけど便利な力だと認識していた。
人気者が嫌いだったからそいつの嘘の噂を流してやった。その力は彼が前にいても効果は続いていた。ただ彼が前にいる状態では眠っているから新しい嘘を本当に変えることは出来なかった。
また授業が始まる。私は眠らなきゃ……
▽短編小説32(2018/9/2)/守るための助けは届かない
「とある牢獄に落ちていた紙切れ」
いつかの君に残す。ここは罪を犯したものが集められる。しかしそれは表向きの話であって、本当は実験体で兵器として改造される。
「とある牢獄に残された手記」
大切な君へ。あの日、巫女だった君を助けるにはこうするしかなかったと。
あの紙切れが本当なら僕は改造されるだろう。そしてあいつは改造されて兵器となり記憶を失った。もうすぐ僕もそうなるだろう。
これを見つけた時はもう僕は君を知らない。記憶をなくし自分を失い君を殺すだろう。
だけどいつか助けてくれるのなら……
▽短編小説33(2018/9/9)/追求の日記は大きな代償を生む
とある研究所で人体実験をやっている可能性があると情報が回ってきた。彼女は単独で乗り込んだ。その間に研究員の子供でありながら治癒の能力を持った少女に出会った。
少女のお気に入りは円柱のガラスの水槽にいる彼と話すことだった。けれど本当は禁止されていた。
「先生と話すよりお兄ちゃんといた方が楽しい」
少女はボロボロの肉の塊をお兄ちゃんと呼んでいた。
資料によると彼はいろんな人の体を縫い合わせて作ろうとした人造人間だった。
しかし知ってしまったから彼女は捕まった。何も与えられず、衰弱して意識が遠のいた。
「私は……誰?」
人格と記憶を失った彼女は機械人形になっていた。片方の青い目を残して……
▽短編小説34(2018/9/16)/平等という肯定と否定はどこにもない
植えた種は一つの木になって、温かい春を越えて周りの木々に囲まれて育った。
夏になって綺麗な葉は陽に当たって輝いていた。けれど綺麗な葉は次の花を咲かせるために、養分は木の中に集中する。夏の終わり秋の始まりになると葉は枯れて地面に落ちる。
葉をなくした木は寒さにこたえて、雪や氷が降っても耐えた。
寒い冬が温かい風に飛ばされて春の日がやってきた。木は蕾を花に変えていた。
だけど一緒に育ってきた木々はいなかった。
▽短編小説35(2018/9/23)/解放の日記は自由を手に入れる罪
僕は捕らえられた。小さい頃人質として捕らえられた。遊びに行った友達の家に。
犯人の目的は友達の両親からの地位を崩すためらしい。人質の解放には多額の資金を要求した。友達とくっついて巻かれた綱は固く縛られていたが、手はある程度動かせた。
僕は死んでもよかった。友達の両親を気にして、僕をもっと上に行かせようとする両親が嫌だったから。何にも縛られない自由が欲しかった。
願いは一瞬時を止めた。手に現れた銃と頭を貫くにはちょうどいい距離の犯人。僕は犯人に銃を向けた。なぜかあの時、僕は銃の使い方を理解していた。撃たれた銃は音とともに消滅した。音には犯人も友達も気がついた。しかし犯人はそれを聞きながら頭を銃弾で貫かれた。その後、犯人は自殺したことになったらしい。
能力として認識したのは後だったが、今思えばそれが始まりだった。
▽短編小説36(2018/9/23)/囚われた檻から飛び出す少女の話
霊の夢、その日からもう始まっていた。見えない物を信じて、見える声を受け入れられなくなっていた。
人が怖くなった。最初はそう思うのもいい方だった。けれどもうよくなった。その人がどういう人かなんて興味すらないのだから。
生きているのも半分死んでいる感じ。話す声は久しぶりに聞いた。もう話す必要ないから仕方ないね。
心もとうにどこかになくして、いつか消えてしまうのなら、今でもいいよね。
少女は見つからなかった。行方不明は死亡扱いになって捜査も打ち切られた。
ただ残されたページの切れ端は机にあった。
▽短編小説37(2018/9/30)/音を知る黒猫、ない世界に留まれない?
