ごぉるでんでぇもん③
公開 2024/07/15 19:10
最終更新 2024/07/16 06:43
第四章

漆のような暗闇の中、貫一の書斎の枕時計は十時の鐘を打った。貫一は、夕方四時頃から向島の八百松で新年会があるからと出掛けたきり未だ戻らない。
奥の間から手ランプ持って来た宮が机の上の書燈を点け終わる頃、女中が台十能に焼けた炭を盛って持ってきた。宮はこれを火鉢に移しながら、
「それから奥の間のお鉄瓶も持ってきてちょうだい。あぁ、もうお父っつぁんたちはお休みになるのだから」
久しく人気の絶えた部屋の寒さは、今にわかに人肌の温もりに触れた喜びに、すぐさま噛み付こうとするように宮の肌へしんと迫る。宮は慌ただしく火鉢に取り付き、目を上げて書棚に飾られた時計を見た。
夜の静かな暗闇の中、燈の光に照らし出された宮の美しいかんばせは、言い様もなく瑞々しく艶やかで。まだ松の内であれば常より着飾り化粧さえした宮は、露を帯びた花の梢に月がかかったようである。後ろの壁に映る黒い影さえ、匂い立つように艶めかしい。
金剛石と光を争った瞳は惜しげもなく時計に注がれ、ただ秒針が時を刻むのをじっと見つめている。火に翳した彼女の手をご覧あれ、滑らかな肌は玉のようではないか。それでは想像してみて欲しい。友禅模様の紫縮緬の半襟に包まれた、その胸を。その胸の内に彼女が今なにを思っているかを。宮は今、憎からず想う男の帰りを待ち侘びている。
ひとしきり時計を眺めていたが、またしんしんと迫る寒さに宮は時計から目を離して立ち上がり、火鉢の向かいにある貫一の座布団へと座を移した。この座布団は宮が縫った貫一愛用の座布団であるが今夜は宮がその上に座り、持ち主の帰りをじっと待ち続けた。
「………、」
遠くに聞こえた車の音。もしやと聞きつけたその音は次第に近づき、ますます轟いて、とうとう我が家の門の前に停まった。
(貫一さんだわ)
確信して立ち上がろうとすると、車の客の随分酔っ払った声が聞こえる。貫一は生粋の下戸であるから、酔っ払って帰ってくることなどまずない。宮はまたがっかりと腰を下ろした。時計を見れば、もう十一時になろうとしている。
しかし腰を下ろしたのも束の間。門の戸を引き開けて、千鳥足の足音が土間に入ってくる音がする。やはり我が家に違いないが、いったいどういうことか。よく分からないまま兎に角慌てて立ち上がり、ランプを持って書斎を出る。すると宮と同じく台所から出てきた女中と鉢合わせた。
果たして土間には強かに酔っ払った貫一が立っていた。覚束無い足取りで右へ左へたたらを踏み、ずり落ちそうな学帽を辛うじて引っかけて、ハンカチーフに包んだ折り詰めを左手に提げて、まるでお祭りの山車人形のようにゆらゆら揺れながら彼は立っている。その顔は今にも破れそうな熟れすぎた柿のように赤く、舌が渇くのに堪えかねてしきりに空唾を吐きつつ、
「遅かったかなぁ?さあ、お土産です。還ってこれを細君に遣る。何ぞ仁なるや…ヒック!」
「まぁ、随分酔って!いったいどうしたの?」
「いやー酔ってしまった」
「ちょっと貫一さん、こんなところで寝ちゃ困るわ。さぁ、早くお上がりなさいよ」
「こう見えても靴が脱げないんだ。あぁ酔った!」
仰向けにひっくり返った貫一の足を抱えて、宮はなんとか彼の靴を引き抜いた。
「…起きる。あぁ、今起きる。さぁ、起きた!起きたけれど、手を引いてくれなきゃ僕ァ歩けませんよ…っと。」
宮は女中にランプを持たせて貫一の手を引こうとするが、よろめく貫一の足は相変わらずの千鳥足で。とうとう宮の肩に縋り付いて放れない。宮は仕方なく重たい酔っ払いに肩を貸し、自分自身もよろけながらどうにか書斎へ連れていった。
