霊の話 番外編 青い霊編(2/4)
公開 2023/08/26 13:32
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流れ着いた暗闇、夜の空。星の輝きは失われ、その瞳は何も映さなかった。メーシェが立ち寄った家には一人の少女がいた。紺色に染まった彼はかつてその少女に会ったことさえ覚えていなかった。
メーシェは何事もなく、少女の首を絞めた。冷たい手が残された温かさも取り除いて奪っていく。息が止まり、少女は倒れた。絞めていた首はメーシェの手の跡はなく、自然死を装ったものになっていた。
受け取った紙を開いて、少女の顔が撮られた写真にバツ印をつけてた。そして彼は消えた。窓は開けられたまま、カーテンを動かす風が部屋を冷たくしていた。
紅い霊 フィークが別世界へ渡っていた頃、天界ではよくないことが起きていた。死ぬ必要のない人が死んで、その数は増え続けていた。天使達は転生するための魂の処理が思うようにできず、死神達はその原因を突き止めようと人間界に降りていた。
その死神の一人はその現状を変えるため、とある者に依頼をすることにした。
「ご用件はなんですか? 死神様」
「ああ、現在、天界で起きていることは知っているかい?」
「……なんとなくですが」
「死の運命を捻じ曲げている者がいる」
「それは悪霊ですか?」
「わからんが、もしそうだとしたら……」
「これ以上に恐ろしいことが起きるかもしれない。そういうことですね」
「風の霊 トゥーリ……頼みたいことがある。原因を突き止め、それが悪霊ならば殺せ」
「わかりました。ただ一つだけ」
「なんだ」
「……いえ、何でもありません」
「……情報なしというのは余りにも厳しいだろう」
「正直なところ、そうですね」
「あるとすれば……そういえば天使達が転生する魂の処理をしている際に気づいたことなんだが、いろんな世界にまたがって起きているらしい」
「つまり?」
「そいつは移動しているというわけだ」
「……」
「だが最後に死んだとされる人物がいた場所はわかった」
「そこに行けばいいんですね」
「今のところはだがな。……ここだが、かなり遠い道を歩いてそこから飛び降りればいい。そうすればその世界に行くことが出来るだろう」
そう言い死神は地図を残して去っていった。トゥーリはその地図を手にして、置いていた悪霊殺しのナイフを持ち、フードを深くかぶった。そして風のように走りだした。
天界、空はいろんな世界に繋がっている。トゥーリも役目のため、多くの世界を見てきたが、それでも死神が言った場所にはまだ行ったことがなかった。地図が指し示す場所へたどり着いた時、そこには歪んだ空気が流れていた。触れたら水のように波紋する透明な壁は今までの世界とは別の次元なのかもしれないと考えさせられた。
だがこの先を進まなければ依頼を遂行することが出来ないと、トゥーリは透明な壁の中に入り、すぐの出口へ飛び降りた。白い空が淡い水色へ、そして水色が失われて緑色や肌色が広がって自然の匂いが近づいてきた。落ちる彼の姿は少しずつ減速し、足がつく頃にはゆっくりと紙が落ちるくらいになっていた。
「ここにいるのか……」
トゥーリは目の前にあった白い建物の方へ歩き始めた。それが学校と呼ばれているものであると彼は知らないが、なんだか引き寄せられるかのように進んでいた。
夜満ちる深き闇、何も映さない彼の心はその目を伏せた。輝く星は薄暗く広がった雲に覆われてその光は失われた。紙に書かれたすべての魂を死に誘い、その体は残り続けて腐敗した。自殺に見せかけた彼の行いを止める者はいない。その心がすべて覆い尽くしていなくても、弱き彼が表に出てくることはない。後悔してももう遅い。
その体が紺の霊 メーシェとして生まれ変わった時からもう彼の心は、青い霊 メーシェは汚染されていた。
死を誘い続け、渡る多くの世界の狭間に一人の少女の気配を感じた。彼女は紙の写真に撮られていたが、ずっと見つからなかった。同じ場所にいるはずなのに干渉すら出来ない。紺の霊としての力が弱く、歪む空間に阻まれていたが、多くの死を誘いやっと会えた。だが近づくことは叶わない。何故なら彼女のそばには守り手がいるからだった。