あの子に出会って僕は追った。階段の先に待つ扉へ足を進め、音は拾っていた。音は多くの思い出を残して彼女はいなくなってしまった。
僕はまたひとりぼっち。先の階段はなく、ただそこには草原が広がっていた。
でもそこには木々に混じっていた電車があった。
木々を取り除いて電車に乗り込むと勝手に走り出した。
どこへ行くのだろう。僕には分からない。だけど少しずつ姿が不安定になった。
遠くに白猫が座っていた。僕は電車を止めようと警鈴を鳴らした。
僕に白猫は「私は音を知りたい」と言った。
※ノスタルジアOp.2から想像して作った話。
音=音楽
▽短編小説38(2018/10/8)/舞い降りたのは霊の姿の天使
とある昼下がり、外に出てみると人がいた。でもそれは彼らに似ていた。
「あれ? さっきまで一緒だったのにどこへ行った」
一人はそう言っているが、もう一人は気づいてもらおうと必死にジャンプしている。
近づいてみると風の霊が誰かをからかっていた。
「何をやっているの?」
「あっ、久しぶりに桃の霊が来たから」
「えっと……」
「初めまして……よろしくお願いします……。てか見えないふりするなよ」
風の霊は聞こうとせず、またやっていた。
何か言ったほうがいいのかなと考えていると、水の霊が肩を軽く叩いて、しなくていいと首を振った。
「それが面白いから」と水の霊は笑いながらそう言った。
▽短編小説39(2018/10/9)/交わされた救済と裏返しの真実
霧隠れの森の中、紅い霊が誰かと話していた。
「それはしなければいけませんか?」
「あの存在を消さなければ、助けられる命はない。彼女を救済するのなら」
紅い霊は何も言い返せずに、もう一つの声は消えた。
「納得する死に方が出来ない」
青い霊は愚痴を言った。
「霊なのにする必要……」
「あるよ!」
「そうですか」
「それよりも前は死にたいって言ったのに」
「みんながいるから平気、今は……」
『嘘つき』
それはあの時に似た声。光や影、鏡とは違う何か。嘘にまみれた真実を突き刺す者。
「いきなり黙ってどうした?」
「ううん、なんでもない」
「……無理しなくていいよ」
それは青い霊の返事ではなく、風の霊の声だった。
▽短編小説40(2018/10/15)/血塗られたナイフに殺意の花が咲く
地面は血で赤く染まっており、そのせいで倒れていた体についた。起き上がろうと目に手が映り、姿が薄く透けていた。
周りをよく見ると人が血を流して死んでいた。それは彼がやったことだった。
家族を友を騎士に殺された彼は残されたナイフと本で見た死の作り方。怒りに任せて無我夢中に殺した。
「なるほど……」
誰かいるのかと彼は声の方を見た。同じように姿が薄く透けていた。斬りつけようとしたナイフも通り抜けた。
「ついて来なさい。まだその気持ちが収まらないのなら」
それは動いた。彼は分からないけれど足はそれについて行った。
▽短編小説41(2018/10/21)/冷たくなった心に一筋の光
不幸の存在である私が生きていることによって幸せが訪れることはない。願えばそれ以上の悲劇が起こる。
話すことは全て悲劇となるから黙っている。でもそれは間違いだと知っている。わかっているけど意見は否定されるから口を開けない。
必要にされることもないから死んだとしても誰も悲しまないだろうな。
「それは僕と一緒だね。途中から声に出ていたよ」
黄の霊は横に座って聞いていたようだ。でも何も言わずに手を握って来た。
静かな風が流れて外はひんやりとするのに、握られた手はほんのりと温かく感じた。
▽短編小説42(2018/10/22・23)/存在の代償は死の消去
彼はイジメにあった原因で人を信じられなくなっていた。しかしそれ以上に彼の存在は周りに嫌われていた。一般的な考えを持たない彼を変な人と見て、同じだと思われたくなくて人は近づくことはなかった。
そしていつしか認識されなくなっていた。家族や友人には見えていたが、赤の他人には触れたとしてもその人の目には映らなかった。
彼は事故死だった。しかし車を運転していた人は殺していないと否定したが、車と地面に飛び散った血が全てを物語っていた。
気づけば彼は墓の前に立っていた。しかしそこに彼の名前はなかった。
▽短編小説43(2018/10/26)
あなたはかわいそうなふりをするのが得意なのね。私はそんなあなたが嫌いだけど。
あなたは一人が寂しいと嘆くけれど私は否定する。
誰かと一緒にいたいだって……? そんなこと聞いたことないけど。
あなたが私を知らなくても私は知っている。
▽短編小説44(2018/10/28)/黒く染まった血は影となる
「生まれる前から嫌われていたの」
少女は鏡に問いかける。少女の姿を映し出すだけの鏡は何も言わない。けれど鏡の向こう側に笑う黒い人影が見える。少女は振り返るがそこにはいない。
「知っているよ。だって私がそうしたから」
「どうして?」
「本当は私が生まれるはずだったのに、あなたが盗んだからだよ。まぁ生まれる前のことなんて外に出れば忘れてしまうけど……。だから返して」
黒い人影がそう言い、鏡の向こう側の少女の姿を少しずつ黒に染め上げる。鏡が何も映さなくなった時、少女は異変に気付いたがもう遅かった。
「さよなら……黒い人影」
少女? は下に映る影を見て笑った。
▽短編小説45(2018/11/5)/壊れた少女は現し身(うつしみ)に希望を残す
暗く沈んだ世界は動くことができないほどの沼に覆われていた。そこに暮らす一人の少女は姿がなかった。
しかし最初からなかったわけではなく、彼女は自分を犠牲にしてあらゆる者を外に出した。感情、幸福、関係、認識さえも現し身にあげた。
明るく眩しい世界に人ならざる者はいらない。だから人になれなかった彼女は現し身達にはこうなってほしくないと願った。
最後に残ったのは暗く沈んだ記憶。それは彼女が生きた証。黒に染まった体からひび割れた結晶を取り出して沼に落とした。
「さよなら」
沼に落ちる結晶に雫が当たり砕け散った。
▽短編小説46(2018/11/11)/出会いを結ぶ虹は最後の手を貸す
彼は仲良くなれなかった。同じ様に頑張っても生まれながらに持つ姿が邪魔をして嫌われていた。
彼は天使の中で飛ぶことが叶わない片翼の天使であった。片翼の理由は前世にあるがその記憶がなかった。
彼は天と地を結ぶ虹から地を見ていた。しかし足を滑らせて落ちたが、誰かが気づいて腕を握っていたおかげで虹に戻ってきた。お礼を言おうと見るとその人には翼がなかった。
どうやらその人は霊らしい。霊はある人を追ってここまでやってきたが見失ったという。彼はそれが誰だかわかったので案内することにした。
※霊=後の風の霊
▽短編小説47(2018/11/12)/赤く染まった花は救済さえも壊す
「ここは……」
言わなくても私にはわかる。夢の中。ただこれは悪夢だ。
足元に咲く彼岸花はまったあそこまで続いているのだろう。そして地面に映る夢で死んだ私の数。
「痛っ」
気づかずに罠を踏んだらしい。でもここにはなかったはずなのに。違う……これは?