座布団の上へ「よいしょ」と降ろされるまま、貫一はぐってりと机に凭れ、
「…君に勧む、金縷の衣を惜しむなかれ。君に勧む、須らく少年の時を惜しむべし。…花あり折るに堪へなば直ちに折るべし…花無きを待って空しく枝を折ることなかれ…。」
『君よ、金の衣を惜しむな、過ぎ行く少年の日を惜しめ。花を哀れと躊躇しているのなら、すぐにその枝を手折ってしまえ。迷う間に花の命は尽きてしまうから、花無き枝を空しく手折ることなどないように。』と天井を仰いで機嫌良さげに口ずさむ。
「貫一さん、どうしてそんなに酔ったの?」
「…ふふ…酔っているでしょう僕ァ…。ねぇミイさん、僕はすごーーく酔ってるでしょう」
「えぇ、酔っているわ。苦しいでしょう」
「然り!苦しいほど酔っている。こんなに酔っているについては、実に大変な理由があるのだ。そうしてまたミイさんなる者が大変に介抱してくれていい理由があるのだ…なぁ、ミイさん!」
「イヤよ、私は、そんなに酔っていちゃ。普段お酒嫌いの癖に何故そんなに飲んだの?誰に飲まされたの?…端山さんだの、荒尾さんだの、白瀬さんだのが付いていながら、酷いわね、こんなに酔わして。十時には必ず帰るというから私は待っていたのに。もう十一時過ぎよ。」
「本当に待っていてくれたのかい、ミイさん?謝!多謝!もしそれが事実であるならばだ、僕ァこのまま死んでも恨みません。…こんなに酔わされたのも、実はそれなんだ。」
貫一は宮の手を取り、感極まったようにその玉の手を握りしめた。
「僕達のことは荒尾以外には話してない。荒尾にしたって決してペラペラ喋る男じゃないんだ。それがどうしてバレたのか、みんなが知っていてね……僕は実に驚いた。座の四方八方から、祝盃だ、祝盃だと十も二十も一度に猪口を差し出されたんだ。祝盃など受ける覚えはないと言って手を引っ込めていたけれど、なかなかみんな聞かないじゃないか」
宮は微笑みを浮かべながら、じっと彼の言葉に耳を傾ける。
「そうしたらこうだ、『それじゃあ祝盃の主意を変えて、仮初とはいえあんな美人とひとつ屋根の下で寝食を共にするというのが既に羨ましい。そこを祝すのだ』と。次には『君も男児ならさらに一歩踏み込んで、細君になってくれるようよく彼女を口説きたまえ。十年一緒に住んでいるのに今さら人に奪られるようなことがあったら、間貫一、君個人の恥辱ばかりではない。我々朋友全体の面目にも関わることだ。いや、我々朋友ばかりではない、ひいては我が校の名折れにもなるのだから。是非あの美人を細君にするよう、これは我々が心を一にして結の神に祈った酒だ。であればこの盃を辞退するのは礼ではない、受けなかったら却って神罰が下る』…なんて。からかいとはわかっていたけれど、言い草が面白かったから片っ端から受けてグイグイ飲んだ。ミイさんと夫婦になれなかったら、…ははははは!我が校の名折れになるだって。恐れ入ったものだ。そういうワケですから、なにぶん宜しく願います。」
「イヤよ、もう貫一さんは」
「友達連中にも知れ渡ってると思うと、立派に夫婦にならなければいよいよ僕の男が立たないわけだ」
「もう決まっていることなのに、今さら…」
「そうではないです。この頃のおじさん、おばさんの様子を見てると、どうも僕は……」
「そんなことあるわけないわ、邪推だわ」
「実際のところ、おじさんやおばさんの考えはどうでもいい。ミイさんの心ひとつなんだ」
「私の心は決まっているわ」
「…本当にそうかな」
「本当にそうかなって、そんなのあんまりだわ」
