【今昔物語集】賀茂忠行、道を子保憲に伝ふる語
公開 2024/01/31 18:18
最終更新 -
むかしむかし、賀茂忠行という陰陽師がいた。陰陽師においては先人にも恥じない実力を持ち、当時も肩を並べる者のない術者であった。そのため公私に渡って重用されていた。
ある時のこと。忠行が祓いの儀式の依頼を受け、依頼主のもとへ向かおうとすると、当時十歳ばかりの少年だった息子の保憲が「僕も連れて行って」と言い出した。仕事だと言ってもどうしてもと強請るので、仕方なく忠行は息子を車に乗せて連れていった。祓殿…儀式を行う殿舎にて儀式を執り行う間も、保憲は父の傍らでじっと儀式を見ていた。
さて儀式も終わり、依頼主も忠行もそれぞれ帰る道すがら。車に揺られながら、ずっと黙っていた保憲が「父上、」と呼びかけた。どうした。と忠行が返すと、
「祓殿で見たのです。恐ろしい奇妙な体の…人のようで人では無い者たちが二、三十人もどこからともなく現れて、ぞろりと祭壇の前に立っていました。そいつら祭壇に据えられた供物を貪り食べて、供えられた作り物の船や車や馬に乗って散り散りに帰って行ったみたいなんです。あれはいったい何ですか、父上。」
不思議そうに保憲が尋ねる。忠行は息子の言葉を聞き、
(私は陰陽師においては当世一と自負しておるが…しかしこの子の年頃にこれほどはっきり鬼を見たことはなかった。陰陽道を習い、ようやく見えるようになったというのに、この子はこんなに幼いうちから鬼神が見えているのか…)
我が子は比類なき陰陽師になる者だ、きっと神代の巫者にも劣るまい。そう思い、屋敷に帰るとさっそく陰陽師について自身の知る限りすべて、何一つ残さず精魂を注いで教えたのだという。
父の目に狂いはなかった。保憲は比類なき陰陽師になり、公私にわたってよく仕え、事を仕損じることは決してなかったという。保憲の子孫は今も栄え、陰陽道において並ぶ者のない名家である。また暦を作ることにおいても、賀茂流の他にその方法を知る人はいない。そのようなわけで今に至るまで「比類なき陰陽師である」と語り継がれているという。
古典と怪談が好きな茸です。タイッツーに生息。
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