くれなゐに
公開 2023/08/28 21:55
最終更新
2024/05/29 06:44
くれなゐに
むかしむかし、あるところに徒心を起こした女がいたそうな。
世の中に移り気な男がいるように、あっちへこっちへ熱を上げて秋波を送る女もいる。業平殿の近所にもそんな女がいたようで。
(あの人…私のこと、どう思っているのかしら?)
女は歌を詠む人であったので、萎れた白菊を手折り、次のよう歌を添えて贈った。
「紅に染まった花びらはどこに?この菊は茎がたわむほど雪が降りつもっておりましたのよ…。」
雪に当たり花びらが赤く変わる移ろい菊を恋心に、雪で萎れた菊を自身に準えて、『ずっとずーっと私の想いをほのめかしておりますのに、アナタはいつも知らん顔。いつになったらアナタのお心は私に染ってくださるの?私、この菊みたいにしょんぼり萎れていますのよ。』と詠んだのである。
「……。」
贈られた歌を読んだ男はやれやれ…と肩を竦めて筆を取り、
「紅色に染まる移ろい菊よりもずっとずーっと素敵なものは、雪を分けて手折って来られた…そう。かじかんで紅色に染まった、いじらしいあなたの指先ですよ。」
私の手で温めて差し上げたいな、と逆上せ女の心を絡め取るような歌を返した。
むかしむかし、あるところに徒心を起こした女がいたそうな。
世の中に移り気な男がいるように、あっちへこっちへ熱を上げて秋波を送る女もいる。業平殿の近所にもそんな女がいたようで。
(あの人…私のこと、どう思っているのかしら?)
女は歌を詠む人であったので、萎れた白菊を手折り、次のよう歌を添えて贈った。
「紅に染まった花びらはどこに?この菊は茎がたわむほど雪が降りつもっておりましたのよ…。」
雪に当たり花びらが赤く変わる移ろい菊を恋心に、雪で萎れた菊を自身に準えて、『ずっとずーっと私の想いをほのめかしておりますのに、アナタはいつも知らん顔。いつになったらアナタのお心は私に染ってくださるの?私、この菊みたいにしょんぼり萎れていますのよ。』と詠んだのである。
「……。」
贈られた歌を読んだ男はやれやれ…と肩を竦めて筆を取り、
「紅色に染まる移ろい菊よりもずっとずーっと素敵なものは、雪を分けて手折って来られた…そう。かじかんで紅色に染まった、いじらしいあなたの指先ですよ。」
私の手で温めて差し上げたいな、と逆上せ女の心を絡め取るような歌を返した。
