あだなりと
公開 2023/08/28 22:33
最終更新
2023/08/29 01:01
あだなりと
もう何年も訪問が絶えていた人が、桜の盛りの頃にふらりと現れた。久しぶりに顔を見せたその人へ、家の主は懐かしさの滲む声でおどけて詠んだ。
「薄情者と評判のあなたのこと、もうすぐ散ってしまう薄情な桜でさえ待っていたようですよ」
…お久しぶりですね、業平殿。憎まれ口を言いながら、有常殿は目尻の皺を深くして微笑んだ。
「お久しぶりです。…随分と不義理をしてしまいました。」
男も白いものが混じる頭を丁寧に下げ、
「今日来なければ、明日雪のように散り落ちてしまうのではと惜しくなりましてね。消えずに残るとしても、散らばる花びらなど見て何の興がありましょう。」
と微笑んで憎まれ口を返した。
このときの語らいが有常殿と業平殿の最期の対面となったのだそうな。
もう何年も訪問が絶えていた人が、桜の盛りの頃にふらりと現れた。久しぶりに顔を見せたその人へ、家の主は懐かしさの滲む声でおどけて詠んだ。
「薄情者と評判のあなたのこと、もうすぐ散ってしまう薄情な桜でさえ待っていたようですよ」
…お久しぶりですね、業平殿。憎まれ口を言いながら、有常殿は目尻の皺を深くして微笑んだ。
「お久しぶりです。…随分と不義理をしてしまいました。」
男も白いものが混じる頭を丁寧に下げ、
「今日来なければ、明日雪のように散り落ちてしまうのではと惜しくなりましてね。消えずに残るとしても、散らばる花びらなど見て何の興がありましょう。」
と微笑んで憎まれ口を返した。
このときの語らいが有常殿と業平殿の最期の対面となったのだそうな。
