見ずもあらず
公開 2023/08/28 20:30
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見ずもあらず
むかしむかし、あるところに粉をかける男がいたそうな。
右近衛府の馬場のひをりの日、居並ぶ見物の車の中、向かいに停めた女車。その御簾を上げた内側、下簾の隙間からほのかに女の顔が覗いていた。
(…ほう…)
さすがと言うほかないが、それに目を留めた中将と呼ばれる男が女車へ歌を書いて届けさせた。
「どこかでお会いしたことがあるような、ないような…それなのにどうしてこんなにも恋しく思うのだろうかと、儀式にも身が入らずつらつら考えているのです。」
と投げかけると、
「『知っているような知らないような』なんて、どうしてそんな回りくどいことを仰るの?恋しいと仰るその想いこそ私へ導く道標ですのに」
と返ってきた。(…あ、)と男は目を泳がせた。初対面だと思って声をかけた女が、以前関係を持ったあの人だ…とその時になって気づいたのだそうな。
むかしむかし、あるところに粉をかける男がいたそうな。
右近衛府の馬場のひをりの日、居並ぶ見物の車の中、向かいに停めた女車。その御簾を上げた内側、下簾の隙間からほのかに女の顔が覗いていた。
(…ほう…)
さすがと言うほかないが、それに目を留めた中将と呼ばれる男が女車へ歌を書いて届けさせた。
「どこかでお会いしたことがあるような、ないような…それなのにどうしてこんなにも恋しく思うのだろうかと、儀式にも身が入らずつらつら考えているのです。」
と投げかけると、
「『知っているような知らないような』なんて、どうしてそんな回りくどいことを仰るの?恋しいと仰るその想いこそ私へ導く道標ですのに」
と返ってきた。(…あ、)と男は目を泳がせた。初対面だと思って声をかけた女が、以前関係を持ったあの人だ…とその時になって気づいたのだそうな。
