天雲の
公開 2023/08/28 06:31
最終更新
2023/08/28 06:31
天雲の
むかしむかし、職場の同僚に元カノがいる男がいたそうな。
高貴な女性の元へ宮仕えしている御達…つまり女主人の近くに侍る女房のもとへ通っていたが、ほどなくして別れてしまったのだった。同じ主人に仕えていれば、男と御簾越しに顔を合わせることもあるだろう。しかし男の方は、別れた女が御簾の向こうにいるのに素知らぬ顔であった。面白くない女は、
「あなたは雲のように気まぐれな人ね。わたしの元を去ったと思ったら、まったく…もう別の方のところに通っていらっしゃるんですってね。たとえ空の上の雲でも、目に入れば行方はおのずと知れますのよ。」
と拗ねた歌を詠み送った。すると男は
「私を雲とはおもしろいことを仰る。私が留まることなくあの方、この方と通うのは……この局に私を近づけまいとする強い風が吹いているからですよ。」
と返した。なんとも含みのある返歌だったので、それを聞いた女房の同僚たちは「…業平殿は、もう彼女のところへ通う方がいるってご存知なんじゃない?」と噂し合ったのだそうな。ただひとり、女主人だけは物憂げに目を伏せておられたが…。
むかしむかし、職場の同僚に元カノがいる男がいたそうな。
高貴な女性の元へ宮仕えしている御達…つまり女主人の近くに侍る女房のもとへ通っていたが、ほどなくして別れてしまったのだった。同じ主人に仕えていれば、男と御簾越しに顔を合わせることもあるだろう。しかし男の方は、別れた女が御簾の向こうにいるのに素知らぬ顔であった。面白くない女は、
「あなたは雲のように気まぐれな人ね。わたしの元を去ったと思ったら、まったく…もう別の方のところに通っていらっしゃるんですってね。たとえ空の上の雲でも、目に入れば行方はおのずと知れますのよ。」
と拗ねた歌を詠み送った。すると男は
「私を雲とはおもしろいことを仰る。私が留まることなくあの方、この方と通うのは……この局に私を近づけまいとする強い風が吹いているからですよ。」
と返した。なんとも含みのある返歌だったので、それを聞いた女房の同僚たちは「…業平殿は、もう彼女のところへ通う方がいるってご存知なんじゃない?」と噂し合ったのだそうな。ただひとり、女主人だけは物憂げに目を伏せておられたが…。
