【宇治拾遺】狐、家に火つくる事。
公開 2024/01/01 12:11
最終更新 2024/01/29 17:39
むかしむかし甲斐国に貴人の館に仕える侍がいた。夕暮れに館を辞して家の方へ馬に乗って向かっていると、帰り道で狐に出くわした。
「どれ、少し脅かしてやろう。」
戯れに狐めがけて蟇目矢を射かけてやると、ギャッ!と狐が跳ねた。逃げ出そうと浮かせた腰の辺りに見事に命中したようである。可哀想に射転がされた狐は苦しげに鳴いて、腰を庇いながら草むらに逃げ込んだ。
「ははは…それ、逃げろ逃げろ!」
矢を拾って狐を追いかけ草むらに入ると、狐は腰を庇いながら更に奥へ逃げ駆けていく。もう一度射てやろうと蟇目矢を番えたが、狐はもう見えなくなっていた。
「ふん、つまらん。」
さて興が醒めた男はまた家へと足を進めていると、あと四、五町ほどという辺りで、二町ほど先をあの狐が火のついた松明を加えて走っているのが見えた。
「狐が火を?いったい何のつもりだ…」
なんだか妙である。侍は馬の腹を蹴って走り出した。馬を急かして家へと急ぐと、何と侍の家に松明を押し付ける者がいる。
「貴様!何をする!」
矢を番えて馬を走らせたが、家が煙を上げて燃え始めたところでその者はたちまち狐になり、草むらに逃げ込んで見えなくなってしまった。
火を消す方が先か、狐を追うのが先か…二兎追うものは一兎をも得ず。そうこうしている間に家は炎に包まれ燃えてしまった。
狐というものは、やられたらすぐさま仇を返すものである。これを聞いた諸兄は、こういったものを無闇にいたぶってはいけないと肝に命じるべきである。

***
※ 蟇目矢…先端に鏃が着いていない、空洞になったバトンの先のようなものが着いた矢。犬追物などに使われる獲物を傷付けない矢。
古典と怪談が好きな茸です。タイッツーに生息。
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