【古今著聞集】大納言泰通、狐狩を催さんとするに、老狐夢枕に立つ事。
公開 2023/11/26 08:26
最終更新
2024/05/24 17:45
※まいたけがいい加減に訳して脳内補完をいれたものです。
***
大納言・藤原泰通殿の御屋敷は五条坊門高倉にあり、元々はお父上・成通殿が住んでいた御屋敷であった。古い屋敷には狐が多く住み着いており、ちょくちょく屋敷の者を化かして悪戯をすることもあったが、ことさら害を為すこともなかったので成通殿、泰通殿とも気にせず好きにさせていた。ところが年を経るごとに、この悪戯が悪戯では済まなくなってきた。
度を超えた所業に、大納言殿の堪忍袋の緒もとうとう切れたらしい。 「狐狩りをして根絶やしにしてくれる!」と思い立った大納言殿はさっそく仕える侍達を集めて、
「お前たち、明日は下人どもを一人残らずみな率いて屋敷に集まるように…めいめい杖や弓矢を用意して来るようにな。」
と申し伝え、
「明日は屋敷の四方をがっちり固め、築地の上、屋根の上に弓矢を構えて見張らせる。それから天井裏に人を入れて狐どもを追い出し、屋敷から出てきたところを矢で射殺し、杖で打ち殺し根絶やしにするのだ。」
と狐狩りの手筈をお定めになった。
さてその夜…と言っても明け方頃であるが。大納言殿は夢を見た。
草色の狩衣を着た白髪頭の寺童子と見える老爺がひとり、坪庭の蜜柑の木の下に平伏している。大納言殿が「お前は何者だ」とお尋ねになると、恐縮した様子で老爺は口を開いた。
「私は長年この御屋敷に住まわせて頂いている者でございます。私、息子と二代続けて住んでおります間に、我が子、我が孫などたくさん生まれました。大所帯になりますと狼藉を働く者もおります。私の耳目が届く限りは諌め、留めておりましたが…聞く耳を持たない者どもが恐れ多くも旦那様の御勘気にあずかりましたこと、まことにごもっともでございます。明日、我ら一族みな命を絶たれるとうかがいました…御沙汰のようではひとりも逃げられる者はおりますまい。我が一族の命も今夜限りかと思うと胸を絞るような心地がして…私の胸の裡を申し上げたいと恐る恐る罷り越した次第でございます。」
老爺は鼻をすすり、目元を袖で拭って続ける。
「無理は重々承知しておりますが…どうか此度の御勘当をお許しください。これより後、身勝手な痴れ事をする者があれば、その時はいかなる御勘当もお受けいたします。…旦那様のお怒りの凄まじさを言い聞かせれば、若い奴らも必ず懲りましょう。お許し頂けましたら、この後は心を入れ替えて旦那様の御護りとなり、御家の吉事などあれば必ず先にお報せいたします。」
ですから此度だけはどうか、どうかお許しください。そう言って畏まって平伏している老爺を見下ろしているうちに、大納言殿は目を覚ました。
「…妙な夢を見たな…。」
遣戸の隙間から朝日が差し込んでいる。何とはなしに床を抜け出し、階の遣り戸をあけて外を見ると。果たして夢に現れた大童子がいた木の根元に、ところどころ禿げた老狐が一匹座っていた。大納言殿がこちらを見ているとわかると、畏れ多いと言うような様子でそっと簀子の下へ這い入ったのだった。
「………ふむ。」
夢といえば夢、ただの狐といえば狐だが…不思議と無関係には思われず、その日の狐狩りはお止めになったのだそうな。
それより以降は化け物が現れることはなくなり、家中に吉事があるときには必ず狐の鳴き声が報せるので事前に知る事ができたという。
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大納言・藤原泰通殿の御屋敷は五条坊門高倉にあり、元々はお父上・成通殿が住んでいた御屋敷であった。古い屋敷には狐が多く住み着いており、ちょくちょく屋敷の者を化かして悪戯をすることもあったが、ことさら害を為すこともなかったので成通殿、泰通殿とも気にせず好きにさせていた。ところが年を経るごとに、この悪戯が悪戯では済まなくなってきた。
度を超えた所業に、大納言殿の堪忍袋の緒もとうとう切れたらしい。 「狐狩りをして根絶やしにしてくれる!」と思い立った大納言殿はさっそく仕える侍達を集めて、
「お前たち、明日は下人どもを一人残らずみな率いて屋敷に集まるように…めいめい杖や弓矢を用意して来るようにな。」
と申し伝え、
「明日は屋敷の四方をがっちり固め、築地の上、屋根の上に弓矢を構えて見張らせる。それから天井裏に人を入れて狐どもを追い出し、屋敷から出てきたところを矢で射殺し、杖で打ち殺し根絶やしにするのだ。」
と狐狩りの手筈をお定めになった。
さてその夜…と言っても明け方頃であるが。大納言殿は夢を見た。
草色の狩衣を着た白髪頭の寺童子と見える老爺がひとり、坪庭の蜜柑の木の下に平伏している。大納言殿が「お前は何者だ」とお尋ねになると、恐縮した様子で老爺は口を開いた。
「私は長年この御屋敷に住まわせて頂いている者でございます。私、息子と二代続けて住んでおります間に、我が子、我が孫などたくさん生まれました。大所帯になりますと狼藉を働く者もおります。私の耳目が届く限りは諌め、留めておりましたが…聞く耳を持たない者どもが恐れ多くも旦那様の御勘気にあずかりましたこと、まことにごもっともでございます。明日、我ら一族みな命を絶たれるとうかがいました…御沙汰のようではひとりも逃げられる者はおりますまい。我が一族の命も今夜限りかと思うと胸を絞るような心地がして…私の胸の裡を申し上げたいと恐る恐る罷り越した次第でございます。」
老爺は鼻をすすり、目元を袖で拭って続ける。
「無理は重々承知しておりますが…どうか此度の御勘当をお許しください。これより後、身勝手な痴れ事をする者があれば、その時はいかなる御勘当もお受けいたします。…旦那様のお怒りの凄まじさを言い聞かせれば、若い奴らも必ず懲りましょう。お許し頂けましたら、この後は心を入れ替えて旦那様の御護りとなり、御家の吉事などあれば必ず先にお報せいたします。」
ですから此度だけはどうか、どうかお許しください。そう言って畏まって平伏している老爺を見下ろしているうちに、大納言殿は目を覚ました。
「…妙な夢を見たな…。」
遣戸の隙間から朝日が差し込んでいる。何とはなしに床を抜け出し、階の遣り戸をあけて外を見ると。果たして夢に現れた大童子がいた木の根元に、ところどころ禿げた老狐が一匹座っていた。大納言殿がこちらを見ているとわかると、畏れ多いと言うような様子でそっと簀子の下へ這い入ったのだった。
「………ふむ。」
夢といえば夢、ただの狐といえば狐だが…不思議と無関係には思われず、その日の狐狩りはお止めになったのだそうな。
それより以降は化け物が現れることはなくなり、家中に吉事があるときには必ず狐の鳴き声が報せるので事前に知る事ができたという。
