【宇治拾遺】丹波の国篠村、平茸生ふる事。
公開 2024/01/01 12:07
最終更新 2024/01/29 17:40
これもむかしむかしの話である。丹波の国・篠村というところでは、昔から山のあちこちに平茸がわんさか生えていた。長年、里村の者たちは山に入って平茸を採り、自分で食べたり人に贈ったりしていたのだという。さてそんなある年のこと、里の長は妙な夢を見た。
耳の辺りまで髪が伸びた法師らしき者達が二、三十人ほど長の前に立っており、その中の一人が「少しお話したいことが…」と言う。相手はまるでこちらを知っているような口ぶりだが、里長は彼らに見覚えがない。怪訝な顔で「あのう、あなたがたはいったいどなた様で…?」と尋ねると法師は、
「我らは長年この里の人々に仕えて働いてきましたが、とうとうこの里にも縁が尽きましたので、そろそろ他所へ移ろうと思います。しかし皆さんとは長い付き合いですから、名残惜しく思いまして。せめて最後にご挨拶をと、こうして出てきた次第です。」
などと言う。そこで里長はハッと目が覚めた。
「…今の夢はいったい何だ?」
何やら曰くありげな奇妙な夢である。さっそく子や妻に夢の出来事を話してみると、里の者たちも大勢同じような夢を見ているのだという。しかしあの夢の法師達は何者なのか、何を言わんとしているのか、さっぱりわからないままその年も暮れた。
さて次の年の秋。例年ならばあちこちに平茸が生える頃である。ところが九月、十月にもなるのに、あれほど生えていた茸が全く見えない。茸採りに山に入った里の者は「いったいどこへ消えちまったんだ?」と首を傾げたが、その年から平茸は一切採れなくなってしまった。
あるとき故・仲胤僧都という有難い説法をするお坊さんがこの話をお聞きになると、
「なんとまぁ…その平茸を食していたというのですか…。己の欲望のために邪説を説いた法師が平茸に生まれ変わると言いますのに…。」と顔を顰めて仰られた。
そういうことなら僧都の言う通り、敢えて食べなくても問題ないものであろう。
古典と怪談が好きな茸です。タイッツーに生息。
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