貫一は酔った体を持て余して、宮の膝を枕にでろりと横たわった。彼の火のように真っ赤な頬に、額に、手を当てて、
「水を持ってきてあげるわ。あら、ちょっと…また寝ちゃ……貫一さん、貫一さん」
愛の何と清らかなことだろう。この時ばかりは宮の胸にも例の汚れた望みは影もなく、彼女の美しい瞳は他に何も見えないとばかり、じっと貫一の寝顔を見つめていた。富も地位も、その他ありとあらゆる欲望は膝に感じる温もりに溶かされて、宮はただ芳しい甘露の夢にうっとりと酔いしれた。
諸々の忌まわしい妄想はこの夜のように瞼を閉じ、この小さなひと間に自分と貫一しかいないような感覚に包まれる。このときばかりは広い世間に別の男の影を見ず、またこの明るい燈火の光のような何かがあって、二人だけを明るく照らすような…宮はそんな心地がするのだった。


第五章

ある日、箕輪の内儀が思いがけず鴫沢の家へ訪ねてきた。箕輪の娘・お俊と宮は学生時代の友達で、当時はしょっちゅう行き来していたけれど家同士の付き合いは今までなかった。彼女らが在学中でさえ親同士はお互いに顔を合わせず終いだったというのに、娘同士の行き来さえ絶えがちになった今になって急に訪ねてくるなんて…と宮も両親も訝しんだ。
およそ三時間ほど滞在した後、箕輪の内儀は帰って行った。
思いがけない客の来訪よりも、さらに思いがけない彼女の用事に鴫沢家の面々はみな驚いた。当時貫一は不在であったために珍しい来客があったことを知らず、宮もまた敢えて貫一にそれを告げないまま二日過ぎ、三日過ぎ。その日から宮は食が進まず、また寝れない日が続いた。その間も貫一は何も知らず、宮もいよいよ告げようとはしない。鴫沢夫婦は幾度となく話し合いを繰り返していたが、さてどうするべきか未だ決めかねていた。
彼の知らないところで何が起こっているのか、また目には見えない他人の心の内など貫一が知る由もないが、常に気にかけている宮の様子がどうもいつもと違うと気付くのは当然のことであった。何があったわけでもないのに彼女の顔は急に輝きを失ったようで、振る舞いなどはとみに力なく、笑うときさえその笑顔が悲しげに湿っていたのだから。
宮の居間というほどではないけれど、彼女の箪笥や手道具などを置いてある小座敷がある。ここは掘りごたつの炉を切ってあり、貫一がぶらりと来ては冬ごもりするところでもある。宮はいつもここで針仕事をし、それに飽きたら琴を弾くこともある。その部屋には宮が手遊びに活けたらしい花が小机の傍らに飾られているが、活けられた狗子柳の根は早くも弛み、真はすっかり傾いたまま鮟鱇切の水に埃を浮かべて捨て置かれ。庭に面した肘掛窓の明かりのもと敷き紙を広げて、宮は膝の上に紅絹の引解を乗せてはいるものの、針も持たず物憂げに炬燵に凭れていた。
彼女は食欲を無くし、眠れぬ夜を過ごすようになってからは好んでこの一間に籠り、深く物思いに耽っている。両親は何か知っているのか不審がることもなく、ただ宮のやりたいようにさせていた。
この日始業式のみの貫一は早々に学校から帰ってきたが、下座敷には誰の影もない。例の炬燵の間から宮が咳する声が聞こえたが、それきり静まりかえってうんともすんとも言わない。
(なんだ、僕が帰ってきたのに気が付いてないのか)
忍び足で炬燵の間の襖へ近付くと、僅かに襖が開いている。その隙間からそっと中を覗くと…宮は炬燵に寄りかかり、ぼんやり硝子障子を眺めては目を伏せ、また胸が痛むとでも言うように顔を上げては大きなため息を吐き、そうかと思うとハッと物音を聞き澄ますように目を瞠る。いったい何をそんなに考え込んでいるのか。まさか貫一が襖の向こうで窺っているなど知らない宮は、取り繕うような仕草もなく心の苦悶に身を委ねている。
