【雑談】崇徳院の御遺詠
公開 2024/12/31 16:47
最終更新 -
讃岐で崩御された後、藤原俊成へ届けられた崇徳院の御宸筆。雨月物語「白峯」を読むにあたり、この長歌がベースにあると思い解釈してみました。わかりやすくするために補足や脚色も入ってますので、「だいたいこんなこと言ってるな」とゆー程度の内容です。

* * *

讃岐院が讃州で崩御されたのち、人伝てにお供をして仕えていたという方から「こんなことがありました」と御宸筆の書状を頂いた。


須磨の浦に藻塩を垂れて侘び、海人のように縄たき漁る我が身を嘆き…古い歌には聞いていたが、まさか同じ身の上になるとは思いもしなかった。たとえ岩打つ波に打ち据えられても、我が身は凪いだものだと。しかし思いもよらぬ汚名を着せられ、破れかぶれのわれ舟は遠い讃岐に沈み果てた。
茫然と流されるまま虚しく年月は過ぎ、杉板葺きの屋根の下、慣れぬ粗末な床で幾度眠れぬ夜を明かしただろう。夜の闇に巡るのはこれまでのこと。思い返せば前世で犯した罪もなくこんな仕打ちを受けるなど、この世はなんと頼りないものだろう。我が身は嵐の風の激しさにただ弄ばれる野辺の糸ススキ…いや、葉末にかかる露のように儚いものではないか、と。行く末も見えぬ我が身ならばせめて心だけでも安くと思い立ち、髪を下ろし麻の衣に袖を通した。
あれから随分時は過ぎ、麻の袖も私も鄙の暮らしにすっかり草臥れたが、やはり昔は忘れられないものだ。雲居の月を見上げ、山路の菊を手折り、折々ささやかな座を囲みつつ幾度も春秋を過ごした。しかし今や都を遠く離れ、帰京を許す報せもなく、親しい者たちからの文も絶えて久しい。いつもお前を思い出すよ。きっとあの頃のまま、事に触れては湧き返る清水のように言の葉を迸らせているだろうに、泉に手を結びお前の心を汲む者は随分少なくなったろうな。私も同じだ。詠んだとて誰が私の心を汲めるだろうと、琴の緒を断った唐国の故事にならってみたが歌のない暮らしも汲む者のない日々も辛くて辛くて堪らない。だから私は、こんな自分を厭いながら夢見ているんだ。
浅はかなこの胸に蓮が花開くのはいつになるやらわからないが、それでもこの長く暗い夜を抜ける道を見つけられたなら、「もう一度だけでも」と持ち続けた希望の光を目指して歩こう。そしていつか玉を連ねた木の下に、花が降り敷く極楽浄土に辿り着けたなら…お前にもう一度会いたい。今度はただの一人と一人として。昔「水茎の跡ばかりして」とお前を責めたな。いつか浄土で会えたなら、立場も身分も建前も空しい色に染められた言葉ごとに翻して、お前と心から語り合いたい。今度こそ本当の友になりたいと、ただそれだけを願う私の心をお前はわかってくれるだろうか。


* * 補足* *

・わくらばに問ふ人あらば須磨の浦に藻塩垂れつつ侘ぶと答へよ(在原行平)

・思ひきや鄙の別れに衰へて海人の縄たき漁りせむとは(小野篁)

・水茎の跡ばかりしていかなれば書きながすらん人は見えこぬ(崇徳院)
古典と怪談が好きな茸です。タイッツーに生息。
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