まだ見ぬ人
公開 2023/08/28 22:32
最終更新
2023/08/28 22:32
まだ見ぬ人
むかしむかし、あるところに弔いの歌を贈る男がいたそうな。
とある高貴な女性がお身内の方を亡くされたということで、弔うフリをしてその女へ歌を贈った。
「昔もこんなことがあったのでしょうね。直接の面識はありませんが、亡くなったと聞けば寂しく思うものです。」
表向きは弔いであるが、
「あの頃は思いもしませんでしたが…あの日、春日の里へ出掛けたのも、まだ見ぬ貴方との見えない縁に惹かれて…恋しく思ってのことだったのだと。今になれば思うのです。」
と二人しか知らない、初めて歌を贈られた日のことを歌っていた。弔いにかこつけてこんな文を贈る男に呆れつつ、そんなこともあったわね…とほんの少し懐かしい気持ちで
「…下紐がするりと解けるような験もありませんでしたが?験もないのですから、それはあなたが仰る『恋』などではなかったのでしょう。」
こう返した。すると男からの返事には、
「殊更に『恋』などとは申しません。…下紐が解けたかどうかなど、あなたの他に誰にも分からないのですから。」
と年相応の落ち着きを見せながらも、変わらぬ熱い想いが綴られていたのだそうな。
むかしむかし、あるところに弔いの歌を贈る男がいたそうな。
とある高貴な女性がお身内の方を亡くされたということで、弔うフリをしてその女へ歌を贈った。
「昔もこんなことがあったのでしょうね。直接の面識はありませんが、亡くなったと聞けば寂しく思うものです。」
表向きは弔いであるが、
「あの頃は思いもしませんでしたが…あの日、春日の里へ出掛けたのも、まだ見ぬ貴方との見えない縁に惹かれて…恋しく思ってのことだったのだと。今になれば思うのです。」
と二人しか知らない、初めて歌を贈られた日のことを歌っていた。弔いにかこつけてこんな文を贈る男に呆れつつ、そんなこともあったわね…とほんの少し懐かしい気持ちで
「…下紐がするりと解けるような験もありませんでしたが?験もないのですから、それはあなたが仰る『恋』などではなかったのでしょう。」
こう返した。すると男からの返事には、
「殊更に『恋』などとは申しません。…下紐が解けたかどうかなど、あなたの他に誰にも分からないのですから。」
と年相応の落ち着きを見せながらも、変わらぬ熱い想いが綴られていたのだそうな。
