変異した十字架の始まりの記録(1/2)
公開 2023/08/20 11:52
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かつて最初の少女は言いました
その願いのために封印は解かれてしまいました
封印を施していた魔女はそれを『魂の共鳴』と言って、もう一度封印することは不可能だと語りました。語った後、行方不明になった魔女の姿を見る者はいませんでした。しかしそれに対しての情報が何もなく、人々は興味を引くばかりでした。
ある日、それは拾われて、正体が十字架だとわかりました。魔女が封印していたとすれば、恐ろしい力を秘めていることは言うまでもなく、人々は十字架を置きものと一緒に飾っていました。
「綺麗な十字架ね」
一人の旅人が村長に問いかけました。村長は十字架が見つかった経緯を話すと、旅人は興味を引かれて売ってほしいと言いました。しかしどんな力を秘めているのかわからないので、売ることを拒否する村長に対して、旅人は無理やり奪い取りました。その目は何かに操られているかのような赤く光っていました。しかし旅人の手に十字架が渡った瞬間、それは消えてしまいました。
「どこに行ったんじゃ?」
村長は旅人の手から消えた十字架に驚き、慌てていると旅人は何も言わずに出て行ってしまいました。
「どうして私じゃないの!」
怒鳴りながら旅人は消えたと思われていた十字架の波長を読み取って追いかけました。
遥か昔、神々が残した遺物に願いを叶える十字架がありました。しかし人々は争いのもとになることを恐れて封印しました。長い年月の間にその封印は鎖の如く錆びついて、気づかぬうちに封印は緩くなっていました。
魔女はそれを託された一人でした。多くの仲間達とともに封印を探り、魂を生贄にすることで完成する魔法陣を使って十字架を封印しました。しかし魔女はその封印に反対していました。だから封印を施す魔法陣に細工して、解けた際にその十字架の持ち主が自分になることにして、協力しているように見せかけました。仲間達がそれに気づかず、封印は施されて長い年月が経ちました。
ただ一つだけ予期せぬことが起きました。それは封印が意図せぬ形で解かれてしまったことで、魔女は思い通りに十字架を利用することができませんでした。十字架を手にしようと伸ばしたところにはもうありませんでした。仕方なく、魔女は十字架を追い続けました。姿を変えながら人々に見つからないように、旅をするようになりました。そしてやっと見つけたのに、またどこかへ消えてしまいました。
十字架はある少女のもとにありました。難病を発症していた少女は十字架をお守りとして飾っていました。そこに現れた使用人が言いました。
「お嬢様……その十字架は願いを叶えることができる、と伝承で書かれておりました」
「……本当に?」
「はい! お嬢様に現れたのも何かの縁でしょう」
そう言い使用人は飾ってあった十字架を少女に渡してあげました。使用人は少女が何を願うのか待っていると、その他の使用人やら少女の両親やらがやってきて、少女を見守っていました。
「お願い……私の病気を治してください」
しかし願いは叶いませんでした。かわりに少女の首は飛び、ベッドは血塗れになっていました。悲鳴を上げる間もなく、何かが振り下ろされてその部屋にいた全員が死亡しました。十字架が血をかぶることなく、綺麗なままの状態を維持して消えてしまいました。
十字架はある少女のもとにありました。貧民街に住む少女は十字架を首にかけていました。十字架に価値があると知った者が少女に襲い掛かりましたが、何故か傷つけることができませんでした。少女はおかしいと思って、十字架を手放そうとしましたが、すぐに自分のもとへ戻ってきてしまい、どうすることもできませんでした。
ある日、貧民街に訪れた商人が十字架に関しての話をしてくれました。
「願いを叶えてくれるの?」
「あの十字架ならばそうだろうね」
「……私、お母さんとお父さんに会いたい」
しかし願いは叶いませんでした。少女の背後に現れた何かが体を貫いて、暗いながら血の赤だけが白い布を染めていました。商人はその何かに恐れて逃げ出そうとしましたが、足を一歩動かした時点で視界は傾いていました。振り下ろされたものによって足を切られて動けなくなった巨体を切り刻みました。十字架が血をかぶることなく、綺麗なままの状態を維持して消えてしまいました。
