おきのゐて都島
公開 2023/08/27 18:28
最終更新
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おきのゐて都島
むかしむかし、陸奥に暮らす男と女がいたそうな。
あるとき男が「…やっぱり都へ帰るよ」と言い出した。二人は労りあい慈しみあい、仲良く暮らして来たというのに。
(もうこれ以上、この人の心を引き留められないのだわ…)
この頃の夫の様子に、女も薄々感じるものがあったのだろう。辛さを飲み込んで「それではせめて餞を…」と、おきのゐて、都島というところで簡素な宴席を設けた。
男の傍らで酌をしながら、女の胸には男と暮らした日々が浮かんでは消え、浮かんでは消えしたことだろう。
「………、」
瓶子を持つ手に、ぽつり、またぽつりと。男が何事か声を掛けようとするのを遮って、堪えきれない涙が流れるまま、
「熾火にこの身を置いて焼かれるよりも、都島の…今日のこの別れが何よりも辛いわ…」ここだって『都』島よ…どうしてここでは、私ではいけないの…!?と、選ばれなかった女の、恨めしい愛おしい男への想いを吐き出したのだそうな。
むかしむかし、陸奥に暮らす男と女がいたそうな。
あるとき男が「…やっぱり都へ帰るよ」と言い出した。二人は労りあい慈しみあい、仲良く暮らして来たというのに。
(もうこれ以上、この人の心を引き留められないのだわ…)
この頃の夫の様子に、女も薄々感じるものがあったのだろう。辛さを飲み込んで「それではせめて餞を…」と、おきのゐて、都島というところで簡素な宴席を設けた。
男の傍らで酌をしながら、女の胸には男と暮らした日々が浮かんでは消え、浮かんでは消えしたことだろう。
「………、」
瓶子を持つ手に、ぽつり、またぽつりと。男が何事か声を掛けようとするのを遮って、堪えきれない涙が流れるまま、
「熾火にこの身を置いて焼かれるよりも、都島の…今日のこの別れが何よりも辛いわ…」ここだって『都』島よ…どうしてここでは、私ではいけないの…!?と、選ばれなかった女の、恨めしい愛おしい男への想いを吐き出したのだそうな。