貫一は訝しみつつも息を潜め、なお彼女の様子を窺う。宮は少しして炬燵に入ったが、遂には炬燵櫓に伏せてしまった。
柱に背を凭れて内を窺いつつ、貫一は眉を顰めて考え込んだ。
(…ミイさんは何をそんなに悩んでいるんだろう。何があって、そんなに思い悩んでいるんだ。そんなに思い悩むことがあるなら、どうして僕に打ち明けてくれないんだ…。)
彼女がそれほど思い悩む理由も、思い悩むようなことがあったとも貫一には全く思い当たらない。
「……。」
そうして悩み考え込んでいるうち、知らず貫一も俯いていた。…いや、聞いてみなければ分からない。そう思って再び襖の向こうを覗くと、宮はまだ炬燵櫓に伏している。いつの間に落ちたか、傍らに蒔絵の櫛が零れたのも知らないで。
はっと人の気配に驚いて宮が顔を上げると、貫一はすでに彼女の傍にいた。宮は慌てて取り繕うように体を起こし、
「あぁ、ビックリした。いつ帰って来られたの?」
「今帰ってきたよ」
「そう、ちっとも知らなかったわ」
「……」
まじまじと自分の顔を見詰める視線から逃れるように顔を逸らし、
「何をそんなに見るのよ?イヤよ、私」
しかし貫一の視線はなおも宮の顔に注がれている。宮はわざと背を向けて、布を探すフリをして布入れの紙袋をガサガサ鳴らした。
「ミイさん、お前さんいったいどうしたのさ?ねぇ、どこか体の調子でも悪いのかい?」
「何ともないわよ、どうして?」
そう言いながら、宮はますます音を立てて紙袋をまさぐる。貫一は学帽を被ったまま炬燵に肘を掛けて、斜めに宮の顔を見つめながら、
「だから僕はいつも君は水臭いと言うんだよ。そう言えばミイさんはすぐ貫一さんは疑り深いだの、神経質だのと言うけれど、その通りじゃないか。」
「…だって何ともありはしなんだから…」
「何ともない者がぼんやり考え込んだり、ため息ついたりして鬱いでいるものかよ。僕はさっきから唐紙の外に立って君のことを見ていたんだよ。病気かい?それとも何か心配事でもあるのかい?教えてくれたっていいじゃないか。」
「……、」
宮はなんと言ったらいいかわからず、もぞもぞと膝の上の紅絹をまさぐるのみ。
「病気なのかい?」
宮は小さく頭を振る。
「それじゃ心配事でもあるのかい?」
宮はなお頭を振る。
「じゃあ、どうしたって言うのさ」
「………、」
真実も誤魔化しも何一つ言葉にできぬまま、宮は胸の内にただ車輪がぐるぐると廻るようにのみ思われた。それは犯した罪がとうとう隠しきれないと悟った恐怖に、心が恐慄いていたためである。あぁ、なんて答えたら…と心は千々に乱れるのに、傍らに座るが貫一が今にも自分を詰ろうと待っているように思われて、身を搾られるような苦しい息の間にも背筋を冷たい汗が流れ流れる。
「じゃあどうしたって、さっきから聞いているのに」
宮が何も言わないので、貫一の声音は次第に苛立ち始めた。その言葉に驚いた宮はしどろもどろに、
「そッ…それが…どうしたのだか自分でもわからないのだけど、……私はこの二、三日どうしたのだか……変に色々なことを考えて、何だか世の中がつまらなくなって…ただ、何となく悲しくなっているのよ…」
呆れた貫一は、瞬きをしないで宮の言葉にじっと耳を傾ける。
「…人間は今日こうして生きていても、いつ死んでしまうかわからないのね。こうしていれば楽しいこともある代わりに、辛いことや、悲しいことや、苦しいことなんかがあって、良いことの裏には必ず悪いことがあるし…考えれば考えるほど、世の中はなんて心細いんだろうって…。ふっとそんなふうに思ったら毎日そんなことばかり考えて嫌な気持ちになって…私、いったいどうしたのかしらって自分でも思うのだけど。…私、病気のように見えて?」
