【宇治拾遺】一条桟敷屋、鬼の事。
公開 2024/01/03 00:04
最終更新
2024/01/29 17:37
むかしむかし一条大路の桟敷屋にある男が宿りして、遊女と同衾していた。びゅうびゅう、ざあざあ…風が吹き付け、雨が打ち付ける真夜中。
「…諸行無常…諸行無常…」
繰り返し詠じながら、一条大路を通る者がいる。
(…こんな雨の夜中にいったい何者だ…。)
激しい雨音に混じって何度も聞こえる涅槃経に目を覚ました男が蔀戸をそっと押し上げて大路を覗くと…
(…ひっ!)
大路を歩いていたのは、桟敷屋の高い軒と変わらぬ背丈の馬頭の鬼であった。
ゾッと背筋に冷たいものが走った男は、蔀戸をかけて女を引きずって奥へ駆け込んだ。すると追いかけるように、馬の頭がぬっと格子を押し開け入ってきた。
「…きゃあっ!」
「…見るな…見るなァ…!」
暗闇に馬の顔がべろりと歯を剥き、呻くように押し入って来る。悲鳴を上げる遊女をそばに置き、男は太刀を抜いた。
「それ以上中へ入れば斬るぞ!」と太刀を構えて睨みつけると、鬼はどういう訳か「よく見ろ…よく見ろォ…」と言って去っていったという。
これが百鬼夜行というものだろうか。恐ろしいことである。男はそれきり二度と一条大路の桟敷屋には泊まらなかったそうである。
※桟敷屋…桟敷を設えた高床の屋敷
「…諸行無常…諸行無常…」
繰り返し詠じながら、一条大路を通る者がいる。
(…こんな雨の夜中にいったい何者だ…。)
激しい雨音に混じって何度も聞こえる涅槃経に目を覚ました男が蔀戸をそっと押し上げて大路を覗くと…
(…ひっ!)
大路を歩いていたのは、桟敷屋の高い軒と変わらぬ背丈の馬頭の鬼であった。
ゾッと背筋に冷たいものが走った男は、蔀戸をかけて女を引きずって奥へ駆け込んだ。すると追いかけるように、馬の頭がぬっと格子を押し開け入ってきた。
「…きゃあっ!」
「…見るな…見るなァ…!」
暗闇に馬の顔がべろりと歯を剥き、呻くように押し入って来る。悲鳴を上げる遊女をそばに置き、男は太刀を抜いた。
「それ以上中へ入れば斬るぞ!」と太刀を構えて睨みつけると、鬼はどういう訳か「よく見ろ…よく見ろォ…」と言って去っていったという。
これが百鬼夜行というものだろうか。恐ろしいことである。男はそれきり二度と一条大路の桟敷屋には泊まらなかったそうである。
※桟敷屋…桟敷を設えた高床の屋敷