そう思った時には遅かった。地面はなく落ちた。目の前に針の大群が見えた時には……
「また……」
目を覚ましたと思いたかった。しかし……
私は消えない悪夢を彷徨い続ける。そこに救済はないのだから。
▽短編小説48(2018/11/19)/切られた赤い糸を結び直す
地は赤く染まる。優しかった人形から赤い液体が流れ落ちる。
「もうしゃべらなくなった」
少女は笑い振り返る。そこに黒い人がいる。
「彼が来る」
「早いね。今回はどうしようかな。いつも一緒じゃ面白くないから……失うものを増やそう。そうすれば今度こそ……でも運命から逃れたら……また巻き戻せばいい」
「どうして彼が必要?」
「善良の霊になったのが嫌なの。憎しみで人を殺していたはずなのに。だから私と同じ悪霊になるまで運命をやり直す……ってもうすぐあれを殺さなきゃ……ね」
少女の問いに黒い人は何も言わないが、二人はその場から離れた。
※短編小説48は短編小説40の別世界線の話として記録されている。
▽短編小説49(2018/11/26)/探し物は見つかりました
かくれんぼをすることになって僕は鬼になった。
数えて「もういいかい」と言った。
何回か言ったけど「もういいよ」と聞こえなかった。
僕は探して見つけたけど一人いない。
とある子が「そういえば小屋を見つけたからそこに隠れない?」と聞かれたけど怖いから断ったらしい。
その小屋は入ってはいけない森の奥にあった。
扉は開いていた。中は薄暗くてよく見えないけど人形がある。ただ気持ち悪い。
「おやおや、探し物かい?」
誰かの声が聞こえて僕は振り返った。
▽短編小説50(2018/12/3)/虚無の時間の終わりを探して
儚く散るはずだったものは続いていた。その方がいいと誰かが囁いた。
生まれた地は知らないけれど、目覚める場所はいつだっていい所だった。
友達と話したり、知らないうちに身につけていた魔法の力で敵を倒したりして暮らしていた。
しかしある日街を訪れた占い師は言った。
「あなたは……知らない」と。
何を言っているのか彼女には分からなかった。
占い師はそれに続いてもう一つ言った。
「忘れなさい、私の言葉を。気にする必要はない」と言い次の日にはいなくなっていた。
占い師は一人街を離れる道で
「無いものを願うか終わりを見つけるか……」と呟いた。
▽短編小説51(2018/12/9)/終わりの鐘が鳴らない世界で
時の始まりと終わりを告げる鐘の音は聞こえなかった。しかしその世界は終わっていた。
人々は飢え、それを助ける策はどこにもなく、地位のある者達は戦うことを知らずただ食われていた。
世界を襲ったのは突然現れた扉から来た腹を空かせた魔物達だった。動けない人々を片っ端から食べた。
けれどそれを見ているだけのつもりではない。鐘がならなかったということがどういうことかを知っていた。
「仕事の時間だよ。愚かな魔物に制裁を与えに行くよ」
一人がそういうと周りはオーと手を挙げた。
天から堕ちた者。使命を放棄した者。
彼らは天の導きによってもう一度やり直すために魔物を狩る。
▽短編小説52(2018/12/15)/離れ消えた霊と結ばれた約束
私は雲の上に立っていた。でも周りは霧がかかってよく見えなかった。
「君はここに来てはいけないよ」
その声は背後から聞こえた。振り返ろうとすると足を動かした時、さっきまであった霊の地面は消えていた。
そこで目が覚めて横に青い霊がいた。私が夢の話をすると青い霊は言った。
「それはきっと半の霊。霧隠れの森を離れて全てを見届けると約束した者。彼は霊と関わる人々の夢に現れる。そう……それがあの霊との約束だから」
その後は青い霊も私も何も言わなかった。
※半色(はしたいろ)とは深紫と浅紫の中間の紫色のこと。
▽短編小説53(2018/12/24)/凍った湖と水の霊の苦慮(くりょ)
森に囲まれた湖はとある霊によって凍っていた。
「どうしてここに来た」
「寂しくないのか?」
「知らないのなら立ち去れ」
そう言って森を訪れた青い霊は冷たい風に吹き飛ばされてしまった。
「飛ばす必要はなかったのでは」
「見ていたのか」
「凍るから離したのか?」
「耐性があるお前ならともかく……」
彼の言葉が続かずに黙ってしまった。それを見て紅い霊は湖の氷に触れると少し溶けた。
「そのことを気にせずとも誰も咎(とが)めはしない」
そう言って紅い霊は森の中に消えた。
「そう簡単に済めば良いけどな」
彼……水の霊はまた湖を凍らせた。
▽短編小説54(2019/1/2)/変わらない日常は少しずつ……