旅人となった魔女はあと一歩というところで十字架を逃がしていました。その度に十字架の対象となった少女達は願いを告げて死んでいきました。願いを叶えると言われていたはずの十字架から現れる謎の得体の知れない黒いもの、それが少女を殺していました。
原因不明の事態に魔女は十字架を自分のものにするという目的を一時的に止めることにしました。魔女も十字架に対して恐ろしくなって、封印というより破壊を目的に行動することにしました。しかし十字架はどうやっても少女のもとへたどり着いては、願いを告げて死んでいました。今一度、少女の関係性を洗ってみることにしました。すると一つの仮説にたどり着きました。
「『魂の共鳴』……? でも誰の? 少女は皆、別々の願いで死んでいる」
独り言をつぶやきながら歩いていると人にぶつかってしまいました。しかしそれはかつての仲間の一人でした。人々に紛れて暮らしているのだと言ったその者は、封印が解けてしまったことを感づいて、魔女のもとへやってきたのだと言いました。
「私を殺しに来たの?」
「いや、そんなつもりはないよ。だっていつかは解けてしまうと思っていたから」
「ならあんたも探しているの?」
「そうだね……でもきっと取ることもできないんだろうなぁ」
「取ることができないって何よ」
「『十字架は少女の願いを叶えるために動いている』……そういうことさ」
「証拠は? 大量に死んでいるじゃない」
「だから『十字架は一人の少女の願いを叶えるために動いている』」
「どういうことよ」
「まぁ、これは仮説でしかない。多くの少女達は願いを告げる。でももしすでに願いが決まっていて、十字架はそれを告げる者を探しているなら」
「それって……もう」
「かつて神々が残した遺物である十字架だけど、今は形を変えてしまったんだろうね」
「多くの血を吸って、得体の知れない黒いものを作り出して」
「あー、それに関してだけど」
「何?」
「最近、死んだ少女から記憶を見たんだけど、どうやらあれは呪いだ。人型の呪い、大きな鎌を振り下ろす死神のような存在」
「……破壊できると思う?」
「そうだな……できると思うよ。ただ十字架が現れて少女が願いを告げる前に行動しないと意味ないけどね」
「そうよね」
「ただ時間の問題だね。今だったら破壊できるだろうけど、時間が経てば無理になるかもしれない」
「……協力してくれないわよね」
「協力? してもいいよ」
「あんたが乗り気なのは何か関係しているでしょう」
「十字架はいらないよ。ただ知りたいのは得体の知れない黒い人型だね」
「……あんたってやっぱり」
「そんなことないさ。魔女はいつだってそういうものだろう」
「否定はできないけどね」
人々が通り過ぎていく中で魔女とその者の会話は誰も分からない言葉で交わされていました。恐ろしい会話がなされているともつゆしらず、十字架に関わらない者達にとっては平凡な日常が過ぎていました。
暗闇、何も見えない空間に十字架は浮かんでいました。十字架が浮かんでいるその周辺だけ光が纏っていました。その光に導かれるように現れたのは得体の知れない黒いものでした。形と持たないそれは願いを告げる少女達を殺し続けているうちに、少しずつ人型へと変化していました。黒いものから作り出した大きな鎌を背に、『最初の少女』を模した姿は歩いていました。
告げる願いは異なりながらも、『最初の少女』が求めたものではないと決めつけて、今までの少女達は殺されていきました。名も無きものは十字架とともにあらゆる時代に現れました。少女達がどんな願いをしようとも、叶えるに値しないものばかりで名も無きものはうんざりしていました。
「皆、覚えていない。それどころか、彼はどこにいる」
名も無きものはそう言い、願いのそばには彼がいないことに気づきました。彼とは願いの過程に存在するはずの人物だったが、どの時代にも少女の前に現れませんでした。
名も無きものはしょうもない願いを告げる少女達を殺しながら、彼を探していました。『最初の少女』が出会った彼の姿は妖怪の黒い蛇でした。そして願いの後で彼は不老不死の薬を飲み、転生した『最初の少女』が現れるのを待っていました。しかし彼の前に現れなかったのか、きっと何かが起きたのか、と名も無きものは思いました。
やっとの思いで見つけた彼の姿は妖怪ではありませんでした。影に潜む悪魔の姿を取って、人々を殺めていました。長い年月の間を生きた彼が感じてきた想いを名も無きものは感じ取りました。それは負の感情を凝縮した悪に染まるには十分すぎる時間を過ごした彼の姿そのものでした。少女の魂を巡ってあらゆる時代で邂逅しても、彼を見知らぬ人として切り捨てられてしまい、その度に感じていたものに深く傷ついていました。
