【宇治拾遺】俊宣、迷はし神にあふ事。
公開 2024/01/03 00:05
最終更新
2024/01/29 17:37
むかしむかし、三条院の石清水八幡宮への行幸に、左京職に属する邦俊宣という者が供奉していた。
長岡の寺戸というあたりを通った折。
「ここいらは人を惑わして道に迷わせる、迷い神が出るんだとさ」と同じく供奉する人達が俊宣に言う。それに「私もそんなことを聞いたよ」と答えながら歩いていると、まだ長岡から出ないうちにだんだん陽が傾いてきた。今日中に山崎辺り進むはずだが、随分遅れているようだ。
「おかしいな、そこまで手間取った訳でもないのに…」
更におかしなことに長岡を過ぎて乙訓川の川べりを歩いてたはずが、気付けばまた寺戸の崖を登っている。訳が分からぬまま歩みを進め、寺戸を過ぎて乙訓川を渡った筈がまた桂川を渡っている。
「なぁ、何だかおかしくないか、迷うような場所でもな……え…?」
いよいよ日が暮れ始め、辺りが暗くなってきた。焦り訝しんだ俊宣が後ろを振り返ると、誰の姿も見えない。後ろに続いていたはずの供奉の列さえごっそり消えていた。
「……っ…。」
いつの間にか俊宣ただ独りが暗闇の中に立っていたのである。
兎も角、もうすっかり日も暮れ何も見えない。その夜は寺戸の西にある庶民の軒先に身を寄せ、夜を明かした。
(私は左京の官吏だというのに…九条に住む私が、こんなド田舎の粗末な軒先に宿りするなんて情けないにもほどがある。)
白み始めた空を睨んで、俊宣は悔しげに眉を寄せた。
(…恐らく九条から迷い神を憑けて来てのだろうな。そのせいで同じく場所をグルグル歩き回らされて、こんな惨めな目に遭ったんだろう…。)
俊宣は夜明けを待って西京の我が家に戻ったそうな。これは俊宣が確かに語った話しである。
長岡の寺戸というあたりを通った折。
「ここいらは人を惑わして道に迷わせる、迷い神が出るんだとさ」と同じく供奉する人達が俊宣に言う。それに「私もそんなことを聞いたよ」と答えながら歩いていると、まだ長岡から出ないうちにだんだん陽が傾いてきた。今日中に山崎辺り進むはずだが、随分遅れているようだ。
「おかしいな、そこまで手間取った訳でもないのに…」
更におかしなことに長岡を過ぎて乙訓川の川べりを歩いてたはずが、気付けばまた寺戸の崖を登っている。訳が分からぬまま歩みを進め、寺戸を過ぎて乙訓川を渡った筈がまた桂川を渡っている。
「なぁ、何だかおかしくないか、迷うような場所でもな……え…?」
いよいよ日が暮れ始め、辺りが暗くなってきた。焦り訝しんだ俊宣が後ろを振り返ると、誰の姿も見えない。後ろに続いていたはずの供奉の列さえごっそり消えていた。
「……っ…。」
いつの間にか俊宣ただ独りが暗闇の中に立っていたのである。
兎も角、もうすっかり日も暮れ何も見えない。その夜は寺戸の西にある庶民の軒先に身を寄せ、夜を明かした。
(私は左京の官吏だというのに…九条に住む私が、こんなド田舎の粗末な軒先に宿りするなんて情けないにもほどがある。)
白み始めた空を睨んで、俊宣は悔しげに眉を寄せた。
(…恐らく九条から迷い神を憑けて来てのだろうな。そのせいで同じく場所をグルグル歩き回らされて、こんな惨めな目に遭ったんだろう…。)
俊宣は夜明けを待って西京の我が家に戻ったそうな。これは俊宣が確かに語った話しである。