雲に覆われていた日の光は現れて少女の影はそばにいた。かつて奪った姿を忘れて少女の手を握っていた。冷たかった影の手はかすかに温かく痛くない。
「氷は少し溶けて水は枯れたな」
「どういうこと?」
「温かさと時間がそうさせたのか」
影は少女の何かを感じているがわからない。
考える少女を見て
『お前がわからないのはこの感じも偽物だと思っている証拠だろうな』と影は思った。
※氷=心の氷柱
水=涙
▽短編小説55(2019/1/6)/終わりと再会の願いを乗せて
楽しいと思えた時間はもうない。今あるのは空っぽになった箱だけ。
かつて光と呼ばれた少女は闇に落ちて大切なものさえ傷つけた。影と鏡に干渉することなく、箱と結晶は壊れて黒い涙を流した。
「私は誰だった?」
自分を無くした少女は白を忘れ黒に染まっていた。そして暗闇の中で終わりを待っていた。足元が沼に落ちる感覚に襲われても少女は動かなかった。
「おしまい」
開いた声には恐怖も含まれていたが誰もいない。それは誰にも届かない。
「……」
少女は闇の沼に消えた。ただ空っぽだった箱には黒に染まりかけた雫があった。
▽短編小説56(2019/1/12)/本当の答えは嘘としてはね返される
生まれたばかりの私は彼女を殺すことが解決策だと思っていた。しかしそれは意味がなかった。彼女を殺したところで何も変わらなかったから。それ以上に彼女自身が壊れて何もかも忘れていたから。
外の世界は素敵に見えて残酷。喋らなくなった彼女の代わりに私が体を乗っ取って話した。だけど何も変わらないし、それどころか悪化する一方だった。
そしていつからか彼女の声は歌と影だけに向けられていた。
あの子が落ちて私もあの人に呼ばれている気がした。あの子と同じように黒い沼が私を取り込もうとした。沼は人になって私を見ていた。
「そっか……でも私はまだ行けないかな」
『気が済んだらまた来るね』
少し不満そうにしながら黒い沼は消えた。
▽短編小説57(2019/1/19)/願いと呪いは運命の針を黒に染める
あらゆる時間の中で私は運命に干渉し、それに反する行為をした彼女を殺し続けていた。そうしないとあの子の願いは叶わないから。
あの子に会ったのはもう随分昔のことだけど、願いはいつからか呪いみたいにしがみついていた。私は呪いでいらないものを排除した。光と鏡は必要ないのに彼女の思いで生まれた。簡単に落ちてくれれば楽なのに……気づいて。
4つの箱と2つの結晶。結晶が1つになれば運命は元に戻る。
▽短編小説58(2019/1/22)/修復の始まりは欲望のままに
「あの方がいる先の森の奥には行ってはいけない」
紅い霊が僕に言った。しかしそう言われると気になって僕は森の奥に行った。進んだ先は暗闇だった。
『おいで』
どこからか声がして振り返ると目の前に女の子が立って笑っていた。
「ここは危ないよ」
『でもあなたこそ危ない。私の前では……青い霊さん』
意識が奪われて気づけばそこにあの子が死んでいた。
『本当の願いを叶えてあげる。そのかわりあれらを破壊してくれない』
僕の封じていた願いのネジが取れて操られたかのように承諾していた。渡された写真には四人が写っていて、そのうち二人の顔にバツがついていた。
▽短編小説59(2019/1/26)/願いの引き換えは大きな代償
冷たい風が肌に当たるように彼は現れた。彼はゆっくり近づいて少しずつ体温を奪っていく。昔の彼ならこんなことをしないとわかっていた。
彼は忘れている。本来ならあの世の住民なのに、この世に戻ってはいけない存在なのに。
辺りの空気が凍ったように冷たくなり動けない。残った感覚が首に集中する。
「あと一人」
声は彼でも言葉はもう彼のものではなかった。動けないまま絞められて死ぬのを待った。
もがく声も風に流されて消えた。彼には生前の記憶が奪われていた。
「これで願いは叶う」
紺の霊はノートを開き、写真にバツをつけていなくなった。
▼短編小説58と59は青い霊の悪霊の姿である紺の霊が記録されている。今のところ本編では悪霊化する場面はない。
▽短編小説60(2019/2/2)/悲しみの果ては認識の消去
彼らは優秀であった。紅い霊は誰からも慕われていた。水の霊は傷つけないようにしていた。青い霊は無力ながら優しかった。
けれど黄の霊はこの邪魔な力のせいで役に立たなかった。
いらない存在だと最初から分かっていたはずなのに。深い悲しみが少しずつ黄の霊を染めていった。
輝いていた黄色の光は緑みを帯び始めていた。
「同じ思いをすればもう……」
濁った目をした菜の霊は自ら堕ちていった。