考えがまとまらないまま、フィークとさくらの話し合いは無言という形で止まった。さくらの意思関係なしに動き出す影の手達は飲みかけにもかかわらず、コップを片付け始めて、机に残されていたのは冷たくなったクッキーが乗った皿だけだった。
すると誰かが二人に声をかけた。考え事をしていたせいで入ってきたことすら気づけずにフィークは驚いていたが、さくらは少しうれしそうにしていた。
「ひよ! いい所に来てくれた」
「どうしたん? それよりもあの指輪……役に立ってる?」
「あっ、ちょうど役に立っているよ」
「うん? あっ、もしかして……あなた幽霊? ちゃんと見てなかったから気づかなかった」
「えっと……」
「あっ、フィークさん。この子はひよ、私の唯一無二の友人で見えないものを見ることが出来る能力があるの。ひよ、あの人はフィークさん、仲間の幽霊を探しにここに来たんだって」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ……って言いたいけど、詩音ちゃんが言っていた話と関係ないよね」
ひよにそう問われたさくらは少し困りつつ、今までの内容を簡単にまとめて話した。それを相槌ながら聞いたひよはフィークの方を一瞬見たが、すぐにさくらの方を見た。
「つまり犯人じゃないのね」
「うん……でも」
「そのフィークの仲間が悪さをしている可能性があると」
「そう、だからね……えっと」
「さくら」
「うん?」
「少し危険な話をするよ。あっち側にその幽霊がいるとして、狙われた少女がいるとする。ならその子を囮にして、こっち側に引き寄せる」
「それは……」
「反対だ。もし防げたとしても死ぬ可能性の方が高い」
「まぁ、そうよね。そもそも能力者でもない限り、こっち側に来れないし……あっ、そっか」
「どうしたの?」
「私がなればいいじゃない、その囮役」
「だが狙われるのか」
「あー、そこか。それは分からないね。でも現に、能力者は狙われた。なら選択肢には入っている」
「一つ聞いてもいいか。ひよの能力は強いのか?」
「うーん、本当は強いって言いたいけど実際のところ弱いと思うよ。基準がさくらだからね」
「私の力は十字架ありきだし、基準にしなくても……。それにひよは能力以外でもいろいろ助かっているから」
「……聞かない方がよかったな」
「大丈夫、気にしてないから。じゃあ、囮役は私でいいね」
「やっぱり怖い……私ならともかく、ひよは死んじゃうかもしれないのに」
「もう心配性なんだから……」
「そうだ。能力者とはいえ普通の人間なら……やはりこの作戦自体をやめるべきか」
「……じゃあ、どうするのよ。振り出しに戻るじゃない」
「うーん、せめて特徴とか、他の情報とか分かればいろんな対策が取れそうだけど……」
「確かに」
「あーもう、分かった。私があっち側に行って聞いてくる。フィークはさくらのそばにいて」
「いや、ひよの方へ行こう」
「なんで? さくらが危ないじゃない」
「そんなことないよ。私には影の手がいるし、もし何かあっても彼が来てくれる。むしろ今の状況でひよが一人で行動している方が危ないと思う」
「……あー、すっかり忘れてた。そういえばそうだったね」
「だからフィークさん。ひよのことをお願いします」
「まぁ、攻撃は出来なくとも、他の幽霊達からは威嚇になるだろう。……分かった。だがメーシェが悪霊だった場合、あいつがここに来るかもしれないから注意してくれ」
「あいつ?」
「風の霊 トゥーリ……悪霊殺しを役目に持つ幽霊だ」
「悪霊殺し? つまりメーシェさんが殺されるってこと」
「殺すというより消すだな。トゥーリと出会って説明が出来ればいいが……気配はするが、どこにいるかわからない」
「もしかしてあっち側にいるんじゃない? すれ違いになる前に」
「そうだな」
「さくら、行ってくるね!」
そう言ってひよとフィークは教室から出ていった。二人が見えなくなるまで見送り、机に乗せていたクッキーの皿を持って、教室を出て二人とは別の方向へ、影の手による車椅子操作を得て動き始めた。
流れ着いた暗闇、夜の空。星の輝きは失われ、その瞳は何も映さなかった。メーシェが立ち寄った家には一人の少女がいた。紺色に染まった彼はかつてその少女に会ったことさえ覚えていなかった。
