【江談抄】江都督の安楽寺の序の間の事
公開 2024/02/01 22:40
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※ 江談抄 第六「長句の事」より
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「江都督が大宰府の安楽寺において、内宴…正月の宴に詠む漢詩の詩序を作っておられた折に御殿の戸を叩く者があったと風の噂に伺いました。本当なのでしょうか。」
私がある方にお聞きしますと、その方はこのように仰いました。
「江都督が内宴にて詩序を作っておられた折、御殿の傍に何者かがいて都督の詩を詠じていたようなのです。これは大宰府の役人が見聞きしたとかで…しかしまぁ宴の終わり頃のことだと言いますから、彼らも酔っていたでしょうし真偽のほどは怪しいものですが。
また後日、今度は弥生の曲水の宴の席でのことです。江都督が詩序を披露しようところ、御殿の戸から何者かが声を掛けたのだそうですよ。満座の役人、彼らの配下、一人残らずその声を聞いたというのです。」
「そんなに大きな声だったのですか?」と私が聞き返すと、「それはもう雷のようでした。」と。
「あれほど大きな声ですからね、今度は疑いもありませんよ。それに江都督が件の詩序を書いていた時に、夢の中に見知らぬ人が現れて『この詩序には間違いがある。直しなさい。』と言ったのだそうです。ハッと目が覚めた江都督がもう一度、件の詩序を読み返してみると『柳中の景すでに暮れぬ。花前の飲止まんとす』という句がありましてね、ほら『柳中』は秋の言葉でしょう。春の句ではありません。江都督は納得して詩序を直したのだそうですよ。」
そのように彼は語っていました。
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「江都督が大宰府の安楽寺において、内宴…正月の宴に詠む漢詩の詩序を作っておられた折に御殿の戸を叩く者があったと風の噂に伺いました。本当なのでしょうか。」
私がある方にお聞きしますと、その方はこのように仰いました。
「江都督が内宴にて詩序を作っておられた折、御殿の傍に何者かがいて都督の詩を詠じていたようなのです。これは大宰府の役人が見聞きしたとかで…しかしまぁ宴の終わり頃のことだと言いますから、彼らも酔っていたでしょうし真偽のほどは怪しいものですが。
また後日、今度は弥生の曲水の宴の席でのことです。江都督が詩序を披露しようところ、御殿の戸から何者かが声を掛けたのだそうですよ。満座の役人、彼らの配下、一人残らずその声を聞いたというのです。」
「そんなに大きな声だったのですか?」と私が聞き返すと、「それはもう雷のようでした。」と。
「あれほど大きな声ですからね、今度は疑いもありませんよ。それに江都督が件の詩序を書いていた時に、夢の中に見知らぬ人が現れて『この詩序には間違いがある。直しなさい。』と言ったのだそうです。ハッと目が覚めた江都督がもう一度、件の詩序を読み返してみると『柳中の景すでに暮れぬ。花前の飲止まんとす』という句がありましてね、ほら『柳中』は秋の言葉でしょう。春の句ではありません。江都督は納得して詩序を直したのだそうですよ。」
そのように彼は語っていました。