※菜種油色(なたねあぶらいろ)とは菜種から搾った菜種油のような緑みの深い黄色のこと。
菜の霊=黄の霊の悪霊化した姿
私達は二重人格。彼と私の性別も違う珍しいもの。彼は普通の高校生。しかしある予防注射だと言われた薬の投与により私は生まれた。彼は私を知っている。鏡に映る姿は彼ではなく私だから。昼と夜の約束をした。昼は彼、夜は私の時間。従業を受けている間は眠ること。
でも生まれた私には嘘を本当のことに変える力がある。それも薬の効果か分からないけど便利な力だと認識していた。
人気者が嫌いだったからそいつの嘘の噂を流してやった。その力は彼が前にいても効果は続いていた。ただ彼が前にいる状態では眠っているから新しい嘘を本当に変えることは出来なかった。
また授業が始まる。私は眠らなきゃ……
▽短編小説32(2018/9/2)/守るための助けは届かない
「とある牢獄に落ちていた紙切れ」
いつかの君に残す。ここは罪を犯したものが集められる。しかしそれは表向きの話であって、本当は実験体で兵器として改造される。
「とある牢獄に残された手記」
大切な君へ。あの日、巫女だった君を助けるにはこうするしかなかったと。
あの紙切れが本当なら僕は改造されるだろう。そしてあいつは改造されて兵器となり記憶を失った。もうすぐ僕もそうなるだろう。
これを見つけた時はもう僕は君を知らない。記憶をなくし自分を失い君を殺すだろう。
だけどいつか助けてくれるのなら……
▽短編小説33(2018/9/9)/追求の日記は大きな代償を生む
とある研究所で人体実験をやっている可能性があると情報が回ってきた。彼女は単独で乗り込んだ。その間に研究員の子供でありながら治癒の能力を持った少女に出会った。
少女のお気に入りは円柱のガラスの水槽にいる彼と話すことだった。けれど本当は禁止されていた。
「先生と話すよりお兄ちゃんといた方が楽しい」
少女はボロボロの肉の塊をお兄ちゃんと呼んでいた。
資料によると彼はいろんな人の体を縫い合わせて作ろうとした人造人間だった。
しかし知ってしまったから彼女は捕まった。何も与えられず、衰弱して意識が遠のいた。
「私は……誰?」
人格と記憶を失った彼女は機械人形になっていた。片方の青い目を残して……
▽短編小説34(2018/9/16)/平等という肯定と否定はどこにもない
植えた種は一つの木になって、温かい春を越えて周りの木々に囲まれて育った。
夏になって綺麗な葉は陽に当たって輝いていた。けれど綺麗な葉は次の花を咲かせるために、養分は木の中に集中する。夏の終わり秋の始まりになると葉は枯れて地面に落ちる。
葉をなくした木は寒さにこたえて、雪や氷が降っても耐えた。
寒い冬が温かい風に飛ばされて春の日がやってきた。木は蕾を花に変えていた。
だけど一緒に育ってきた木々はいなかった。
▽短編小説35(2018/9/23)/解放の日記は自由を手に入れる罪
僕は捕らえられた。小さい頃人質として捕らえられた。遊びに行った友達の家に。
犯人の目的は友達の両親からの地位を崩すためらしい。人質の解放には多額の資金を要求した。友達とくっついて巻かれた綱は固く縛られていたが、手はある程度動かせた。
僕は死んでもよかった。友達の両親を気にして、僕をもっと上に行かせようとする両親が嫌だったから。何にも縛られない自由が欲しかった。
願いは一瞬時を止めた。手に現れた銃と頭を貫くにはちょうどいい距離の犯人。僕は犯人に銃を向けた。なぜかあの時、僕は銃の使い方を理解していた。撃たれた銃は音とともに消滅した。音には犯人も友達も気がついた。しかし犯人はそれを聞きながら頭を銃弾で貫かれた。その後、犯人は自殺したことになったらしい。
能力として認識したのは後だったが、今思えばそれが始まりだった。
▽短編小説36(2018/9/23)/囚われた檻から飛び出す少女の話
霊の夢、その日からもう始まっていた。見えない物を信じて、見える声を受け入れられなくなっていた。
人が怖くなった。最初はそう思うのもいい方だった。けれどもうよくなった。その人がどういう人かなんて興味すらないのだから。
生きているのも半分死んでいる感じ。話す声は久しぶりに聞いた。もう話す必要ないから仕方ないね。
心もとうにどこかになくして、いつか消えてしまうのなら、今でもいいよね。
少女は見つからなかった。行方不明は死亡扱いになって捜査も打ち切られた。
ただ残されたページの切れ端は机にあった。
▽短編小説37(2018/9/30)/音を知る黒猫、ない世界に留まれない?