「お前も知らないと言うのだろう」
それは名も無きものに告げたものではなく、十字架を持つ少女に語りかけたものでした。少女は恐怖で逃げ出そうとしましたが、彼はすぐさま背後に回って見ていました。
「わ、私は何も……知らない。た、助けて」
それが願いとして告げられたものか判別するのは不可能に近かったが、名も無きものは彼に会うことを目的に現れました。
「はやく……あれを殺して」
少女は出てきた名も無きものに対して命令しました。しかしそれを叶える動機がないので、名も無きものは少女を殺しました。それを見ていた彼は名も無きものの姿を見て驚いていました。
「お前は……」
「私は名を持たない者。『最初の少女』の願いを叶えるために存在している呪い」
「……違うのか」
「あなたが求めているものではない。だけど目的はほとんど同じのはず」
「俺は彼女に会って、一緒にいたいだけだ」
「そうね。でも多くの命を狩って思ったことがある。少女の想いをあなたに向けることは難しい」
「……なぜ言い切れる」
「あらゆる時代において、この世界に住む人々はあまりにも私達のような者を認識しない。もしかしたら『最初の少女』はもうこの世界には存在しないのかもしれない」
「それは薄々気づいている。少女の魂はここにある。だが一つの選択がすべてを傾けているのなら、この世界の少女はあの子の魂ではないのかもしれない」
「私は渡ることをおすすめする。妖怪から悪魔となったあなたなら、召喚されて別の世界へ渡ることは容易でしょう」
「お前はどうするんだ」
「私は長い時を待つだけ。十字架がかの者に渡るまで待つしかない。それまで少女を殺すだけ」
「そうか……会うのはまた先になりそうだな」
「……名を」
「名? 俺のことか」
「そう」
「俺は黒蛇。お前は……そういえばないって言ったな」
「私は名も無きもの……“私達”は呪い」
「ふーん」
「何」
「なんでもない……それより時間切れだ」
十字架が光を放って消えかけているのを彼は発見して、名も無きものに伝えました。姿の維持ができなくなった名も無きものは消えかけている目で彼を最後まで見ていました。
その願いのために封印は解かれてしまいました
封印を施していた魔女はそれを『魂の共鳴』と言って、もう一度封印することは不可能だと語りました。語った後、行方不明になった魔女の姿を見る者はいませんでした。しかしそれに対しての情報が何もなく、人々は興味を引くばかりでした。
ある日、それは拾われて、正体が十字架だとわかりました。魔女が封印していたとすれば、恐ろしい力を秘めていることは言うまでもなく、人々は十字架を置きものと一緒に飾っていました。
「綺麗な十字架ね」
一人の旅人が村長に問いかけました。村長は十字架が見つかった経緯を話すと、旅人は興味を引かれて売ってほしいと言いました。しかしどんな力を秘めているのかわからないので、売ることを拒否する村長に対して、旅人は無理やり奪い取りました。その目は何かに操られているかのような赤く光っていました。しかし旅人の手に十字架が渡った瞬間、それは消えてしまいました。
「どこに行ったんじゃ?」
村長は旅人の手から消えた十字架に驚き、慌てていると旅人は何も言わずに出て行ってしまいました。
「どうして私じゃないの!」
怒鳴りながら旅人は消えたと思われていた十字架の波長を読み取って追いかけました。
遥か昔、神々が残した遺物に願いを叶える十字架がありました。しかし人々は争いのもとになることを恐れて封印しました。長い年月の間にその封印は鎖の如く錆びついて、気づかぬうちに封印は緩くなっていました。
魔女はそれを託された一人でした。多くの仲間達とともに封印を探り、魂を生贄にすることで完成する魔法陣を使って十字架を封印しました。しかし魔女はその封印に反対していました。だから封印を施す魔法陣に細工して、解けた際にその十字架の持ち主が自分になることにして、協力しているように見せかけました。仲間達がそれに気づかず、封印は施されて長い年月が経ちました。
ただ一つだけ予期せぬことが起きました。それは封印が意図せぬ形で解かれてしまったことで、魔女は思い通りに十字架を利用することができませんでした。十字架を手にしようと伸ばしたところにはもうありませんでした。仕方なく、魔女は十字架を追い続けました。姿を変えながら人々に見つからないように、旅をするようになりました。そしてやっと見つけたのに、またどこかへ消えてしまいました。
