隆房の思い出語り①
公開 2023/09/13 08:00
最終更新 2023/09/14 18:08
※平家公達草紙の一部をいい加減に意訳?脚色?したものです。

***


安元の御賀のめでたさは言うに及ばす、また内裏での御遊び、今はもういらっしゃらない方々との楽しい思い出などは、殊更忘れられないものです。私がまだ中将や少将であったころは同じ年頃の若者達とは無闇に馴れ合ったりはしなかったものですが…少々、縁がありまして…今は亡き西八条入道太政大臣こと清盛様の御一家とは、他愛もないじゃれ合いをしたこともあました。
あれは承安四年、小松の内大臣様…重盛殿が右大将であった頃のこと。夜の都で火事が起こり、いよいよその火が内裏の近くまで迫ってきたのです。内裏にはまだ残っている人々もいたのでしょう。寄り集まってきて、
「こんな大事だと言うのに、真っ先に駆けつけるべき右大将殿が参上しておられないとはどういう訳だ。」
と口々に声を荒らげていました。そこへ華やかな先触れの声がして、どなたか参られたようでした。
「あぁ、やっと見えられたぞ…!」
集まった方々の前を通り抜けて紫宸殿の御階の下に陣取った重盛殿は、さっそく部下にあれこれ下知を飛ばして現場の指揮に当たられました。そのお姿を拝見しますと冠に老懸をして、夏物の薄い直衣も軽やかに、篭手というものを腕に嵌めておられます。その袖元に留め金か飾りでしょうか、銀の金具がキラリと薄物の直衣に透けていまして…。平服に武具を着けて急ぎ参上したであろうお姿は、いかにも右大将の姿に相応しいなりで、「本当に、このように在りたいものだなぁ…」としみじみ感じ入ったものです。
出で立ちは物々しく、それでいて清々としておられて申し分なく。炎が赤く染める夜空や表の騒ぎをご覧になっても実に落ち着き払ったご様子で、むしろ内裏にいる方々を気遣われておられました。
平服に簡素な武具をつけて急ぎ駆け付け、冷静沈着に対処する…集まった方々も、「本当に、大事においては、近衛大将とは重盛殿のような人を言うのだろう」と思われたのではないでしょうか。



***

※『平家公達草紙〜「平家物語」読者が創った美しき貴公子たちの物語』 著:櫻井陽子・鈴木裕子・渡邉裕美子(敬称略)を元に現代語訳しています。
古典と怪談が好きな茸です。タイッツーに生息。
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