あの子に出会って僕は追った。階段の先に待つ扉へ足を進め、音は拾っていた。音は多くの思い出を残して彼女はいなくなってしまった。
僕はまたひとりぼっち。先の階段はなく、ただそこには草原が広がっていた。
でもそこには木々に混じっていた電車があった。
木々を取り除いて電車に乗り込むと勝手に走り出した。
どこへ行くのだろう。僕には分からない。だけど少しずつ姿が不安定になった。
遠くに白猫が座っていた。僕は電車を止めようと警鈴を鳴らした。
僕に白猫は「私は音を知りたい」と言った。
※ノスタルジアOp.2から想像して作った話。
音=音楽
▽短編小説38(2018/10/8)/舞い降りたのは霊の姿の天使
とある昼下がり、外に出てみると人がいた。でもそれは彼らに似ていた。
「あれ? さっきまで一緒だったのにどこへ行った」
一人はそう言っているが、もう一人は気づいてもらおうと必死にジャンプしている。
近づいてみると風の霊が誰かをからかっていた。
「何をやっているの?」
「あっ、久しぶりに桃の霊が来たから」
「えっと……」
「初めまして……よろしくお願いします……。てか見えないふりするなよ」
風の霊は聞こうとせず、またやっていた。
何か言ったほうがいいのかなと考えていると、水の霊が肩を軽く叩いて、しなくていいと首を振った。
「それが面白いから」と水の霊は笑いながらそう言った。
▽短編小説39(2018/10/9)/交わされた救済と裏返しの真実
霧隠れの森の中、紅い霊が誰かと話していた。
「それはしなければいけませんか?」
「あの存在を消さなければ、助けられる命はない。彼女を救済するのなら」
紅い霊は何も言い返せずに、もう一つの声は消えた。
「納得する死に方が出来ない」
青い霊は愚痴を言った。
「霊なのにする必要……」
「あるよ!」
「そうですか」
「それよりも前は死にたいって言ったのに」
「みんながいるから平気、今は……」
『嘘つき』
それはあの時に似た声。光や影、鏡とは違う何か。嘘にまみれた真実を突き刺す者。
「いきなり黙ってどうした?」
「ううん、なんでもない」
「……無理しなくていいよ」
それは青い霊の返事ではなく、風の霊の声だった。
▽短編小説40(2018/10/15)/血塗られたナイフに殺意の花が咲く
地面は血で赤く染まっており、そのせいで倒れていた体についた。起き上がろうと目に手が映り、姿が薄く透けていた。
周りをよく見ると人が血を流して死んでいた。それは彼がやったことだった。
家族を友を騎士に殺された彼は残されたナイフと本で見た死の作り方。怒りに任せて無我夢中に殺した。
「なるほど……」
誰かいるのかと彼は声の方を見た。同じように姿が薄く透けていた。斬りつけようとしたナイフも通り抜けた。
「ついて来なさい。まだその気持ちが収まらないのなら」
それは動いた。彼は分からないけれど足はそれについて行った。
▽短編小説41(2018/10/21)/冷たくなった心に一筋の光
不幸の存在である私が生きていることによって幸せが訪れることはない。願えばそれ以上の悲劇が起こる。
話すことは全て悲劇となるから黙っている。でもそれは間違いだと知っている。わかっているけど意見は否定されるから口を開けない。
必要にされることもないから死んだとしても誰も悲しまないだろうな。
「それは僕と一緒だね。途中から声に出ていたよ」
黄の霊は横に座って聞いていたようだ。でも何も言わずに手を握って来た。
静かな風が流れて外はひんやりとするのに、握られた手はほんのりと温かく感じた。
▽短編小説42(2018/10/22・23)/存在の代償は死の消去
彼はイジメにあった原因で人を信じられなくなっていた。しかしそれ以上に彼の存在は周りに嫌われていた。一般的な考えを持たない彼を変な人と見て、同じだと思われたくなくて人は近づくことはなかった。
そしていつしか認識されなくなっていた。家族や友人には見えていたが、赤の他人には触れたとしてもその人の目には映らなかった。
彼は事故死だった。しかし車を運転していた人は殺していないと否定したが、車と地面に飛び散った血が全てを物語っていた。
気づけば彼は墓の前に立っていた。しかしそこに彼の名前はなかった。
▽短編小説43(2018/10/26)
あなたはかわいそうなふりをするのが得意なのね。私はそんなあなたが嫌いだけど。
あなたは一人が寂しいと嘆くけれど私は否定する。
誰かと一緒にいたいだって……? そんなこと聞いたことないけど。
あなたが私を知らなくても私は知っている。
▽短編小説44(2018/10/28)/黒く染まった血は影となる
「生まれる前から嫌われていたの」
少女は鏡に問いかける。少女の姿を映し出すだけの鏡は何も言わない。けれど鏡の向こう側に笑う黒い人影が見える。少女は振り返るがそこにはいない。
「知っているよ。だって私がそうしたから」
「どうして?」
「本当は私が生まれるはずだったのに、あなたが盗んだからだよ。まぁ生まれる前のことなんて外に出れば忘れてしまうけど……。だから返して」
黒い人影がそう言い、鏡の向こう側の少女の姿を少しずつ黒に染め上げる。鏡が何も映さなくなった時、少女は異変に気付いたがもう遅かった。
「さよなら……黒い人影」
少女? は下に映る影を見て笑った。
▽短編小説45(2018/11/5)/壊れた少女は現し身(うつしみ)に希望を残す
暗く沈んだ世界は動くことができないほどの沼に覆われていた。そこに暮らす一人の少女は姿がなかった。
しかし最初からなかったわけではなく、彼女は自分を犠牲にしてあらゆる者を外に出した。感情、幸福、関係、認識さえも現し身にあげた。
明るく眩しい世界に人ならざる者はいらない。だから人になれなかった彼女は現し身達にはこうなってほしくないと願った。
最後に残ったのは暗く沈んだ記憶。それは彼女が生きた証。黒に染まった体からひび割れた結晶を取り出して沼に落とした。
「さよなら」
沼に落ちる結晶に雫が当たり砕け散った。
▽短編小説46(2018/11/11)/出会いを結ぶ虹は最後の手を貸す
彼は仲良くなれなかった。同じ様に頑張っても生まれながらに持つ姿が邪魔をして嫌われていた。
彼は天使の中で飛ぶことが叶わない片翼の天使であった。片翼の理由は前世にあるがその記憶がなかった。
彼は天と地を結ぶ虹から地を見ていた。しかし足を滑らせて落ちたが、誰かが気づいて腕を握っていたおかげで虹に戻ってきた。お礼を言おうと見るとその人には翼がなかった。
どうやらその人は霊らしい。霊はある人を追ってここまでやってきたが見失ったという。彼はそれが誰だかわかったので案内することにした。
※霊=後の風の霊
▽短編小説47(2018/11/12)/赤く染まった花は救済さえも壊す
「ここは……」
言わなくても私にはわかる。夢の中。ただこれは悪夢だ。
足元に咲く彼岸花はまったあそこまで続いているのだろう。そして地面に映る夢で死んだ私の数。
「痛っ」
気づかずに罠を踏んだらしい。でもここにはなかったはずなのに。違う……これは?