十字架はある少女のもとにありました。難病を発症していた少女は十字架をお守りとして飾っていました。そこに現れた使用人が言いました。
「お嬢様……その十字架は願いを叶えることができる、と伝承で書かれておりました」
「……本当に?」
「はい! お嬢様に現れたのも何かの縁でしょう」
そう言い使用人は飾ってあった十字架を少女に渡してあげました。使用人は少女が何を願うのか待っていると、その他の使用人やら少女の両親やらがやってきて、少女を見守っていました。
「お願い……私の病気を治してください」
しかし願いは叶いませんでした。かわりに少女の首は飛び、ベッドは血塗れになっていました。悲鳴を上げる間もなく、何かが振り下ろされてその部屋にいた全員が死亡しました。十字架が血をかぶることなく、綺麗なままの状態を維持して消えてしまいました。
十字架はある少女のもとにありました。貧民街に住む少女は十字架を首にかけていました。十字架に価値があると知った者が少女に襲い掛かりましたが、何故か傷つけることができませんでした。少女はおかしいと思って、十字架を手放そうとしましたが、すぐに自分のもとへ戻ってきてしまい、どうすることもできませんでした。
ある日、貧民街に訪れた商人が十字架に関しての話をしてくれました。
「願いを叶えてくれるの?」
「あの十字架ならばそうだろうね」
「……私、お母さんとお父さんに会いたい」
しかし願いは叶いませんでした。少女の背後に現れた何かが体を貫いて、暗いながら血の赤だけが白い布を染めていました。商人はその何かに恐れて逃げ出そうとしましたが、足を一歩動かした時点で視界は傾いていました。振り下ろされたものによって足を切られて動けなくなった巨体を切り刻みました。十字架が血をかぶることなく、綺麗なままの状態を維持して消えてしまいました。
旅人となった魔女はあと一歩というところで十字架を逃がしていました。その度に十字架の対象となった少女達は願いを告げて死んでいきました。願いを叶えると言われていたはずの十字架から現れる謎の得体の知れない黒いもの、それが少女を殺していました。
原因不明の事態に魔女は十字架を自分のものにするという目的を一時的に止めることにしました。魔女も十字架に対して恐ろしくなって、封印というより破壊を目的に行動することにしました。しかし十字架はどうやっても少女のもとへたどり着いては、願いを告げて死んでいました。今一度、少女の関係性を洗ってみることにしました。すると一つの仮説にたどり着きました。
「『魂の共鳴』……? でも誰の? 少女は皆、別々の願いで死んでいる」
独り言をつぶやきながら歩いていると人にぶつかってしまいました。しかしそれはかつての仲間の一人でした。人々に紛れて暮らしているのだと言ったその者は、封印が解けてしまったことを感づいて、魔女のもとへやってきたのだと言いました。
「私を殺しに来たの?」
「いや、そんなつもりはないよ。だっていつかは解けてしまうと思っていたから」
「ならあんたも探しているの?」
「そうだね……でもきっと取ることもできないんだろうなぁ」
「取ることができないって何よ」
「『十字架は少女の願いを叶えるために動いている』……そういうことさ」
「証拠は? 大量に死んでいるじゃない」
「だから『十字架は一人の少女の願いを叶えるために動いている』」
「どういうことよ」
「まぁ、これは仮説でしかない。多くの少女達は願いを告げる。でももしすでに願いが決まっていて、十字架はそれを告げる者を探しているなら」
「それって……もう」
「かつて神々が残した遺物である十字架だけど、今は形を変えてしまったんだろうね」
「多くの血を吸って、得体の知れない黒いものを作り出して」
「あー、それに関してだけど」
「何?」
「最近、死んだ少女から記憶を見たんだけど、どうやらあれは呪いだ。人型の呪い、大きな鎌を振り下ろす死神のような存在」
「……破壊できると思う?」
「そうだな……できると思うよ。ただ十字架が現れて少女が願いを告げる前に行動しないと意味ないけどね」
「そうよね」
「ただ時間の問題だね。今だったら破壊できるだろうけど、時間が経てば無理になるかもしれない」
「……協力してくれないわよね」
「協力? してもいいよ」
「あんたが乗り気なのは何か関係しているでしょう」
