東山
公開 2023/08/28 22:32
最終更新
2023/08/28 22:32
東山
むかしむかし、都に住み辛くなった男がいたそうな。
京での暮らしにどう思っていたのか耐えきれなくなった男は、
「もう嫌だ…何もかも煩わしい…。世間から身を隠して落ち着けるところへ行こう」
と言い出し、東山の山里に移り住んだ。
さて東山に移り住んで月日が経った頃、男は病を得て寝付いてしまった。回復する気配もなく日に日に病は重くなり、とうとう危篤に陥った。血の気の失せた顔を見て、床に詰めていた人は誰もが「そろそろかもしれない…」と思ったのだろう。水を含ませた綿を男の顔に近づけた。唇に水を含ませようとしたところ、ぱたた…と幾滴か男の顎に滴り落ちて首筋へ流れた。すると、
「……。」
今にも彼岸に渡らんとしていた男の瞼が小さく震え、薄ら開いた。
「つめたい……。…天の河の…彼岸へ渡る舟の…櫂の雫か…?」
ぽつりと呟いて、男は息を吹き返したのだそうな。
むかしむかし、都に住み辛くなった男がいたそうな。
京での暮らしにどう思っていたのか耐えきれなくなった男は、
「もう嫌だ…何もかも煩わしい…。世間から身を隠して落ち着けるところへ行こう」
と言い出し、東山の山里に移り住んだ。
さて東山に移り住んで月日が経った頃、男は病を得て寝付いてしまった。回復する気配もなく日に日に病は重くなり、とうとう危篤に陥った。血の気の失せた顔を見て、床に詰めていた人は誰もが「そろそろかもしれない…」と思ったのだろう。水を含ませた綿を男の顔に近づけた。唇に水を含ませようとしたところ、ぱたた…と幾滴か男の顎に滴り落ちて首筋へ流れた。すると、
「……。」
今にも彼岸に渡らんとしていた男の瞼が小さく震え、薄ら開いた。
「つめたい……。…天の河の…彼岸へ渡る舟の…櫂の雫か…?」
ぽつりと呟いて、男は息を吹き返したのだそうな。