メーシェは何事もなく、少女の首を絞めた。冷たい手が残された温かさも取り除いて奪っていく。息が止まり、少女は倒れた。絞めていた首はメーシェの手の跡はなく、自然死を装ったものになっていた。
受け取った紙を開いて、少女の顔が撮られた写真にバツ印をつけてた。そして彼は消えた。窓は開けられたまま、カーテンを動かす風が部屋を冷たくしていた。
紅い霊 フィークが別世界へ渡っていた頃、天界ではよくないことが起きていた。死ぬ必要のない人が死んで、その数は増え続けていた。天使達は転生するための魂の処理が思うようにできず、死神達はその原因を突き止めようと人間界に降りていた。
その死神の一人はその現状を変えるため、とある者に依頼をすることにした。
「ご用件はなんですか? 死神様」
「ああ、現在、天界で起きていることは知っているかい?」
「……なんとなくですが」
「死の運命を捻じ曲げている者がいる」
「それは悪霊ですか?」
「わからんが、もしそうだとしたら……」
「これ以上に恐ろしいことが起きるかもしれない。そういうことですね」
「風の霊 トゥーリ……頼みたいことがある。原因を突き止め、それが悪霊ならば殺せ」
「わかりました。ただ一つだけ」
「なんだ」
「……いえ、何でもありません」
「……情報なしというのは余りにも厳しいだろう」
「正直なところ、そうですね」
「あるとすれば……そういえば天使達が転生する魂の処理をしている際に気づいたことなんだが、いろんな世界にまたがって起きているらしい」
「つまり?」
「そいつは移動しているというわけだ」
「……」
「だが最後に死んだとされる人物がいた場所はわかった」
「そこに行けばいいんですね」
「今のところはだがな。……ここだが、かなり遠い道を歩いてそこから飛び降りればいい。そうすればその世界に行くことが出来るだろう」
そう言い死神は地図を残して去っていった。トゥーリはその地図を手にして、置いていた悪霊殺しのナイフを持ち、フードを深くかぶった。そして風のように走りだした。
天界、空はいろんな世界に繋がっている。トゥーリも役目のため、多くの世界を見てきたが、それでも死神が言った場所にはまだ行ったことがなかった。地図が指し示す場所へたどり着いた時、そこには歪んだ空気が流れていた。触れたら水のように波紋する透明な壁は今までの世界とは別の次元なのかもしれないと考えさせられた。
だがこの先を進まなければ依頼を遂行することが出来ないと、トゥーリは透明な壁の中に入り、すぐの出口へ飛び降りた。白い空が淡い水色へ、そして水色が失われて緑色や肌色が広がって自然の匂いが近づいてきた。落ちる彼の姿は少しずつ減速し、足がつく頃にはゆっくりと紙が落ちるくらいになっていた。
「ここにいるのか……」
トゥーリは目の前にあった白い建物の方へ歩き始めた。それが学校と呼ばれているものであると彼は知らないが、なんだか引き寄せられるかのように進んでいた。
夜満ちる深き闇、何も映さない彼の心はその目を伏せた。輝く星は薄暗く広がった雲に覆われてその光は失われた。紙に書かれたすべての魂を死に誘い、その体は残り続けて腐敗した。自殺に見せかけた彼の行いを止める者はいない。その心がすべて覆い尽くしていなくても、弱き彼が表に出てくることはない。後悔してももう遅い。
その体が紺の霊 メーシェとして生まれ変わった時からもう彼の心は、青い霊 メーシェは汚染されていた。
死を誘い続け、渡る多くの世界の狭間に一人の少女の気配を感じた。彼女は紙の写真に撮られていたが、ずっと見つからなかった。同じ場所にいるはずなのに干渉すら出来ない。紺の霊としての力が弱く、歪む空間に阻まれていたが、多くの死を誘いやっと会えた。だが近づくことは叶わない。何故なら彼女のそばには守り手がいるからだった。
考えがまとまらないまま、フィークとさくらの話し合いは無言という形で止まった。さくらの意思関係なしに動き出す影の手達は飲みかけにもかかわらず、コップを片付け始めて、机に残されていたのは冷たくなったクッキーが乗った皿だけだった。