「十字架はいらないよ。ただ知りたいのは得体の知れない黒い人型だね」
「……あんたってやっぱり」
「そんなことないさ。魔女はいつだってそういうものだろう」
「否定はできないけどね」
人々が通り過ぎていく中で魔女とその者の会話は誰も分からない言葉で交わされていました。恐ろしい会話がなされているともつゆしらず、十字架に関わらない者達にとっては平凡な日常が過ぎていました。
暗闇、何も見えない空間に十字架は浮かんでいました。十字架が浮かんでいるその周辺だけ光が纏っていました。その光に導かれるように現れたのは得体の知れない黒いものでした。形と持たないそれは願いを告げる少女達を殺し続けているうちに、少しずつ人型へと変化していました。黒いものから作り出した大きな鎌を背に、『最初の少女』を模した姿は歩いていました。
告げる願いは異なりながらも、『最初の少女』が求めたものではないと決めつけて、今までの少女達は殺されていきました。名も無きものは十字架とともにあらゆる時代に現れました。少女達がどんな願いをしようとも、叶えるに値しないものばかりで名も無きものはうんざりしていました。
「皆、覚えていない。それどころか、彼はどこにいる」
名も無きものはそう言い、願いのそばには彼がいないことに気づきました。彼とは願いの過程に存在するはずの人物だったが、どの時代にも少女の前に現れませんでした。
名も無きものはしょうもない願いを告げる少女達を殺しながら、彼を探していました。『最初の少女』が出会った彼の姿は妖怪の黒い蛇でした。そして願いの後で彼は不老不死の薬を飲み、転生した『最初の少女』が現れるのを待っていました。しかし彼の前に現れなかったのか、きっと何かが起きたのか、と名も無きものは思いました。
やっとの思いで見つけた彼の姿は妖怪ではありませんでした。影に潜む悪魔の姿を取って、人々を殺めていました。長い年月の間を生きた彼が感じてきた想いを名も無きものは感じ取りました。それは負の感情を凝縮した悪に染まるには十分すぎる時間を過ごした彼の姿そのものでした。少女の魂を巡ってあらゆる時代で邂逅しても、彼を見知らぬ人として切り捨てられてしまい、その度に感じていたものに深く傷ついていました。
「お前も知らないと言うのだろう」
それは名も無きものに告げたものではなく、十字架を持つ少女に語りかけたものでした。少女は恐怖で逃げ出そうとしましたが、彼はすぐさま背後に回って見ていました。
「わ、私は何も……知らない。た、助けて」
それが願いとして告げられたものか判別するのは不可能に近かったが、名も無きものは彼に会うことを目的に現れました。
「はやく……あれを殺して」
少女は出てきた名も無きものに対して命令しました。しかしそれを叶える動機がないので、名も無きものは少女を殺しました。それを見ていた彼は名も無きものの姿を見て驚いていました。
「お前は……」
「私は名を持たない者。『最初の少女』の願いを叶えるために存在している呪い」
「……違うのか」
「あなたが求めているものではない。だけど目的はほとんど同じのはず」
「俺は彼女に会って、一緒にいたいだけだ」
「そうね。でも多くの命を狩って思ったことがある。少女の想いをあなたに向けることは難しい」
「……なぜ言い切れる」
「あらゆる時代において、この世界に住む人々はあまりにも私達のような者を認識しない。もしかしたら『最初の少女』はもうこの世界には存在しないのかもしれない」
「それは薄々気づいている。少女の魂はここにある。だが一つの選択がすべてを傾けているのなら、この世界の少女はあの子の魂ではないのかもしれない」
「私は渡ることをおすすめする。妖怪から悪魔となったあなたなら、召喚されて別の世界へ渡ることは容易でしょう」
「お前はどうするんだ」
「私は長い時を待つだけ。十字架がかの者に渡るまで待つしかない。それまで少女を殺すだけ」
「そうか……会うのはまた先になりそうだな」
「……名を」
「名? 俺のことか」
「そう」
「俺は黒蛇。お前は……そういえばないって言ったな」
「私は名も無きもの……“私達”は呪い」
「ふーん」
「何」
「なんでもない……それより時間切れだ」
十字架が光を放って消えかけているのを彼は発見して、名も無きものに伝えました。姿の維持ができなくなった名も無きものは消えかけている目で彼を最後まで見ていました。
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