あやしき藤の花
公開 2023/08/28 20:59
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あやしき藤の花
むかしむかし、左兵衛府の長官に在原行平殿という方がおられたそうな。
行平殿の家に良い酒があるということで、殿上人でおる左中弁・藤原良近殿を正客にお迎えして宴を催した。
「これはまた…素晴らしいですな。どうです皆さん、この藤を題にひとつ…」
風流人である行平殿らしく、宴席には瓶に活けた花が飾られていた。その花の中に三尺六寸(約90cm)ほどもある枝にもったり長く垂れた花房の、なんとも言えない豪奢な藤がある。その立派な枝振りと豪奢な花房に感心して、藤を題に座の面々は歌を詠み大いに盛り上がった。座の面々がひと通り詠み終えた折のこと。宴を催していると聞いてご挨拶に伺ったご兄弟を引き留めて、「お前も一首詠んでいきなさい」という。兄上、申し訳ありませんが私は歌には疎くて…。と辞退するご兄弟であったが、「そう言わずに…折角顔を出したのだから、な?」兄の顔を立ててくれよと無理に強請る。すると一瞬黙ったご兄弟は、
「今を盛りと咲く藤の下に身を寄せる方の、なんと多いことでしょう。在りし日よりもずっと頼もしい藤の影ですものね」
と詠んだ。『どいつもこいつも藤原氏に媚び諂っておめでてーな。昔はウチらの臣下だったっていうのに、でけー面しやがって』と言っているのである。さすがに顔色を変えた行平殿は「…何でわざわざそんな歌を詠むんだ…!」と言ったけれど、ご兄弟は「太政大臣様の栄華を拝見致しまして、藤原氏の繁栄を詠みましたが…何か御無礼を?申し訳ありません、歌には疎くて。」と涼しい顔で言うので、座の人々もそれ以上は何も言えなかったのだそうな。
むかしむかし、左兵衛府の長官に在原行平殿という方がおられたそうな。
行平殿の家に良い酒があるということで、殿上人でおる左中弁・藤原良近殿を正客にお迎えして宴を催した。
「これはまた…素晴らしいですな。どうです皆さん、この藤を題にひとつ…」
風流人である行平殿らしく、宴席には瓶に活けた花が飾られていた。その花の中に三尺六寸(約90cm)ほどもある枝にもったり長く垂れた花房の、なんとも言えない豪奢な藤がある。その立派な枝振りと豪奢な花房に感心して、藤を題に座の面々は歌を詠み大いに盛り上がった。座の面々がひと通り詠み終えた折のこと。宴を催していると聞いてご挨拶に伺ったご兄弟を引き留めて、「お前も一首詠んでいきなさい」という。兄上、申し訳ありませんが私は歌には疎くて…。と辞退するご兄弟であったが、「そう言わずに…折角顔を出したのだから、な?」兄の顔を立ててくれよと無理に強請る。すると一瞬黙ったご兄弟は、
「今を盛りと咲く藤の下に身を寄せる方の、なんと多いことでしょう。在りし日よりもずっと頼もしい藤の影ですものね」
と詠んだ。『どいつもこいつも藤原氏に媚び諂っておめでてーな。昔はウチらの臣下だったっていうのに、でけー面しやがって』と言っているのである。さすがに顔色を変えた行平殿は「…何でわざわざそんな歌を詠むんだ…!」と言ったけれど、ご兄弟は「太政大臣様の栄華を拝見致しまして、藤原氏の繁栄を詠みましたが…何か御無礼を?申し訳ありません、歌には疎くて。」と涼しい顔で言うので、座の人々もそれ以上は何も言えなかったのだそうな。
