失われし真実の名と少女の声 ~雪降る白に刺さる夢の跡~
公開 2023/08/26 14:06
最終更新
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その名を口にすることは許されない罪。けれど声を失ったはずの少女はその名を知っていた。だから開かれた、その口が叫ぶことを無視しなかったように、声は響いていた。
雪に埋もれたその景色を白紙に塗り替えた少年も吹雪に破れた世界も誰かがそうさせた理由も、すべて、その叫びによって最初に戻された。
黒い被り物をした一つ目が語りかける。白い雪が手のひらに乗ったまま、伸ばして掴んだ少女の手。玄関の扉に鍵が刺さったその時に、少女の視界は揺らいでいた。
知らない一つ目が赤い涙を流していた。だが雪が染まることはなく、その間で蒸発していた。熱さを失った雪の影に不思議な現象はこの世界の歪を示していた。
「モドレナイ」
「シッタカラ」
「ユキノカゲ」
「ミエテイル」
「私は何を見た?」
「遠くにあった雪の影」
「夢と現実の境界線で見た不思議な風景を私は知っている?」
「私は……ワタシ……は」
黒い一つ目が少女の側に立ち、いきなり叫んだ。言葉もなくその声は大地を揺らしていた。しがみつく少女に一つ目は何もしない。だが響くことがなくなると一つ目は少女をじっと見つめていた。
『叫べ』
少女の頭に響いた謎の声。だけど知っている声。一つ目が叫んだその音と同じ声がした。だから声を出そうとした。だがもうその声はなくなっていた。
「……!」
一つ目は異変に気付いた。一生懸命叫ぼうとする少女の声がすでに奪われていることに。二人の前に誰かが立っている。少女が見た幻覚、境界線の白い雪、その目は見つめている。
一つ目は知っていた。それが少女であり、少女ではないことを。幻覚の間に生まれた境界線に落ちた形だけの存在。声は元の持ち主へ返されて、少女は声を失った。
「ワタシはシッテイル」
「名をクチにするコトハ つまり コワスコト」
「でも アナタは シラナイ」
「デモ あいつは シッテイル」
「だって その名は あいつの名だから」
白い雪の影、誰かがそう伝えた名前。口にした者に不幸が訪れ、代わりに大切な人の願いが叶う。そんな言い伝えを信じた者が遠い昔存在した。だがその名を口にした者は声を奪われ、元の持ち主に返される。まるでその声を偽物が操っていたかのような書き方をするその文書は真実しか書き記さない。ならば現実にいる人間達は偽物かと問われれば、答えは否定される。
この世界が二つあるような、偽物と本物の鏡合わせの世界。夢に干渉した形だけの存在は少しずつ覚えていく。そして幻覚となった時にはすでになりかわる好機で、現れて声を奪う。声を奪われた人間は偽物となり、何者かの手によって回収されて夢の中で目覚める。自分が何者であったか記憶を消されて、名を求めて形だけの存在になり下がる。
一つ目は名を失った元凶。この世界に存在した神の一柱だったが、信仰なく堕とされた。邪神となった彼に与えられた姿は黒い一つ目の人間の形をしたものだった。
少女は神を陥れるために放たれた差し金だったが、それは少女の方だったと彼は気づいていた。そのことを少女に感づかれる前に、穢れる前の少女を救いに来た。少女が彼を知らなくても、それでもよかった。だが少女は現れて声を奪った。
『大丈夫 また巻き戻せばいい』
彼は少女の頭に語りかけた。何を言っているのかわからないが、何故か怖くはなかった。
『今なら』
少女は息を吸い、口を開けた。少女はニヤリと笑い、何も起きないと思っていた。だがその答えは一つ目の姿が変わり、この世界は暗転する。神という名の邪神の力が放たれる。
「ナゼ 声は ウバッタ のに」
「どうして声が戻っているの?」
少女が驚く間に、一つ目は本来の姿から遠のいた邪神の姿へと変貌し、だがそれを忌み嫌うことはなかった。
「私は」
「生きているのか それとも死んでいるのか」
「この体は真実を知っている」
「あなたも私もこの世界のものじゃない」
真実の道は切り開かれ、記録は正された。少女は未来の出来事を瞬時に取り込み、時間は加速して、白い雪は溶けて、何もなくなる。少女はそこに存在しない、ただの幻。
