かえでの紅葉
公開 2023/08/28 06:10
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かえでの紅葉
むかしむかし、大和国の女と夫婦になった男がいたそうな。
男は宮仕えしていたので、折を見て女の家を訪い、また都へ戻るという生活であった。ある朝、女の家から都へ戻る道中のことである。弥生だと言うのに、不思議なことに紅葉している楓の葉を見つけた。
(弥生に紅葉とはおもしろいじゃないか。ふふ…妻にも見せてやろう。)
男は特に趣きがあるひと枝を選んで手折り、
「君の為に手折った枝が、春だと言うのに…ほら。秋の紅葉なってしまったよ。」
とその場で歌を詠み、従者に女の家へ送り届けさせた。まるで神通力を使って色を変えたと言うような言い回しと、季節外れの紅葉である。
(きっと妻も笑って喜んでくれるだろう)
道中、そんな思いで待っていたが返事はなかなか来ない。返事を携えた従者が車に追いついたのは、もう都に着いてからであった。
「遅かったな」
不満げに男が漏らすと、従者は恐縮した様子で遅れを詫び、「それが…奥様は随分長い間、文机に向かっておられたご様子でした。」と言った。女からの歌は、
「我が世の春と思っていたのは私だけだったのでしょうか。いつの間にか葉も色づき、あなたの心にも秋が来ていたようですね。」
と男の心変わりを嘆く歌であった。とんだ誤解であるものの、その後ふたりはどうなったのか……それは物語の外側にて。
むかしむかし、大和国の女と夫婦になった男がいたそうな。
男は宮仕えしていたので、折を見て女の家を訪い、また都へ戻るという生活であった。ある朝、女の家から都へ戻る道中のことである。弥生だと言うのに、不思議なことに紅葉している楓の葉を見つけた。
(弥生に紅葉とはおもしろいじゃないか。ふふ…妻にも見せてやろう。)
男は特に趣きがあるひと枝を選んで手折り、
「君の為に手折った枝が、春だと言うのに…ほら。秋の紅葉なってしまったよ。」
とその場で歌を詠み、従者に女の家へ送り届けさせた。まるで神通力を使って色を変えたと言うような言い回しと、季節外れの紅葉である。
(きっと妻も笑って喜んでくれるだろう)
道中、そんな思いで待っていたが返事はなかなか来ない。返事を携えた従者が車に追いついたのは、もう都に着いてからであった。
「遅かったな」
不満げに男が漏らすと、従者は恐縮した様子で遅れを詫び、「それが…奥様は随分長い間、文机に向かっておられたご様子でした。」と言った。女からの歌は、
「我が世の春と思っていたのは私だけだったのでしょうか。いつの間にか葉も色づき、あなたの心にも秋が来ていたようですね。」
と男の心変わりを嘆く歌であった。とんだ誤解であるものの、その後ふたりはどうなったのか……それは物語の外側にて。