目を閉じてじっと耳を傾けていた貫一は、ゆっくり瞼を開くとすぐに眉を顰めて、
「それは病気だ!」
「……、」
宮はしゅんと俯いて頭を垂れる。
「しかし心配することはないさ。気にしてはいけないよ、いいかい。」
「…えぇ、心配はしません」
いやにうち沈んだその声の寂しさを、貫一はなんと聞いたのか。
「それは病気のせいだよ。きっと脳でも悪いのさ。そんなことを考えた日には、一日だって笑って暮らせる日はありはしない。元から世の中といういうものはそう面白いことばかりじゃないし、人の一生ほどわからないものはないよ。それはそれで間違いないけれど、世の中の皆がみんなそんなふうに考えてご覧な。みんな頭を丸めて、世の中がお寺だらけになってしまう。何もかも儚いのが世の中と覚悟した上で、その儚い、つまらない世の中にせめては楽しみを求めんと、そうして僕らは日々の暮らしを営んでいるわけだ。考えて鬱ぎ込んだところで、そんなつまらない世の中に儚い人間と生まれてきた以上、どうしたって今さら仕方がないじゃないか。だから、つまらない世の中を幾らか面白く暮らそうと考えるよりないのさ。面白く暮らすには、何か楽しみがなければならない。何か一つ、これという楽しみがあったら決して世の中はつまらんものではないよ。ミイさんは、それじゃ楽しみというものが無いんだね。この楽しみがあればこそ生きている…そんなふうに思うほどの楽しみは無いんだね。」
宮は美しい眦をそっと上げて、探るように男を見た。
「全然無いんだね」
彼は笑みを含めて尋ねた。しかしどこか苦しげでもある。
「…無い?」
「……」
宮の肩を捉えて自分の方へ引き向けると、されるがまま彼女は緩く貫一の方へと体を向けた。けれど顔だけは恥じらうように背けたまま。
「さぁ、ミイさん。無いのかい、有るのかよ」
「……ッ…」
肩にかけた手を放しもせず、貫一はしきりと彼女の肩を揺する。それが宮にはまるで鉄の槌で打ちすえられるように感じられて、ますます胸を搾られ、冷たい汗がじわりじわりと噴き出してくる。
「これはけしからん!」
宮は恐る恐る貫一の顔色を伺った。
「……、」
貫一はいつもの貫一だった。いつものように巫山戯ていたようだ。その表情は和らいで眉間に皺のひとつもなく、むしろ口元には笑みさえ浮かべている。
「僕なんかひとつ大きな楽しみがあるから、世の中が愉快で愉快で堪らないよ。一日一日が過ぎていくのが惜しくて惜しくてね。僕は世の中がつまらないからその楽しみを拵えたのではなくてね、その楽しみの為にこの世の中を生きているんだ。もしこの世の中からこの楽しみを取り去ったら、世の中なんて無い!貫一という者も無い!僕はその楽しみと生死を共にするんだ。ふふ…ミイさん、羨ましいだろう?」
「……ッ」
貫一の言葉に、宮はたちまち全身の血が凍りつくような寒さに襲われた。その寒さに堪えかねて宮はふるふると体を震わせたが、この心の内を悟られてはいけないと必死に自分を励まして、
「…羨ましいわ」
「羨ましいなら、お前さんだからね、分けてあげよう」
「…えぇ、お願い」
「よぉし、そんならみんなやってしまえ!」
貫一がオーバーコートの隠しからひと袋の包みを取り出してポンと炬燵の上に置くと、弾みで袋の口が緩み、紅白のボンボンがさらさらと零れ落ちた。ボンボンは宮が一番好きな洋菓子であった。
古典と怪談が好きな茸です。タイッツーに生息。
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