すると誰かが二人に声をかけた。考え事をしていたせいで入ってきたことすら気づけずにフィークは驚いていたが、さくらは少しうれしそうにしていた。
「ひよ! いい所に来てくれた」
「どうしたん? それよりもあの指輪……役に立ってる?」
「あっ、ちょうど役に立っているよ」
「うん? あっ、もしかして……あなた幽霊? ちゃんと見てなかったから気づかなかった」
「えっと……」
「あっ、フィークさん。この子はひよ、私の唯一無二の友人で見えないものを見ることが出来る能力があるの。ひよ、あの人はフィークさん、仲間の幽霊を探しにここに来たんだって」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ……って言いたいけど、詩音ちゃんが言っていた話と関係ないよね」
ひよにそう問われたさくらは少し困りつつ、今までの内容を簡単にまとめて話した。それを相槌ながら聞いたひよはフィークの方を一瞬見たが、すぐにさくらの方を見た。
「つまり犯人じゃないのね」
「うん……でも」
「そのフィークの仲間が悪さをしている可能性があると」
「そう、だからね……えっと」
「さくら」
「うん?」
「少し危険な話をするよ。あっち側にその幽霊がいるとして、狙われた少女がいるとする。ならその子を囮にして、こっち側に引き寄せる」
「それは……」
「反対だ。もし防げたとしても死ぬ可能性の方が高い」
「まぁ、そうよね。そもそも能力者でもない限り、こっち側に来れないし……あっ、そっか」
「どうしたの?」
「私がなればいいじゃない、その囮役」
「だが狙われるのか」
「あー、そこか。それは分からないね。でも現に、能力者は狙われた。なら選択肢には入っている」
「一つ聞いてもいいか。ひよの能力は強いのか?」
「うーん、本当は強いって言いたいけど実際のところ弱いと思うよ。基準がさくらだからね」
「私の力は十字架ありきだし、基準にしなくても……。それにひよは能力以外でもいろいろ助かっているから」
「……聞かない方がよかったな」
「大丈夫、気にしてないから。じゃあ、囮役は私でいいね」
「やっぱり怖い……私ならともかく、ひよは死んじゃうかもしれないのに」
「もう心配性なんだから……」
「そうだ。能力者とはいえ普通の人間なら……やはりこの作戦自体をやめるべきか」
「……じゃあ、どうするのよ。振り出しに戻るじゃない」
「うーん、せめて特徴とか、他の情報とか分かればいろんな対策が取れそうだけど……」
「確かに」
「あーもう、分かった。私があっち側に行って聞いてくる。フィークはさくらのそばにいて」
「いや、ひよの方へ行こう」
「なんで? さくらが危ないじゃない」
「そんなことないよ。私には影の手がいるし、もし何かあっても彼が来てくれる。むしろ今の状況でひよが一人で行動している方が危ないと思う」
「……あー、すっかり忘れてた。そういえばそうだったね」
「だからフィークさん。ひよのことをお願いします」
「まぁ、攻撃は出来なくとも、他の幽霊達からは威嚇になるだろう。……分かった。だがメーシェが悪霊だった場合、あいつがここに来るかもしれないから注意してくれ」
「あいつ?」
「風の霊 トゥーリ……悪霊殺しを役目に持つ幽霊だ」
「悪霊殺し? つまりメーシェさんが殺されるってこと」
「殺すというより消すだな。トゥーリと出会って説明が出来ればいいが……気配はするが、どこにいるかわからない」
「もしかしてあっち側にいるんじゃない? すれ違いになる前に」
「そうだな」
「さくら、行ってくるね!」
そう言ってひよとフィークは教室から出ていった。二人が見えなくなるまで見送り、机に乗せていたクッキーの皿を持って、教室を出て二人とは別の方向へ、影の手による車椅子操作を得て動き始めた。
桜詩凛の読みは「さくらしりん」で、由来は二つ。一つは元から使っていた桜子凛花が長いと思ったため、短くするために「桜」と「凛」を取り、その間に当時から書いていた「詩」をいれたもの。もう一つは『複雑な生き方をする少女』に登場する「さくら、黒蛇、シラ、理夏(りか)、ラナン」の頭文字を取ったものとなってい…
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