身をしわけねば
公開 2023/08/28 20:58
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身をしわけねば

むかしむかし、あるところに出家した主君を訪う男がいたそうな。
幼少の頃よりお仕えしていた主君がある年、思うところがあって御髪を下ろされた。主君は都を離れて小野に庵を結んでおられたが、男は毎年睦月には必ずその庵を訪っていた。宮仕えの身であれば常にお側にお仕えすることはできないが、それでも主君を思う心は変わらず持ち続けていたのだろう。
睦月にはかつて主君に仕えていた人々、世俗の人も禅師も様々な人が庵に集まり、主君に新年のご挨拶を申し上げる。主君もまたそれに応えて「年も改まり、何事もめでたい」と皆にお酒を振る舞う。それが彼らの習わしになっていた。
ある年も大勢お年賀の挨拶に訪れたが、その年はとみに雪が多い年で。まるで笊いっぱいの豆をひっくり返したように降る雪は朝から晩まで止まず、
「おやおや、もうこんなに雪が溜まっているよ。このままでは降り込められるんじゃないか?」
蔀戸を上げて外を見た誰かが言えば、誰ともなく「雪に降り込められた」という題で歌を読み始めた。お酒を頂いて良い気分の皆々は「これは面白い」と後に続き、座は賑やかな笑い声に包まれた。久しぶりの賑やかさに親王様も目を細めて皆の歌を聞いておられる。するとお側に仕えていた男が「親王様、」とやや改まった声で向き直った。
「ずっとお側にいたいと常日頃思っておりますが、体を二つに分けねばそれは叶いません。そんな私のもどかしい想いがこうして降り積もっているのです。」
…降り込められてしまえば、ずっとお側に居られますから。
初めて御庵室を訪ねた日の、寂しげな姿が男の心にずっと残っていたのだろう。男の真心に感じ入った親王様は薄ら目を潤ませて、その場で着ていらした御衣を脱ぎ男に下されたのだそうな。
古典と怪談が好きな茸です。タイッツーに生息。
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