【北越雪譜】泊まり山の大猫(初編 巻之下)
公開 2024/01/29 18:32
最終更新 -
(前部の要約)
飯士山に続く東に阿弥陀峰という薪を採る山がある。毎年雪が降やむ二月頃から、各村々農夫らが相談して数日分の食事を持って阿弥陀峰に登る。山中に仮小屋を作り、そこを拠点にして連日木を切り薪を作る。薪は小屋の横に積み上げ、必要な分を用意できたらそのまま置いて山を降りる。これを「泊まり山」という。

ある時、泊まり山をした人がこんな話をしていた。
ことし二月に泊まり山をした時に、連れの七人ほどがそこかしこで各々木を伐っていた
すると不意に山中に響くほどの猫の鳴き声が響き渡った。
「…うわッ!」
それはもう大きな鳴き声で、みな恐れ戦いて小屋に飛び込み、手に手に斧を構えてじっ…と耳を澄ましていたのだが。その声がすぐそこで聞こえたと思うと遠くで鳴き、遠くで鳴いたと思うとまた近くで聞こえる。何匹もの猫が鳴いているかと思えば、その声はまったく一匹の猫である。しかし姿は全く現さないのだ。
鳴き声が収まってから、七人が恐る恐る小屋から出て先程鳴き声が聞こえたあたりに行ってみると、凍った雪に猫が踏み入れた足跡があった。しかしそれは普通の猫の足跡などではなく、丸盆ほどの大きさであったという。この世にそんな大きさの猫はいないと思われるかもしれないが、そうとも言えない。
我が友の信州の人から聞いた話ではこんなものがある。彼と同じ村の人が、夏に千曲川へ夜釣りに行った折のこと。川辺りに大人が三人も座れるほどの大きな岩があり「これはいい釣り場だ」とその岩に上って釣り糸を垂れた。しばらく釣りをしていると、いつの間にか目の端に手毬ほどの大きさに光るものが二つ並んでいる。何が光ってるんだろうかと訝しんでいると、ふっと雲が切れ月が顔を出した。月明かりを頼りに目を凝らせば自分が腰掛けていたのは岩などではなく、なんと巨大なヒキガエルで、光っていたのはヒキガエルの目だったのだ。この人は生きた心地もせず、何もかも打ち捨てて逃げ帰ったのだと友人は語っていた。
古典と怪談が好きな茸です。タイッツーに生息。
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