あだくらべ
公開 2023/08/28 13:36
最終更新
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あだくらべ
むかしむかし、あるところに恨み言を言い合う男女がいたそうな。
「あなたの心変わりにはもうウンザリです」と言って寄越した女へ、それはこっちの台詞だとばかりに男は
「卵を十個ずつ十段…百個重ねて積み上げることが出来たとしても、私を想ってくださらない人をどうして愛そうと思えますか。」
と歌を返した。すると女から
「朝露が消え残ることはあっても、朝露よりももっと心許ない私たちの仲をどうして信じられましょう。」
と返された。あなたの愛なんか朝露よりも不確かで頼みになんかできませんわ。と言うのである。男はむっすりと唇を引き結んで、
「去年の桜が散り残ることはあっても、桜の花よりも散りやすいあなたの心はなんて頼りにならないんだ」
と返した。吹けば飛ぶような桜の花よりも、気まぐれで薄情なあなたに言われたくない。と言うのである。これには眉を寄せて、女はまた
「川の流れに数を書くよりも無意味なことは、私を想ってくださらない方に想いを懸けることですわ」
と男の薄情を詰りつつも、断ち切れない想いを詠み送った。この歌を読んだ男は
「流れる水も、過ぎる季節も、散る花も、何一つ待てと言って留まるものはありませんよ。」
…ひとの心とて同じです。私も、あなたも。そう返して、寂しげに目を伏せたのだった。
それぞれ別の相手との関係を見せつけることでしか繋がりを保てない。意地の張り合いこそがよすがであり、彼らの密かな逢瀬なのである。
むかしむかし、あるところに恨み言を言い合う男女がいたそうな。
「あなたの心変わりにはもうウンザリです」と言って寄越した女へ、それはこっちの台詞だとばかりに男は
「卵を十個ずつ十段…百個重ねて積み上げることが出来たとしても、私を想ってくださらない人をどうして愛そうと思えますか。」
と歌を返した。すると女から
「朝露が消え残ることはあっても、朝露よりももっと心許ない私たちの仲をどうして信じられましょう。」
と返された。あなたの愛なんか朝露よりも不確かで頼みになんかできませんわ。と言うのである。男はむっすりと唇を引き結んで、
「去年の桜が散り残ることはあっても、桜の花よりも散りやすいあなたの心はなんて頼りにならないんだ」
と返した。吹けば飛ぶような桜の花よりも、気まぐれで薄情なあなたに言われたくない。と言うのである。これには眉を寄せて、女はまた
「川の流れに数を書くよりも無意味なことは、私を想ってくださらない方に想いを懸けることですわ」
と男の薄情を詰りつつも、断ち切れない想いを詠み送った。この歌を読んだ男は
「流れる水も、過ぎる季節も、散る花も、何一つ待てと言って留まるものはありませんよ。」
…ひとの心とて同じです。私も、あなたも。そう返して、寂しげに目を伏せたのだった。
それぞれ別の相手との関係を見せつけることでしか繋がりを保てない。意地の張り合いこそがよすがであり、彼らの密かな逢瀬なのである。