そう思った時には遅かった。地面はなく落ちた。目の前に針の大群が見えた時には……
「また……」
目を覚ましたと思いたかった。しかし……
私は消えない悪夢を彷徨い続ける。そこに救済はないのだから。
▽短編小説48(2018/11/19)/切られた赤い糸を結び直す
地は赤く染まる。優しかった人形から赤い液体が流れ落ちる。
「もうしゃべらなくなった」
少女は笑い振り返る。そこに黒い人がいる。
「彼が来る」
「早いね。今回はどうしようかな。いつも一緒じゃ面白くないから……失うものを増やそう。そうすれば今度こそ……でも運命から逃れたら……また巻き戻せばいい」
「どうして彼が必要?」
「善良の霊になったのが嫌なの。憎しみで人を殺していたはずなのに。だから私と同じ悪霊になるまで運命をやり直す……ってもうすぐあれを殺さなきゃ……ね」
少女の問いに黒い人は何も言わないが、二人はその場から離れた。
※短編小説48は短編小説40の別世界線の話として記録されている。
▽短編小説49(2018/11/26)/探し物は見つかりました
かくれんぼをすることになって僕は鬼になった。
数えて「もういいかい」と言った。
何回か言ったけど「もういいよ」と聞こえなかった。
僕は探して見つけたけど一人いない。
とある子が「そういえば小屋を見つけたからそこに隠れない?」と聞かれたけど怖いから断ったらしい。
その小屋は入ってはいけない森の奥にあった。
扉は開いていた。中は薄暗くてよく見えないけど人形がある。ただ気持ち悪い。
「おやおや、探し物かい?」
誰かの声が聞こえて僕は振り返った。
▽短編小説50(2018/12/3)/虚無の時間の終わりを探して
儚く散るはずだったものは続いていた。その方がいいと誰かが囁いた。
生まれた地は知らないけれど、目覚める場所はいつだっていい所だった。
友達と話したり、知らないうちに身につけていた魔法の力で敵を倒したりして暮らしていた。
しかしある日街を訪れた占い師は言った。
「あなたは……知らない」と。
何を言っているのか彼女には分からなかった。
占い師はそれに続いてもう一つ言った。
「忘れなさい、私の言葉を。気にする必要はない」と言い次の日にはいなくなっていた。
占い師は一人街を離れる道で
「無いものを願うか終わりを見つけるか……」と呟いた。
▽短編小説51(2018/12/9)/終わりの鐘が鳴らない世界で
時の始まりと終わりを告げる鐘の音は聞こえなかった。しかしその世界は終わっていた。
人々は飢え、それを助ける策はどこにもなく、地位のある者達は戦うことを知らずただ食われていた。
世界を襲ったのは突然現れた扉から来た腹を空かせた魔物達だった。動けない人々を片っ端から食べた。
けれどそれを見ているだけのつもりではない。鐘がならなかったということがどういうことかを知っていた。
「仕事の時間だよ。愚かな魔物に制裁を与えに行くよ」
一人がそういうと周りはオーと手を挙げた。
天から堕ちた者。使命を放棄した者。
彼らは天の導きによってもう一度やり直すために魔物を狩る。
▽短編小説52(2018/12/15)/離れ消えた霊と結ばれた約束
私は雲の上に立っていた。でも周りは霧がかかってよく見えなかった。
「君はここに来てはいけないよ」
その声は背後から聞こえた。振り返ろうとすると足を動かした時、さっきまであった霊の地面は消えていた。
そこで目が覚めて横に青い霊がいた。私が夢の話をすると青い霊は言った。
「それはきっと半の霊。霧隠れの森を離れて全てを見届けると約束した者。彼は霊と関わる人々の夢に現れる。そう……それがあの霊との約束だから」
その後は青い霊も私も何も言わなかった。
※半色(はしたいろ)とは深紫と浅紫の中間の紫色のこと。
▽短編小説53(2018/12/24)/凍った湖と水の霊の苦慮(くりょ)
森に囲まれた湖はとある霊によって凍っていた。
「どうしてここに来た」
「寂しくないのか?」
「知らないのなら立ち去れ」
そう言って森を訪れた青い霊は冷たい風に吹き飛ばされてしまった。
「飛ばす必要はなかったのでは」
「見ていたのか」
「凍るから離したのか?」
「耐性があるお前ならともかく……」
彼の言葉が続かずに黙ってしまった。それを見て紅い霊は湖の氷に触れると少し溶けた。
「そのことを気にせずとも誰も咎(とが)めはしない」
そう言って紅い霊は森の中に消えた。
「そう簡単に済めば良いけどな」
彼……水の霊はまた湖を凍らせた。
▽短編小説54(2019/1/2)/変わらない日常は少しずつ……
雲に覆われていた日の光は現れて少女の影はそばにいた。かつて奪った姿を忘れて少女の手を握っていた。冷たかった影の手はかすかに温かく痛くない。
「氷は少し溶けて水は枯れたな」
「どういうこと?」
「温かさと時間がそうさせたのか」