彼は少女を見ていた。一つの目は彼女の姿を、閉ざされていたもう一つの目が開かれ、そこには
雪に埋もれたその景色を白紙に塗り替えた少年も吹雪に破れた世界も誰かがそうさせた理由も、すべて、その叫びによって最初に戻された。
黒い被り物をした一つ目が語りかける。白い雪が手のひらに乗ったまま、伸ばして掴んだ少女の手。玄関の扉に鍵が刺さったその時に、少女の視界は揺らいでいた。
知らない一つ目が赤い涙を流していた。だが雪が染まることはなく、その間で蒸発していた。熱さを失った雪の影に不思議な現象はこの世界の歪を示していた。
「モドレナイ」
「シッタカラ」
「ユキノカゲ」
「ミエテイル」
「私は何を見た?」
「遠くにあった雪の影」
「夢と現実の境界線で見た不思議な風景を私は知っている?」
「私は……ワタシ……は」
黒い一つ目が少女の側に立ち、いきなり叫んだ。言葉もなくその声は大地を揺らしていた。しがみつく少女に一つ目は何もしない。だが響くことがなくなると一つ目は少女をじっと見つめていた。
『叫べ』
少女の頭に響いた謎の声。だけど知っている声。一つ目が叫んだその音と同じ声がした。だから声を出そうとした。だがもうその声はなくなっていた。
「……!」
一つ目は異変に気付いた。一生懸命叫ぼうとする少女の声がすでに奪われていることに。二人の前に誰かが立っている。少女が見た幻覚、境界線の白い雪、その目は見つめている。
一つ目は知っていた。それが少女であり、少女ではないことを。幻覚の間に生まれた境界線に落ちた形だけの存在。声は元の持ち主へ返されて、少女は声を失った。
「ワタシはシッテイル」
「名をクチにするコトハ つまり コワスコト」
「でも アナタは シラナイ」
「デモ あいつは シッテイル」
「だって その名は あいつの名だから」
白い雪の影、誰かがそう伝えた名前。口にした者に不幸が訪れ、代わりに大切な人の願いが叶う。そんな言い伝えを信じた者が遠い昔存在した。だがその名を口にした者は声を奪われ、元の持ち主に返される。まるでその声を偽物が操っていたかのような書き方をするその文書は真実しか書き記さない。ならば現実にいる人間達は偽物かと問われれば、答えは否定される。
この世界が二つあるような、偽物と本物の鏡合わせの世界。夢に干渉した形だけの存在は少しずつ覚えていく。そして幻覚となった時にはすでになりかわる好機で、現れて声を奪う。声を奪われた人間は偽物となり、何者かの手によって回収されて夢の中で目覚める。自分が何者であったか記憶を消されて、名を求めて形だけの存在になり下がる。
一つ目は名を失った元凶。この世界に存在した神の一柱だったが、信仰なく堕とされた。邪神となった彼に与えられた姿は黒い一つ目の人間の形をしたものだった。
少女は神を陥れるために放たれた差し金だったが、それは少女の方だったと彼は気づいていた。そのことを少女に感づかれる前に、穢れる前の少女を救いに来た。少女が彼を知らなくても、それでもよかった。だが少女は現れて声を奪った。
『大丈夫 また巻き戻せばいい』
彼は少女の頭に語りかけた。何を言っているのかわからないが、何故か怖くはなかった。
『今なら』
少女は息を吸い、口を開けた。少女はニヤリと笑い、何も起きないと思っていた。だがその答えは一つ目の姿が変わり、この世界は暗転する。神という名の邪神の力が放たれる。
「ナゼ 声は ウバッタ のに」
「どうして声が戻っているの?」
少女が驚く間に、一つ目は本来の姿から遠のいた邪神の姿へと変貌し、だがそれを忌み嫌うことはなかった。
「私は」
「生きているのか それとも死んでいるのか」
「この体は真実を知っている」
「あなたも私もこの世界のものじゃない」
真実の道は切り開かれ、記録は正された。少女は未来の出来事を瞬時に取り込み、時間は加速して、白い雪は溶けて、何もなくなる。少女はそこに存在しない、ただの幻。
彼は少女を見ていた。一つの目は彼女の姿を、閉ざされていたもう一つの目が開かれ、そこには
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