影は少女の何かを感じているがわからない。
考える少女を見て
『お前がわからないのはこの感じも偽物だと思っている証拠だろうな』と影は思った。
※氷=心の氷柱
水=涙
▽短編小説55(2019/1/6)/終わりと再会の願いを乗せて
楽しいと思えた時間はもうない。今あるのは空っぽになった箱だけ。
かつて光と呼ばれた少女は闇に落ちて大切なものさえ傷つけた。影と鏡に干渉することなく、箱と結晶は壊れて黒い涙を流した。
「私は誰だった?」
自分を無くした少女は白を忘れ黒に染まっていた。そして暗闇の中で終わりを待っていた。足元が沼に落ちる感覚に襲われても少女は動かなかった。
「おしまい」
開いた声には恐怖も含まれていたが誰もいない。それは誰にも届かない。
「……」
少女は闇の沼に消えた。ただ空っぽだった箱には黒に染まりかけた雫があった。
▽短編小説56(2019/1/12)/本当の答えは嘘としてはね返される
生まれたばかりの私は彼女を殺すことが解決策だと思っていた。しかしそれは意味がなかった。彼女を殺したところで何も変わらなかったから。それ以上に彼女自身が壊れて何もかも忘れていたから。
外の世界は素敵に見えて残酷。喋らなくなった彼女の代わりに私が体を乗っ取って話した。だけど何も変わらないし、それどころか悪化する一方だった。
そしていつからか彼女の声は歌と影だけに向けられていた。
あの子が落ちて私もあの人に呼ばれている気がした。あの子と同じように黒い沼が私を取り込もうとした。沼は人になって私を見ていた。
「そっか……でも私はまだ行けないかな」
『気が済んだらまた来るね』
少し不満そうにしながら黒い沼は消えた。
▽短編小説57(2019/1/19)/願いと呪いは運命の針を黒に染める
あらゆる時間の中で私は運命に干渉し、それに反する行為をした彼女を殺し続けていた。そうしないとあの子の願いは叶わないから。
あの子に会ったのはもう随分昔のことだけど、願いはいつからか呪いみたいにしがみついていた。私は呪いでいらないものを排除した。光と鏡は必要ないのに彼女の思いで生まれた。簡単に落ちてくれれば楽なのに……気づいて。
4つの箱と2つの結晶。結晶が1つになれば運命は元に戻る。
▽短編小説58(2019/1/22)/修復の始まりは欲望のままに
「あの方がいる先の森の奥には行ってはいけない」
紅い霊が僕に言った。しかしそう言われると気になって僕は森の奥に行った。進んだ先は暗闇だった。
『おいで』
どこからか声がして振り返ると目の前に女の子が立って笑っていた。
「ここは危ないよ」
『でもあなたこそ危ない。私の前では……青い霊さん』
意識が奪われて気づけばそこにあの子が死んでいた。
『本当の願いを叶えてあげる。そのかわりあれらを破壊してくれない』
僕の封じていた願いのネジが取れて操られたかのように承諾していた。渡された写真には四人が写っていて、そのうち二人の顔にバツがついていた。
▽短編小説59(2019/1/26)/願いの引き換えは大きな代償
冷たい風が肌に当たるように彼は現れた。彼はゆっくり近づいて少しずつ体温を奪っていく。昔の彼ならこんなことをしないとわかっていた。
彼は忘れている。本来ならあの世の住民なのに、この世に戻ってはいけない存在なのに。
辺りの空気が凍ったように冷たくなり動けない。残った感覚が首に集中する。
「あと一人」
声は彼でも言葉はもう彼のものではなかった。動けないまま絞められて死ぬのを待った。
もがく声も風に流されて消えた。彼には生前の記憶が奪われていた。
「これで願いは叶う」
紺の霊はノートを開き、写真にバツをつけていなくなった。
▼短編小説58と59は青い霊の悪霊の姿である紺の霊が記録されている。今のところ本編では悪霊化する場面はない。
▽短編小説60(2019/2/2)/悲しみの果ては認識の消去
彼らは優秀であった。紅い霊は誰からも慕われていた。水の霊は傷つけないようにしていた。青い霊は無力ながら優しかった。
けれど黄の霊はこの邪魔な力のせいで役に立たなかった。
いらない存在だと最初から分かっていたはずなのに。深い悲しみが少しずつ黄の霊を染めていった。
輝いていた黄色の光は緑みを帯び始めていた。
「同じ思いをすればもう……」
濁った目をした菜の霊は自ら堕ちていった。
※菜種油色(なたねあぶらいろ)とは菜種から搾った菜種油のような緑みの深い黄色のこと。
菜の霊=黄の霊の悪霊化した姿
桜詩凛の読みは「さくらしりん」で、由来は二つ。一つは元から使っていた桜子凛花が長いと思ったため、短くするために「桜」と「凛」を取り、その間に当時から書いていた「詩」をいれたもの。もう一つは『複雑な生き方をする少女』に登場する「さくら、黒蛇、シラ、理夏(りか)、ラナン」の頭文字を取ったものとなってい…
最近の記事
タグ
